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ちゅう

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「………………え?」


 茫然と、ディゼを見あげる。


「幾ら魔王の命だろうと、すきでもないのの子守りなんか、するかよ」


 顔が、燃える。

 あふれる期待に、跳ねた鼓動が駆けてゆく。



「だから、何かあったら、俺を呼べ。
 すぐに!!」


 緋の瞳を吊りあげて叫ばれた俺の目は、また、

 ぶわあ!

 涙をあふれさせる。



「…………ディー、俺のこと……きらい、じゃ、ない……の……?
 ひどい……こと……させた。
 ひどいこと……した。
 ごめん、なさい……!
 ごめんなさい、ディ──……!」


 ぎゅうぎゅう、縋りつく。

 引き離されるかと思ったのに、あたたかな腕に包まれた。


「反省した?」


「した!!
 ごめんなさい、ディー!」


 鼻水ダラダラで謝ったら、ディゼが吹き出して笑う。


「あーもー、かわいーな、リユィ」

 ちゅ、と鼻の頭に降ってきた唇に、目を瞠る。


「…………はじめて、ちゅう、してくれた」


「はあ? 数えきれねーくらいしてんだろ」

 凛々しい眉をあげるディゼに、首を振る。


「俺がねだった時しかしてくれないもん!
 ディゼからちゅうしてくれたの、初めて……!!」

 
 ぶわあ!
 泣きだす俺に、ディゼは眉をしかめる。



「リユィも、したことねえぞ」

「……え?」

「俺に、ちゅう。
 リユィから、したことねえ」


 ………………。

 ないね。
 ちゅうしてってねだって、いつもしてもらってた。



「…………だって、ディゼ、いやだと思って……」


 しょげた。



「して、リユィ」


 緋色の瞳が、いたずらっぽく閃く。

 耳まで燃えた俺は、ぎゅう、とディゼを抱きしめる。



「…………して、いいの?」


「いいよ、リユィ」

 微笑んでくれる最愛の頬を、掌で、そっと包みこむ。



 どきどきに、指が、ふるえた。


 そっと、顔を近づける。



 ディゼの高い鼻に、

 ちゅ

 唇を押しあてた。



「鼻かよ!」

「ディーも鼻だった!!」


 ふくれたふたりで、吹きだして笑う。




「ちゅうして、リユィ」


 ディゼが、腕を広げてくれる。

 全身燃えた俺は、燃える指で、そっと、ディゼのちいさなかんばせを包んだ。



 思いきり息を吸って、止める。



 そっと、そっと、近づいて。


 そっと、そっと、ディゼのくちびるに、くちびるで、ふれた。



「……ディー、大すき」


 ディゼの唇のうえで囁いたら、ディゼの唇が笑みを描く。



「くやしいし、むかつくし、腹が立つけど!」


 ディゼのくちびるが、俺のくちびるに、ふれる。



「…………リユィが、すき」



 ぶわあ!

 あふれる涙に、ディゼが笑う。



「かわいー、リユィ」




 ディゼが、笑ってくれたら。

 抱きしめてくれたら。

 口づけてくれたら。




 もう他に、何もいらない。










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