35 / 142
主人公、こわい
しおりを挟むちっちゃいから、体重が軽くて、踏ん張りが利かない。
筋トレしよう。
密かに決意しつつ吹き飛んでたら、ジェミが受けとめてくれた。
うれしいようで、全く、全然、うれしくないぃいいい────!!
こいつ危険、危険危険危険危険危険──────!!!
ダラダラ冷や汗をかいて、逃走しようと渾身の力を振り絞る俺を見つめたジェミの藍の瞳が、哀し気に歪んだ。
「…………え……?」
加害者が切ない顔をするって、何だ?
…………トエが言ってた。
『強制力』って。
したくないことを、やらされてる?
アルフォリアも、キーザも、ジェミも?
でもゲームで、俺がアルフォリアとキーザ、ジェミに回されるイベントは、なかった。
というより、主人公が、悪役の俺をいじめるとか、どう考えてもおかしいだろう!
なんだこのゲーム!!
ぷんすかした俺は、とりあえず、哀し気なジェミの腕の中から急いで脱出しようとしたけど、できなかった。
ガチムチな筋肉の檻、強い。
抜け出せる気がしない……!
「きみは新入生の……」
ジェミの言葉に、主人公は♡を溢れさせた笑顔になる。
「はじめまして、ジェミ・カタブさん♡
騎士団長の息子でいらっしゃるなんて、すごいです♡
僕、レイト・ルエス・ビエルです──♡」
笑顔で言い放った主人公に、学食にいた全員が凍りついた。
主人公のデフォルトの名前は、玲人だ。それはいい。
しかし、レイト・ルエス・ビエルは、アルフォリアルートで、アルフォリアの伴侶となったレイトの名だ。
国の名を冠することができるのは、王族だけ。
名乗るだけで、不敬罪で首が飛ぶ世界だ。
「……きみは、その名が、何を意味するのか、知っているのか」
ドスの利いたジェミの声に、レイトは、てへ♡ と舌を出した。
「ちょっと先走っちゃいましたー♡
まだ早かったですね♡」
凍りつく学食の雰囲気を物ともしない。
さすがピンク髪の主人公だ。
アルフォリアを振り仰いだジェミに、アルフォリアは吐息した。
「……きみは、平民かな」
レイトは♡を撒き散らしながら、ぴんく髪を揺らす。
「今はまだ、平民です♡
すぐにお傍に参りますね、アル♡」
ぴくりとアルフォリアの額に、青筋が浮かんだ。
「不敬罪で投獄したいところだが、ここは身分のない魔法学園だ。
今回は、許す。
だが次、私の許可なく、私の伴侶を名乗った場合、首を刎ねる」
凍てつく声だった。
誰もが震えあがったのに、ぴんくの髪だけは元気だった。
「そういうことにしといてあげますね、アル♡」
「アルと呼ばないでくれ。
きみに、その名で呼ぶ許可を出した覚えはない」
「えー♡
いいじゃないですかー♡ アルー♡」
「不愉快だ」
アルフォリアの眉が、跳ねあがる。
「きみさあ、自分が痛い子って、自覚したほうがいいよ。
皆の心象、最低だよ」
キーザが鼻で嗤って、レイトは目を剥いた。
「はあ!? チャラ男が何言ってんの?
俺、主人公だよ!? 痛い訳ないじゃん!
痛いのは、そいつ!!」
指された俺は、レイトの度重なる暴言にジェミが茫然としてる隙を突いて、筋肉の腕から抜け出した。
ゲームでは、俺と主人公レイトが会うと、いじわるメーターが上がる。
いじわるメーターが上がると、俺のモブレが開始される!
という訳で、逃げます!!
「え、あ、ちょ、リユィ!?
ご飯は!」
トエの叫びに、手を振った。
「500円、ありがとー!
絶対返す!」
逃げるよ!!
ぱたぱた駆け去ろうとした俺の腕を、レイトの腕が掴む。
「悪役の癖に、逃げられると思うなよ」
嗤う唇は、歪な線を描いた。
700
お気に入りに追加
2,486
あなたにおすすめの小説
【BL】こんな恋、したくなかった
のらねことすていぬ
BL
【貴族×貴族。明るい人気者×暗め引っ込み思案。】
人付き合いの苦手なルース(受け)は、貴族学校に居た頃からずっと人気者のギルバート(攻め)に恋をしていた。だけど彼はきらきらと輝く人気者で、この恋心はそっと己の中で葬り去るつもりだった。
ある日、彼が成り上がりの令嬢に恋をしていると聞く。苦しい気持ちを抑えつつ、二人の恋を応援しようとするルースだが……。
※ご都合主義、ハッピーエンド
悪役令息の七日間
リラックス@ピロー
BL
唐突に前世を思い出した俺、ユリシーズ=アディンソンは自分がスマホ配信アプリ"王宮の花〜神子は7色のバラに抱かれる〜"に登場する悪役だと気付く。しかし思い出すのが遅過ぎて、断罪イベントまで7日間しか残っていない。
気づいた時にはもう遅い、それでも足掻く悪役令息の話。【お知らせ:2024年1月18日書籍発売!】
婚約破棄?しませんよ、そんなもの
おしゃべりマドレーヌ
BL
王太子の卒業パーティーで、王太子・フェリクスと婚約をしていた、侯爵家のアンリは突然「婚約を破棄する」と言い渡される。どうやら真実の愛を見つけたらしいが、それにアンリは「しませんよ、そんなもの」と返す。
アンリと婚約破棄をしないほうが良い理由は山ほどある。
けれどアンリは段々と、そんなメリット・デメリットを考えるよりも、フェリクスが幸せになるほうが良いと考えるようになり……
「………………それなら、こうしましょう。私が、第一王妃になって仕事をこなします。彼女には、第二王妃になって頂いて、貴方は彼女と暮らすのです」
それでフェリクスが幸せになるなら、それが良い。
<嚙み痕で愛を語るシリーズというシリーズで書いていきます/これはスピンオフのような話です>

悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!
梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!?
【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】
▼毎週、月・水・金に投稿予定
▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。
▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。

侯爵令息セドリックの憂鬱な日
めちゅう
BL
第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける———
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。

別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた
翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」
そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。
チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる