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クイーンドリアード戦

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 翌朝、地上の入口での集合と言う事で、静華モードとなって唯華と共に向かう。

 朝早くなため、仕事の下準備を始めている人以外は誰もおらず静かな道を歩き、その先には既に目立つ人影が立っている。

 白髪の長い髪に琥珀色の綺麗な瞳⋯⋯黄金の髪飾りもしているが、俺の目が行くのは翡翠のネックレスだった。

 決して、聖女の胸が大きいから視線が落ちている訳では無い。無いったら無い。

 「おはようございます。お先にいらっしゃったのですね」

 「共闘を願い出た立場ですので、遅れるのは失礼に当たります」

 聖女の存在を当然把握している兵士達は萎縮してしまった。

 唯華の手荷物はスーツケースとかなり大きいため、その事に付いて気になる様子。

 しかし、それはこちらの手の内であるため聞かれても答えるつもりは無い。

 聖女も理解しているのだろう。特に質問はして来なかった。

 「わたくしのアビリティに付いてはお伝えしてもよろしいでしょうか」

 「よろしいので?」

 「もちろんでございます。手の内を知らなければ連携もままならない。片方が知っていれば対応は可能でしょう」

 「では、お聞かせ願います」

 「はい。わたくしのアビリティは【神聖治癒魔術サクロヒーリングスペル】【神聖攻撃魔術セイクリッドスペル】【神聖防壁魔術サンクチュアリスペル】【神聖支援魔法ホーリーネススペル】。神聖力を使って自由自在な魔術を行使できます。【神聖支援魔法】に関しては自由自在とはいきません。他のアビリティと組み合わせる事で詠唱は破棄しております」

 神聖力、魔力とは違うがアビリティを使うためのエネルギーって考えれば似たような物。

 同種じゃないので、魔力を無効化する力、と言うのが通用しない点が注意するべきところか。

 魔術と魔法⋯⋯。聖女の力を知れるのはありがたいところだ。

 魔術はイメージの世界。イメージで様々な現象を起こし、その力に応じた量のエネルギーを消費する。

 魔法はルールの世界。決まった詠唱、動作などで現象を引き起こす。消費エネルギーも決まっている。

 攻撃、防御、回復をイメージだけで完結させる力。

 「頼もしい限りですね」

 「それはこちらも同じでございます。よろしくお願いしますね、メイドさん」

 「ええ」

 「それとわたくしの本名は天野聖奈あまのせいなです」

 転移陣に乗り、地上へと移動する。

 そこは既にターゲットモンスターのテリトリー。

 「自然豊か⋯⋯とは言い難いな」

 自然豊かと言えば森などを想像するだろう。今の日本に森がどれ程残っているかは気になるところだが。

 森と言えば木々を連想できる。

 しかし、葉が無く歪な形の木が多ければそれは自然豊かとは言えないだろう。

 怪しげな雰囲気。

 「⋯⋯クイーンドリアード。早速お出ましのようですね」

 「【換装】シュナイデンスタイル」

 全身換装をし、抹茶色をベースとしたワンピースに白のエプロン、そんなメイド服に着替え髪型はツインテール。

 武器は2メートル近くに思える戦斧である。メイド服の内側には部位鎧を着用している。

 今までのどの戦いよりも戦闘向きのスタイルと言えよう。

 虚空に光を顕現させ浮遊させる天野さん。

 俺はスーツケースを離れた場所まで運んで身を潜めて、気配を殺す。

 俺にできる事は何も無い。強いて言うなら、唯華に護って貰い彼女のパワーアップに協力するくらいだ。

 戦闘準備を終えた二人の前に、自分が用意したであろう木々を押し退けて大木が現れる。

 大木には顔は無い。しかし、睨まれていると言う威圧感はヒシヒシと感じる。

 「この木偶をしばきます。早急に」

 唯華が強く地面を蹴って肉薄し、本体に向けて斧を振り下ろした。

 が、それを防御する木の根が地面から伸びる。

 「そんなもの!」

 唯華の力があれば簡単に切り裂く事はできるだろう。

 しかし、クイーンドリアードの実力は想定よりも高かった。

 唯華が切断に失敗したのだ。

 「むっ?」

 角度を工夫して常に動かす事で力を分散させたのだ。

 切断が失敗に終わった唯華は一度距離を取る。深追いは禁物だ。

 「それではわたくしも行きます」

 閃光がドリアードに迫る。それが巨木の盾によって防がれる。

 「この程度の出力では意味がありませんか。では、もう少し火力を上げましょう」

 より大きな光を顕現させる。唯華も負けじと接近する。

 クイーンドリアードの攻撃は木の根の物理攻撃がメインらしい。

 地中から伸びるその根はどこから出るか分からない。しかも、ここは奴のテリトリー。

 既に張り巡らされた根からも攻撃はされる。

 「私には当たりません」

 全方向に目が付いているのか、そう思わせる程に見事な回避を繰り返す。

 天野さんの方は結界のシールドを展開して攻撃を防いでいた。

 「はぁ!」

 「貫きます」

 二人の特大の攻撃が防御を突き破って本体に命中する。

 「ぐっ」

 唯華が珍しく顔を顰める。

 それが何を意味するのか、それはすぐに分かった。

 「無傷!」

 戦斧のフルスイングを受けても無傷⋯⋯どれだけの硬さがあれば可能なんだ?

 天野さんの攻撃も意味を成して無かった。

 「これはかなりの難敵ですね」

 「少し妙な感覚がしました。ダメージは与えたつもりなんですけど」

 唯華の言葉で俺は過去に読んでいたモンスターの情報を掘り起こす。

 その間にドリアードは葉っぱでの攻撃を繰り出した。

 高速に回転する葉っぱはまるで電動ノコギリ。しかも数は空を覆う程。

 「防ぎます」

 天野さんの結界が俺ごと覆って葉っぱの攻撃から守る。同時に地中から伸びる根がシールドを覆ってしまう。

 「なんと言う質量でしょうか。このまま続けば打ち破られるかもしれません」

 「理解した。その前に根を断ち切る」

 唯華が戦斧を構え、シールドに絡みついた根を切断して行く。

 「そうか」

 そこでようやく、俺はある知識を思い出す事に成功した。

 ドリアードは根を常に地中に張っている。それは木の魔物だから当たり前なのかもしれない。

 唯華の妙な感覚と言うのはここに繋がっている。

 土の中の栄養を吸収して急速に再生しているのだ。

 「でも、今の地上にそこまでの栄養⋯⋯が」

 俺の仲間にアースワームと言うミミズのようなモンスターがいる。

 そいつはここ最近、ここら辺で出会った。

 アイツが地中の土を食い、栄養素の高い糞を出して土に溶け込んでいるとしたら⋯⋯ここの土は作物を育てるのに適した栄養のある土となる。

 「それが原因か⋯⋯」

 生命は食わなければ生きてはいけない。ドリアードの場合は土の栄養である。植物だからな。

 クイーンドリアードは巨体。その分沢山食べる。沢山の栄養が必要となる。

 クイーン、と言う名が付けられる理由としてドリアードを生産する、そんな理由がある。

 もしも数を増やすための栄養を求めているとしたら⋯⋯。

 「ここら一帯が干からびる⋯⋯と言うかドリアードの森が完成するな」

 それは厄介だ。この場所に降りる事ができなくなる可能性が高い。

 住んでいる箇所から直接地上に降りられないのは不便でしかない。

 「根を土から出せれば⋯⋯或いは本体との繋がりを切る」

 唯華達が再びドリアードに攻撃を仕掛けている。

 「⋯⋯そもそも二人の実力を前にして一瞬で無傷までに回復できるか?」

 比べる対象を知らないため、確信が持てる訳では無い。

 だけど、配信のコメントで驚かれていたように唯華のパワーは異常なのだ。

 それに加えて貴族地区に入れる実力者であり、大きな組織であるアマテラスのナンバー2の攻撃を受けている。

 「防御力が尋常じゃない。土の栄養以外にも何かありそうだな」

 だけどそれが何かは分からない。俺には俺のできる事をしよう。

 と、言っても俺は弱いので誰かに頼る事しかできないんだけど。

 「【召喚】」

 仲間達を召喚する。

 「ルアーを中心にこの辺の根を片っ端から切って欲しい。地面から抜いても構わない。武器とかは無いからそこは申し訳ない」

 モンスター達は唯華達の方を見てから、頷いて散開する。

 バラバラでやっても効率は悪い。根だけだとしても相当の耐久度があるからだ。

 そこはルアーが指揮をしてバランスを考える。

 実力的にはキメラモンスターである女の子達も欲しいが、さすがに任せるのは酷だろう。

 そう、思っていた。

 「あれ? なんで皆まで?」

 俺が召喚したのはオーガ達だけだ。

 しかし、アースワーム含めて他のメンバーも全員召喚されている。

 山目さんはグリフォンの見た目をしているので、目を合わせるのは凄く怖いが、熱意を感じた。

 「皆も、手を貸してくれるのか?」

 全員が頭を縦に振ってくれた。

 「これは大きな貸しになりそうだな。ありがとう。助かるよ」

 これで根を刈る範囲を大きく広げられる。

 この子達を危険視して攻撃される可能性もあるが、唯華達を前にそんな余裕は無いだろう。

 「アースワームは地中の根を⋯⋯食べてくれ。土は食べちゃダメだ⋯⋯いや、植物に対して良い影響を与える栄養の土は食べて良い。むしろ食ってくれ」

 お願いすると、彼は身体を出会った頃のような大きなモノに変えて土に潜る。

 「大きくなれたのか」

 その後、小さなアースワーム達もぞろぞろと地中に入る。

 「頑張れ、唯華。僕は応援しかできないけど。心は傍にいるよ」
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