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世界一むかつくモブに、転生したみたいです
しおりを挟む説明しよう。
って、元ネタ何なのか知らないけど、物凄く古い香りがする──! けど、説明しよう。
僕の最愛のゲーム、『黎明のゼルア』は、主人公を選べるRPGゲームだ。
レベル上げして、魔王を倒すアレね。
据え置きゲーム機の、画像がきれいで、音も声も迫真のゲームだった。
『黎明のゼルア』では、最初に、自分が誰としてプレイするのか、5人の中から選ぶことができる。
ゼルア大陸のド田舎に生まれて、魔物に村を全滅させられた勇者と、
異世界転移してきた地球の高校生、
いにしえの大戦で人族を率いて戦った伝説の魔導士と、
人族に虐げられてきた獣人の王子と、
隠れ里に住むエルフの長の5人だ。
性別は、かっこいい女も、可愛い男も、可愛い女も、かっこいい男も、選べるよ。
僕は勿論、可愛い男。
一択。
主人公のいち推しは、勿論、エルフの長、レトゥリアーレ!
半端なく綺麗だから!
最高だから!
一部では絶大な人気を誇るレトゥリアーレルートはしかし、一般的には人気がなかった。
暗いからだ。
勇者ルートは、魔物をぽこって、魔王をぽこるぜ、おー!
異世界転移ルートは、チート楽しい、ひゃっはー!
伝説の魔導士ルートは、魔法無双TUEEEE!
獣人ルートは、もふもふ、癒しの時間! ざまぁもあるよ!
という、お気楽なRPGにおいて、唯一、陰鬱なルートが、エルフルートだ。
エルフの長、レトゥリアーレは、エルフの隠れ里に投げ込むように捨てられた黒目黒髪の人間の子を、ルルと名付け、育てる。
だが、ゼルア大陸では、黒目黒髪は、悪魔の象徴だった。
隠れ里のエルフから暴言と暴行を浴びせられながら育ったルルは、それでも自分を助けてくれたレトゥリアーレを慕っていたが、捨てられた時からずっと一緒だった、ルルの唯一のともだちの犬を、目の前で殺されてしまう。
真っ黒な犬は、悪魔の犬だと嗤って。
押さえつけられたルルは、唯一のともだちを、助けてあげられなかった。
レトゥリアーレは、犬を嗤いながら殺したエルフたちを、罰しなかった。
エルフたちを罰すれば、ルルが殺されると思ったからだ。
けれど、レトゥリアーレを信じて慕っていたルルの心は、壊れた。
ルルは、ともだちの亡骸に、復讐を誓う。
エルフすべてを、皆殺しにすると。
ルルは隠れ里を出奔、エルフの心臓から滴る血を飲めば不老不死になれると嘯き、魔物軍を、隠れ里に案内する。
急襲されたエルフたちは、心臓を貫かれ、全滅する。
ただひとり、レトゥリアーレを残して。
血濡れたエルフの里で、魔物たちに磔にされたレトゥリアーレに、ルルは囁く。
「あなたは僕を、一度だけ、助けてくれたから。
僕もあなたを、一度だけ、助ける」
最後のエルフとなったレトゥリアーレは、復讐に旅立つ。
「助けたふりで、見殺しにした」
「僕じゃない、あなたこそが、悪魔の子だ」
「あなたのせいで、エルフは滅んだ」
何度も、何度も、ルルは目の前に現れるのに。
どうしても、戦闘シーンにならない。
どうしても、殺せない。
エルフを全滅させた責任の一端を背負い、苦しみながら、魔物に侵略される世界を巡るレトゥリアーレは、魔物軍に全滅させられた人族の村に辿りつく。
唯一の生き残りの勇者とともに、生きよう、復讐を果たそうと誓ったレトゥリアーレは、ルルが関わっていると聞く魔物軍と戦い、魔王を倒す。
歓喜と涙で抱きあうふたりの後ろから、ルルはレトゥリアーレを刺した。
「あなたが一番、憎かった」
ルルの氷の声を聴きながら、レトゥリアーレの剣が、ルルを貫く。
「きみをずっと、愛してた」
ふたりの血が混ざりあい、崩れ落ちる。
重なるふたりの手と、血と、死に顔に、全僕が泣いた。
公式がBL。(主人公に、可愛い男、もしくはかっこいい男を選んだ場合)
最高オブ最高!
感涙に噎んだのはほんの一部の人たちだけらしく、救いのないレトゥリアーレルートは非難囂々だったらしい。
他のルートが、軽くて楽しい感じが多かったので、余計に陰鬱に見えたと思う。
慌てた製作陣が、ファンディスクを作るとか言ってたよ。
楽しみにしてたよ。
そのルル少年が、主要キャラっぽいのにモブ扱いなのは、最後まで戦闘シーンがないからだ。
ゲームでは、どんなに、こいつむかつく! と思ったって、町の人は殴れない。
モブガードだ。(命名、僕)
モブガードに守られたルルは、最後の最後まで、倒せない。
ちょろちょろ出て来て、鬱陶しいことを言っては逃げてゆくのに、ぽこれない!
実は可哀想なのに、むかつくモブNo1の地位を、ルルは確立した。
その、むかつくモブ、エルフを絶滅させるモブ、愛されてるんだか、憎まれてるんだか謎なモブ、唯一の陰鬱ルート、死亡エンドのモブ、世界で一番ぽこりたいモブに転生したみたいだよ!
もし僕以外にも転生者がいたら、僕、瞬殺されると思うな。
……もちょっと、よい配役をお願いしたかったです。
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