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二章 獣王国

王妃のスキル

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 国の外に出て、待ち合わせ場所に向かうと、そこにはボロボロになった騎士達と奴隷として捕らえられていた亜人達が集まっていた。
 ビャ達が居た騎士団のメンバーは大したダメージを受けている様子はなかった。
 ヒスイが背後に回って報告してくれる。

「ビャさんやばいですよ。一人でかしらみたいな人含めて殆ど倒していました」

「一騎当千の戦力か。リオさんの将来は安泰だな。弓の方はどうだった?」

「期待以上です。明日は筋肉痛ですかね⋯⋯はは」

「これは俺の武器も期待出来そうだな」

 俺は持って来たカバンを開いてポーションを取り出す。
 ポーションスライムの【回復薬液】を【放水】で瓶に流した物である。
 なので、かかった費用は瓶だけ。
 それを騎士達に配って貰い、俺は元奴隷達に近づく。

「辛かったね。もう、君達は自由だ」

 そう言いながら、王妃とリオさんが所持していたスキル【癒しの波動】を発動する。
 リオさんはまだ教えられてないから使えないが、王妃は使える。
 王妃の血筋が使えるスキルっぽい。リオさんは王妃の血を色濃く引いている。反対に獣王の血は兄の方が濃かった。
 それが尻尾と耳、そしてスキルに反映されている。

【癒しの波動】は柔らかく暖かい波動で対象の精神を癒す。
 酷い目にあって、疲弊した精神を回復させる事が出来る。
 だが、やり過ぎると快楽などの幸福感に包まれる。
 現世で例えると、薬物乱用の時に現れる効果だ。
 やり過ぎに注意。
 その後の段階はこの波動に依存的に成ってしまう。
 これは全て、王妃が自分で経験した事の出来事であり、一言一句覚えている。

「リオ様。こちらを」

 俺はビャに預けていた念話石を返して貰う。

「アイシアさんの方はどうでしたか?」

「特に変わった点は見られませんでした。きちんと盗賊も無力化し捕まえていました。さらに奴隷も漏れなく解放しております。他の部隊も同様です。⋯⋯ただ、大して強くない敵に苦戦した者が多く、帰国したら特訓内容を見直したいと思いました」

「そうですか」

 その者達、つまりは獣騎士の皆さんがビャをジト目で見る。
 一騎当千クラスの実力者に平等に見られているようで良かった良かった。

 スキルを解除して、獣王国から来た飛獣士達に明け渡す。
 これで怪鳥を使って獣王国まで飛んでくれる筈だ。

「疑われる前に戻ろう。予定した通りの順で各々の部屋に戻るように」

 俺はルーと一緒に外に散歩すると言う設定で来ているので、ルーと帰る事にする。

 さて、次はこの国に残っている亜人達の解放だな。
 残っているかは分からないけどね。念の為、夜の時に動く事にする。
 ⋯⋯夜は外交官と一応の確認とかがあったな。

「あ、アイシアさん」

 帰る前に一つだけやる事があった。

「盗賊の親玉⋯⋯頭の一人と対話したいのですが」

「危険ですよ」

「その時はルー、貴方が守ってください。大丈夫ですか?」

「⋯⋯はい! 勿論問題ないです! こちらです」

 案内されたのは刑務所的な場所である。
 そこの一つに両腕を切り飛ばされ、それを回復魔法かなんかで引っ付けられた痕がある男が居た。

「なんだ、テメェ?」

「⋯⋯入って良いですか?」

「流石にそれは許容出来ませんぜ?」

「大丈夫よルー。この人は両腕を縛られているし、足も縛られている。動けないわ。アイシアさん。入れさせて。目を見て話したいから」

「⋯⋯分かりました」

 心配そうな顔を向けたが、それ以上は言わずに通してくれる。
 ここまで積極的に動く王族に一切の疑問も出さずに言うがままに動くのか?
 なんか好感度を上げようとしている感じがするな。
 ま、良いや。

「盗賊さん」

 俺は頭の前に立って腰を下ろした。目と目が合う高さである。
 呼び掛けるが、当然こちらに目を向ける事はなかった。

「君の雇い主は誰かな?」

「⋯⋯出てけよ。獣臭いんだよ! チビガキがっ!」

「威勢は良いね。ね、私の目を見て」

「誰が獣の目なんて見るか」

 頑なに目を向けようとはしない。
 その瞳には単なる嫌味だけではなく、他の何かが含まれているような気がした。
 これも王妃の観察眼を手に入れたせいか? 相手が瞳の裏側に隠している何かを感じる事が出来るようになった気がする。
 ドッペルゲンガーの観察眼が強化されたと見るべきか。

「妖艶狐と言う逸話は知ってる?」

「⋯⋯」

「良いね。君なら良い情報を持ってそうだ」

 王妃の昔話を知っているようだな。
 まぁ、妖艶狐は王妃の祖先の話であり、王妃自体は関係ない。
 だが、その力は受け継いでいる。
 その因果か、王妃も昔は辛い日々を送っていたのだ。だから彼女はリオさん達には辛い思いをしないで、幸せで居て欲しいと願っている。

 今はどうでも良いな。
 俺の力で無理矢理向けさせても良いけど、華奢な女の子の腕力じゃないよね。
 確かに、獣人の身体能力は高いけど、リオさんは子供だ。

「ルー、私の目を見させて」

「⋯⋯はぁ。あいよ」

 護衛として付き添って中まで入って来たルーが無理矢理盗賊の顔をこちらに向けさせる。
 しかし、目を瞑っている。

「開けろよ」

 威圧を込めて呟き、手に力を込める。
 それによって目をかっぴらく。そして、私の紅く染まった瞳と視線を交差させる。

「⋯⋯」

【誘惑の魔眼】と言うスキルだ。これは相手を魅了状態にする。簡単に言えば洗脳だ。
 俺が放つ言葉は相手が勝手に都合よく解釈するようになる。そして、一言一言に反応を示す。
 そして、この状態に成れば嘘は言わなくなる。
 耐性などがあると意味はないが、この盗賊の目は虚ろ⋯⋯成功である。

「君の雇い主は誰だ?」

「名前も顔も分からない。分かるのは国関係ってだけだ」

「そいつの性別は?」

「顔などは隠していたし、声も魔道具で変えていた。だから分からない」

「身長や体格、腕の細さ喋り方、歩き方、細かい事で良い。思い出して、しっかり言え」

 この状態を恐ろしく見ているアイシアさん。彼女には見せるべきではなかったな。
 ルーは知っているのか分かっていたのか、平然としている。
 まじでアイシアさんに見せたのは失敗だった。
 恐れか焦りか、冷や汗を流している事が見て取れる。

「隙のない歩き方だと思う。背後から襲ったら斬られていたのはこっちだ」

「⋯⋯剣を持っていたのか?」

「ああ」

「どんな剣だ?」

「高そうな剣」

「具体的に?」

「国の兵士が使ってそうな、熟練の匠が鍛えたような剣だった」

「ドラゴンの鱗は斬る事は可能そうか? 或いは骨」

「そいつの腕次第だと思う」

「他には?」

「腕は細かった気がする。女のような、そんな細い腕」

「どんな風に見たんだ?」

「服越しで、依頼書を渡された時に見た」

「視線とかはどこら辺に感じた?」

「分からない」

 視線は誤魔化せる⋯⋯と。
 相手はかなりの実力者かもしれないな。

「依頼者の人数は?」

「一人だ」

「依頼内容と報酬は?」

「それは⋯⋯」

 続きを話す寸前、アイシアさんから声がかかる。

「流石にそそろ戻らないと不自然に思われます」

「⋯⋯何故ですか?」

「そろそろ夕飯の時間でございます」

「そうですか。また来ても良いですか?」

「怪しまれない程度なら問題ないです。ですが、その際には勿論⋯⋯」

「はい。アイシアさんに声をお掛けします」

「ありがとうございます」

 一礼して、俺達は城へと戻る。
 本当は他の奴らにも聞きたい所だ。一人だけだと、誤魔化されている可能性がある。
 それぞれ依頼者が違う可能性もある。
 全ての条件を潰す為にも全員に話を聞きたい。⋯⋯だが、それをするには時間が足りない。自由が足りない。

「本当にお前は何者だよ。姫様の力を使いやがって」

「いずれリオさんも使えるよ」

「嫌だな」

「分かる。純粋のままで居て欲しいよ。王族として、無理だろうけどさ。ルー、気を引き締めておくようにね」

「誰に言ってんだ?」

「そうかもね」

 獣王の次に強いと言われていたルーだし、心配するだけ無駄か。
 晩御飯、なんだろうか。
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