滅んだ国の元軍人兄妹冒険譚〜魔王レベルの魔力保有者は自由に異世界冒険を満喫する〜

ネリムZ

文字の大きさ
5 / 37

のんびりとした一時

しおりを挟む
「はああああ!」

 加速して繰り出されるナイフを俺に突き刺すサナ。
 横にズレて避けて腕を掴んで薙ぎ倒す。
 地面に手を置いて回し蹴りを放って来る。後ろにステップして躱す。
 それでもめげずに突き進むサナ。
 顔にナイフが突き刺さる寸前に俺は腕を掴んで止める。

「今日は終わり。汗拭いて寝な」

「はーい」

 対人戦の訓練を定期的に寝る前にやっている。
 今では教わる事は出来ないけど、一緒に教わった技を伸ばす事は出来る。
 そんな事をして、夜の警戒に務める。

「ミリア様が見て楽しいですか?」

「いえ。毎日こんな事を?」

「国に務めていた時は毎日ですね」

「軍人が対人戦を学ぶところなんて、初めて見ました。大抵は騎士がやってますから」

 騎士は言わば国内の戦力だ。城の守りや門番など。逆に軍人は戦争の戦力。
 ミリアから聞いた内容的に、軍人は兵器を使う練習の方が多いらしい。
 確かに、戦争では新型を持った人間よりも、兵器の方が圧倒的に強い。
 騎士でも軍人でも、下の者の場合は兵士と共通名で呼ぶ事がある。

「魔道具の兵器はやはり、扱うのは難しいですか?」

「分かりません。私自身、魔力を持っていないので」

「そうですか」

 ミリアは今でも護衛の人達を失った事を悲しんでいる。
 しかし、それでも前に進もうとしていた。

「嫌だぁ! 皆! 止めろおおおおお!」

「サナ!」

 悪い夢でも見たのか、サナが騒ぎ出す。
 抱き締めて大丈夫だと必死に耳元で囁く。

「はぁはぁ」

「サナ、さん?」

「すみません。サナは時々、悪い夢を見て。俺達が負けたその瞬間を」

「そう、ですか」

 そして翌日、移動している時に商業馬車とすれ違う。
 お金は盗賊が持っていた奴を使おうかな?
 討伐報酬として。

「すみません。野菜をください」

「こりゃあ大人数で。それにその格好⋯⋯少しまけとくよ」

「ありがとうございます」

 野菜を購入する。
 馬車が去って行った後にミリアが言ってくる。

「亜空間収納の腕輪はあまり人前で使わない方が良いですよ。作るのが難しく、まだ量産出来てないので珍しいのです」

「そうなんですね。ありがとうございます。気をつけます」

 魔法と言うのを盗賊は使っていたが、知らなかった。
 知識的には知っているらしいが、扱い方などは知らないらしい。
 俺達の魔力は盗賊の言い方的に多いらしいが使い方が分からないなら意味が無い。

 今は魔道具だけに魔力が使われている。
 定期的に出現する獣は狩って、魔物は成る可く無視する様にしている。
 そして何日も歩いて、メイドの方に限界が来た。
 靴擦れを起こしていた。

「今日は丸一日ここで休みますか」

 このまま歩いても効率が悪いしな。
 テントの準備をして、近くの安全確認をする。
 アクア行きの馬車があれば乗せて貰いたいが、やはり居ないな。

「64⋯⋯65⋯⋯」

 サナの筋トレを手伝っている。
 俺達は未だにメイドと言葉を交えた事が無い。
 態度が悪いのは分かっているが、そこまで嫌悪されなくても。

「100っ!」

 サナが暇がするあれば訓練をしている。
 あまり過去を思い出さない為に逃げているのだ。

「ようやく半分って所か。まだまだ先は長いなぁ」

「気になっていたんですが、距離が分かるんですか?」

「あぁ。地図は頭に入っているし、方角は太陽の方を見ればすぐに分かる。距離の方も覚えている」

「外交官や護衛の兵士等なら分かりますが、軍人で地図を覚える人って居るんですね」

「普通はそうじゃないのか。俺達は皆そうだよ。これも全部上官達の教えだ。多分、負けた時の逃げ道として教えてくれたって、今では思う。サバイバル術も、全部全部。ミリア様は国に着いたらどうしますか?」

「まずは家に。同伴してください」

「そうですね。報酬も貰わないといけないし」

「そうですね。ユウキさん達はどうするんですか?」

「どうするか、か。サナはどうしたい?」

「123⋯⋯124」

 ダメじゃこりゃ。

 この先か。
 まずはアクアでゆっくりしたい。ゆっくりした後に情報を集めて、違う国を目指す。
 俺達の元陛下が何処に逃げたか分からないが、目標にしたからには一度は話さないとな。
 ただ、あくまで目標だ。
 俺達が生きる目的を失わい為のただの理由付け。
 正直、どうでも良い。

 生きる目的を作るしか俺達に生きる気力が湧かない。
 だから目標を作った。

「観光もありだな」

「え?」

「国に縛られなく成った。自由なんだし、適当にブラブラするさ」

「それでしたら、我が国に⋯⋯」

 俺はそのセリフを手で制す。

「俺達は言わば死に損ない。蘇るつもりは無い。自由にやる。だから、それ以上言わないでくれ」

「⋯⋯はい」

 そうだな。
 一ヶ月、休養して情報を集めて新たな場所に向かう。

「確か、そんな奴らの集まる場所があったな」

「冒険者ギルドですか?」

「そうそうそれ。ギルド。俺達の国は戦争が始まってから皆居なく成ったけど、自由な奴らの集まり。そこに登録して、時々金を稼いで色んな場所を移動する。それも悪かねぇな」

「215⋯⋯216」

「サナさん。大丈夫ですか?」

「問題ないよ。ノルマは千回以上だからね」

 腕立てをひたすら繰り返すサナ。その上に乗る俺。
 俺達のような魔力持ちは身体能力が化け物になるが、それ以外にも体力や筋肉量も人一倍多くなる。
 訓練次第でいくらでも強くなれる。
 だけど、新型兵器の前では無力だった。

 さて、俺は調理の準備でも始めようかな。

 それからまた数日が経過して、あと予定通り行けば三日で到着する予定だ。
 街道を通っているので水場が無く、皆水を染み込ませたタオルで体を拭いていた。
 しかし、そろそろ水も限界だ。
 盗賊が使っていた水も残り少ない。

 近くに水源は無いか探すしかない。しかし、ミリア達を連れて探すなんて時間が無駄に掛かる。
 ここはサナに任せて、俺は水がある場所を探すか。
 近くにある森を探せば川くらいあるだろ。

「サナ、ライフルは成る可く温存しとけよ。新⋯⋯魔道具はいくらでも使って良いからな。俺は水を探して来る」

「分かった。気をつけて」

「当たり前だ」

「帰って来て」

「それこそ当たり前だ」

「ユウキさん。そこの森は⋯⋯」

「⋯⋯大丈夫だろ? 水を探して手に入れて去る。それ以外はしない」

 新型の剣を持って、俺は森を突っ走る。
 耳を済ませて水の音を見逃さない様にする。
 この森は本来人間が入ってはダメな領域だ。
 亜人族のエルフ種が住んでいる森。

 環境破壊を昔ながらにしていた人間を嫌っているのだ。
 成る可く奥に踏み込まない様にしないとな。
 後は魔物に会わない様に。
 流石に新型があっても、一人では魔物を相手に出来ない⋯⋯と思う。やった事ないし分からんな。取り敢えず気をつけよう。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

家ごと異世界転移〜異世界来ちゃったけど快適に暮らします〜

奥野細道
ファンタジー
都内の2LDKマンションで暮らす30代独身の会社員、田中健太はある夜突然家ごと広大な森と異世界の空が広がるファンタジー世界へと転移してしまう。 パニックに陥りながらも、彼は自身の平凡なマンションが異世界においてとんでもないチート能力を発揮することを発見する。冷蔵庫は地球上のあらゆる食材を無限に生成し、最高の鮮度を保つ「無限の食料庫」となり、リビングのテレビは異世界の情報をリアルタイムで受信・翻訳する「異世界情報端末」として機能。さらに、お風呂の湯はどんな傷も癒す「万能治癒の湯」となり、ベランダは瞬時に植物を成長させる「魔力活性化菜園」に。 健太はこれらの能力を駆使して、食料や情報を確保し、異世界の人たちを助けながら安全な拠点を築いていく。

攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。 -俺は何度でも救うとそう決めた-【[完]】

水無月いい人(minazuki)
ファンタジー
【HOTランキング一位獲得作品】 【一次選考通過作品】 ---  とある剣と魔法の世界で、  ある男女の間に赤ん坊が生まれた。  名をアスフィ・シーネット。  才能が無ければ魔法が使えない、そんな世界で彼は運良く魔法の才能を持って産まれた。  だが、使用できるのは攻撃魔法ではなく回復魔法のみだった。  攻撃魔法を一切使えない彼は、冒険者達からも距離を置かれていた。 彼は誓う、俺は回復魔法で最強になると。  --------- もし気に入っていただけたら、ブクマや評価、感想をいただけると大変励みになります! #ヒラ俺 この度ついに完結しました。 1年以上書き続けた作品です。 途中迷走してました……。 今までありがとうございました! --- 追記:2025/09/20 再編、あるいは続編を書くか迷ってます。 もし気になる方は、 コメント頂けるとするかもしれないです。

猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める

遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】 猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。 そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。 まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。

元皇子の寄り道だらけの逃避行 ~幽閉されたので国を捨てて辺境でゆっくりします~

下昴しん
ファンタジー
武力で領土を拡大するベギラス帝国に二人の皇子がいた。魔法研究に腐心する兄と、武力に優れ軍を指揮する弟。 二人の父である皇帝は、軍略会議を軽んじた兄のフェアを断罪する。 帝国は武力を求めていたのだ。 フェアに一方的に告げられた罪状は、敵前逃亡。皇帝の第一継承権を持つ皇子の座から一転して、罪人になってしまう。 帝都の片隅にある独房に幽閉されるフェア。 「ここから逃げて、田舎に籠るか」 給仕しか来ないような牢獄で、フェアは脱出を考えていた。 帝都においてフェアを超える魔法使いはいない。そのことを知っているのはごく限られた人物だけだった。 鍵をあけて牢を出ると、給仕に化けた義妹のマトビアが現れる。 「私も連れて行ってください、お兄様」 「いやだ」 止めるフェアに、強引なマトビア。 なんだかんだでベギラス帝国の元皇子と皇女の、ゆるすぎる逃亡劇が始まった──。 ※カクヨム様、小説家になろう様でも投稿中。

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

【完結】異世界で魔道具チートでのんびり商売生活

シマセイ
ファンタジー
大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!

相続した畑で拾ったエルフがいつの間にか嫁になっていた件 ~魔法で快適!田舎で農業スローライフ~

ちくでん
ファンタジー
山科啓介28歳。祖父の畑を相続した彼は、脱サラして農業者になるためにとある田舎町にやってきた。 休耕地を畑に戻そうとして草刈りをしていたところで発見したのは、倒れた美少女エルフ。 啓介はそのエルフを家に連れ帰ったのだった。 異世界からこちらの世界に迷い込んだエルフの魔法使いと初心者農業者の主人公は、畑をおこして田舎に馴染んでいく。 これは生活を共にする二人が、やがて好き合うことになり、付き合ったり結婚したり作物を育てたり、日々を生活していくお話です。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

処理中です...