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主人公、こわい
しおりを挟むちっちゃいから、体重が軽くて、踏ん張りが利かない。
筋トレしよう。
密かに決意しつつ吹き飛んでたら、ジェミが受けとめてくれた。
うれしいようで、全く、全然、うれしくないぃいいい――――!!
こいつ危険、危険危険危険危険危険――――――!!!
ダラダラ冷や汗をかいて、逃走しようと渾身の力を振り絞る俺を見つめたジェミの藍の瞳が、哀し気に歪んだ。
「…………え……?」
加害者が切ない顔をするって、何だ?
…………トエが言ってた。
『強制力』って。
したくないことを、やらされてる?
アルフォリアも、キーザも、ジェミも?
でもゲームで、俺がアルフォリアとキーザ、ジェミに回されるイベントは、
なかった。
というより、主人公が、悪役の俺をいじめるとか、どう考えてもおかしいだろう!
なんだこのゲーム!!
ぷんすかした俺は、とりあえず、哀し気なジェミの腕の中から急いで脱出しようとしたけど、できなかった。
ガチムチな筋肉の檻、強い。
抜け出せる気がしない……!
「きみは新入生の……」
ジェミの言葉に、主人公は♡を溢れさせた笑顔になる。
「はじめまして、ジェミ・カタブさん♡
騎士団長の息子でいらっしゃるなんて、すごいです♡
僕、レイト・ルエス・ビエルです――♡」
笑顔で言い放った主人公に、学食にいた全員が凍りついた。
主人公のデフォルトの名前は、玲人だ。それはいい。
しかし、レイト・ルエス・ビエルは、アルフォリアルートで、アルフォリアの
伴侶となったレイトの名だ。
国の名を冠することができるのは、王族だけ。
名乗るだけで、不敬罪で首が飛ぶ世界だ。
「……きみは、その名が、何を意味するのか、知っているのか」
ドスの利いたジェミの声に、レイトは、てへ♡ と舌を出した。
「ちょっと先走っちゃいましたー♡
まだ早かったですね♡」
凍りつく学食の雰囲気を物ともしない。
さすがピンク髪の主人公だ。
アルフォリアを振り仰いだジェミに、アルフォリアは吐息した。
「……きみは、平民かな」
レイトは♡を撒き散らしながら、ぴんく髪を揺らす。
「今はまだ、平民です♡
すぐにお傍に参りますね、アル♡」
ぴくりとアルフォリアの額に、青筋が浮かんだ。
「不敬罪で投獄したいところだが、ここは身分のない魔法学園だ。
今回は、許す。
だが次、私の許可なく、私の伴侶を名乗った場合、首を刎ねる」
凍てつく声だった。
誰もが震えあがったのに、ぴんくの髪だけは元気だった。
「そういうことにしといてあげますね、アル♡」
「アルと呼ばないでくれ。
きみに、その名で呼ぶ許可を出した覚えはない」
「えー♡
いいじゃないですかー♡ アルー♡」
「不愉快だ」
アルフォリアの眉が、跳ねあがる。
「きみさあ、自分が痛い子って、自覚したほうがいいよ。
皆の心象、最低だよ」
キーザが鼻で嗤って、レイトは目を剥いた。
「はあ!? チャラ男が何言ってんの?
俺、主人公だよ!? 痛い訳ないじゃん!
痛いのは、そいつ!!」
指された俺は、レイトの度重なる暴言にジェミが茫然としてる隙を突いて、
筋肉の腕から抜け出した。
ゲームでは、俺と主人公レイトが会うと、いじわるメーターが上がる。
いじわるメーターが上がると、俺のモブレが開始される!
という訳で、逃げます!!
「え、あ、ちょ、リユィ!?
ご飯は!」
トエの叫びに、手を振った。
「500円、ありがとー!
絶対返す!」
36計逃げるに如かず!
逃げるよ!!
ぱたぱた駆け去ろうとした俺の腕を、レイトの腕が掴む。
「悪役の癖に、逃げられると思うなよ」
嗤う唇は、歪な線を描いた。
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