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おまけのお話 がんばるキーザ!

がんばるキーザ!

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 放課後の生徒会室に射し込む、橙を帯びた光がきらめいた。
 かっこよく見えるように、僕は水の髪をかきあげる。

「僕、断れる人になったよ!」

 ジェミはちょっとこっちを見て、頷いた。


「そうか」

 続く言葉を待ったけれど、ジェミは手元の資料に目を落とす。


「………………え、それだけ?」

 首を傾げるジェミに、拳を握る。


「わー、キーザかっこいーとか、見直したとか、惚れなおしたとか、惚れちゃった
とかは!?!??」

 前のめりで聞いたら、ジェミは凛々しい眉をしかめた。


「ないな」

「な、ないの!?」

 こっくり頷くジェミに、項垂れた。



 過去の暗い所業がてらてら輝くと、僕にはもう、どうすることもできない。

 だって、過去は変えられない。

 僕の貞操観念皆無な、『断る』という選択肢がなかったことは、変えられない。
 ゲームの強制力のせいで、なんて言ったって、大抵の人は、はぁ? だ。

 それに僕が欲しいのは、同情じゃない。
 僕へと向かう、ジェミのほんとうの気持ちだ。

 ……でも、僕の過去がそれを阻むなら。
 僕にはもう、どうしようもできない。


 じゃ、なかった!

 未来を変えるのは、僕なんだよ!

 僕は、断れる人になった。
 ちょっとずつでも、僕は確実に変わってる。

 しょげるな、僕!


 自分を励ました僕は、改めて拳を握る。


「あ、あの、ジェミ、僕の過去は変えられないけど、僕、変わりたいんだ。
 断れる人になりたいし……ジェミのともだちになりたい」

 ほんとは、恋人がいいけど。
 まだ早いと思うから。

 ちょっぴりうるうるの目で告げた僕に、ジェミの藍の瞳が微かに見開かれる。
 いつもいかめしい唇が、かすかにほころんだ。


「俺はずっと、キーザは友だと思ってた」

「ほ、ほんと!?」

 跳びあがって喜んだ僕は、口まで出かかった

『ともだちじゃ、やだ。
 恋人にして!』

 を呑み込んだ。


 突然、下半身ゆるゆる男からそんなこと言われても、ジェミは迷惑だろうと
思うから。

 ともだちとして、信用されるようになったら。

 手を繋げるようになったら。
 重なる瞳に、甘さが滲むようになったら。


『僕をジェミの恋人にしてください』

 いつか、きっと、告げるから。


 だから、今は、ともだちで。




「すごく、すごくうれしい。
 ありがとう、ジェミ」

 厳しい鍛錬で幾度も皮が剥け、ごつごつになったジェミの手を、両の手で
包んで笑う。

 僕の手に包まれたジェミは、ちょっと赤くなって、僕の手を握り返してくれた。







――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


はじめましての方、いつも見てくださる方、心からありがとうございます!


sumitono様のリクエストで、キーザとジェミのらぶらぶ……からまだ遠いので、
もうちょっと更新します。

のんびり更新ですが、もしよかったら!



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