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二章 獣王国

ヒスイは天才かもしれない

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 現在、狼が引っ張る馬車に乗っている。俺達が乗る馬車を囲むように四つの馬車が斜めを走っている。
 リオさんは護衛付きでどこかに隠れているらしい。

 ヒスイはフードを羽織って横に座っている。
 偽装の指輪の言う魔道具を使って、エルフの耳を隠して、うさぎの耳を生やしている。
 後は外交官と騎士団長がこの中心の馬車に乗っている。
 前のところでは密かに取引先に向かう為の影武者だった。
 今回の影武者は身代わりだ。念の為の保険。
 盗賊とかも、ここまでの物量なら攻めて来ないだろうと言う力で解決する感じだった。

 リオさんを置いて来た事にヒスイは少し心配していた。
 片道六日の旅。その間、俺はリオさんとして生活する。
 彼女の心に流されないように、気をつける事にしよう。

 馬車以外にも、狼に直接乗って移動している騎士も数人いる。
 遠くからも目立っている事だろう。

「⋯⋯」

 暇だ。
 特にする事もないから本当に暇だ。
 別に眠くなる訳でも無いので、寝ないのだが。
 変身の配合もだいぶ打ち止めになっているし、魔法の練習も外交官達の前では出来ない。
 本当に、暇だなぁ。追い掛けて来ている奴らでも倒すか?
 いや、敵意ってよりも監視な気がするし、止めておくか。
 気配的に人間だけど。

 夜、夜の番は騎士が交代で行うらしい。
 キャンプでの料理が出来る騎士が皆分を作って配っている。

「リオ様。どうぞ」

「感謝致します」

「そちらの⋯⋯」

「エースとお呼びください」

「エースさんも」

「ありがとうございます」

 ヒスイの設定は獣王が密かに鍛えた裏の騎士団のメンバー。
 今日は直接護衛の為に普段は姿を見せないが、見せた。
 そんな感じの設定だ。
 そんな『陰』みたいな奴らが本当にいるのかと、俺は一度王妃に聞いた事がある。
 獣王達(脳筋達)に隠してはいるが、一応いるらしい。
 それが裏騎士団『シノビ』である。そう、忍者達で構築された秘密組織だ。

 そいつらは近くの山で密かに修行しているらしく、俺も姿を見た事がない。
 ちょっとスキルを拝借したいとか、そんな事は思っていた。
 それに、山での動き方や木々の渡り方、機動力を活かした戦い方。
 様々な事を見たかった。でも、それは許可されなかった。

「豚汁か」

 豆腐とかもきちんとある。そしておにぎりだ。
 箸で食べる。ちょっとヒスイの悔しそうな視線が気になった。

 なんだろ?

「私が使い方を教えたかったです」

 変な嫉妬だな。
 何かを狙っている様子でもない。純粋に仲間として、知った知識を披露したかったのだろう。
 だが残念だな。俺はこの世界で誰からも箸の使い方を教わってない。
 だいたい知っている。と言うか、箸の方が使いやすい程だ。
 日本人だからな。そこは仕方ないと思う。

 テントには俺とヒスイだけで入る。
 そこで偽装の指輪を外して、エルフの姿に戻る。

「お疲れ様です」

「うんおつかれ」

「あ、リンゴを貰ったので食べましょう」

 カバンから取り出して、掌に乗せて差し出して来る。
 俺が切るのかと思ったが、違う様子だった。
 目を閉じて体内の魔力を外に放出する。

 ⋯⋯え? いや待て。これは待て。
 ヒスイは言葉を放ってない。口を動かしてないのだ。
 腹話術? 言葉がないのだ。しかし、魔力の流れをきちんと見える。
 つまり、これは、確定だ。

「えい!」

 虚空から水が出現し、それが水流の刃となって皮を切った。
 そのまま半分に切って、種などの処理を行った。
 その半分を渡してくれる。

「え、え? な、なんで」

「ゼラさんって、魔法の練習する時独り言でブツブツ言ってるんですよ」

「まじか」

「まじです。良く分からなかったんですけど、割りとそれっぽい理解はしてたんですよ。そして、密かに試して、出来た訳です」

「ど、どうやって」

「冷気の流れを魔力で操作して、空気中の水分を固めて水に変えます。そしてその水に思考を固めます。そしたらそれを操るイメージをするんですよ。そしたら出来ました」

「なっ!」

 そうか。そうなのか。
 俺は生み出すまでの過程を一つのイメージ魔法だと思っていた。
 例えばマッチの火だ。マッチで火を付けると言う過程で火を出現させる。後は酸素とか付け加えて大きくする。
 しかし、それ以降の行動が出来なかった。どうすれば良いのか分からなかったからだ。
 だが、ヒスイのやり方はその後が明確にあった。

 例えば火。
 マッチで火を付ける。その後は全体や過程に意識を向けるので無く、出現した火だけに意識を向けて固定するのだ。
 すると、きちんと生み出した火を魔法として再現出来る。後は火の形をイメージに沿って変えるだけ。
 全体ではなく、一つ一つの順番でイメージする事でイメージ魔法は完成する。

 マッチなどを知らないからヒスイは水なのだろう。
 ⋯⋯と言うか、俺の独り言でそこまで完成させるとは⋯⋯天才か?

「どうしましたか?」

「あ、いや」

 渡されている半分のリンゴを受け取り、口に運ぶ。
 俺は食べながらもイメージ魔法の練習をする事にした。
 彫刻で土の塊を生成する。
 これならきちんと魔法として可能だ。その後はそれを動かす。

「あ、壊れた」

 ヒスイが呟く。
 無理矢理動かそうとすると、バラバラに崩れて魔力となって空気に散る。
 プラモデルのような形で動けるような見た目で生成する。丸っこい奴と設置部分。
 すると、動かせる。

「おお」

「ま、小さいからなんにも役に立たないけど」

 このやり方なら色々なイメージ魔法が出来る。
 広がるぞ。やる事が広がるぞ。

「ちょ、ゼラさん顔顔」

「あ、すまん」

 楽しみ故か笑みが零れていたようだ。
 反省反省。

「ゼラさんの笑顔でちょっとだけ気持ち悪いんですよね。おやすみなさい」

「⋯⋯気をつけるね」

 俺はヒスイが寝たのを見守り、ネズミとなってテントから密かに出る。
 見張りの騎士達に見つからないように動いて、離れた場所で人間の姿になる。
 そして目を瞑りイメージをする。

 まずはマッチで火を作る。その火にガスなどを適量入れる。
 青い炎がボンッと目の前で出現する。
 しかし、重要なのはそこじゃない。
 火の一番外側に見える層、光だ。
 その光に意識を向けて固定し分離させる。目の前の火が消えて光だけが残る。
 それを広げて、懐中電灯のようにイメージをする。

「出来た」

 懐中電灯のような光が地面を照らす。
 これを応用したら他の魔法も出来るだろう。これなら、実戦でも使える。
 ある程度楽しむ基検証してから戻る事に決めた。
 騎士達に気づかれないように気をつけないとな。
 近くの魔物を窓にしよう。夜行性の魔物は凶暴だからな。馬車に乗っていると、魔物が来ても騎士が倒す。
 故に俺が倒す機会はない。当たり前だが。
 なので、思う存分戦うぞ。さぁ、戦うか魔物達! きちんと騎士達にバレないように気をつける。

 ◆

 一方騎士達。

「なんかあそこチカチカ光ってないか?」

「冒険者とか、商人とかが野宿の準備でもしてるんじゃないか?」

「こんな時間に?」

「それもそうだな。見に行く必要は無いけど、警戒はしておくか。魔物かもしれない」

「夜行性の魔物は強力なの多いからやだなぁ」

「あぁ。リオ様を危険に晒してしまう」

 皆の言うリオは魔法の練習をしていた。近くに居た魔物に向かって。
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