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一章 転生と心

ゼラニウム

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「すごーぃ! リーシアちゃんが二人~!」

 子供がそう叫ぶ。
 今の俺は休憩がてら、何に変身出来るか聞かれたので色々と行っていた。
 最初は小動物などに変身していたのだが、どんどんと大きくなり、そして人と成る。
 今はリーシアに変身して、同じ動きをしてる。
 目と目が合う。

「⋯⋯ちょっと」

 リーシアに手を引っ張られ、木の裏に隠れ、そして同時に飛び出す。
 リーシアに変身して、感情などがリーシアよりに成る。
 なので、何をするのかなんとなく理解出来、同時に叫ぶ。

「「本物のリーシアはどっちだ!」」

 見た目での違いは全く分からない。服装も見た目も動きも全く同じ。
 もしも俺が孤児院に行けば、俺がリーシアだと認識される可能性がある。
 しかし、子供とは不思議なモノで、全員本物のリーシアへと指を伸ばした。

「正解!」

 リーダー気質でクール系を通していたリーシアに笑みが零れる。
 ちゃんと見て貰えて嬉しかったのだろう。
 俺は無意識にリーシアの頭を撫でる。

「自分って、こう言う見た目なんだ」

「鏡が無いから分からないのかな? 他に試したい人!」

 結果、全員同じようにする事と成った。
 そして、一度も俺が選択される事は無かった。

 そして、ゾウに変身して皆を乗せて、ゆっくりと移動を開始する。
 現世のゾウよりも歩くスピードが速い気がする。
 ドッペルゲンガーとしての違いかもしれない。
 男の子達が「高い」や「速い」などで騒ぎ立っていた。

「落ち着いて! 落ちるし、お姉さん? に迷惑でしょ!」

 大丈夫、そんな事はゾウの口から言えない。
 なので、鳴き声で問題ないと意思表示する事にした。

「ほら、困ってるって!」

 違うぞリーシア。その真逆の事を俺は思っていたぞ。

「ごめんなさい」

 男の子達が頭に向かって謝って来た。
 取り敢えず、鳴き声を出しておいた。

 子供はきちんと人を見分ける事が出来るのに、鳴き声で意思は伝わらないようだ。
 そのまま森を進んでいると、崖をリーシアが指指す。

「あの花綺麗です!」

 俺は子供達を地面に下ろして、鷹に変身して飛ぶ。
 クチバシで茎をへし折り、回収する。
 そのままリーシアの肩に止まり、それを渡した。
 見た目はゼラニウムである。

 崖に生えるモノなのか不明だが、異世界と考えると納得するしかない。

「ゼラニウム。綺麗」

 リーシアが懐から本を取り出し、それは図鑑らしくて、花を探した。
 見つけた花の名前を呟き、皆に共有する。
 俺は皆に見せていた人間の姿に成っている。

「お姉さん、ありがとうございます!」

「ありがとうございます!」

 子供達が頭を下げてくれる。

「問題ないよ」

「あ、お姉さんの名前、ゼラニウムってどうですか! ゼラお姉さん! この名前が私達と巡り合わせてくれたこの花の名前⋯⋯その、上手く言い表せませんが、貴方のお名前が、私達の思い出の名前、そんな感じです」

 リーシアが心底恥ずかしそうに答えた。他の子供達も納得しているようだ。
 モジモジしているリーシアの頭を屈みながら撫でた。

「ありがと。俺はゼラニウム、ゼラだ」

「⋯⋯はい!」

「その本、見ても良いかな?」

「はい! どうぞ!」

 ゼラニウム、心を穏やかにしてくれるような甘い匂いがする。
 花言葉は『真実』だった。

「流石は異世界。反対だな」

「どうしましたか、ゼラお姉さん?」

「ん? いやなんでもないよ。さ、日が沈む前に戻ろう。きっと心配してるぞ」

 俺は皆を乗せて最速で帰る。当然、門が近くになったら人間の姿に戻る。

「あ」

「どうしましたか?」

 俺に身分証は無かった。
 これは困ったな。ん~どうしよ。

 そんな事を考えていたら、困っている事を察したであろうリーシアが手で服を引っ張る。
 俺的には皮を引っ張られている感覚だ。

「小さな生き物に変身してください!」

「⋯⋯助かる」

 色々と賢いリーシアのお陰で、俺は国に難なく入る事が出来た。
 そして、再び人の姿に成って、子供達を連れて孤児院に向かう。連れて、と言うよりも後ろから見守る形だが。
 子供達の人数はきちんと変わって無い。

「あなた達! 全くどこに行ってたんですか!」

 孤児院の先生であろう人が慌てて出て来て、叱った。
 謝りながらも、リーシアがゼラニウムを差し出した。
 赤く輝き風に靡き甘い香りを放つゼラニウムを目にし、そして俺を見て来る。
 子供達の笑顔。色々と分かったかのように、呆れた笑顔をする。

「今後、この様な事は無いように」

 それだけ言って、俺にお礼を言って来た。

「子供達を守って頂き、ありがとうございます」

「お気になさらず。寧ろすぐに戻さなくてすみません」

「頑固ですからね。本当に⋯⋯」

 なんとも言えない表情をしながら、孤児院に戻って行く子供達を見守る。
 子供達は振り返り、「ゼラお姉さんありがと~」と言いながら手を振ってくれる。
 俺も手を振り返す。

 前世なら、子供達の笑顔を見ても、なんとも思わなかった。
 だが、今は違う。心の底から嬉しと、そう感じた。
 偽りの心が、本当の心に成って行く感覚がする。

 ゼラニウム、この名前の様なドッペルゲンガーに俺は成りたいと、そう思った。
 そう思えてしまった。

 名残り惜しそうな子供達を置いて、俺は約束の場所に向かった。
 日が沈み始めた事もあり、露店などが閉まっていく。
 反対に、レストランなどは開店し始めている。

「ヒスイ。またせたな」

「私も今来たところですドッペ⋯⋯」

 俺は手でそれを制した。もう、俺はただのドッペルゲンガーでは無い。

「今日から俺はゼラニウムと名乗る。ゼラと呼んでくれ」

「⋯⋯? 分かりました。ゼラさん。あと、出来れば私の見た目で一人称『俺』は辞めてください」

「あ、はい」

「あと、女性に変身する時の一人称は気をつけてください」

「はい」

 そして、宿に向かった。

 部屋に入り、ヒスイは椅子に腰掛けて、俺はベットに座っている。

「お金を稼ぐ宛が見つかりました」

「ほう。なんだね」

「まず、あと二日でこの国の公爵家の一つの娘が他国に向かう様です」

「どこでそんな情報を⋯⋯」

「まぁ色々とツテがありましてね。まぁ、重要なのは、私のようなエルフでも簡単にそんな情報が得られると言う事です」

「ふむふむ」

「相手は公爵。狙って襲う人も居るでしょう」

「居るのか?」

「絶対に居ます」

「そうか」

 なんか不思議な感覚だ。日本ではそう言うのは珍しいと思うしな。
 いや、そもそもそんなのがあるのか?

「そこでゼラさんですよ!」

「ん?」

「まず、ゼラさんがその娘さんの見た目をコピーします。なるべく今日中が良いです!」

 不法侵入確定案件。

「そして、それをネタに話を持ちかけます。内容としては、影武者ですね。先行して、そうやって公爵を狙って来る人達を誘き寄せます。過去から使われて来た古典的な手ですが、割と有効的です。それに、ゼラさんなら完璧に行えると思います!」

「その目的の人物に完全に変身出来る、から?」

「そうです! それでは私は、体を洗って寝ます。ゼラさんはどうします?」

「ん~。その公爵の場所を教えてくれ。自由行動するよ」

「分かりました!」
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