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いい匂い
しおりを挟む……いじわるメーターMaxどころか、限界突破してそうだな……
俺、いじめるどころか、いじめられてる気がするけど。
避けてるのに、向こうから突撃してくるんだけど――!
俺、いちおう配役、悪役だよな?
しょんぼりしてたら、トエが肩を叩いてくれる。
「気にしない方がいいよ、リユィ。
あの子、ちょっと頭がどうかしてるんじゃないかな」
ふつうの感想だ!
でもトエは、転生者っぽいけど。
「お尻の泥も払ってくれた!
ありがとう、トエ」
ふわふわ笑ったら、瓶底眼鏡の向こうの瞳が瞬いたみたいだ。
ちいさな掌に顔をうずめたトエの耳が、ほんのり赤くなる。
「……リユィって、こんなかわいかったっけ……?」
ちいさな声は、かすれて消えた。
「魔法、俺、思いきり失敗しちゃったなー。
授業は真面目に聞いてるんだけどなー」
おかしいなー。
俺の真面目度が、全く結果に結びつかない!
しょんぼりしながら、午後の教室に帰った俺は、机のなかからノートを取り出して
眺めてみる。
うーん??
ちゃんと炎の魔紋、合ってた、よな??
間違えずに描いたし、ポーズも、めちゃくちゃかっこよかったはずなのに!
首を傾げていたら、俺のノートを覗き込んだトエが、ちいさく笑った。
「ああ、リユィ、写し方がまずいんじゃない?
魔紋っていうのは、払いとか跳ねで、意味が全然違っちゃうんだよ。
細かいところまで丁寧にって、一番最初の授業で習ったでしょ?」
「そ、そだっけ?」
今日のお昼ご飯何食べようとか考えてて、一番大事なところを聞いてない、
あれね!!
一生懸命聞いてるつもりなのに『聞いてるのか!』って怒られる、あれだ!
肩を揺らして笑ったトエが、魔紋の描き方を教えてくれる。
さらさらの銀の髪が揺れて、やわらかな甘い香りを振り撒いた。
「トエ、いー匂いする」
「石鹸かな」
瓶底眼鏡の向こうの眦が、ちょっぴり赤くなる。
「ほら、ここまで丁寧に描かないと、魔法は発動しないよ。
完璧に写す勢いで頑張れ」
教科書とそっくりな魔紋を描いてみせてくれたトエに拍手した俺は、
瓶底眼鏡の向こうを見つめる。
「……なあ、トエはやっぱり転生――」
「ああ、リユィいた!!
今日は掃除当番だよ、さぼったらだめ!!」
やっぱり邪魔されちゃう!
そして!
「さ、さぼってないよ!」
少なくとも、さぼる気持ちはないよ!
あわあわ立ちあがった俺は、とりあえず箒を持った。
放課後によくいる、箒持つだけ持って、掃除してない、あれね。
ごめんよ!
今、思いついた大事なお仕事のお話するから!
終わったらちゃんと掃くから!
応援ありがとうございます!
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