76 / 134
おちこぼれ
しおりを挟むはちみつの瞳を覗き込んだら、メファは微笑んだ。
「僕は、苦手だな。ああいうの」
きょとんとした俺は、首を傾げる。
あれ? 主人公は、皆に愛されるんじゃなかったっけ??
「どうして?」
メファは長い睫を伏せた。
「…………僕は、エルフとしては……落ちこぼれだから」
「まさか!」
仰け反った俺に、メファは首を振る。
「……魔法学校に来るエルフ、魔力の制御が難しいエルフなんて、
僕くらいだよ。
皆、息をするように魔法が使える。
人間より遥かに強大な、難しい魔法を、鼻歌を歌うように操れる」
メファの瞳が、歪む。
「……僕は……身分がある立場なのに。
何も、できない、から」
ちいさな声は、ふるえてた。
確か……ゲームでは、メファのラブイベントだった。
憶えてる。
すきすきメーターがMaxになると、メファが辛い胸のうちを話してくれる。
主人公は、メファがどれだけエルフのために尽力しているか、薬草苑や
えっちな薬のことを挙げて、メファを励まし、勇気づける。
メファはエルフのために、とても貢献してる、それを誇っていいんだよって。
涙のメファを抱きしめるスチルが、最高にきれいで可愛かった!
えっちな薬なところが、BLゲームだったけどね。
よくある話で、よくある励ましだった。
俺も、そっかー、と思って、かわいーメファが、余計に可愛くなった。
でも俺はさ、残念な悪役で、主人公じゃないから。
ちょっと違うと思うんだ。
「メファは、メファのすきなように、生きたらいいんだよ」
「…………え?」
はちみつの瞳が、まるくなる。
「エルフの王子とか、立場とか、責務とか、エルフのために貢献しなくちゃとか。
それが、メファの首を絞めるなら、ぜんぶ捨てていい」
見開かれた瞳を覗き込んで、笑う。
「メファが、しあわせで笑ってくれるなら。
他に何にもいらない」
息をのんだメファの唇が、ふるえてる。
「…………リユィ……僕が……王子だって……どう、して……」
や ら か し た――――!!
誰か俺の弱い頭をたすけて!!
しかしここでディゼを呼ぶのは、なんか違う!
「え、えとえとあの……魔界の必殺情報部隊が……
ご、ごめんなさい!」
また頼られた必殺情報部隊とメファに、あわあわ頭を下げる俺に、
メファが唇を噛む。
「…………エルフにも、知られていないことなのに…………
……僕みたいなエルフは、王家の恥だって――――」
「あなたのことを、恥だという家族は、あなたの大切な人に、ふさわしくない」
俺の断言に、握り締めたメファの拳がふるえた。
「みんな、変わってゆくから。
いつか、解りあえる日が来るかもしれない。
でも、今、心無い言葉で、暴力で、あなたを傷つけるなら。
離れて、いいんだよ」
メファのちいさな、細い身体を、ふるえる肩を、抱きしめる。
「あなたは、がんばってる。
誰も認めてくれなくても、何にも結果が出なくても。
がんばったことを、あなたは、知ってるでしょう」
ふるえるちいさな頭を、抱きしめる。
「踏みつけられて、苦しい思いをするからこそ、あなたは、輝くんだよ」
はちみつの瞳から零れ落ちる涙を、抱きしめる。
「俺なんて、ぴっかぴかだよ!」
笑ったら、メファも笑った。
「…………リユィは、ぴかぴかだ」
ぎゅうぎゅう俺を抱きしめて、笑ってくれた。
応援ありがとうございます!
138
お気に入りに追加
1,743
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる