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おまけのお話 ディゼの初恋
ディゼの初恋
しおりを挟む魔界の瘴気は、今日も紫紺だ。
濃く、強く、肺を、指を圧し拉ぐ。
天を刺すように聳える闇黒の魔王城の周りは、色が目に見えるほどの瘴気の渦に覆われていた。
はじめてやってきた魔界の最奥、魔晶で造りあげられた魔王の城に、息をのむ。
魔族の随一を決める総当たり戦で、すべての魔族を倒した俺は、魔族の総領に任命された。
それを魔王が承認して初めて、俺は魔族を治めることができるという。
突然一族を率いることになった俺は、まだ若く強いこともあって、言うことを聞かない輩はぽこればいいんだなと気楽に構えていた。
最強の者が、一族を率い、最強の者が、魔界を率いる。
くだらないごちゃごちゃでややこしいらしい人界とは違って、魔界は至極すっきりだ。
顔だけ魔王なんて言われてる魔王を、この機会にぽこって俺が魔王でもいいかなと思ってた。
魔界の頂点に立つのも、わるくない。
魔族の頂点に立った俺には、それは手を伸ばせば届く地位に思えた。
最も瘴気の濃い場所に聳え立つ魔王城に足を踏み入れようとした俺は、結界に弾かれた。
…………俺の魔力を弾く結界?
一瞬うろたえたが、魔王の守りは完璧だということなのだろう。
歴代魔王の秘儀でもあるのかもしれない。
衛士が見当たらないので、結界が侵入者を阻んでいるのだろう。
かっこわるいなと思いつつ、声を張る。
「魔族の総領に任命されたディゼだ。
魔王の承認を」
寝首を掻いてもいいけどな。
唇の端をあげたら、結界が揺れる。
『やめたほうがいいよ。死ぬから』
やわらかな声は、笑ってた。
「…………は……?」
俺の頭のなかを、読んだ……?
な、なんだこの城!
引き攣る俺の前で、暗黒の扉が開きゆく。
『魔族のディゼ。
ようこそ、魔城へ』
やわらかな声が導いてくれた向こうには、誰の気配もしない、黯黒が広がった。
「…………なんだ、この城…………」
目の前が見えないどころか、自分の指さえ見えない。
真っ暗だ。
しかも、振り返っても、帰り道がない。
外界に繋がる扉さえ、見えない。
……………………こわい。
いや、魔族で最強な俺が言うのは恥ずかしいけど、怖い。
声だけ出て来て、真っ暗闇に落ちるとか、本気で怖い!
──……っ
俺は、もう帰る!
思いきり魔力をぶっ放して、城を叩き壊して帰ろうとした時だった。
真っ暗な闇に、ぽつり、ぽつりと青白い光が、燈りゆく。
………………こ、これも怖い…………!
引き攣った俺は、しかし『怖くなったので承認を貰わず帰ってきました』も情けなく、仕方なく幽鬼のような明かりが指すほうへと足を踏み出した。
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