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希望と暗闇

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 皆があると信じている強制力を、俺は、きっと撃ち砕ける。


 俺は、天下一の尻を持つ、かあちゃんの息子で。
 めちゃくちゃかっこよくて強い、親父の息子だ。

 ゲームの強制力で、頭弱く、魔力最低、残念な悪役に墜とされていたなら。

 ほんとうの俺は、絶対、ちがう。



 自分を信じることは、むつかしくて。

 できなかったことばかりが、叩き潰されたことばかりが、頭を巡る。



 でも俺は、俺を、信じてみたい。

 俺は、世界を、変えられる。


 皆を救えるのは、俺なんだって。



 頭弱く、魔力最低、何をやっても失敗ばかりの、きゃんきゃん吠えるだけの
残念な悪役じゃなくて。

 攻略対象や脂ぎったおじさんに回されて快楽堕ちを喜ばれるだけの、
えろい主人公じゃなくて。


 かあちゃんと親父の息子で、ディーが大すきな、リユィだ。



 だから俺は、きっとできる。


 信じる気持ちは、力になる。



 パリリィイ――――……!


 プラズマが、舞う。


 俺の黒髪が、銀に輝き、舞いあがる。



「だめだよ、リユィ」

 トエの声じゃ、なかった。


 俺の手足を、魔力の闇の蔦で縛りあげ、嗤う。


「脂ぎったおじさんに無理矢理犯されて、快楽堕ちするのが、きみの使命だ」


 広がる闇黒の翼を、見あげる。


「俺を、心から、愛しているのに。
 無理矢理犯されているのに。
 泣いて善がって、もっと、もっと、ご主人さまって、見知らぬおじさんに
縋りつくリユィを、俺に見せて」


 真っ暗な瞳で、笑う。


「…………ディー…………」


 ………………ああ、そうだ。
 ……忘れてた。


 モブレされるのは、残念な悪役のリユィだけじゃ、なかった。


 ディゼのほんとうのしあわせなエンドでは、溺愛されるのに。
 いじわるメーターがMaxで、他の攻略対象2人以上のすきすきメーターがMaxの
場合、ディゼの闇エンドが開く。


 愛するディゼの目の前で、主人公は、モブレされる。

 ディゼを愛しているのに、おじさんに犯されて善がり狂って、快楽堕ちした
主人公のご主人さまは、おじさんになる。

 ディゼは振り返ることなく、去ってゆく。


 あまりに悲劇で、記憶から削除してた――――!


 えぇえええええ!! と思って、ゲームしてた時は泣いて、でも愛するディゼの
目の前でモブレで快楽堕ちとか、ごめん、めちゃくちゃ燃える! とか思って
おかずにしちゃった……! 全方位に全力でごめんなさい!!

 あれは頭のなかとか、ゲームとかだからこそ滾るのであって、実際にするとか、
もう本当に、全力で止めてくださいお願いします――――――!!


「絶対絶対絶対、絶対!!! いやだあぁああアアア――――――!!!」

 絶叫した瞬間、俺の頭の奥が、弾けた。



 強制力でだろう、靄のように覆われていた頭が、冴え渡る。

 かあちゃんが教えてくれたことが、親父の言葉が、蘇る。


「脂ぎったおじさん、黄色い歯を剥いて、涎垂らして近づくの禁止!!」

 眇めた俺の目のなかに、紫紺の光が走る。


 キィイイイインンン――――!!


 かあちゃんに教えてもらった数少ない淫魔の特技、ストーカー撃退超音波発射!


「ぐぅあ……!」

 直撃を受け、倒れ込んだおじさんに、トエが触れる。
 ビクンと震えたおじさんは、まるでゾンビのように起きあがった。

「ヒヒヒヒヒ」

 虚ろな目が、俺を見て、にたりと嗤う。


「だめだよ、リユィ。
 おいたしたら」

 うっすら、ディゼが笑う。


「ぐ、ぁ……!」

 ディゼの魔力を注がれた闇の蔦が、俺の身体を縛りあげた。


「俺が、元魔王に次ぐ魔力を持ってるって、知ってるよな、リユィ。
 お前は、俺に、敵わない」

 ディゼが、嗤う。


「俺の目の前で、無理矢理犯されて、快楽堕ちして、リユィ」


 蜜のように甘い声で囁かれる毒に、震えた。

 真っ暗なディゼの瞳を、見あげる。


「…………ディー…………」

「俺じゃなくても。気持ちいいんだろ?
 俺じゃなくても。ご主人さまって、喜んで這いつくばるんだろ?」

 ディゼの唇が、歪む。

 緋の瞳に、黯黒の炎が揺れた。


 ディゼの魔力の蔦に縛りあげられた俺に、ゾンビのように唇から涎を垂らした
おじさんが近づいて、にたりと嗤う。

「ヒヒヒヒヒ!」

 バシャ――――!

 小瓶の薬をぶちまけられた俺の身体は、火が点いたように燃えた。


「――――っ……ふぁ……――っ あ、つ……――!」

 眩暈が、する。

 吐息が、燃える。

 強制的に高められた感覚に勃起した俺に、真っ暗な瞳で、ディゼが嗤う。


「…………やっぱり」


「薬使ったら、こうなるに決まってるだろ――――!
 ディゼの、あんぽんたん!!」


 ちっちゃな牙を剥いて怒ったら、ディゼは緋の瞳を瞬いた。






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