上 下
57 / 86
二章 能力専門学校

7話 新たな進展

しおりを挟む
「良いじゃないですか。先生」

「ダメなものはだめです」

 先生は緑谷と言われた男の言葉を断固として拒否していた。

 先生の事をただ見守る俺達。

 緑谷は先生に接近して頭に手を乗せる。次の瞬間、先生の目から光が消えた。手から力が抜けたように、ストンと下がる。

 誰が見ても何かあったと分かる光景。そんな中緑谷は笑顔で言葉を出した。

「先生、教室の交換、良いですか?」

「はい、勿論です」

 先生が折れた。何かされたのは明白なのだが、アビリティを使っている様子はなかった。

 だからこそ混乱する。

「担任もこう言っているんです。皆さん、他の人の荷物もまとめて、僕達の教室に移動してください」

 加藤並と言う事が分かっているから、誰も文句を言わず、荷物をまとめ始めた。

 俺もただの高校生なので、同じように荷物をまとめる。だが、そこで反論する人が一人いた。

「いやいや、何かしらのアビリティ使ったでしょ! そんなの許されないよ!」

「ちょ、千秋」

 千秋との席は離れており、すぐに止める事が出来なかった。

 他の人の目は「面倒事起こすな」と言う目だった。

 俺は千秋に近づき、腕を引っ張って暴走を止める。

「だ、だけどさ天音。先生の目、洗脳系のアビリティ使ってるよ」

「⋯⋯金髪の君、言い掛かりはやめてよ。何か証拠はあるの?」

「うっ」

 アビリティは証拠が残りにくい。

 特に外的障害が出ない洗脳となると、余計分からない。

 しかも、アビリティを使った気配もないのだ。

「そう言う事だ千秋。こいつらは何かしたのは確かだろうけど、その証拠がない。変に問題起こすのは良くない。素直に下がろう」

「いやいや、なんでこっちが下がるのよ!」

「はぁ。そっちのモブ君は分かっているようだね。さっさと教師に従って移動するんだ。それと、変な言い掛かりを付けた僕に謝ってくれ」

 モブ君ってなんだよ!

「⋯⋯すみません」

「誠意が足りないよ?」

「おい、その辺で良いだろ」

 俺達は移動する。その途中で、他の生徒から俺への苦情が入った。

「なんでお前がリーダー気取ってんだよ」

「そうだよ!」

 少しイラッと来るが、深呼吸して落ち着く。

「この中でアビリティを持っているのは俺だけだ。アイツらと対等で話せるのは俺くらいだろ」

「その割には先に口出したのは千秋ちゃんだったけど」

「そ、その辺にして、私が悪かったし。皆に迷惑掛けてごめんね」

 千秋がしょんぼりしている。

 正面を歩く先生を見ながら、俺達の来た教室は汚かった。

 元々埃は溜まっていたのだろう。

 だが、加藤並のアイツらと、廊下の途中ですれ違い、ニヤニヤしていた他の生徒達のせいでさらに汚く成っていた。

「やり過ぎでしょ」

 千秋が呆れと怒り混じりの言葉を漏らす。その意見に賛成しつつ、俺は一枚のスペルカードを取り出す。

 これがあればすぐに解決だ。

 そう言えば、あの管理者はどうなってるんだろ?

 目を瞑り、集中する。

「天音?」

 あ、この学校に居ない。管理者がただのアビリティ保有者に負けたのか? ま、アイツ自体弱いだろうし、アビリティ保有者の方が強かったのだろう。

 一瞬で綺麗になった教室に驚きの声を漏らすクラスメイト。

 少し時間は掛かったが、今の担任担当の教科である公共を終え、俺は先生を呼び出した。

 他の教科もそこそこ担当教師が代わっている所があった。

 虚空を見つめる先生を人気ない場所に誘って、スペルカードを取り出した。

 最近では沢山のスペルカードを何時も手持ちに入れているが、管理が面倒くさくて、前はこんなに入れてなかった。

 だが、念の為、最近では沢山入れている。

 腐らないように毎日残ったスペルカードはメンテナンスをやって貰っている。

 ダンジョン内ではスペルカードを保存する倉庫があるのでメンテナンスの必要はないんだけど。

 俺の取り出したスペルカードは『状態異常回復』である。

 洗脳のアビリティは魔法系、状態異常の枠に入る。

「発動」

「⋯⋯む? どうした? 確か、雨宮君だ。⋯⋯あれ? なんだ、この記憶⋯⋯ッ!」

 先生が混乱している。

「覚えている事、ありますか?」

「ああ。すまない。勝手にこんな事に成って」

「先生のせいじゃないですよ。操られていたんですから」

「雨宮君、君も能力者だろ? アビリティについて詳しいか?」

「ん~そこそこ知っているつもりですけど、千秋の方が詳しかもですね」

「まぁいい。放課後、時間あるか? 覚まさせてくれた君に対して、相談がある」

 見た目に反して大人びしている坂月先生。

「分かりました。落ち着いてくださいね」

「ああ。少し休んでから調べ事をするよ」

 放課後、俺は坂月先生のもとを訪れた。

 千秋には念の為先に帰って貰い、護衛を隠れて付かせている。

「相談とは、なんですか?」

「そうだな。なぁ雨宮君、魔法系のアビリティを発動する時に、何かエフェクト的なモノはないのか?」

「ありますね。魔法を使う時は魔法陣、あるいは光のようなモノがあります」

「その例外は?」

「基本はないと思います」

 そんなのがあったらスペルカードに使っている。

 ウチの魔法研究チームが出来ないモノを人が使えるとは思えない。

 特殊能力であっても、魔法系なら何かしらの前触れはある。

「そう言えば、先生が洗脳された時、何もなかったですね」

「そう。そこが気がかりなんだ」

「確かに⋯⋯まぁ、何となく分かりますが」

「分かるのか?」

「はい。魔道具《マジックアイテム》です」

 アイテムを使えば、前兆無く魔法が発動したりする。

 スペルカードは魔道具では無い。

 火魔法『火球』を例に挙げると、スペルカードだと魔法陣が浮かび上がり、魔法を発動させる。
 魔道具の場合、火球そのモノが瞬時に飛んで行く。

 ただ、魔道具は後から制御が出来ないのが難点だ。

「魔道具⋯⋯持ち込み禁止の筈だが?」

「相手はヤンキー校ですよ? 校則なんて破ってなんぼでしょ」

「凄い偏見だな。だが、魔道具なんて持ってたか? そもそも、あの一瞬で洗脳出来るのか?」

「洗脳された時、相手の事をどう思いましたか?」

「え、それは⋯⋯とても愛おしく思った。この人の言う事ならなんでも聞いていいと思う、そんな気分に成った。盲目的に、彼を意識していた気がする」

 洗脳には相手に与える認識がある。今回の場合は好意を与える感じだったらしい。

 それもかなり強力。

 アビリティ保有者が作ったのか、迷宮管理者が作ったのか。分からない。

 もしかしたら道具を使う時にデメリットがあるかもしれない。

 だが、そもそもどこに装備していた? 分からない。

「そもそも、彼のアビリティはなんなんだ? 高校の関係上、能力者だろう?」

 他校の生徒の事は調べる事は許されないのか?

 緑谷⋯⋯ダメだ。こっちも調べてないから分からない。

 だが、あの青界的なポジションを見ると相当な強さを持つのだろう。ま、一般基準だけど。

「先生、気をつけてくださいね。今の、ウチの高校は、何かと物騒です」

「ああ、肝に命じてとく。君も彼女に気をつけるように言うんだな?」

「彼女?」

「千秋君の事だよ。あの子、気さくで良いよね。私もすぐにクラスに馴染めたよ。ま、君はある程度の距離をおいて居たが」

「陰キャなだけですよ。それと、千秋は幼馴染です」

「それにしては距離感が⋯⋯まぁいい。これからも何かあったら君に相談するよ」

「その心は?」

「君は、強いだろう?」

「何を根拠に?」

「逃げながらノールックでモンスターの攻撃を、しかも幼馴染共々躱す事が出来るのに、弱いって事はないだろう? しかも、君のアビリティはまだ隠している事があると思う」

「そうですか。ま、担任ですからね。守りますよ」

「私もそこそこ強い自信はあるぞ。もうこんなヘマはしない。ただ、入院中の担任も守ってやって欲しかったよ」

 夫婦喧嘩をどう守れと? どうして入院しているのか知らないとでも?

 嫁さんは身体を強化する強化系のアビリティ保有者で、喧嘩が行き過ぎて担任は入院。

 嫁さんは厳重注意となった。

 なので、無理です!
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

迷い人と当たり人〜伝説の国の魔道具で気ままに快適冒険者ライフを目指します〜

青空ばらみ
ファンタジー
 一歳で両親を亡くし母方の伯父マークがいる辺境伯領に連れて来られたパール。 伯父と一緒に暮らすお許しを辺境伯様に乞うため訪れていた辺境伯邸で、たまたま出くわした侯爵令嬢の無知な善意により 六歳で見習い冒険者になることが決定してしまった! 運良く? 『前世の記憶』を思い出し『スマッホ』のチェリーちゃんにも協力してもらいながら 立派な冒険者になるために 前世使えなかった魔法も喜んで覚え、なんだか百年に一人現れるかどうかの伝説の国に迷いこんだ『迷い人』にもなってしまって、その恩恵を受けようとする『当たり人』と呼ばれる人たちに貢がれたり…… ぜんぜん理想の田舎でまったりスローライフは送れないけど、しょうがないから伝説の国の魔道具を駆使して 気ままに快適冒険者を目指しながら 周りのみんなを無自覚でハッピーライフに巻き込んで? 楽しく生きていこうかな! ゆる〜いスローペースのご都合ファンタジーです。 小説家になろう様でも投稿をしております。

転生テイマー、異世界生活を楽しむ

さっちさん
ファンタジー
題名変更しました。 内容がどんどんかけ離れていくので… ↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓ ありきたりな転生ものの予定です。 主人公は30代後半で病死した、天涯孤独の女性が幼女になって冒険する。 一応、転生特典でスキルは貰ったけど、大丈夫か。私。 まっ、なんとかなるっしょ。

AIN-アイン- 失われた記憶と不思議な力

雅ナユタ
ファンタジー
「ここはどこ?」 多くの記憶がごっそり抜け落ちていた少女、覚えているのは自分が「アイ」という名前だということのみ…そして… 「これ…は?」 自身に宿る不思議な力、超能力〈ギフト〉を使い、仲間と共に閉鎖的な空間からの脱出を試みる。 彼女たちは歩く、全ての答えを求めて   見知らぬ場所から出口目指す異能力脱出物です。 初投稿になるのでご感想、アドバイス励みになります。 よろしくお願いいたします!

前世の記憶さん。こんにちは。

満月
ファンタジー
断罪中に前世の記憶を思い出し主人公が、ハチャメチャな魔法とスキルを活かして、人生を全力で楽しむ話。 周りはそんな主人公をあたたかく見守り、時には被害を被り···それでも皆主人公が大好きです。 主に前半は冒険をしたり、料理を作ったりと楽しく過ごしています。時折シリアスになりますが、基本的に笑える内容になっています。 恋愛は当分先に入れる予定です。 主人公は今までの時間を取り戻すかのように人生を楽しみます!もちろんこの話はハッピーエンドです! 小説になろう様にも掲載しています。

半身転生

片山瑛二朗
ファンタジー
忘れたい過去、ありますか。やり直したい過去、ありますか。 元高校球児の大学一年生、千葉新(ちばあらた)は通り魔に刺され意識を失った。 気が付くと何もない真っ白な空間にいた新は隣にもう1人、自分自身がいることに理解が追い付かないまま神を自称する女に問われる。 「どちらが元の世界に残り、どちらが異世界に転生しますか」 実質的に帰還不可能となった剣と魔術の異世界で、青年は何を思い、何を成すのか。 消し去りたい過去と向き合い、その上で彼はもう一度立ち上がることが出来るのか。 異世界人アラタ・チバは生きる、ただがむしゃらに、精一杯。 少なくとも始めのうちは主人公は強くないです。 強くなれる素養はありますが強くなるかどうかは別問題、無双が見たい人は主人公が強くなることを信じてその過程をお楽しみください、保証はしかねますが。 異世界は日本と比較して厳しい環境です。 日常的に人が死ぬことはありませんがそれに近いことはままありますし日本に比べればどうしても命の危険は大きいです。 主人公死亡で主人公交代! なんてこともあり得るかもしれません。 つまり主人公だから最強! 主人公だから死なない! そう言ったことは保証できません。 最初の主人公は普通の青年です。 大した学もなければ異世界で役立つ知識があるわけではありません。 神を自称する女に異世界に飛ばされますがすべてを無に帰すチートをもらえるわけではないです。 もしかしたらチートを手にすることなく物語を終える、そんな結末もあるかもです。 ここまで何も確定的なことを言っていませんが最後に、この物語は必ず「完結」します。 長くなるかもしれませんし大して話数は多くならないかもしれません。 ただ必ず完結しますので安心してお読みください。 ブックマーク、評価、感想などいつでもお待ちしています。 この小説は同じ題名、作者名で「小説家になろう」、「カクヨム」様にも掲載しています。

黒の棺の超越者《オーバード》 ー蠢く平行世界で『最硬』の異能学園生活ー

浅木夢見道
ファンタジー
 アルファポリス版は、現在連載を停止しております。 =================================== 【カクヨム総合1位(日間、週間、月間)獲得!】 【カクヨム現代ファンタジー1位(日間、週間、月間)獲得! 年間9位!】  流されやすい現代っ子の間宮真也は中3の冬に、くしゃみと共に異世界の日本へと転移した。  転移して最初に見つけたのは、自分の死体と青い目をした軍服少女。  混乱の中、真也は世界に12人しかいないとされる最上級の異能者、その13人目として覚醒する。  『殻獣』と呼ばれる虫の化け物と、それに対抗しうる異能者『オーバード』が社会に根付いた世界で、彼は異能者士官高校に通うことに。  普通の高校とは違う、異能者士官高校の日々は目新しさと危険に満ちている。  不思議ちゃんなロシア美女、ヤンデレ風味な妹分、生意気な男の娘etc……ドタバタとした学園生活と、世界を守る軍人としての生活。さらには、特別部隊にも参加することに。  意志の弱い真也を放っておかない社会に振り回されながら、それでも彼は日々を過ごす。 ※1章は導入、学園モノは2章から。そこのみを読みたいという方向けあらすじが第2章冒頭にあります。 ※2019/10/12 タイトルを変更しました。 ※小説家になろう、カクヨムで連載中。

異世界で等価交換~文明の力で冒険者として生き抜く

りおまる
ファンタジー
交通事故で命を落とし、愛犬ルナと共に異世界に転生したタケル。神から授かった『等価交換』スキルで、現代のアイテムを異世界で取引し、商売人として成功を目指す。商業ギルドとの取引や店舗経営、そして冒険者としての活動を通じて仲間を増やしながら、タケルは異世界での新たな人生を切り開いていく。商売と冒険、二つの顔を持つ異世界ライフを描く、笑いあり、感動ありの成長ファンタジー!

1枚の金貨から変わる俺の異世界生活。26個の神の奇跡は俺をチート野郎にしてくれるはず‼

ベルピー
ファンタジー
この世界は5歳で全ての住民が神より神の祝福を得られる。そんな中、カインが授かった祝福は『アルファベット』という見た事も聞いた事もない祝福だった。 祝福を授かった時に現れる光は前代未聞の虹色⁉周りから多いに期待されるが、期待とは裏腹に、どんな祝福かもわからないまま、5年間を何事もなく過ごした。 10歳で冒険者になった時には、『無能の祝福』と呼ばれるようになった。 『無能の祝福』、『最低な能力値』、『最低な成長率』・・・ そんな中、カインは腐る事なく日々冒険者としてできる事を毎日こなしていた。 『おつかいクエスト』、『街の清掃』、『薬草採取』、『荷物持ち』、カインのできる内容は日銭を稼ぐだけで精一杯だったが、そんな時に1枚の金貨を手に入れたカインはそこから人生が変わった。 教会で1枚の金貨を寄付した事が始まりだった。前世の記憶を取り戻したカインは、神の奇跡を手に入れる為にお金を稼ぐ。お金を稼ぐ。お金を稼ぐ。 『戦闘民族君』、『未来の猫ロボット君』、『美少女戦士君』、『天空の城ラ君』、『風の谷君』などなど、様々な神の奇跡を手に入れる為、カインの冒険が始まった。

処理中です...