89 / 141
だいじょうぶだよ
しおりを挟む碧の瞳が見開かれて、くしゃりと歪む。
「…………俺は、からっぽだよ。
身分を取ったら、俺には何も、残らない」
「身分を取ったら、解るよ。
アルのなかには、今まで頑張ってきたアルが、いっぱいに詰まってる。
アルが王子だからじゃなく、がんばるアルをいいなって思ってくれた、大切な人たちが、解るようになるよ」
碧の瞳が、揺れる。
俺は遠くから、魔界を思う。
「俺を更生させたくて、親父は魔王を辞めたんだと思う。
……親父、かあちゃんを誰にも渡したくなくて、それで必死で強くなって、魔王になったんだ。
かあちゃんを、守るために。
それなのに俺は、親父に魔王を辞めさせてしまうような息子だった。
そのことを、本当に恥ずかしく、申しわけなく思う」
自分がくやしくて、情けなくて、かあちゃんにも親父にも申しわけなくて、涙が滲む。
「でも、親父が王じゃなくなったこと、俺はうれしい。
俺が王子じゃなくなって、うれしい」
俺は真っ直ぐ、アルフォリアを見つめる。
「身分で誰かを分けるのは、間違ってる。
人間が勝手に作った身分によって、敬われたり、蔑まれたりするのは、どう考えてもおかしい。
その頂点にいるアルが、こんなに苦しいなら、尚更だめだよ」
アルフォリアのふるえる手を、握る。
「身分がなくなっても、アルは、アルだよ。
今までがんばってきたことが、きっとアルをたすけてくれる。
アルは、アルの生きたいように、生きればいい」
背伸びした俺は、アルフォリアの金の髪を、そっと撫でる。
「行くところがなかったら、魔界に歓迎するよ!」
胸を張る俺の手に、アルフォリアの涙が落ちた。
「……っ」
止まらないアルフォリアの涙を、抱きしめる。
「……俺、は……頭、も、よくなく、て…………試験の問題も、教師に全部教えてもらって…………偽物、なんだ…………俺は、ぜんぶ、偽物──……!!」
悲鳴のような慟哭を、抱きしめる。
「問題を教えて貰っても、それを全部憶えたのは、アルだよ。
王子らしい立ち居振る舞いを完璧にこなせるのは、アルの努力だよ。
王子が疲れた顔したらだめだからって、眠れない夜もちゃんとパックして、隈ができないようにしてるのも、アルが頑張ってる証拠だよ」
「ほんとに何でも知ってるな────!!」
仰け反ったアルフォリアに、笑う。
「空っぽで、偽物で、敷かれたレールの上を、仕方なく進んでいると思っていても。
あなたの努力は、ちゃんと降り積もって、あなたを輝かせるから。
あなたのゆく道を、照らしてくれるから。
泣かないで」
アルフォリアの頬を伝う涙を拭ったら、金の髪が流れた。
「……リユィ」
涙のアルフォリアに、抱きしめられる。
「きみの腕のなかで、泣きたい」
それはゲームの、すきすきメーターMaxのイベントの台詞だったけれど。
きっと、ほんとうのアルフォリアの思いも、詰まっていると思うから。
俺は、アルフォリアのちいさな頭を抱きしめる。
「いっぱい泣いたら、笑ってね」
アルフォリアのかんばせが、歪む。
声を殺して、アルフォリアは泣いた。
王子であること。
自分の思うとおりに行動できないこと。
進まない時間。
繰り返される同じ台詞。
ゲームの世界。
強制力。
何もかもに苦しんできたアルフォリアを、抱きしめる。
「……お仕置きは、しなくていいかな」
ディゼのちいさな声が、聞こえた気がした。
────────────────────────────────────
はじめましての方、いつも見てくださる方、心からありがとうございます!
ずっと見てくださって、しおりの位置を変えてくださって、応援してくだる方がいらっしゃることが、沁みるくらいうれしいです。
ほんとうに、ほんとうにありがとうございます!
アルフォリアの漫画ができました!
もしよかったら!
426
お気に入りに追加
2,382
あなたにおすすめの小説
転生令息は冒険者を目指す!?
葛城 惶
BL
ある時、日本に大規模災害が発生した。
救助活動中に取り残された少女を助けた自衛官、天海隆司は直後に土砂の崩落に巻き込まれ、意識を失う。
再び目を開けた時、彼は全く知らない世界に転生していた。
異世界で美貌の貴族令息に転生した脳筋の元自衛官は憧れの冒険者になれるのか?!
とってもお馬鹿なコメディです(;^_^A
異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします。……やっぱり狙われちゃう感じ?
み馬
BL
※ 完結しました。お読みくださった方々、誠にありがとうございました!
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。
わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!?
これは、とある加護を受けた8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。
おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。
※ 独自設定、造語、下ネタあり。出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。
★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★
★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★
僕の策略は婚約者に通じるか
藍
BL
侯爵令息✕伯爵令息。大好きな婚約者が「我慢、無駄、仮面」と話しているところを聞いてしまった。ああそれなら僕はいなくならねば。婚約は解消してもらって彼を自由にしてあげないと。すべてを忘れて逃げようと画策する話。
フリードリヒ・リーネント✕ユストゥス・バルテン
※他サイト投稿済です
※攻視点があります
【完結済】(無自覚)妖精に転生した僕は、騎士の溺愛に気づかない。
キノア9g
BL
完結済。騎士エリオット視点を含め全10話(エリオット視点2話と主人公視点8話構成)
エロなし。騎士×妖精
※主人公が傷つけられるシーンがありますので、苦手な方はご注意ください。
気がつくと、僕は見知らぬ不思議な森にいた。
木や草花どれもやけに大きく見えるし、自分の体も妙に華奢だった。
色々疑問に思いながらも、1人は寂しくて人間に会うために森をさまよい歩く。
ようやく出会えた初めての人間に思わず話しかけたものの、言葉は通じず、なぜか捕らえられてしまい、無残な目に遭うことに。
捨てられ、意識が薄れる中、僕を助けてくれたのは、優しい騎士だった。
彼の献身的な看病に心が癒される僕だけれど、彼がどんな思いで僕を守っているのかは、まだ気づかないまま。
少しずつ深まっていくこの絆が、僕にどんな運命をもたらすのか──?
いいねありがとうございます!励みになります。
精霊の港 飛ばされたリーマン、体格のいい男たちに囲まれる
風見鶏ーKazamidoriー
BL
秋津ミナトは、うだつのあがらないサラリーマン。これといった特徴もなく、体力の衰えを感じてスポーツジムへ通うお年ごろ。
ある日帰り道で奇妙な精霊と出会い、追いかけた先は見たこともない場所。湊(ミナト)の前へ現れたのは黄金色にかがやく瞳をした美しい男だった。ロマス帝国という古代ローマに似た巨大な国が支配する世界で妖精に出会い、帝国の片鱗に触れてさらにはドラゴンまで、サラリーマンだった湊の人生は激変し異なる世界の動乱へ巻きこまれてゆく物語。
※この物語に登場する人物、名、団体、場所はすべてフィクションです。
攻略対象5の俺が攻略対象1の婚約者になってました
白兪
BL
前世で妹がプレイしていた乙女ゲーム「君とユニバース」に転生してしまったアース。
攻略対象者ってことはイケメンだし将来も安泰じゃん!と喜ぶが、アースは人気最下位キャラ。あんまりパッとするところがないアースだが、気がついたら王太子の婚約者になっていた…。
なんとか友達に戻ろうとする主人公と離そうとしない激甘王太子の攻防はいかに!?
ゆっくり書き進めていこうと思います。拙い文章ですが最後まで読んでいただけると嬉しいです。
【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺
福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。
目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。
でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい…
……あれ…?
…やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ…
前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。
1万2000字前後です。
攻めのキャラがブレるし若干変態です。
無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形)
おまけ完結済み
悪役令息に転生したのでそのまま悪役令息でいこうと思います
マンゴー山田
BL
『君に幸あれ!-セントアリュウス学園-』というタイトルの18禁BLゲーの悪役令息、レイジス・ユアソーンに転生してしまった僕。
おかしい。僕はこのゲームをプレイした覚えはないというのに…。
だが転生してしまったのならしょうがない!前世の記憶を思い出したからには全力で悪役を楽しむぞー!
当然、怪我とか迷惑がかかるようないじわるはしないけどね!
※注意事項がある話に※マークを付けました。こちらのマークがある場合は必ず読む前のご注意をお読みください。
※小説家になろうさんでも公開しております。
※小説家になろうさんにてこちらの作品のTwitterまとめが置いてあります。(Twitterまとめは量が多いのでこちらでは公開しません)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる