89 / 142
だいじょうぶだよ
しおりを挟む碧の瞳が見開かれて、くしゃりと歪む。
「…………俺は、からっぽだよ。
身分を取ったら、俺には何も、残らない」
「身分を取ったら、解るよ。
アルのなかには、今まで頑張ってきたアルが、いっぱいに詰まってる。
アルが王子だからじゃなく、がんばるアルをいいなって思ってくれた、大切な人たちが、解るようになるよ」
碧の瞳が、揺れる。
俺は遠くから、魔界を思う。
「俺を更生させたくて、親父は魔王を辞めたんだと思う。
……親父、かあちゃんを誰にも渡したくなくて、それで必死で強くなって、魔王になったんだ。
かあちゃんを、守るために。
それなのに俺は、親父に魔王を辞めさせてしまうような息子だった。
そのことを、本当に恥ずかしく、申しわけなく思う」
自分がくやしくて、情けなくて、かあちゃんにも親父にも申しわけなくて、涙が滲む。
「でも、親父が王じゃなくなったこと、俺はうれしい。
俺が王子じゃなくなって、うれしい」
俺は真っ直ぐ、アルフォリアを見つめる。
「身分で誰かを分けるのは、間違ってる。
人間が勝手に作った身分によって、敬われたり、蔑まれたりするのは、どう考えてもおかしい。
その頂点にいるアルが、こんなに苦しいなら、尚更だめだよ」
アルフォリアのふるえる手を、握る。
「身分がなくなっても、アルは、アルだよ。
今までがんばってきたことが、きっとアルをたすけてくれる。
アルは、アルの生きたいように、生きればいい」
背伸びした俺は、アルフォリアの金の髪を、そっと撫でる。
「行くところがなかったら、魔界に歓迎するよ!」
胸を張る俺の手に、アルフォリアの涙が落ちた。
「……っ」
止まらないアルフォリアの涙を、抱きしめる。
「……俺、は……頭、も、よくなく、て…………試験の問題も、教師に全部教えてもらって…………偽物、なんだ…………俺は、ぜんぶ、偽物──……!!」
悲鳴のような慟哭を、抱きしめる。
「問題を教えて貰っても、それを全部憶えたのは、アルだよ。
王子らしい立ち居振る舞いを完璧にこなせるのは、アルの努力だよ。
王子が疲れた顔したらだめだからって、眠れない夜もちゃんとパックして、隈ができないようにしてるのも、アルが頑張ってる証拠だよ」
「ほんとに何でも知ってるな────!!」
仰け反ったアルフォリアに、笑う。
「空っぽで、偽物で、敷かれたレールの上を、仕方なく進んでいると思っていても。
あなたの努力は、ちゃんと降り積もって、あなたを輝かせるから。
あなたのゆく道を、照らしてくれるから。
泣かないで」
アルフォリアの頬を伝う涙を拭ったら、金の髪が流れた。
「……リユィ」
涙のアルフォリアに、抱きしめられる。
「きみの腕のなかで、泣きたい」
それはゲームの、すきすきメーターMaxのイベントの台詞だったけれど。
きっと、ほんとうのアルフォリアの思いも、詰まっていると思うから。
俺は、アルフォリアのちいさな頭を抱きしめる。
「いっぱい泣いたら、笑ってね」
アルフォリアのかんばせが、歪む。
声を殺して、アルフォリアは泣いた。
王子であること。
自分の思うとおりに行動できないこと。
進まない時間。
繰り返される同じ台詞。
ゲームの世界。
強制力。
何もかもに苦しんできたアルフォリアを、抱きしめる。
「……お仕置きは、しなくていいかな」
ディゼのちいさな声が、聞こえた気がした。
────────────────────────────────────
はじめましての方、いつも見てくださる方、心からありがとうございます!
ずっと見てくださって、しおりの位置を変えてくださって、応援してくだる方がいらっしゃることが、沁みるくらいうれしいです。
ほんとうに、ほんとうにありがとうございます!
アルフォリアの漫画ができました!
もしよかったら!
530
お気に入りに追加
2,532
あなたにおすすめの小説

悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!
梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!?
【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】
▼毎週、月・水・金に投稿予定
▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。
▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。
今世はメシウマ召喚獣
片里 狛
BL
オーバーワークが原因でうっかり命を落としたはずの最上春伊25歳。召喚獣として呼び出された世界で、娼館の料理人として働くことになって!?的なBL小説です。
最終的に溺愛系娼館主人様×全般的にふつーの日本人青年。
※女の子もゴリゴリ出てきます。
※設定ふんわりとしか考えてないので穴があってもスルーしてください。お約束等には疎いので優しい気持ちで読んでくださると幸い。
※誤字脱字の報告は不要です。いつか直したい。
※なるべくさくさく更新したい。
悪役令息の伴侶(予定)に転生しました
*
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、自らを反省しました。BLゲームの世界で推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑)
悪役令息の七日間
リラックス@ピロー
BL
唐突に前世を思い出した俺、ユリシーズ=アディンソンは自分がスマホ配信アプリ"王宮の花〜神子は7色のバラに抱かれる〜"に登場する悪役だと気付く。しかし思い出すのが遅過ぎて、断罪イベントまで7日間しか残っていない。
気づいた時にはもう遅い、それでも足掻く悪役令息の話。【お知らせ:2024年1月18日書籍発売!】
【完結】僕がハーブティーを淹れたら、筆頭魔術師様(♂)にプロポーズされました
楠結衣
BL
貴族学園の中庭で、婚約破棄を告げられたエリオット伯爵令息。可愛らしい見た目に加え、ハーブと刺繍を愛する彼は、女よりも女の子らしいと言われていた。女騎士を目指す婚約者に「妹みたい」とバッサリ切り捨てられ、婚約解消されてしまう。
ショックのあまり実家のハーブガーデンに引きこもっていたところ、王宮魔術塔で働く兄から助手に誘われる。
喜ぶ家族を見たら断れなくなったエリオットは筆頭魔術師のジェラール様の執務室へ向かう。そこでエリオットがいつものようにハーブティーを淹れたところ、なぜかプロポーズされてしまい……。
「エリオット・ハワード――俺と結婚しよう」
契約結婚の打診からはじまる男同士の恋模様。
エリオットのハーブティーと刺繍に特別な力があることは、まだ秘密──。
⭐︎表紙イラストは針山糸様に描いていただきました
【奨励賞】恋愛感情抹消魔法で元夫への恋を消去する
SKYTRICK
BL
☆11/28完結しました。
☆第11回BL小説大賞奨励賞受賞しました。ありがとうございます!
冷酷大元帥×元娼夫の忘れられた夫
——「また俺を好きになるって言ったのに、嘘つき」
元娼夫で現魔術師であるエディことサラは五年ぶりに祖国・ファルンに帰国した。しかし暫しの帰郷を味わう間も無く、直後、ファルン王国軍の大元帥であるロイ・オークランスの使者が元帥命令を掲げてサラの元へやってくる。
ロイ・オークランスの名を知らぬ者は世界でもそうそういない。魔族の血を引くロイは人間から畏怖を大いに集めながらも、大将として国防戦争に打ち勝ち、たった二十九歳で大元帥として全軍のトップに立っている。
その元帥命令の内容というのは、五年前に最愛の妻を亡くしたロイを、魔族への本能的な恐怖を感じないサラが慰めろというものだった。
ロイは妻であるリネ・オークランスを亡くし、悲しみに苛まれている。あまりの辛さで『奥様』に関する記憶すら忘却してしまったらしい。半ば強引にロイの元へ連れていかれるサラは、彼に己を『サラ』と名乗る。だが、
——「失せろ。お前のような娼夫など必要としていない」
噂通り冷酷なロイの口からは罵詈雑言が放たれた。ロイは穢らわしい娼夫を睨みつけ去ってしまう。使者らは最愛の妻を亡くしたロイを憐れむばかりで、まるでサラの様子を気にしていない。
誰も、サラこそが五年前に亡くなった『奥様』であり、最愛のその人であるとは気付いていないようだった。
しかし、最大の問題は元夫に存在を忘れられていることではない。
サラが未だにロイを愛しているという事実だ。
仕方なく、『恋愛感情抹消魔法』を己にかけることにするサラだが——……
☆描写はありませんが、受けがモブに抱かれている示唆はあります(男娼なので)
☆お読みくださりありがとうございます。良ければ感想などいただけるとパワーになります!
【完結】愛執 ~愛されたい子供を拾って溺愛したのは邪神でした~
綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
BL
「なんだ、お前。鎖で繋がれてるのかよ! ひでぇな」
洞窟の神殿に鎖で繋がれた子供は、愛情も温もりも知らずに育った。
子供が欲しかったのは、自分を抱き締めてくれる腕――誰も与えてくれない温もりをくれたのは、人間ではなくて邪神。人間に害をなすとされた破壊神は、純粋な子供に絆され、子供に名をつけて溺愛し始める。
人のフリを長く続けたが愛情を理解できなかった破壊神と、初めての愛情を貪欲に欲しがる物知らぬ子供。愛を知らぬ者同士が徐々に惹かれ合う、ひたすら甘くて切ない恋物語。
「僕ね、セティのこと大好きだよ」
【注意事項】BL、R15、性的描写あり(※印)
【重複投稿】アルファポリス、カクヨム、小説家になろう、エブリスタ
【完結】2021/9/13
※2020/11/01 エブリスタ BLカテゴリー6位
※2021/09/09 エブリスタ、BLカテゴリー2位
社畜だけど異世界では推し騎士の伴侶になってます⁈
めがねあざらし
BL
気がつくと、そこはゲーム『クレセント・ナイツ』の世界だった。
しかも俺は、推しキャラ・レイ=エヴァンスの“伴侶”になっていて……⁈
記憶喪失の俺に課されたのは、彼と共に“世界を救う鍵”として戦う使命。
しかし、レイとの誓いに隠された真実や、迫りくる敵の陰謀が俺たちを追い詰める――。
異世界で見つけた愛〜推し騎士との奇跡の絆!
推しとの距離が近すぎる、命懸けの異世界ラブファンタジー、ここに開幕!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる