【完結】最愛の推しを殺すモブに転生したので、全力で救いたい!

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推しが、可愛い

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 レトゥリアーレは、エルフの隠れ里の一番奥のお屋敷で、ひとりで暮らしてる、らしい。

 いつも傍でお仕えしてるのが、僕の世話を調べてくれたロズェ。
 レトゥリアーレに気安い口を利くエルフだ。
 あんまりまだ目がよく見えないんだけど、気さくなお兄ちゃん系だと思う。

 僕のお世話をしてくれるのが、タズェ。
 ロズェの弟らしい。
 無口な、クール系お兄ちゃん、かな。

 あんまり喋らないが、僕の世話が、凄まじく厭なんだろうなってことは解る。
 ロズェに押しつけられたんだよね、歯向かえなかったんだよね。
 こんにゃろうって拳握ってた。

 僕の主食は、山羊の乳らしい。
 哺乳瓶なんてものはないので、乳を入れた木の器に布を垂らして、僕の口に布をあてがってくれる。

 勝手に吸えスタイルだ。

 味は、まあまあ美味しい。
 啜るのは、かなり、口が痛い。

 つかれた、と思うと、犬が、わんわん励ましてくれる。


 はあ、かわいい。
 癒される。


 犬の毛は、洗われていないので、くしゃくしゃべったりだ。
 僕がおっきくなったら、洗ってあげるからね。

 ちっちゃな手で、なでなでしたら、鬱陶しそうにロズェが吐き捨てた。

「この犬も、悪魔の犬だろ。
 捨ててくるか」

「止めなさい」

 降ったレトゥリアーレの声に、ロズェはため息をついた。

「レトゥリアーレ様の絶大な支持が、大暴落ですよ。
 悪魔の子と、悪魔の犬のせいで!」

 レトゥリアーレは、目を伏せる。

「世界に降りるのも、わるくはないのかもしれないね」

「……は?」

「何でもない」

 レトゥリアーレは、微笑んだ。

 あんまりよく見えない目でも、星のようだった。





 レトゥリアーレのお屋敷には、時々、親しくしているらしいエルフが訪ねて来た。

 僕を殺しそうな目で見て、

「大丈夫か」

 批難に曝されるレトゥリアーレを心配する。

「ノェスだけは、ルルをわるく言わないな」

 安堵したように息をつくレトゥリアーレに、ノェスが微笑む。

「レトゥリアーレが大切にする者を、蔑む訳ないだろう」

 レトゥリアーレの手を、ノェスの両の手が包みこむ。

 ノェスの僕を見る目が氷なことを、レトゥリアーレ以外は、きっと知ってる。



 レトゥリアーレの一番の友、という地位を、ノェスは誇りにしているらしい。

 みんなのために税をちゃんと納めてくださいと言いに来たエルフに、

「は! 私はちゃんと納めているさ。
 レトゥリアーレの最たる友という、優遇枠でね」

 堂々と言い放ち、ちっとも税を払わなかったり、

「レトゥリアーレと呼び捨てられるのは、私だけだ。
 その意味が解るだろう?」

 圧力をかけて、自分の待遇を良くしたり、どんなに頑張っても魔力が弱いのだろうエルフに、攻撃魔法をあてて

「そんなものも防げないのか。鍛錬が足りないぞ」

 鼻で嗤ったりしていた。

 レトゥリアーレの前でだけは、最高のかんばせで笑って。
 レトゥリアーレの言葉を、全肯定する。

 いつもレトゥリアーレの傍で、レトゥリアーレを支え、レトゥリアーレの恋人になる機会を、耽々と伺っているようだった。

 レトゥリアーレの前では、僕は、何もされない。
 殺されそうな目で、睨まれるだけだ。

 でも、レトゥリアーレがいなくなった瞬間、氷の攻撃魔法を当てられた。
 痕が残らない、消えてしまう氷の魔法だけれど、当てられた瞬間は、手足がもげそうなほど、痛い。

「さっさと死ね」

 吐き捨てたノェスの目は、憎悪の塊だった。




 僕は、いじめられた。
 というか、捨てられそう、殺されそうだった。

 エルフの皆は、レトゥリアーレが大すきで、悪魔が大きらい。
 レトゥリアーレが庇う悪魔の子が許せない気持ちは、わかる気がする。

 全力で愛する推しが、禍を呼ぶと言われてる、ぐっちゃぐっちゃ、どっろどっろのゾンビを育てるって言い出して、皆びっくりみたいな感じだよね。

 皆に愛されてた推しが、突然悪く言われるようになったら、ゾンビ死んでこいってなるよね。

 気持ちはわかる。

 レトゥリアーレを批難に曝すうえ、育てられた僕はレトゥリアーレさえ憎み、エルフを絶滅させるんだから、救われない。


 僕が中に入ったら、少しはお話は変わるかと思ってた。

 けれど、エルフたちの僕に対する憎悪は、弥増すばかりだ。

 僕が入った籠は、よくエルフに攫われる。
 落とされたり、エルフの隠れ里の向こうへ放り投げられたり。
 籠を蹴られたり、殴られたりする。

 衝撃は僕の腕を、足を、肺を、頭を打った。

 身体は青痣だらけ。
 たまに血を吐く。
 口の奥から、血の味がする。


 いつも犬が飛んできて、痛みに震える僕を慰めるようにぺろぺろ嘗めて、飛んだ籠をくわえて元の場所に戻してくれた。

「わんわん!」

 泣いてしまう僕の涙を、嘗めてくれた。


 レトゥリアーレは、朝と、お昼と夜、深夜にも、執務の合間を縫うように、僕を見に来てくれる。

「様子は?」

「健やかに育ってます」

 タズェの言葉に頷くレトゥリアーレは、タズェとロズェを信じているのだろう。
 僕が虐められていることに、気づいていないみたいだった。

 痣とかが見えないように、白い布に包まれてるからね。
 赤子の衣を剥ぎ取って、げへへへへ、おむつ替えてあげましょうねえええ、とか最愛の推しはしないよ!

 だから、わからないのも当然だと思う。

 皆、レトゥリアーレの前では、最高の顔と最高の態度を見せるから。
 誰もが、レトゥリアーレに、よく思われたいと思ってる。


 僕に向ける憎悪の焔なんて、僕しか知らない。


 犬がいつも、へしゃげたり潰れたりした僕の籠を、くわえたり引っ張ったりして、直してくれるからね。
 蹴られて飛ばされても、僕、戻ってくるからね。

 それに、僕の顔が、最愛の推しに逢えた喜びに輝いてるから!

 めちゃくちゃ健康そうに見えると思う。
 萌え過ぎてて。


 今日もちゃんと戻って、ちゃんと育ってるように見える僕の入った籠を、レトゥリアーレが覗き込む。

 僕の頭を、おそるおそるみたいに指を伸ばして、そっと撫でた。

「……はあ……かわい……」

 とんがった耳の先まで真っ赤になって、ちいさな顔を大きな掌で覆って、蹲る。

「お世話したい……でも壊したらどうしようって思ったら触れない……!」

 もだもだしてるレトゥリアーレが可愛いから!

 僕の推しが、尊すぎる──!


 ちょこちょこ僕のところにやって来ては、僕をちょこっと撫でて

「……かわいー……!」

 真っ赤になるレトゥリアーレは、タズェもロズェも知らない。
 僕と犬だけの秘密だ。


 僕が、きゅ、とレトゥリアーレの指を握ると

「はぅ──!」

 耳の先まで真っ赤にして、もだもだしてくれる。



 推しが可愛すぎる──!



 赤ちゃん、すきなのかな。
 うへへへへ。








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