残念な悪役の元王子に転生したので、何とかざまぁを回避したい！

おまけのお話 しあわせお花見

ずっと、ずっと

　ひらひら、薄紅の花びらが舞い降りる。

　さくらの花の向こうで、ディゼが笑ってくれる。

「リユィ」

　俺の名を呼んで。
　微笑んで。

　俺と手を繋いでくれる。
　あったかい指先がからまって、きゅ、と握ると、甘さにとろける。

　緋の瞳のなかには、俺だけが映って。

　俺を見つめて、笑ってくれる。



「……ディー」

　あなたの名を呼ぶだけで

　涙が滲む。



　だいすきで

　だいすきで

　あいしてるがあふれて

　傍にいられることがうれしくて


「ディー……」

「なんで泣く！」

　あわあわしたディゼが、ぎゅうぎゅう抱きしめてくれる。

　ふえふえ泣いた俺は、ディゼのあったかい胸におでこを擦りつけた。


「……ディーが、すき。
　そばにいてくれて、手をつないでくれて、うれしー。
　思ったら、涙出る」

　ぐしぐし鼻を啜った俺に、まるくなったディゼの瞳が揺れた。


「……リユィが、俺のことめちゃくちゃすきでいてくれるのが、しあわせすぎて、
泣く」

　ディゼのちいさなかんばせが、肩に埋まる。

　びっくりした俺は、あわあわ、ちいさなディゼの頭を抱きしめた。


「えへへ。
　いい子いい子」

　さらさらの蘇芳の髪をなでなでする。
　ディゼの涼やかなのに、頭の芯が痺れるような、とろける香りが舞いあがる。

　うっとり目を閉じた俺は、そっと、ディゼのおでこに口づけた。


「だいすき」

　愛を伝えたら、ディゼの腕が、ぎゅうぎゅう、抱きしめてくれる。


「……めちゃくちゃすき」

　ちいさな囁きが胸に届くと、頬が燃える。


「だ、だいすきなディーに、おべんと作った。
　今度こそ、ちゃんとしたお弁当だから！」

　熱い頬を隠すみたいに、リュックから取り出したお弁当を掲げる。
　ディゼの瞳が、やさしく細められた。

　ちょっと警戒しつつ、お弁当の蓋を開ける。


　………………だ、だいじょぶ、かな…………？

　レイトの蹴りは、降って来ない。


　さくらが、ひらひら舞い降りて、蒼い天を薄紅に染めてゆく。


「……すごい、リユィ」

　お弁当を覗き込んだディゼが、笑ってくれる。

「ほんとはね、からあげ入れたかったけど、むつかしそうだったから、ウインナに
した。
　足、4本だけど、たこなの！」

「すげえ」

　いつも凛々しい瞳がとろけて、笑ってくれる。


「食わせてくれんの？」

　緋の瞳が輝いて、俺は熱い頬で箸を握った。

　渾身の力作の卵焼き、たぶん殻なし！　をそっとつまむ。


「……あーん」

　燃える耳でささやいたら、ディゼが笑って、口を開けてくれる。

　きゅ、と、たんぽぽ色の卵焼きを、ディゼの唇の奥へといざなう。
　もぐもぐ動いた唇は、やわらかに笑みを描いた。

「すげー美味い」

「ほ、ほほほほほんと！？」

「ほら」

　ディゼが俺の口元に卵焼きを差し出してくれるのに、ふくれる。


「……あーんは？」

　上目遣いでおねだりしたら、ちょっと赤くなったディゼが蘇芳の髪を掻きあげた。

　ちらっと辺りを見たディゼは、誰もいないのを確認したのだろう、ほんのり朱い
まなじりで、卵焼きを差しだしてくれる。


「……あーん」

　ちいさな、ちいさな掠れた声に、とろけて笑った。


「あーん♡」

　口を開いたら、ディゼが卵焼きを食べさせてくれる。
　もごもご噛み締めたら、昆布のやさしい香りが鼻に抜けた。


「殻が、ジャリジャリしない！」

　跳びあがって喜ぶ俺に、

「そっちか！」

　ディゼが笑う。


「トエがね、手伝ってくれた。
　俺のともだち！」

　胸を張って、笑う。
　ディゼが、頭をわしゃわしゃ撫でてくれる。

　さくらの花びらが、ふわふわ舞い降りて、だいすきなディゼを薄紅に染めてゆく。



「……ディゼの心が離れるときも。
　ずっと、ずっと、だいすきだから」


　ささやいたら、抱きしめられた。


「リユィの心が離れるときも。
　俺の魔力も、命も、心も、愛も。
　リユィのものだ」



　指が、繋がる。

　瞳が、重なる。

　涙が、こぼれて。

　重なる唇は、やさしいたまごの香りがした。






　ずっと、ずっと、だいすき。


　ディゼだから、信じられるよ。




　はじめて逢った時に、わかったんだ。





　ディゼが、俺の唯一。




　ずっと、ずっと、愛してる。