【完結】最愛の推しを殺すモブに転生したので、全力で救いたい!

  *  

文字の大きさ
上 下
7 / 130

魔王、光臨!

しおりを挟む



「魔王さまー、黒目黒髪の人間が、魔界の隅っこに落ちてたー。
 喰う?」

 にこにこする魔族が、魔王に差し出したのは、僕だ。


 死んだふりとか、多分、意味ない。

 やっぱり頭からバリバリか!

 あんまり痛くありませんように……!!
 ぎゅうっと目を閉じ、息を止め、ブルブル震える手を握ったら、もふもふが、頬に触れた。


「ちっちゃいぞ」

「赤ん坊だよ。
 生まれたばっか。一番美味い」

 魔族が、じゅるりと舌なめずりする。
 大きな魔王が、僕を覗き込む気配がした。


「おっきくなるのか」

 魔王の問いに、魔族は頷いた。


「育てれば」

「髪、黒いな」

「目も黒いよ。ほら、開けてみな」

 ぶるぶる震えながら、僕は、ぎゅうぎゅう閉じていた目を開ける。


 魔王は、もふもふだった。
 ふわふわの黒い毛のライオンみたいだ。

 ゲームでは、ゴゴンゴゴンゴゴァアアアア──! ダーラーララ──! というラスボスバトル音楽とエフェクトと激闘で、強い、恐い、すげえ、デカイ、しか思わなかったけど、あの音楽と怖いエフェクトと、凄まじい攻撃がないと、もふもふ王だよ。


 びっくり!

 ……いやあの、口を大きく開くと牙が凄そうですが……
 今にも食べられそうな僕はやっぱり、ぷるぷるですが……

 魔王の真っ黒な瞳が、僕の目を覗き込む。


「黒いな」

「黒いよ」

 魔王の黒い鼻が鳴る。


「おそろいだな」

「おそろい」

「わん!」

 おお、犬!
 僕が食べられそうな時も、傍にいてくれたんだね。

 犬に気づいたらしい魔王は、犬の前に屈んだ。


「お前も、黒い目に黒い毛、おそろいか」

「わん!」

 ぶんぶん、犬が尻尾を振っている。


 はあ、かわいいよ、犬。
 死ぬ前に癒してくれて、ありがとう!

 さあ、ひと思いに、がぶっといってくれ──!


 ぎゅうう、と再び目を閉じて、ぷるぷるする拳を握る僕の頭を、もふもふの手が、わしゃわしゃ撫でた。


「おそろいだ。
 おっきくしよう」

「育てる?
 じゃあ、名前でもつけちゃう?」


「あい!」

 僕は、思わず、変に曲がってない方の手を挙げた。

 食べられないかも! という歓喜より、やらねばならぬことがある!



「お、意見があるのか。言ってみろ」

 促してくれる魔族を見あげて、僕は、る、の形に唇を尖らせる。

 ぴよ~、とかいう情けない音が鳴ったけど、そこは無視で!


「ぴよ?」

 違う!


「る~、ぷ~!」

 違った!


「るぷ?」

 僕はぶんぶん首を振る。

 尖らせる唇が痛くなってきたよ。
 がんばるよ。

 レトゥリアーレがつけてくれた名前だから!


「る~る~!」

「ルールー!」

 どや顔になる魔族に、首を振る。


「る、る!」

「ルル!」

 指された僕は、こくこく頷いた。


「魔王さま、こいつ、俺らの言葉がわかるんだよ。
 ルルって名前らしい」


「俺がつけたら、だめなのか」


 しょんぼりする魔王の耳が、へにょりと垂れる。

 慌てた僕は、首を振った。


「魔王さまも、つけたらいいって」

 魔族の言葉に、こくこく頷く僕に、魔王の黒い瞳が、きらきらする。


「そ、そうか!
 じゃあ、ロロ! 犬は、クロだ!」

「あい」

「わん!」



 こうして僕の名は、ロロ・ルルになり、犬の名は、クロになりました。



 名づけ親がエルフの長と魔王さまって、なんかすごい!







しおりを挟む
感想 187

あなたにおすすめの小説

平凡な俺が双子美形御曹司に溺愛されてます

ふくやまぴーす
BL
旧題:平凡な俺が双子美形御曹司に溺愛されてます〜利害一致の契約結婚じゃなかったの?〜 名前も見た目もザ・平凡な19歳佐藤翔はある日突然初対面の美形双子御曹司に「自分たちを助けると思って結婚して欲しい」と頼まれる。 愛のない形だけの結婚だと高を括ってOKしたら思ってたのと違う展開に… 「二人は別に俺のこと好きじゃないですよねっ?なんでいきなりこんなこと……!」 美形双子御曹司×健気、お人好し、ちょっぴり貧乏な愛され主人公のラブコメBLです。 🐶2024.2.15 アンダルシュノベルズ様より書籍発売🐶 応援していただいたみなさまのおかげです。 本当にありがとうございました!

何も知らない人間兄は、竜弟の執愛に気付かない

てんつぶ
BL
 連峰の最も高い山の上、竜人ばかりの住む村。  その村の長である家で長男として育てられたノアだったが、肌の色や顔立ちも、体つきまで周囲とはまるで違い、華奢で儚げだ。自分はひょっとして拾われた子なのではないかと悩んでいたが、それを口に出すことすら躊躇っていた。  弟のコネハはノアを村の長にするべく奮闘しているが、ノアは竜体にもなれないし、人を癒す力しかもっていない。ひ弱な自分はその器ではないというのに、日々プレッシャーだけが重くのしかかる。  むしろ身体も大きく力も強く、雄々しく美しい弟ならば何の問題もなく長になれる。長男である自分さえいなければ……そんな感情が膨らみながらも、村から出たことのないノアは今日も一人山の麓を眺めていた。  だがある日、両親の会話を聞き、ノアは竜人ですらなく人間だった事を知ってしまう。人間の自分が長になれる訳もなく、またなって良いはずもない。周囲の竜人に人間だとバレてしまっては、家族の立場が悪くなる――そう自分に言い訳をして、ノアは村をこっそり飛び出して、人間の国へと旅立った。探さないでください、そう書置きをした、はずなのに。  人間嫌いの弟が、まさか自分を追って人間の国へ来てしまい――

国を救った英雄と一つ屋根の下とか聞いてない!

古森きり
BL
第8回BL小説大賞、奨励賞ありがとうございます! 7/15よりレンタル切り替えとなります。 紙書籍版もよろしくお願いします! 妾の子であり、『Ω型』として生まれてきて風当たりが強く、居心地の悪い思いをして生きてきた第五王子のシオン。 成人年齢である十八歳の誕生日に王位継承権を破棄して、王都で念願の冒険者酒場宿を開店させた! これからはお城に呼び出されていびられる事もない、幸せな生活が待っている……はずだった。 「なんで国の英雄と一緒に酒場宿をやらなきゃいけないの!」 「それはもちろん『Ω型』のシオン様お一人で生活出来るはずもない、と国王陛下よりお世話を仰せつかったからです」 「んもおおおっ!」 どうなる、俺の一人暮らし! いや、従業員もいるから元々一人暮らしじゃないけど! ※読み直しナッシング書き溜め。 ※飛び飛びで書いてるから矛盾点とか出ても見逃して欲しい。  

社畜だけど異世界では推し騎士の伴侶になってます⁈

めがねあざらし
BL
気がつくと、そこはゲーム『クレセント・ナイツ』の世界だった。 しかも俺は、推しキャラ・レイ=エヴァンスの“伴侶”になっていて……⁈ 記憶喪失の俺に課されたのは、彼と共に“世界を救う鍵”として戦う使命。 しかし、レイとの誓いに隠された真実や、迫りくる敵の陰謀が俺たちを追い詰める――。 異世界で見つけた愛〜推し騎士との奇跡の絆! 推しとの距離が近すぎる、命懸けの異世界ラブファンタジー、ここに開幕!

有能すぎる親友の隣が辛いので、平凡男爵令息の僕は消えたいと思います

緑虫
BL
第三王子の十歳の生誕パーティーで、王子に気に入られないようお城の花園に避難した、貧乏男爵令息のルカ・グリューベル。 知り合った宮廷庭師から、『ネムリバナ』という水に浮かべるとよく寝られる香りを放つ花びらをもらう。 花園からの帰り道、噴水で泣いている少年に遭遇。目の下に酷いクマのある少年を慰めたルカは、もらったばかりの花びらを男の子に渡して立ち去った。 十二歳になり、ルカは寄宿学校に入学する。 寮の同室になった子は、まさかのその時の男の子、アルフレート(アリ)・ユーネル侯爵令息だった。 見目麗しく文武両道のアリ。だが二年前と変わらず睡眠障害を抱えていて、目の下のクマは健在。 宮廷庭師と親交を続けていたルカには、『ネムリバナ』を第三王子の為に学校の温室で育てる役割を与えられていた。アリは花びらを王子の元まで運ぶ役目を負っている。育てる見返りに少量の花びらを入手できるようになったルカは、早速アリに使ってみることに。 やがて問題なく眠れるようになったアリはめきめきと頭角を表し、しがない男爵令息にすぎない平凡なルカには手の届かない存在になっていく。 次第にアリに対する恋心に気づくルカ。だが、男の自分はアリとは不釣り合いだと、卒業を機に離れることを決意する。 アリを見ない為に地方に移ったルカ。実はここは、アリの叔父が経営する領地。そこでたった半年の間に朗らかで輝いていたアリの変わり果てた姿を見てしまい――。 ハイスペ不眠攻めxお人好し平凡受けのファンタジーBLです。ハピエン。

不憫王子に転生したら、獣人王太子の番になりました

織緒こん
BL
日本の大学生だった前世の記憶を持つクラフトクリフは異世界の王子に転生したものの、母親の身分が低く、同母の姉と共に継母である王妃に虐げられていた。そんなある日、父王が獣人族の国へ戦争を仕掛け、あっという間に負けてしまう。戦勝国の代表として乗り込んできたのは、なんと獅子獣人の王太子のリカルデロ! 彼は臣下にクラフトクリフを戦利品として側妃にしたらどうかとすすめられるが、王子があまりに痩せて見すぼらしいせいか、きっぱり「いらない」と断る。それでもクラフトクリフの処遇を決めかねた臣下たちは、彼をリカルデロの後宮に入れた。そこで、しばらく世話をされたクラフトクリフはやがて健康を取り戻し、再び、リカルデロと会う。すると、何故か、リカルデロは突然、クラフトクリフを溺愛し始めた。リカルデロの態度に心当たりのないクラフトクリフは情熱的な彼に戸惑うばかりで――!?

推しのために、モブの俺は悪役令息に成り代わることに決めました!

華抹茶
BL
ある日突然、超強火のオタクだった前世の記憶が蘇った伯爵令息のエルバート。しかも今の自分は大好きだったBLゲームのモブだと気が付いた彼は、このままだと最推しの悪役令息が不幸な未来を迎えることも思い出す。そこで最推しに代わって自分が悪役令息になるためエルバートは猛勉強してゲームの舞台となる学園に入学し、悪役令息として振舞い始める。その結果、主人公やメインキャラクター達には目の敵にされ嫌われ生活を送る彼だけど、何故か最推しだけはエルバートに接近してきて――クールビューティ公爵令息と猪突猛進モブのハイテンションコミカルBLファンタジー!

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

処理中です...