12 / 19
召喚系配信者、コラボの誘いを受ける
しおりを挟む
こんな日が来る事は予測していた。
『突然の連絡申し訳ございません。是非良ければ、召喚士配信者同士コラボしませんか?』
コラボの誘い。
今の知名度的に来る事は予測していた。
だが、実際に来るとこう⋯⋯なんと言うか、テンションが上がる気がする。
『もちろんお忙しいと思いますので無視して頂いて構いません。嫌でしたら二度と連絡しないので素直に申して頂けると助かります』
次に来たチャットがコレだった。
なんか親近感が湧いて来る。
さて、俺は相手の事を全く知らないので少し調べる事にした。
俺と同じ召喚士で⋯⋯刀の二刀流で自分もバリバリに戦えると。
登録者は21万人で今の俺は16万程⋯⋯なるほどな。
「コラボするとして企画はどうするんだ? て言うか、相手女性じゃないか」
俺は返信する事にする。
ただ、ここで気持ち悪くならないように気をつける。
『自分の中身は男ですが問題ないですか?』
ポチッと送信。
そして、机に額をドンッと強くぶつける。
「ちがーう!」
キモイ! キモ過ぎる!
まず相手の疑問の返事になっていない!
要求に対して質問で返すバカがどこにいる!
ここにいるよばーか!
「ふぅ」
落ち着いた。
既読が付く前に削除しておこう。
『もちろん問題ありません! ダンジョンの中だといつもの状態なんですよね?』
大丈夫なのか。
⋯⋯コラボ⋯⋯するか。
俺も10万人越え配信者だ。コラボの経験は積んでおきたい。
時間は流れダンジョン50階層にて、俺はコラボ相手をマメと共に待っていた。
マメにおやつを与え、撫で回し、ボールを投げって取ってこさせる。もはや召喚獣には思えない。
「すみませーん! お、お待たせしました!」
「いえ、まだ1時間前なので全然大丈夫ですよ」
俺が6時間早くここに居ただけだ。
肩で息をしながら呼吸を整えるコラボ相手。
走って来たのだろう。
特徴的なのは腰に担いでいる二本の刀、忍者のような黒い格好にマフラー、そして紺色のポニーテールか。
召喚士ってよりも侍や忍者に見えるのは俺が男だからだろうか?
「ほ、本日はお日柄も良く」
「えっと⋯⋯堅苦しいのは止めませんか? せっかくのコラボですから」
俺がコラボ相手、三玖さんにそう切り出す。
敬語はこちらとしてもやりにくいのだ。
「言葉に甘えるよ。自分の苦手でね。改めてよろしく、それとコラボを受けてくれてありがとう」
「こちらこそ、コラボの誘いありがとうございます。よろしくお願いします」
「めっちゃ丁寧じゃん」
カメラの準備を三玖さんが始める。
三玖さんは普段、追尾式ドローンによる無人撮影を行っているらしい。
高性能で光学迷彩機能が備わっている。かなり高そうだ。
俺はマメがいるので気にする必要は無い。
「それで、今回の企画なんだけど⋯⋯」
俺は三玖さんに改めて聞く事にした。
事前に打ち合わせた企画内容、正直俺は失敗する未来が見える。
「召喚士としてのいろはを伝授してもらおう⋯⋯やはり迷惑だったかな?」
申し訳なさそうに目を逸らす三玖さん。
「いや、迷惑って訳じゃないんだけど⋯⋯」
正直、俺は召喚士としても素人だ。
教えられる事は無いと思う。
ここで今回の企画のおさらいをしておこう。
召喚士ながらバリバリの武闘派である三玖さんが召喚獣の圧倒的な強さを誇る俺に召喚士として色々と質問する、と言う企画だ。
こうなったのは三玖さんが武闘派で召喚士として未熟だから⋯⋯と言う理由がある。
事前に台本を用意するとリアリティが無くなると言われ、俺は臨機応変でその場の対応をする必要がある。
一度は断ろうとした。しかし、三玖さんの押しに負けた。
我ながら情けないと思いながら、配信は予定通り始まろうとしていた。
「皆の者こんにちは。三玖チャンネルのみっちゃんだよ。今回は最近世間を騒がしている魔王こと久遠さんに来てもらいました!」
「ど、どうも⋯⋯」
俺の魔王って結構認知されてる感じ?
俺自分で魔王って名乗った事ないんだけど⋯⋯。
《マジでコラボしてる!》
《みっちゃんやっほー!》
《ガチガチに緊張してるねw》
《楽しみにしてた!》
「今回は召喚士の実力が低いみっちゃんが久遠さんに色々と質問して、実力を伸ばそうのコーナー! それでは先生、まずは何をしますか?」
「せ、先生!」
先生⋯⋯先生か。
⋯⋯うん。悪くは無い。
悪くは無いが⋯⋯何をして良いか全く分からない。
まずい。
元々キャラ設定は明るく元気で活発な、玖音とは真逆のはずなのに。
今は久遠ながら玖音の要素が出ている気がする。
落ち着け俺。
俺なら⋯⋯多分きっと天文学的確率で出来る!
「ま、まずは三玖さんの戦いを間近で見たいかな。やっぱり映像越しだと分からない事もあるからさ」
「はい!」
そして三玖さんは二体の召喚獣を呼び出した。
一体はクロキッシーと呼ばる、黒騎士だ。黒い鎧で全身を包み両腕が黒い剣となっているモンスター。目は青白い光が灯っている。
もう一体はミノターと呼ばれる、ミノタウロスだ。弓矢を使うらしい。
「基本的にみっちゃんはクロキッシー達と戦うぞ」
ふむ、動画を見ていたのでその辺は知っている。
黒騎士の両腕が剣と言う異形の姿⋯⋯正直カッコイイと思っている自分がいる。
俺の仲間は人型が多いからな。
もう負けた感がある。
「それじゃ先生、みっちゃんの戦い見ててくださいね!」
「うん」
三玖さんが自分の事をみっちゃんって呼ぶの未だに慣れない俺。
敵を求め移動すると、50階層に現れるデストルゴブリンを発見した。
黒い頭巾に黒い肌と死神が持つような大鎌を所持したゴブリン。
ゴブリンは弱いイメージを持たれがちだが、上の階層に行くとそんな先入観は命取りとなる。
奴らは小柄だ。
しかも上の階層では賢い。
何よりその体躯を生かした機動力抜群の戦闘スタイルはとても脅威だ。
油断していると簡単に負ける。
「それじゃ、行くよ!」
《頑張れみっちゃん!》
《余裕だって!》
《久遠から見たら朝飯前かもしれん》
《頑張れ!》
《召喚士、最前線で戦う》
《やっぱりこれだよな》
《久遠も戦うのかな?》
《みっちゃんは色んな召喚士とコラボしてくれるから嬉しい》
二刀流の三玖さんが相手の攻撃を受け止める。
刀の扱いは様になっており、素人では無い。
スキル⋯⋯と言うよりも技術の匂いを感じる。
誰かから習った事がある人の動きだ。⋯⋯多分ね。
そして隙が生まれたゴブリンに背後からクロキッシーが肉薄する。
青白い眼光を鋭くさせ、黒い剣筋を描きゴブリンを深く切り裂く。
大打撃を受けたゴブリンは逃げる素振りを見せるが、三玖さんがその退路を塞ぎ懐に飛び込む。
二刀流による手数の多さで相手を常に圧倒。隙を見せた瞬間にクロキッシーがトドメを刺す。
2人の剣術の技術力の差は全く無い。なんなら素人の俺から見たら三玖さんの方が上に見える。
だが、美しい剣術よりも視線を奪う光景がある。
「2人とも、楽しそうだな」
互いに共に戦える事に喜びを感じられる、戦友のような特別な空気感がそこにある。
バトルはミノターが動くまでも無く、決着した。
俺はただ呆然と感心していた。
なぜなら、俺は戦えないからだ。
召喚士でありながら、共に戦った三玖さんに俺が何を言えると言うのか。
《相変わらずの強さ》
《マジで召喚士か怪しいよな》
《久遠何も言わねぇ》
《久遠ちゃんどうしたの?》
「どうだった?」
「うん。普通に凄い!」
「わん!」
マメも褒めているようだ。
「いやはや。照れるな。でも、これで良いのか悩んでいるんだね」
ここで質問タイムか!
さあ、来い!
「悩み?」
「うん。召喚士なのに前に出て戦って良いのかなって。そのせいでクロキッシー達の成長を阻害していないか不安なんだ」
「⋯⋯」
三玖さんの中で召喚士は後方で召喚獣を指揮して戦う役目になっているのだろう。
俺、なんて言えば良いの?
仲間達に全てを丸投げしていた俺が何を言っても薄っぺらい言葉にしかならない。
せっかく、勇気を出してコラボに誘ってくれた相手に粗相はしたくない。
「私は一緒に戦うって感覚が無いから、上手い事は言えないけど」
俺は素直な気持ちを言葉にする事にした。
きっとそれしか、効果が無いから。
「彼らがそれを望み、楽しそうなら別に良いんじゃないかな? 召喚士の務めは召喚獣と共に生きる事だ。自分自身が楽しく無理してなく、そしてそれを召喚獣と共有出来る⋯⋯それで良いんじゃないかな?」
無難な所をせめて行った気がする。
「⋯⋯そっか」
はにかむように笑った三玖さん。
⋯⋯これ、結構本格的に悩んでいたやつかもしれない。
確かに⋯⋯ネットで召喚士なのにバリバリに戦うから色々と言われていたもんな。
でも、それが彼女の魅力なのだ。
《久遠は召喚獣を家族と同じに見てるのかな? なんか嬉しい》
《久遠の召喚士ポリシーを口に出すのって初?》
《久遠ちゃんファンだから来たけど、良い事聞けた》
《圧倒的な戦力を持つ魔王にしては庶民的って言うか一般的って言うか、案外普通の意見でびっくり》
《久遠ちゃんもみっちゃんも好き!》
《楽しいって⋯⋯命掛かったんだよなぁ》
《これが強者の意見か》
《まじで召喚獣を道具って思ってる奴らに聞いて欲しい》
《せっかくだから召喚世界繋げてみたら?》
《どんな変化が起こるか気になる!》
《三玖ちゃんの召喚獣は最大で6体いたはず!》
《何それ面白そう!》
コメントで出て来た。
召喚世界を繋げる⋯⋯って何?
「久遠さんはやり方知ってる?」
「えっと⋯⋯なんだったかなぁ~」
ここで俺、素直に知らないと言えずに見栄を張る。
それを知ってか知らずか、クスリと笑った三玖さんが俺に歩み寄る。
三玖さんは柔らかい手を俺の手に重ねる。
「こうやって手を繋いで、召喚世界に意識を向けるの。そうすると、自然と繋ぐ事が出来るんだよ」
召喚世界に意識を向ける事は召喚する時と同じ感覚だ。
違う世界に自分がいる気がして、仲間達の声や気配がするんだ。
私を呼んで、私を使って、と囁いてくる。
その仲間達の世界に異物が入り込んで来る。
これが⋯⋯繋ぐって事か。
「持続時間は1週間ってとこかな。色々と冒険しながら、久遠さんを深堀しちゃうよ!」
「お、お手柔らかに」
コラボを終え1週間後、三玖さんがトレンド入りしていた。
その原因となった動画があったので確認してみる事に。
『えーっとこれは⋯⋯何があったの?』
一回り大きくなり、より漆黒に近づいたクロキッシーの姿がそこにはあった。
剣術、スピード、パワー、全てが俺の知っているクロキッシーの数倍は上だった。
彼女の活動階層は50階層前後だったらしいが、60階層のボスをクロキッシーだけで倒していた。
召喚士が普通に強いのが人気の理由。共に成長して行くのを楽しめる動画を届けていた三玖さん。
それが今や、ソシャゲ並のインフレをした相棒がいる。
「⋯⋯ま、楽しそうなら良いか」
少なくとも、動画の中の2人は成長を喜びあっている。
『突然の連絡申し訳ございません。是非良ければ、召喚士配信者同士コラボしませんか?』
コラボの誘い。
今の知名度的に来る事は予測していた。
だが、実際に来るとこう⋯⋯なんと言うか、テンションが上がる気がする。
『もちろんお忙しいと思いますので無視して頂いて構いません。嫌でしたら二度と連絡しないので素直に申して頂けると助かります』
次に来たチャットがコレだった。
なんか親近感が湧いて来る。
さて、俺は相手の事を全く知らないので少し調べる事にした。
俺と同じ召喚士で⋯⋯刀の二刀流で自分もバリバリに戦えると。
登録者は21万人で今の俺は16万程⋯⋯なるほどな。
「コラボするとして企画はどうするんだ? て言うか、相手女性じゃないか」
俺は返信する事にする。
ただ、ここで気持ち悪くならないように気をつける。
『自分の中身は男ですが問題ないですか?』
ポチッと送信。
そして、机に額をドンッと強くぶつける。
「ちがーう!」
キモイ! キモ過ぎる!
まず相手の疑問の返事になっていない!
要求に対して質問で返すバカがどこにいる!
ここにいるよばーか!
「ふぅ」
落ち着いた。
既読が付く前に削除しておこう。
『もちろん問題ありません! ダンジョンの中だといつもの状態なんですよね?』
大丈夫なのか。
⋯⋯コラボ⋯⋯するか。
俺も10万人越え配信者だ。コラボの経験は積んでおきたい。
時間は流れダンジョン50階層にて、俺はコラボ相手をマメと共に待っていた。
マメにおやつを与え、撫で回し、ボールを投げって取ってこさせる。もはや召喚獣には思えない。
「すみませーん! お、お待たせしました!」
「いえ、まだ1時間前なので全然大丈夫ですよ」
俺が6時間早くここに居ただけだ。
肩で息をしながら呼吸を整えるコラボ相手。
走って来たのだろう。
特徴的なのは腰に担いでいる二本の刀、忍者のような黒い格好にマフラー、そして紺色のポニーテールか。
召喚士ってよりも侍や忍者に見えるのは俺が男だからだろうか?
「ほ、本日はお日柄も良く」
「えっと⋯⋯堅苦しいのは止めませんか? せっかくのコラボですから」
俺がコラボ相手、三玖さんにそう切り出す。
敬語はこちらとしてもやりにくいのだ。
「言葉に甘えるよ。自分の苦手でね。改めてよろしく、それとコラボを受けてくれてありがとう」
「こちらこそ、コラボの誘いありがとうございます。よろしくお願いします」
「めっちゃ丁寧じゃん」
カメラの準備を三玖さんが始める。
三玖さんは普段、追尾式ドローンによる無人撮影を行っているらしい。
高性能で光学迷彩機能が備わっている。かなり高そうだ。
俺はマメがいるので気にする必要は無い。
「それで、今回の企画なんだけど⋯⋯」
俺は三玖さんに改めて聞く事にした。
事前に打ち合わせた企画内容、正直俺は失敗する未来が見える。
「召喚士としてのいろはを伝授してもらおう⋯⋯やはり迷惑だったかな?」
申し訳なさそうに目を逸らす三玖さん。
「いや、迷惑って訳じゃないんだけど⋯⋯」
正直、俺は召喚士としても素人だ。
教えられる事は無いと思う。
ここで今回の企画のおさらいをしておこう。
召喚士ながらバリバリの武闘派である三玖さんが召喚獣の圧倒的な強さを誇る俺に召喚士として色々と質問する、と言う企画だ。
こうなったのは三玖さんが武闘派で召喚士として未熟だから⋯⋯と言う理由がある。
事前に台本を用意するとリアリティが無くなると言われ、俺は臨機応変でその場の対応をする必要がある。
一度は断ろうとした。しかし、三玖さんの押しに負けた。
我ながら情けないと思いながら、配信は予定通り始まろうとしていた。
「皆の者こんにちは。三玖チャンネルのみっちゃんだよ。今回は最近世間を騒がしている魔王こと久遠さんに来てもらいました!」
「ど、どうも⋯⋯」
俺の魔王って結構認知されてる感じ?
俺自分で魔王って名乗った事ないんだけど⋯⋯。
《マジでコラボしてる!》
《みっちゃんやっほー!》
《ガチガチに緊張してるねw》
《楽しみにしてた!》
「今回は召喚士の実力が低いみっちゃんが久遠さんに色々と質問して、実力を伸ばそうのコーナー! それでは先生、まずは何をしますか?」
「せ、先生!」
先生⋯⋯先生か。
⋯⋯うん。悪くは無い。
悪くは無いが⋯⋯何をして良いか全く分からない。
まずい。
元々キャラ設定は明るく元気で活発な、玖音とは真逆のはずなのに。
今は久遠ながら玖音の要素が出ている気がする。
落ち着け俺。
俺なら⋯⋯多分きっと天文学的確率で出来る!
「ま、まずは三玖さんの戦いを間近で見たいかな。やっぱり映像越しだと分からない事もあるからさ」
「はい!」
そして三玖さんは二体の召喚獣を呼び出した。
一体はクロキッシーと呼ばる、黒騎士だ。黒い鎧で全身を包み両腕が黒い剣となっているモンスター。目は青白い光が灯っている。
もう一体はミノターと呼ばれる、ミノタウロスだ。弓矢を使うらしい。
「基本的にみっちゃんはクロキッシー達と戦うぞ」
ふむ、動画を見ていたのでその辺は知っている。
黒騎士の両腕が剣と言う異形の姿⋯⋯正直カッコイイと思っている自分がいる。
俺の仲間は人型が多いからな。
もう負けた感がある。
「それじゃ先生、みっちゃんの戦い見ててくださいね!」
「うん」
三玖さんが自分の事をみっちゃんって呼ぶの未だに慣れない俺。
敵を求め移動すると、50階層に現れるデストルゴブリンを発見した。
黒い頭巾に黒い肌と死神が持つような大鎌を所持したゴブリン。
ゴブリンは弱いイメージを持たれがちだが、上の階層に行くとそんな先入観は命取りとなる。
奴らは小柄だ。
しかも上の階層では賢い。
何よりその体躯を生かした機動力抜群の戦闘スタイルはとても脅威だ。
油断していると簡単に負ける。
「それじゃ、行くよ!」
《頑張れみっちゃん!》
《余裕だって!》
《久遠から見たら朝飯前かもしれん》
《頑張れ!》
《召喚士、最前線で戦う》
《やっぱりこれだよな》
《久遠も戦うのかな?》
《みっちゃんは色んな召喚士とコラボしてくれるから嬉しい》
二刀流の三玖さんが相手の攻撃を受け止める。
刀の扱いは様になっており、素人では無い。
スキル⋯⋯と言うよりも技術の匂いを感じる。
誰かから習った事がある人の動きだ。⋯⋯多分ね。
そして隙が生まれたゴブリンに背後からクロキッシーが肉薄する。
青白い眼光を鋭くさせ、黒い剣筋を描きゴブリンを深く切り裂く。
大打撃を受けたゴブリンは逃げる素振りを見せるが、三玖さんがその退路を塞ぎ懐に飛び込む。
二刀流による手数の多さで相手を常に圧倒。隙を見せた瞬間にクロキッシーがトドメを刺す。
2人の剣術の技術力の差は全く無い。なんなら素人の俺から見たら三玖さんの方が上に見える。
だが、美しい剣術よりも視線を奪う光景がある。
「2人とも、楽しそうだな」
互いに共に戦える事に喜びを感じられる、戦友のような特別な空気感がそこにある。
バトルはミノターが動くまでも無く、決着した。
俺はただ呆然と感心していた。
なぜなら、俺は戦えないからだ。
召喚士でありながら、共に戦った三玖さんに俺が何を言えると言うのか。
《相変わらずの強さ》
《マジで召喚士か怪しいよな》
《久遠何も言わねぇ》
《久遠ちゃんどうしたの?》
「どうだった?」
「うん。普通に凄い!」
「わん!」
マメも褒めているようだ。
「いやはや。照れるな。でも、これで良いのか悩んでいるんだね」
ここで質問タイムか!
さあ、来い!
「悩み?」
「うん。召喚士なのに前に出て戦って良いのかなって。そのせいでクロキッシー達の成長を阻害していないか不安なんだ」
「⋯⋯」
三玖さんの中で召喚士は後方で召喚獣を指揮して戦う役目になっているのだろう。
俺、なんて言えば良いの?
仲間達に全てを丸投げしていた俺が何を言っても薄っぺらい言葉にしかならない。
せっかく、勇気を出してコラボに誘ってくれた相手に粗相はしたくない。
「私は一緒に戦うって感覚が無いから、上手い事は言えないけど」
俺は素直な気持ちを言葉にする事にした。
きっとそれしか、効果が無いから。
「彼らがそれを望み、楽しそうなら別に良いんじゃないかな? 召喚士の務めは召喚獣と共に生きる事だ。自分自身が楽しく無理してなく、そしてそれを召喚獣と共有出来る⋯⋯それで良いんじゃないかな?」
無難な所をせめて行った気がする。
「⋯⋯そっか」
はにかむように笑った三玖さん。
⋯⋯これ、結構本格的に悩んでいたやつかもしれない。
確かに⋯⋯ネットで召喚士なのにバリバリに戦うから色々と言われていたもんな。
でも、それが彼女の魅力なのだ。
《久遠は召喚獣を家族と同じに見てるのかな? なんか嬉しい》
《久遠の召喚士ポリシーを口に出すのって初?》
《久遠ちゃんファンだから来たけど、良い事聞けた》
《圧倒的な戦力を持つ魔王にしては庶民的って言うか一般的って言うか、案外普通の意見でびっくり》
《久遠ちゃんもみっちゃんも好き!》
《楽しいって⋯⋯命掛かったんだよなぁ》
《これが強者の意見か》
《まじで召喚獣を道具って思ってる奴らに聞いて欲しい》
《せっかくだから召喚世界繋げてみたら?》
《どんな変化が起こるか気になる!》
《三玖ちゃんの召喚獣は最大で6体いたはず!》
《何それ面白そう!》
コメントで出て来た。
召喚世界を繋げる⋯⋯って何?
「久遠さんはやり方知ってる?」
「えっと⋯⋯なんだったかなぁ~」
ここで俺、素直に知らないと言えずに見栄を張る。
それを知ってか知らずか、クスリと笑った三玖さんが俺に歩み寄る。
三玖さんは柔らかい手を俺の手に重ねる。
「こうやって手を繋いで、召喚世界に意識を向けるの。そうすると、自然と繋ぐ事が出来るんだよ」
召喚世界に意識を向ける事は召喚する時と同じ感覚だ。
違う世界に自分がいる気がして、仲間達の声や気配がするんだ。
私を呼んで、私を使って、と囁いてくる。
その仲間達の世界に異物が入り込んで来る。
これが⋯⋯繋ぐって事か。
「持続時間は1週間ってとこかな。色々と冒険しながら、久遠さんを深堀しちゃうよ!」
「お、お手柔らかに」
コラボを終え1週間後、三玖さんがトレンド入りしていた。
その原因となった動画があったので確認してみる事に。
『えーっとこれは⋯⋯何があったの?』
一回り大きくなり、より漆黒に近づいたクロキッシーの姿がそこにはあった。
剣術、スピード、パワー、全てが俺の知っているクロキッシーの数倍は上だった。
彼女の活動階層は50階層前後だったらしいが、60階層のボスをクロキッシーだけで倒していた。
召喚士が普通に強いのが人気の理由。共に成長して行くのを楽しめる動画を届けていた三玖さん。
それが今や、ソシャゲ並のインフレをした相棒がいる。
「⋯⋯ま、楽しそうなら良いか」
少なくとも、動画の中の2人は成長を喜びあっている。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~
シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。
木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。
しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。
そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。
【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】
最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~
ある中管理職
ファンタジー
勤続10年目10度目のレベルアップ。
人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。
すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。
なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。
チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。
探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。
万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
現実世界にダンジョンが出現したのでフライングして最強に!
おとうふ
ファンタジー
2026年、突如として世界中にダンジョンが出現した。
ダンジョン内は無尽蔵にモンスターが湧き出し、それを倒すことでレベルが上がり、ステータスが上昇するという不思議空間だった。
過去の些細な事件のトラウマを克服できないまま、不登校の引きこもりになっていた中学2年生の橘冬夜は、好奇心から自宅近くに出現したダンジョンに真っ先に足を踏み入れた。
ダンジョンとは何なのか。なぜ出現したのか。その先に何があるのか。
世界が大混乱に陥る中、何もわからないままに、冬夜はこっそりとダンジョン探索にのめり込んでいく。
やがて来る厄災の日、そんな冬夜の好奇心が多くの人の命を救うことになるのだが、それはまだ誰も知らぬことだった。
至らぬところも多いと思いますが、よろしくお願いします!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる