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おまけのお話 ディゼの初恋

とうちゃん

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 冷たくなる背は、命の危機を知らせている。
 下手なことを言ったら、殺される。

 解っているが、下手なことしか言えない気がする……!

 冷たい汗をたらりと流しながら、喰い込む刃が俺の首を落とさないよう注意しつつ、俺はできる限り恭しく、刃が刺さる手前まで頭をさげた。

「ま、ぞく、の、総領の承認を、戴きに、参りました。
 やさしい声が城のなかに入れてくださり、やさしい光に誘われて扉を開けてしまいました。
 失礼を、お詫びします」

 魔王の深淵の闇の瞳が、瞬いた。


「だろ!?
 声、めちゃくちゃやさしーよな♡♡♡♡♡
 はー、思い出すだけでイきそう♡♡♡」

 ごめん、俺の目の前でいきなりイかないでくれ、頼む。

 もだもだした魔王は、俺に抱きついていた赤子を、俺の腕から引き離した。



「ふえ!」

 俺へと伸ばすちいさな、ちいさな手を、魔王の手が握る。


「知らない男についてったらだめなんだぞ!
 こーゆーのを、顔だけ男っていうんだ。
 少なくとも俺より強くねえとなあ。こんな弱いのはだめだぞ、リユィ」


『顔だけ男』
 今までかつて、戴いたことがない称号に項垂れた。

 こんなに凄まじい強さを見せつけられたら、ぐぅの音もない。

『こんな弱い』の称号まで背負った、さみしい俺は、首から離してくれた刃に、ほっと吐息した。



 魔界のなかでも至高の一端を担う魔族に生まれ、強さと容色を持て囃され、かっこわるいことも、情けないことも、みっともないことも、無縁だった。

 それが、この城に来た途端、かっこわるくて、情けなくて、みっともなくて、弱い。

 衝撃とともに、ああ、俺は大したことないんだな、と自覚した。

 傲慢で不遜で卑怯で、魔王の寝首を掻いてやろうとしていた俺よりは、怖がりで、情けなくて、弱い俺のほうが、いい気がする。

 そんな風に思う俺にも、驚いた。


「で、何しに来たって?」

「魔族の総領の承認を」

 ふにふに、赤子のほっぺたをつついた魔王が、とろけて笑う。


「……なんだっけ??」

「……魔族の総領の承認を戴きに参りました……」

 赤子のほっぺをふにふにしてる魔王には聞こえないと思うが、一応繰り返した。

 俺の首のために。


「……ぃー!」

 ちっちゃな、ちっちゃな手が、俺に向けて伸ばされる。


「リユィー?
 だめだぞ。
 こいつ、弱い。とうちゃん、強い。
 俺にしとけ!!」


 胸を張る魔王は、確かに俺より遥かに強くて、俺よりも遥かに顔も輝かしい。

 凄まじい容色と力を誇る魔王に溺愛された息子はきっと、魔界で最上の者を伴侶にするだろう。



 それが俺ではないことは、とても、とても、さみしい気がした。










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