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おまけのお話 しあわせお花見

ともだちの手

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 濡れ布巾のうえに、トエは卵の入った熱いフライパンを置いた。

 じゅわ!
 真っ白な湯気が立ち昇る。


「わあ!」

「リユィ、落ち着いて、ゆっくり、ひっくり返せ。
 多少ぐちゃっとなっても、卵が半熟なら、また焼ける」

「はい、先生!」

 お、落ち着け、俺!

 フライ返しを持ってぷるぷるしながら、そーっとそーっと卵をひっくり返した。


「おぉおおお!」

「形を整えろ!」

「はい、先生!
 おぉおおお!? な、なんか、オムレツっぽい!」

「玉子焼き機がないからな、これが限界だ。
 しかし、見た目はよいと思う。
 もう少しだけ火を入れよう」

「はい、先生!」

 トエが火を点けてくれたコンロに、フライパンをのせる。
 じゅわっとして、卵が焼けたら、完成!


「ふぁあああ!!」

 跳びあがって喜ぶ俺につきあって、トエも一緒に跳んでくれた。


 ほうれん草の茹で時間も

「今だ、リユィ!」

「はい、先生!」

 トエのおかげで、かんぺき!


 たこさんウインナーにしようと思ったら足が4本になったけど、これが俺の限界だから、これでいい。

「火加減よーし、リユィ、投入!」

「はい、先生!」

 じゅわっと焼けるウインナーのいい匂いに、ふたりの鼻がひくひくした。


「2分30秒経過、今だ、リユィ! ひっくり返せ!」

「はい、先生!」

 ころんとお箸で転がしたら、きつね色だ!

「ふぁああああ!」

 跳びあがって喜ぶ俺と一緒に、トエも跳んでくれる。
 トエ、やさしー!


「リユィ、米が炊けたぞ!
 火を止めろ、蓋は開けるな、蒸らしに入る!」

「はい、先生!」

 炊きあがったお米のいい香りに、ふたりの鼻がぴくぴくした。


「ほわあぁああ! つやつや!」

 跳びあがって喜ぶ俺に、トエはうんうん頷いてくれた。

 ちょっと疲れたみたいだ。
 瓶底眼鏡がずれるもんね。ごめんね、トエ。


 最終工程!
 おべんとう箱に、つめるよ!

「まず米だ!」

「はい、先生!」

「ごまをふって、うめぼしも入れる?」

「入れる──!」

「よし、投入!」

「はい、先生!」

「次、ウインナーを左端に!」

「はい、先生!」

「ほうれん草は軽く水気を絞って、ばらんを敷いてからのせよう」

「はい、先生!」

「玉子焼きを投入!」

「はい、先生!」

「完成だ、リユィ!」

「ふわぁあああああぁあああ────!」


 この間、一生懸命つくったおべんとうは、ぐっちゃり、ぐちゃぐちゃだった。
 ひとりで頑張ったけど、でも、ほんとに酷くて、ディゼに食べてねって言えないような出来だった。

 おんなじ俺がつくったのに。
 ぴかぴか、つやつや、ちゃんとお弁当だ……!


「ふぇええええ……!
 トエ、ありがとう────!」

 涙と抱きついたら、赤くなったトエが、俺の背をぽんぽんしてくれる。


「……と、もだち、だから」

「うわあん! 俺のはじめてのともだち!
 トエ、ありがと──!」

 ぎゅうぎゅう抱きついたら、ずれた瓶底眼鏡の眼鏡の向こうで、深紅の瞳がやさしく揺れた。


「……うん、リユィ」

 俺の背を抱っこしてくれるトエの手が、あったかい。
 わんわん泣く俺の頭を、撫でてくれる。




 やさしい、トエの手。


 ともだちの手だ。







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