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二章 能力専門学校

29話 結菜と雪姫

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 放課後、一緒に帰宅する為に結菜は千秋の教室を訪れていた。
 だが、そこに千秋の姿は既に無かった。

(なんで居ないんだろう)

 天音はすぐに帰宅し、千秋は結菜達を待っている筈だった。
 約束を破るような人ではないと結菜は知っており、そのせいで嫌な予感が結菜の中を駆け巡った。

(確か⋯⋯放課後は)

 結菜は廊下の窓を開けて、そこから飛び降りて地面に着地する。
 そのままアクセルを使って高速で移動する。壁を。

「千秋!」

 屋上、そこには縛られた千秋の姿と緑谷率いる緑グループが居た。

「あれ、柴が釣れた?」

 緑谷がぶっきらぼうに呟き、千秋に怪我等が無い事を確認する。
 縛られて眠らされているだけらしい。

「緑谷ッ!」

 結菜は緑谷を鋭い眼光で睨み、アクセルの全力で緑谷に接近するが、その間に緑グループの女生徒が入り込む。

「あんたは用無しだよ!」

 回し蹴りをバックステップで躱す。

「千秋になんの関係がある! 一般生徒を巻き込むなよ!」

「たっく。上に楯突くだけではなく⋯⋯悪いな。仮面の奴にはこいつが一番使えるって言う情報があるんだよ。お前は邪魔だ。失せろ」

「先に動くのはお前らか」

 結菜は考える。その情報は正しい、と。
 だからこそ疑問が生まれる。仮面の奴の情報はあまり広まってないのに、どうして中身が割れているのかと。
 確かに、一人しか生み出せないスペルカードの存在を知っていたら分かるかもしれない。

 だが、スペルカードの情報もあまり広まってない。

(考えても意味無いや。今は、千秋を助ける!)

 勝てるかどうかは関係ない。結菜にとっての勝利は、この場にいる意味は、千秋を助ける事だ。

 低姿勢を取り、全身に力を加えて、前方に駆ける。
 空気が振動し衝撃波を後ろに飛ばす程の勢いがあるその踏み込みを、この場にいる全員が見ていた。

「同じ女どうし、タイマンしてやるよ!」

「邪魔だあああ!」

 同じ女子が結菜に蹴りを放ち、それを屈んで躱し、女子の顎に向かって足を上げる。
 バックステップで女子はそれを避け、地面に手を触れ、地面に魔法陣が展開される。
 そこから小さな尖った岩が出現し、結菜に向かって突き進む。

 アクセルのスピードで躱す事は可能だが、後ろには屋上への出入口があり、壊さない為にも蹴りで破壊する。

(痛い! 特別性の靴じゃなかったら痣もんだよ)

 岩を全て破壊した結菜の懐に女子は入り込み、アッパーを放つ。
 躱す事が出来ないと判断した結菜は腕を相手の攻撃の射線上に持って行き防ぐ。

「くっ」

 鈍い痛みを受けながらも、後ろに退る結菜。
 肩で息をしながら千秋の方を見る。自分も一度攻撃してしまった相手。だけど、許してくれて、そして友達になった相手。
 歯を食いしばり、女子の方を見る。
 女子はその場で小さくジャンプを繰り返し、体の具合を確かめ、結菜に接近する。
 高速のパンチを躱し、顔に向けて蹴りを放つ。
 蹴りを手の甲で防ぐが、飛ばされる。

「がっ!」

 手すりへと衝突して、背中から激しい痛みに襲われる結菜。

「流石に死なないわよね?」

「ちょ⋯⋯」

 ゆっくりと立ち上がり、臨戦態勢が整っていなかった結菜にアッパーを決める。
 諸に入ったパンチに結菜は屋上から投げ出される。

(流石に、強すぎでしょ)

 下の芝生へと激突する。

「痛い⋯⋯」

 ポッケにしまっていたポーションを取り出し、それを飲む。
 痛みが引き、体の調子も戻って行く。

「もう一回!」

「結菜さん?」

「雪姫?」

 そこに鞄を持った雪姫が現れ、結菜の名前を口から出す。

「屋上から降って来ましたけど、大丈夫ですか?」

「あぁ。問題ない。悪いけど、もう一回行って来る」

「上に何かあるんですか?」

「ただの喧嘩だよ。雪姫は気にしないで」

 雪姫も千秋と同じ無関係の人、巻き込む訳には行かない。
 結菜は再び壁を突っ走り屋上へと躍り出る。

「諦めの悪い奴だな。徹底的に痛めつけろ!」

 緑谷の命令を聞き、女子は結菜にさっきよりも速いスピードで肉薄し、拳を放つ。
 躱すが、空気を切り裂く音が鼓膜を震わせた。
 さっきよりも速く、さっきよりも強い。
 結菜は薄々感じていた。──勝ち目はない、と。

「千秋さん!」

「⋯⋯ッ! なんで来た!」

 屋上の扉を開けて出て来た雪姫。
 雪姫の視界には千秋が映っていた。

「これは、一体」

「邪魔が増えたな。お前一人で十分だよな?」

「勿論です緑谷さん」

 結菜は雪姫の所まで大きく跳躍して近づき、何故来たかと問い詰める。

「結菜さんの顔が、とても暗かったので⋯⋯」

「お人好しかよ。⋯⋯逃げて。危険だよ」

「⋯⋯⋯⋯け、喧嘩や暴力は嫌いですが、大切な親友を助ける為に、協力します!」

「巻き込めないよ」

「気にしないでください」

「気にするよ!」

 そんな二人の前に女子が肉薄する。

「かなり痛いから、覚悟を決めな!」

「凍れ!」

 雪姫は冷気を放って、女子を凍らせて拘束しようとした⋯⋯が、凍ってもすぐに砕き、雪姫を蹴り飛ばし、結菜は攻撃を躱して雪姫の方に移動してキャッチする。

「やっぱり、逃げな」

「⋯⋯結菜さん。私、嘘を付いてました」

「え?」

「私のアビリティは氷の魔法なんかじゃないです」

「え?」

「たまたま魔法系の適正があったの。だから氷の魔法ってしてたんだ。小学生の時に、私の本当のアビリティを見た人に、とっても気味悪がられてね。それ以来使ってなかったんだ」

「雪姫⋯⋯」

「ごちゃごちゃ会話している暇あるのかな!」

 女子が接近し、二人は反対の方向に移動して避ける。
 そして、雪姫は自分の指を噛んで、千切る。
 小さな血液の粒が地面へ、ポツンと落ちる。

「雪姫?」

 結菜はその光景に唖然とする。
 落ちた血液が、落ちた量とは遥かに違う量で広がり、陣を形成する。
 陣から光の柱が空へと伸び、雪姫の瞳の色と髪色が赤へと変わって行く。

「血器」

 指から血が垂れ、槍を形成する。
 槍を回転させて構える雪姫。先端を床に向けて叩き付け、折る。
 折れた先端の血液は雪姫の元に戻る。

「ただの棒、これなら殺傷能力は下がります」

「手加減かな!」

 女子は雪姫に接近して拳を突き出す。
 その拳は確かに強い。だが、雪姫はそれを血の棒で防いだ。
 正面から、防いだ。
 拳が壁に当たったような鈍い音が響く。

「え」

 その光景に一番驚いたのは、結菜だった。

 アドベンチャーラーをしている雪姫は普通の能力者の高校生よりも強い。
 魔道具に寄ってかなり強化されている女子だが、それを真正面から受け止められる程には、雪姫は強かった。

「千秋さんを返して下さい。これは、警告です」

「一発防いだだけで、調子に乗るな!」

 女子は一度距離を取り、再び接近する。

「テンペスト!」

 拳に突風が纏わり付き、その拳を雪姫に振るう。
 それを横にステップして躱し、女子の横に移動する。
 そのまま血の棒を肺を狙って突き出す。

「かはっ!」

 倒れる女子。
 そして、雪姫は他の人達を見る。その目はとても鋭かった。
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