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ほらー

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「うぉあぁああ!」

「ぎゃ────!!」

「ひぃいいい──!!」


 ホラーになった!

 火加減を調整しようとコンロを覗き込んだら、前髪焦げた!!


 ぷすぷすしてる!

 くちゃい!

 うわあん!!


「か、かわい……!」

 アルフォリアが悶絶してるのが、謎!!


 どろんどろんぐちゃんぐちゃんのお弁当になりそうだったので、焦げた部分は削除しよう。

 な、なくなる……!

 え、えと、ほうれん草つめよう!


 ぐちゃり


 ゆで過ぎね。解ってる。

 どうやったら適度に茹でたか分かるんだ! 経験か!?
 初心者に厳しい!


 ご、ご飯を詰めよう!

 この世界には残念ながら、炊飯器な魔道具がなかった。
 水加減が、だめだったらしい。


 ぐちゃり


 おかゆみたい。
 冷めたら固まる、あれね!


 最後の頼みの綱のウインナーまで焦げてる!!


「ふぇえええ」

「ああ、もう、泣くな。
 こんだけ頑張ったんだから、もういい。
 明日、ちゃんと食うから」

 あったかい腕が、降ってきた。


「ふえぇえ……ディー……!」

 頭をなでなでしてくれて、抱っこしてくれて、涙目にちゅっちゅしてくれるディゼの顔が、とろけていて、全然おこじゃない。


「ディー、やじゃないの?」

「俺のために、前髪焦がしてまで頑張ってくれたのに、何が、やなんだよ」

 ぎゅうぎゅう抱きしめてくれるディゼが、かっこよすぎる……!


「俺もいます」

 アルフォリアが手を挙げて、ディゼは溜め息をついて、俺はあわあわした。


「あ、あのあの、ありがとう、アル。
 遅くまで、ごめんね」

 丁寧に頭をさげたら、アルフォリアは首を振る。


「リユィは、俺に頭をさげることない。
 これからも、ずっと」

 すきすきメーターMaxのラブイベントの台詞だったけれど、その奥にあるのだろうアルフォリアの気持ちを信じて、微笑む。


「ありがとう、アル」

 俺の感謝に、やわらかに微笑んだアルフォリアが、目を伏せる。



「……リユィに、ずっと傍に、いてほしかった」


 ちいさな声が、夜風に溶ける。


「…………ごめんなさい。
 でも、アルだけの誰かが、きっと、いるから」


 さみしい笑みで手を挙げたアルフォリアが、踵を返す。



 総愛されって、逆ハーで、とっても楽しいことだと思ってた。

 気持ちを向けてもらえるのは、確かにとても、とてもうれしいのに。

 俺は、ディゼが、大すきで。
 俺には、ディゼだけだから。

 応えられないことが、こんなに苦しいなんて、知らなかった。



 ディゼと手を繋いで、アルフォリアの背中を見送る。

 しょんぼり肩を落とす俺を、ディゼが包みこむように抱きしめてくれた。


「リユィが、泣くことない」

 やさしい声に、ぐすぐす頷く。


 元気、出すよ。

 そうだ!

「明日、遠足!
 一緒にお花見しよー!」

 見あげたら、ディゼが笑う。


「さくらより、リユィ見てそう」

「俺の背景が、さくらだから!」

 笑ったら、ディゼも笑った。


「そりゃいいな」



 繋ぐ手が、あったかい。

 見あげるディゼの瞳が、やさしい。


 俺と一緒に、笑ってくれる。







 王子じゃなくなった俺は



 欲しかったすべてを、手に入れた。












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