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おまけのお話
夏やすみだよ!
しおりを挟む夏です! 海です! 水着です!
「わーい、夏休みだよ、ディー! 海に行こー!」
ぱふりと、ジャストフィットな細い腰に抱きついたら、ディゼがぽふぽふ頭を撫でてくれる。
終業式が終わり、はじまる夏休みに皆が喜んで駆け去った教室は、ディーと俺のふたりきりだ。
窓硝子の向こうでは強い陽射しにも負けない蝉が、わんわん鳴いてる。
恋の季節だよ、がんばれ、蝉!
俺もがんばる!
「……うみ?」
首を傾げるディーに、俺は魔界を思い出す。
「魔界には瘴気の渦しかないっけ? 人界には海っていう生命の源、しょっぱくて波がたつ、でっかい水たまりがあってね、夏になると皆で泳ぎに行くんだ!」
ディーが知らないことを知っているのがうれしくて胸を張ったら、ディーが頭をなでなでしてくれる。
凛々しくて、かっこいーディーは、表情がそんなに変わらない。
いつもかっこいー♡
じゃなくて!
うれしそうとか、楽しそうとか、照れてるとか、そんなにあからさまじゃない。
でもほんのり赤くなる眦とか、やわらかになる眼差しとか、ちょっとごきげんそうな唇の端っことか、いつもいつもディーばかり見つめてきた俺には、ぜんぶお見通しだ!
「えへへへ、ディーかわいー!」
「それはリユィ」
ぎゅ、と抱きしめてくれる。
あったかくて、ディーのいー匂いに包まれて、安心する。
ディーの背に腕を回せること。
抱きしめられること。
どんなにしあわせなのか、毎日、毎日噛み締められる、しあわせ!
「ディー、大すき!」
「……俺も」
ぎゅう
抱きしめてくれる。
「だいすきは?」
上目遣いで、おねだりしてみた。
「……だ、ぃす、き」
ぽそぽそ、ちっちゃい声で、真っ赤な耳で、ぎゅうぎゅう抱きしめてくれるディーが、可愛すぎる──!
「教室なんだけど」
ぶすりと突っ込む声が降って、ディーの腕のなかから顔をあげる。
「アル! 一緒に、海行く?」
「うみ?」
きょとんとするアルフォリアに、俺は胸を張る。
「しょっぱくて波がたつ、でっかい水たまり、すべての命のおかあさんだよ! 夏休みは皆で泳ぎに行くんだ!」
緑の瞳を瞬いたアルは、ちいさく笑う。
「あぁ、うん、海は知ってるんだけど、泳ぎに行くという発想がなくて」
ちっちゃい子を見る目だ!
「……なんか俺、恥ずかしかった?」
しょげる俺に、アルはぶんぶん首を振った。
「リユィはいつだって、とびきりかわいーよ!」
「えへへ、ありがとー、アル」
かわいい、うれしー!
ちょっと火照る頬で見あげたら、アルが赤くなって、ディーの腕に抱き寄せられた。
俺の肩に顔を埋めるディーが、可愛すぎる!
「えへへへへ」
ディーの紅い髪を、なでなでする。
ディーが、やきもちをやいてくれるたび、ぎゅうって抱きしめてくれるたび、どんなに胸がぎゅうぎゅうして、しあわせの蜜に熔けてゆくか、ディーは知ってくれてるかな?
「ふたりきりの海も、すてき! でも夏の海はすごい人で、だったら皆で行ったほうが楽しいかもって。学校のともだちの皆と一緒に海って、俺の夢だったから」
前世は、ひとりぽっちだった。
ともだちなんていなかったし、海なんてとんでもなかった。
水着なんて着たって、貧相で気持ちわるかったに違いない。
でも俺は、残念な元王子の悪役に転生しました!
リユィはちょこっとかわいーのです!
……たぶん。
だから水着を着て、海に入れるのです!
……たぶん。
この世界では、俺に、ともだちができたのです!
「一緒に、海、行きたいんだ。ディーと、トエと、メファと、アルと、キーザと、ジェミと、皆で一緒に」
────────────
はじめましての方、いつも見てくださる方、心からありがとうございます!
夏のリユィのお話ですー!
もうちょっと続きます。
楽しんでくださったら、とてもうれしいです。
おそろい? 夏の海な漫画も、久しぶりに更新しました!
絵を一新したので、今まで*の絵が苦手だった方も、もしよかったら!
チート入ってます(笑)
初登場なキーザもジェミもいます!
いちおしはアルの背中です(笑)
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