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二章 獣王国

女子会観光

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 最初の方はギクシャクしていたリオとヒスイはヒスイの懸命な行動により、打ち解けて行った。
 リオが知らない事をヒスイは知っており、反対にヒスイが知らない事をリオが知っている。
 そんな二人は今、うどん屋に来ていた。

「おうどん、本当に美味! ここに来て食べないのは人生の損!」

「そこまで言うとか。とても気になりますね」

 そこに店員がうどんを二つ運んで来た。
 きつねうどんである。

「これは狐の肉なんですか?」

「肉に見えますか? 油揚げです。おうどんは、割り箸をこうやって割って、食べます」

 箸を開いたり閉じたりして見せつけ、そして食べる。

「ぷわー」

 満足そうな表情を浮かべるリオ。ヒスイも割り箸を持ち、割ろうとする。
 しかし、上手く出来ず、それでいて力加減が出来なかった。
 それによって起こる事は単純、割り箸がボロボロに砕けた。

「⋯⋯」

「他国から来た人で戦いを職にしている人は大抵そうなりますよ」

「別に私、近接で戦う訳では無いんですけどね。日頃の結果と言うやつでしょうか」

 リオが割ってヒスイに渡した。

「ありがとうございます」

「急いで食べないと伸びてしまいます! 伸びた麺は美味しくない!」

 しかし、今度は上手く箸を扱えないヒスイ。
 リオが指の動かし方を教えて、箸の使い方を習得した。
 麺を二本掴み取り、それをシュルりと口に運ぶ。

「確かに、美味しいですね。ただ、不思議な食感です」

「明日はおそばを食べましょう!」

「おぉ、それも美味しそうですね」

「夜はカツ丼です!」

「お、カツ丼は知ってますよ? 肉を衣などで揚げた⋯⋯」

「味噌を使ってます」

「味噌?!」

 そして二人はこの国の観光地を巡っていた。
 街道を歩いていると、顔がオオカミの獣人に話し掛けられる。

「お嬢ちゃんらぁ。お茶していかないか?」

「⋯⋯」

 ヒスイは少し警戒したが、リオは普通に会話を続ける。

「団子はありますか?」

「当たり前よ。何が良い?」

「みたらしとあんこで。ヒスイさん。ゆっくりしましょう。おやつとして良いですよ!」

「リオさんがそう言うのなら」

 緑色のお茶に懐かしみを感じながら、団子を見る。
 串に刺さった四つの丸い団子。一つはみたらしが付着しており、もう片方はあんこが乗っていた。
 リオは違和感を持つ事なく、みたらし団子を手に持って食べた。

「あみゃい~。ヒスイさん。喉に詰まらせるので良く噛んでくださいね」

「はい。では、私はあんこを。⋯⋯甘い」

 二人して風を感じながら、街道を歩く人達を見ながら団子を食す。
 そんな和やかな雰囲気の中リオは口を開く。

「団子や餅を喉に詰まらせて死んでしまうのは年間で50件は超えます。困ったモノです。これを減らせたら良いんですけどね」

「いきなり物騒過ぎませんか?」

 緑色のお茶をリオが口に運ぶ。動きを真似てヒスイも運ぶ。

「苦っ!」

「そうですか? 甘いおやつと凄く合いますよね~」

「緑茶は私の里にもありますが、ここまで苦いのは無いです」

「そうなんですか? これでも甘い方のお茶ですよ。もう少し苦い方が団子と合った気がします。選択ミスですね。お母様なら選択を間違えないのに⋯⋯」

「これを平然と飲めるリオさんに私は驚愕し過ぎて痺れています」

「解毒剤買いますか?」

「その気遣い精神に憧れますが、大丈夫です」

 ゆっくりとした時間を楽しみ、ゼラのお土産にのりせんべいを購入した。
 夜も更けたので、二人は宿に帰還した。

「今頃ゼラさんは何をしているんでしょうかね」

「夜ですから、お父様と模擬戦でもしているんじゃないですか? お父様が気に入った、と言う事はそう言う事です」

「戦闘狂ですか。ゼラさんと同じですね」

「そうなんですか?」

「ええ。強くなる為には戦う! 戦うのに命を賭けるのは当たり前! って人ですから」

「お父様も同じ事言ってました。一国の王なのに、強力な魔物が近くに出没すると、騎士団を自ら率いて戦いに行くんですよ。万が一があったらどうするのやら」

「お互い大変ですね」

「ほんとですよ。まだお兄様も若い。王の座から離れるには早いんです」

「お兄さんが居るんですね」

「はい! お一人だけ居ます。どうやったらお父様を倒せるから考えながら後継者の勉強をしてます」

「おう。親子揃って戦闘狂⋯⋯と、失礼ですね」

「大丈夫です。寧ろ、こうやって笑って話し合えるお友達が出来て私、とっても嬉しいです!」

「リオさん⋯⋯」

「あ、温泉行きましょう」

「温泉?」

 二人は宿から離れて温泉街の方へと足を運んだ。
 様々な温泉施設がその場所には存在していた。
 色々な役割があったりする。
 リオの案内で向かったのは、美容関連に効能が特化した、女性専用の場所だった。

「結界で覗き対策もされています。お母様のお気に入りの場所なんですよ」

「それは楽しみです」

 受け付けにリオが話、使用料金である銀貨8枚の二人分で16枚。
 バスタオルとタオル、そして岩盤浴だのオプションを付けてプラス銀貨3枚と銅貨七枚。

「高額ですね」

 きつねうどん一つで銅貨64枚である。

「効能が強かったり、使える石鹸が良かったりと、その関係がありますね。高級温泉の一つです。お母様と良く来ていて、ここは常連には少しだけ割引してくれるサービスがあります。それで、ヒスイさんが私の紹介で来たので、少しだけ安いです。本当は銀貨10枚です」

「わお」

 ちょっとした性能の魔道具が買える程の値段である事にヒスイは驚愕していた。
 内装は当然綺麗で、皆同じ様な浴衣を着ていた。
 本が読める場所や寝ても良い休憩スペース。岩盤浴にマッサージ、遊びには卓球などがある。
 森に長らく住み、前の国でもこう言った施設は利用していなかった為に、全てが新鮮に感じられた。

 二人はメインの場所に速攻で向かう。
 服を脱ぐ場所に案内され、ヒスイはリオに習って服を脱いだ。

「ヒスイさんって、体型良いですよね。あのゼラニウムさんも⋯⋯」

「そうですか? 里ではこれが普通なのでなんとも言えません」

「羨まけしからんです。私、お母様の血を継いでいるのに、なかなか大きく成らないんですよね。年齢にしては小さ過ぎますし、断崖絶壁とかお兄様に言われて⋯⋯胸部だけで言うなら、筋肉のあるお兄様やお父様の方が大きい程ですからね」

「あ、あはは」

 魂の台詞になんとも言えないヒスイ。
 二人はタオル片手に浴場へと入場する。

「広っ!」

「ヒスイさん。あまり大きな声を出すと他の利用者さんにご迷惑がかかりますよ」

「す、すみません」

 まずはシャワーと言う事で、リオがヒスイの手を引いて体を洗いに向かう。

「体を綺麗にします。魔力を流せばここからはお湯が出て来ます」

「おー」

 髪を濡らし、シャンプーを手に乗せて泡立てる。
 ヒスイも真似をして行く。
 そして髪の毛を指で掻き上げるように洗って行く。
 髪の隅々に石鹸が回ったら泡を洗い流す。同じ様に体も洗った。
 そして、風呂に入る二人。

「私、お友達とこうやって、お風呂に入るのが夢だったんですよ。今、ようやく叶いました」

「リオさんはお優しいです。それに可愛いですからお友達多いと思いますけどね」

「そうでも無いんですよ。ここでは貴族と平民も同じ学校で義務教育を受けます。隠さなく仲良く成れたり、貴族は平民を、平民は貴族を知る理由もあります。ですが、実際そこには壁があります。平民は王族の私に話し掛けては来ません。そして、貴族は『王族』としての私に近寄って来ます。お友達と言うお友達は出来ません」

「悲しい、ですね」

「⋯⋯そうですね。毎日寂しいです。その代わりに家族の皆や私の側仕えは、私を寂しくしない様に気にかけてくれます。それが余計に悲しいんですけどね」

「私は、ずっとリオさんのお友達です」

「⋯⋯っ! はい。とっても嬉しみ深く幸せでございます」

「私もです」

「お友達として、その胸の脂肪をくれませんか?」

「それは無理です怖いです。目が本気ですよ。怖いです」

 露天風呂合わせて全てを楽しみ、岩盤浴なども楽しんだ。
 既に零時、そんな時間に二人は宿に帰った。
 寝るまでの時間、二人の笑顔や会話が途切れる事はなかった。
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