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魔王、光臨!

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「魔王さまー、黒目黒髪の人間が、魔界の隅っこに落ちてたー。
 喰う?」

 にこにこする魔族が、魔王に差し出したのは、僕だ。


 死んだふりとか、多分、意味ない。

 やっぱり頭からバリバリか!

 あんまり痛くありませんように……!!
 ぎゅうっと目を閉じ、息を止め、ブルブル震える手を握ったら、もふもふが、頬に触れた。


「ちっちゃいぞ」

「赤ん坊だよ。
 生まれたばっか。一番美味い」

 魔族が、じゅるりと舌なめずりする。
 大きな魔王が、僕を覗き込む気配がした。


「おっきくなるのか」

 魔王の問いに、魔族は頷いた。


「育てれば」

「髪、黒いな」

「目も黒いよ。ほら、開けてみな」

 ぶるぶる震えながら、僕は、ぎゅうぎゅう閉じていた目を開ける。


 魔王は、もふもふだった。
 ふわふわの黒い毛のライオンみたいだ。

 ゲームでは、ゴゴンゴゴンゴゴァアアアア──! ダーラーララ──! という
ラスボスバトル音楽とエフェクトと激闘で、強い、恐い、すげえ、デカイ、しか
思わなかったけど、あの音楽と怖いエフェクトと、凄まじい攻撃がないと、
もふもふ王だよ。


 びっくり!

 ……いやあの、口を大きく開くと牙が凄そうですが……
 今にも食べられそうな僕はやっぱり、ぷるぷるですが……

 魔王の真っ黒な瞳が、僕の目を覗き込む。


「黒いな」

「黒いよ」

 魔王の黒い鼻が鳴る。


「おそろいだな」

「おそろい」

「わん!」

 おお、犬!
 僕が食べられそうな時も、傍にいてくれたんだね。

 犬に気づいたらしい魔王は、犬の前に屈んだ。


「お前も、黒い目に黒い毛、おそろいか」

「わん!」

 ぶんぶん、犬が尻尾を振っている。


 はあ、かわいいよ、犬。
 死ぬ前に癒してくれて、ありがとう!

 さあ、ひと思いに、がぶっといってくれ──!


 ぎゅうう、と再び目を閉じて、ぷるぷるする拳を握る僕の頭を、もふもふの手が、わしゃわしゃ撫でた。


「おそろいだ。
 おっきくしよう」

「育てる?
 じゃあ、名前でもつけちゃう?」


「あい!」

 僕は、思わず、変に曲がってない方の手を挙げた。

 食べられないかも! という歓喜より、やらねばならぬことがある!



「お、意見があるのか。言ってみろ」

 促してくれる魔族を見あげて、僕は、る、の形に唇を尖らせる。

 ぴよ~、とかいう情けない音が鳴ったけど、そこは無視で!


「ぴよ?」

 違う!


「る~、ぷ~!」

 違った!


「るぷ?」

 僕はぶんぶん首を振る。

 尖らせる唇が痛くなってきたよ。
 がんばるよ。

 レトゥリアーレがつけてくれた名前だから!


「る~る~!」

「ルールー!」

 どや顔になる魔族に、首を振る。


「る、る!」

「ルル!」

 指された僕は、こくこく頷いた。


「魔王さま、こいつ、俺らの言葉がわかるんだよ。
 ルルって名前らしい」


「俺がつけたら、だめなのか」


 しょんぼりする魔王の耳が、へにょりと垂れる。

 慌てた僕は、首を振った。


「魔王さまも、つけたらいいって」

 魔族の言葉に、こくこく頷く僕に、魔王の黒い瞳が、きらきらする。


「そ、そうか!
 じゃあ、ロロ! 犬は、クロだ!」

「あい」

「わん!」



 こうして僕の名は、ロロ・ルルになり、犬の名は、クロになりました。



 名づけ親がエルフの長と魔王さまって、なんかすごい!







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