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おちこぼれ
しおりを挟むはちみつの瞳を覗き込んだら、メファは微笑んだ。
「僕は、苦手だな。ああいうの」
きょとんとした俺は、首を傾げる。
あれ? 主人公は、皆に愛されるんじゃなかったっけ??
「どうして?」
メファは長い睫を伏せた。
「…………僕は、エルフとしては……落ちこぼれだから」
「まさか!」
仰け反った俺に、メファは首を振る。
「……魔法学校に来るエルフ、魔力の制御が難しいエルフなんて、僕くらいだよ。
皆、息をするように魔法が使える。
人間より遥かに強大な、難しい魔法を、鼻歌を歌うように操れる」
メファの瞳が、歪む。
「……僕は……身分がある立場なのに。
何も、できない、から」
ちいさな声は、ふるえてた。
確か……ゲームでは、メファのラブイベントだった。
憶えてる。
すきすきメーターがMaxになると、メファが辛い胸のうちを話してくれる。
主人公は、メファがどれだけエルフのために尽力しているか、薬草苑やえっちな薬のことを挙げて、メファを励まし、勇気づける。
メファはエルフのために、とても貢献してる、それを誇っていいんだよって。
涙のメファを抱きしめるスチルが、最高にきれいで可愛かった!
えっちな薬なところが、BLゲームだったけどね。
よくある話で、よくある励ましだった。
俺も、そっかー、と思って、かわいーメファが、余計に可愛くなった。
でも俺はさ、残念な悪役で、主人公じゃないから。
ちょっと違うと思うんだ。
「メファは、メファのすきなように、生きたらいいんだよ」
「…………え?」
はちみつの瞳が、まるくなる。
「エルフの王子とか、立場とか、責務とか、エルフのために貢献しなくちゃとか。
それが、メファの首を絞めるなら、ぜんぶ捨てていい」
見開かれた瞳を覗き込んで、笑う。
「メファが、しあわせで笑ってくれるなら。
他に何にもいらない」
息をのんだメファの唇が、ふるえてる。
「…………リユィ……僕が……王子だって……どう、して……」
や ら か し た────!!
誰か俺の弱い頭をたすけて!!
しかしここでディゼを呼ぶのは、なんか違う!
「え、えとえとあの……魔界の必殺情報部隊が……
ご、ごめんなさい!」
また頼られた必殺情報部隊とメファに、あわあわ頭を下げる俺に、メファが唇を噛む。
「…………エルフにも、知られていないことなのに…………
……僕みたいなエルフは、王家の恥だって────」
「あなたのことを、恥だという家族は、あなたの大切な人に、ふさわしくない」
俺の断言に、握り締めたメファの拳がふるえた。
「みんな、変わってゆくから。
いつか、解りあえる日が来るかもしれない。
でも、今、心無い言葉で、暴力で、あなたを傷つけるなら。
離れて、いいんだよ」
メファのちいさな、細い身体を、ふるえる肩を、抱きしめる。
「あなたは、がんばってる。
誰も認めてくれなくても、何にも結果が出なくても。
がんばったことを、あなたは、知ってるでしょう」
ふるえるちいさな頭を、抱きしめる。
「踏みつけられて、苦しい思いをするからこそ、あなたは、輝くんだよ」
はちみつの瞳から零れ落ちる涙を、抱きしめる。
「俺なんて、ぴっかぴかだよ!」
笑ったら、メファも笑った。
「…………リユィは、ぴかぴかだ」
ぎゅうぎゅう俺を抱きしめて、笑ってくれた。
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