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俺のせい

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「げえぇえ……! 魔王の息子……!!」

「うわ……! 俺ら死亡!?」

「ご、ごめんなさい、なんか、めちゃくちゃ可愛かったから、つい出来心で!」

「す、すみませんでした――――!!」

 平身低頭した輩が駆けてゆく。


 あー、うん。
 皆、こんな感じで、親父の威光で、俺のこと、持ち上げたり、敬ったり、
恐れたりしてくれてたんだろうなあ。

 それを笠に着て、今世の俺は、威張り散らしてたんだろうなあ。


 それが、どんなに情けなくて、自分を否定することなのか、ちっとも解って
なかったんだ。

 思った俺は、首を振る。


 ちがう。
 俺は、ちゃんと、解ってた。


 自分には、何の力もないこと。

 顔は、親父には遠く及ばない。
 尻も、母ちゃんには遠く及ばない。

 頭はよくなく、魔力はない。
 ちっちゃくて、頑張って鍛えても、力は弱い。


 色々頑張ってみたけど、でもだめで。

 自分には、何にもなくて。


 それが、悔しくて、哀しくて。

 親父の威光を振り翳した。


 そうしたら、皆、俺を見てくれるから。
 ディゼが、俺の言うことを、聞いてくれるから。


 でも本当は、誰も俺のことなんて、見てなかった。

 それどころか、ディゼは、俺のことを、大っきらいになってた。


 俺は、間違ってた。



「え、ど、どうしたの!
 そんなに怖かった?」

 アルフォリアの長い指が、俺の頬に伸びる。
 その指が濡れてはじめて、俺は、自分が泣いていることを、知った。


「……ふぇえ……」

 俺は、間違ったから。

 ディゼに、きらわれた。

 もうディゼは、俺を見てくれない。



 ちがう、最初からディゼは、俺を見てなんて、ない。


 最初から、大っきらいだった。




「うわ、え、どうしよう、泣かないで……!」

 あわあわしたアルフォリアが、俺を抱きしめてくれる。
 わたわたしながら、俺の髪を撫でて、俺の背を、あやすように摩ってくれる。


「たすけに来るのが遅くなって、ごめんね。
 泣かないで」

 やさしい腕に、あたたかな腕に、アルフォリアの香りに包まれる。


「……泣、いて……ごめ、なさ……」

 ぐしぐし鼻をすすったら、アルフォリアが真っ赤になった。


「……うわ。
 …………なに、この子。……めちゃくちゃ……わいー」

 ぼそ、と告げられた言葉は、掠れて、よく聞こえない。


「え?」

「い、いや、ご、ごほん。な、何でもないよ。うん。
 新入生かな。入学式に行こうね。
 泣き止んで。ね?」

 やさしい手が、俺の頭を撫でてくれる。


 その役は、いつも、ディゼだった。

 やさしい、あったかい手だと思って、大すきだった、大きな手。


 ディゼは、ずっと、厭々だった。



 ぶわ

 音がするくらい、涙出た!


「わあ! な、なんで泣くの!
 ちょっと、可愛いんだけど!!」

 ぎゅうぎゅう抱きしめられた俺は、鼻をすする。


「キャラ崩壊してるよ」

 カタカナ語通じるかな、と思ったけど、さすが日本のBLゲームの世界、
ちゃんと通じたみたいだ。

 意識してなかったけど、話してるのも書いてるのも日本語だ!
 きらきら金髪碧眼で、ネイティブな日本語を話すのに違和感なかったよ。

 さすがゲームの世界!


 感心する俺をよそに、アルフォリアが形のよい唇の端をあげる。


「こっちが素だよ。
 いちおう王子さまだからさ、俺。
 王子さまっぽく振る舞ってんだよ。
 …………疲れる」

 俺の目は、点になった。


 え。
 ちょっと待って。

 これ、アルフォリアのすきすきメーターが上がって、アルフォリアルートに入った時の台詞じゃなかった?

 お、ルート入った! って解りやすかったから憶えてる!



「アルって呼んでいいよ、リユィ。
 よろしくね」

 ちゅ、とやわらかな唇が、おでこに降る。

 耳まで燃えた俺は、撃沈した。



 きらきらアルフォリアの、でこちゅー、危険…………!!









――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


見つけてくださって、読んでくださって、ありがとうございます!

最初きらわれてますが、溺愛予定なので、どうぞご安心くださいね!


リユィとディゼの漫画を描いてみました。
下のリンクから飛べます。
お心の強い勇者の方は、もしよかったら!


読んでくださること、しおりを挟んでくださること、お気に入りに入れてくださる
こと、感想をくださること、応援してくださるお気持ちが、めちゃくちゃうれしい
です。


心から、ありがとうございます。




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