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だいじょうぶだよ

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 碧の瞳が見開かれて、くしゃりと歪む。

「…………俺は、からっぽだよ。
 身分を取ったら、俺には何も、残らない」


「身分を取ったら、解るよ。
 アルのなかには、今まで頑張ってきたアルが、いっぱいに詰まってる。
 アルが王子だからじゃなく、がんばるアルをいいなって思ってくれた、大切な人たちが、解るようになるよ」


 碧の瞳が、揺れる。

 俺は遠くから、魔界を思う。


「俺を更生させたくて、親父は魔王を辞めたんだと思う。
 ……親父、かあちゃんを誰にも渡したくなくて、それで必死で強くなって、魔王になったんだ。
 かあちゃんを、守るために。
 それなのに俺は、親父に魔王を辞めさせてしまうような息子だった。
 そのことを、本当に恥ずかしく、申しわけなく思う」

 自分がくやしくて、情けなくて、かあちゃんにも親父にも申しわけなくて、涙が滲む。


「でも、親父が王じゃなくなったこと、俺はうれしい。
 俺が王子じゃなくなって、うれしい」


 俺は真っ直ぐ、アルフォリアを見つめる。


「身分で誰かを分けるのは、間違ってる。
 人間が勝手に作った身分によって、敬われたり、蔑まれたりするのは、どう考えてもおかしい。
 その頂点にいるアルが、こんなに苦しいなら、尚更だめだよ」


 アルフォリアのふるえる手を、握る。


「身分がなくなっても、アルは、アルだよ。
 今までがんばってきたことが、きっとアルをたすけてくれる。
 アルは、アルの生きたいように、生きればいい」


 背伸びした俺は、アルフォリアの金の髪を、そっと撫でる。


「行くところがなかったら、魔界に歓迎するよ!」

 胸を張る俺の手に、アルフォリアの涙が落ちた。


「……っ」

 止まらないアルフォリアの涙を、抱きしめる。


「……俺、は……頭、も、よくなく、て…………試験の問題も、教師に全部教えてもらって…………偽物、なんだ…………俺は、ぜんぶ、偽物──……!!」

 悲鳴のような慟哭を、抱きしめる。


「問題を教えて貰っても、それを全部憶えたのは、アルだよ。
 王子らしい立ち居振る舞いを完璧にこなせるのは、アルの努力だよ。
 王子が疲れた顔したらだめだからって、眠れない夜もちゃんとパックして、隈ができないようにしてるのも、アルが頑張ってる証拠だよ」

「ほんとに何でも知ってるな────!!」

 仰け反ったアルフォリアに、笑う。


「空っぽで、偽物で、敷かれたレールの上を、仕方なく進んでいると思っていても。
 あなたの努力は、ちゃんと降り積もって、あなたを輝かせるから。
 あなたのゆく道を、照らしてくれるから。
 泣かないで」

 アルフォリアの頬を伝う涙を拭ったら、金の髪が流れた。


「……リユィ」

 涙のアルフォリアに、抱きしめられる。


「きみの腕のなかで、泣きたい」


 それはゲームの、すきすきメーターMaxのイベントの台詞だったけれど。
 きっと、ほんとうのアルフォリアの思いも、詰まっていると思うから。

 俺は、アルフォリアのちいさな頭を抱きしめる。



「いっぱい泣いたら、笑ってね」


 アルフォリアのかんばせが、歪む。

 声を殺して、アルフォリアは泣いた。



 王子であること。
 自分の思うとおりに行動できないこと。
 進まない時間。
 繰り返される同じ台詞。
 ゲームの世界。
 強制力。


 何もかもに苦しんできたアルフォリアを、抱きしめる。




「……お仕置きは、しなくていいかな」

 ディゼのちいさな声が、聞こえた気がした。










────────────────────────────────────

はじめましての方、いつも見てくださる方、心からありがとうございます!

ずっと見てくださって、しおりの位置を変えてくださって、応援してくだる方がいらっしゃることが、沁みるくらいうれしいです。

ほんとうに、ほんとうにありがとうございます!


アルフォリアの漫画ができました!
もしよかったら!



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