滅んだ国の元軍人兄妹冒険譚〜魔王レベルの魔力保有者は自由に異世界冒険を満喫する〜

ネリムZ

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死の暖かみ

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 私は先日、ヨツキの名を貰った暗殺者だ。
 今は組織のボスと会っている。新しい人生の一歩として、最初にここに来た。

「お世話になりました。私はこの家業から足を洗おうと思います。子供の時から、お世話をしてくださったのに、この様な形で、ぐす」

「泣く程か? よく分かった。お前の覚悟も伝わった。そうだな。身分証が無いのは辛いだろ。発行しよう。⋯⋯どんな名前が良い?」

「ヨツキ、でお願いします」

「そうか。今まで良くこの仕事を頑張ってくれたな。これからは全てを忘れて、なんてのは言えない。だけど、良き人生に成る事を祈っている」

「⋯⋯うぅ、センキューマイファザー」

 スラム街の子供であった私を拾って育ててくれた。
 殺しの技術を教えてくれた。生きる強さを教えてくれた。
 私と言う存在がここに居るのは、ボスであり父である目の前の男のお陰。
 その感謝を今までの行いで返せているかは分からない。いや、返せてない。

 だけど、あの二人と出会って、もう私は暗殺者には戻れない。
 そして、それを父は受け入れてくれた。
 私は命を掛けてもこの父に恩返し出来ない程の恩が出来た。

 外へと向かって歩いている中、同僚の子が隠れていた。
 気配を消しているのだろうけど、バレバレだ。
 同じスラムで父に拾われた子なので姉妹の様な存在だ。

「ここを出て、どうやって生きて行くつもりなの?」

「分からない。⋯⋯だけど、きっと良い方向に進む」

「どこにそんな確証があるのよ! 私達はスラムの人間だったんだよ! 私達が外で出ても、まともに暮らして行ける訳無いじゃない! 野垂れ死にするのが、オチよ!」

「私の為に泣いてくれて、心配してくれてありがとうね。元気で」

「ぐっ。⋯⋯ええ。元気で。そして、もうあんたは仲間でもなんでもない、赤の他人よ! ⋯⋯でも、最後に名前だけは聞いてあげる!」

「ヨツキ、いずれこの名前に似合う様な、夜の月の様な、人に成るよ」

「無理ね」

「かもね」

 私の行いは褒められるモノでは無い。寧ろ恨まれて当然の行いをして来た。
 そんな悪の道を進んだ私は夜を照らす月には成れない。
 あの二人の様に誰かを照らしてくれる月には成れない。
 でも、少しでもその存在、そうだね。星くらいには、成りたいな。

 この磨かれた人を殺すと言う力。血塗られた技術。
 これを活かせるだろうか? 私は魔物相手ではかなり弱い。だけど、もう人を相手したくない。
 何して働こうかな?

「慈善事業でもしようかな? あはは。飢え死にするな~」

 外を歩きながらそんな事を考える。
 夜だと言うのに明るい街並み。耳を澄ませばカンカンと金属を叩く音が聞こえる。
 この国は表向きとても明るいが、裏ではとても暗い国。

 私はいつか、この明るい国を堂々と⋯⋯。

「何!」

 一瞬僅かに感じた濃厚な殺意を直感的に見抜き、横にステップする。
 首を切り裂かん鋭い一閃が先程居た場所に煌めく。
 夜でも町は明るく、通行人も普通に居る。
 そんな中で堂々と武器を振るい、人を殺そうとするとは⋯⋯どんな狂人だ?

「あ、あんたは」

「見つけたぞ。逃げた女よ」

 そこに居たのは前に路地裏で遭遇した殺人鬼だった。
 黒い剣をクルクル回しながら、狂気の笑みを浮かべている。
 明るいこの場所で対面して、相手の目を見て分かった。
 私の処刑された元同僚と同じ目だった。

 殺人をなんとも思っておらず、ただ殺したいと言う欲から淡々と殺す。
 殺戮マシーンを通り越した快楽殺戮マシーン。
 こいつに、私では勝てない。絶対に。
 そう直感で感じ取れるくらいの狂気を感じる。

 通行人達の悲鳴が聞こえる。少しすれば警備兵も来るだろう。
 それまでに私が耐えられるだろうか? 無理だろう。
 今は武器も持ってない。
 なのに相手は強い。しかも、剣だけの脳筋では無い。毒や暗器も使う、確実な殺しを与える敵だ。

「何故私を狙う。私に恨みがあるのか?」

 自分で言ってて笑えてしまう。
 恨まれて当然過ぎて。滑稽過ぎるよ。

「恨み、あるよ? 俺が殺すと決めた時に視界に入ったのに生きてるからなぁ! てめぇを殺し、ユウキも殺し、そして記念すべき千人目は金ピカ野郎だ!」

「そうですか。はは、逃げようと思ったのですが、それを聞いたら逃げれませんよ」

 近くに落ちて戦えそうな物は無かった。
 この国の建物は金属で出来ている。建物に被害は出ないだろう。
 一般人も離れて行っている。
 成る可く時間を稼ぎたい。

「そうですか。⋯⋯見逃してくれる気は⋯⋯」

「時間稼ぎの気か! 死ねぇ! 俺の為に!」

「貴方為に死にたくは無いですね。せめて、父や元仲間、あの二人の為が良いです」

 剣に闇を纏われて振るって来る。
 それを躱すが、徐々に擦れ傷が出て来る。
 鮮血が視界に入って来る。痛みは自然と感じないが、反撃出来ない。
 格闘技が通じるだろうか? 手を伸ばした瞬間に腕を切断されそうで攻撃に動けない。

「ふぅぅぅ」

 暗殺の時よりも神経が研ぎ澄まされている。
 相手の動きが少しばかりゆっくりに見える。
 躱すのが少し楽に成った。それでも大変なのは変わりない。

「加速斬り!」

「なっ! いぎああああ!」

 深く腹を裂かれた。
 大きく後ろにステップし、着地と同時に腹から大量の血が飛び出る。
 一気に血を流し過ぎた。意識が薄れて行く。

「きゅ⋯⋯に?」

 いきなり加速した刃に着いて行けなかった。
 ゆっくりと近づいて来る。

「じゃあな」

「⋯⋯ぁ」

 ま、私の死としては妥当なのだろうか?

「かはっ」

 腹を突き刺される。

 地面に倒れ、少し遠くが見える。私は自然に小さな笑みを浮かべれた。
 串カツを地面に落としたサナ、そして隣に立つのはユウキである。
 二人とも、⋯⋯あぁ、もうどんな顔か見えないや。
 でも、剣が衝突する音が聞こえる。

 光が、見えないよ。

「ヨツキ! なぁ! 耐えろ! 今、回復薬を!」

「ゆ、き」

 少しだけ感じる温もり。少しだけ見える光。
 傍に、ユウキが居るよ。

「こる、しざ、だめ、ょ」

 私は殺されて当然の人間だ。そして、ユウキ達にもこれ以上人を殺させたくない。
 だから、殺人鬼は殺すのではなく捕えて欲しい。
 お願い。私の思い、伝わって。

 あぁあ、最後にユウキとサナに会えちゃった。
 会えたよ。

 私の死にしては贅沢過ぎるな。

「ヨツキ! ヨツキいいいいいいいい!」

 こんな私に泣いてくれる人が居るなんてね。
 僅かな時間で、私も随分人が変わったなぁ。

「ああああああああああ!」

 視界に見える二つの光が消えて行く。
 死ぬって、思っていた以上に怖くない。死ぬって、こんなに暖かいんだね。
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