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新たな金稼ぎの予感
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「おじさん」
「あれ? 静華ちゃん。いらっしゃい」
「野菜が安売りしてるって聞いて来ました」
「そうだよ。コレだけどね」
人参とキャベツだった。どれも立派に成長したとは言い難い見た目をしている。
空気はそこそこ綺麗な場所だし、しっかりと育ちそうな気がする。
それに農家のおじさんのアビリティは農業に適していると聞いた事がある。
「これは一体?」
「少し前から土の調子が悪くてね。同じ野菜を育て過ぎたかもしれないね。まぁ、アマテラスの人達が来てくれたら解決するだろうし、しばしの辛抱だね」
「⋯⋯そうですね」
畑は力を無くしたように薄い茶色で枯れていた。野菜を育てるに適してないのは素人の目からも分かる。
おじさんの困った表情から見ても滅多に無い事なのだろう。
「本当はきちんとした野菜を売りたいんだけどね」
「そうですね」
ここの番区は貧民地区の中でも裕福な方である。物価も安い方。
その理由がおじさんの言っていた宗教の『アマテラス』だ。
慈愛と博愛の精神で活動する慈善主義者の集まりだ。神アマテラスを信仰している。
貧民地区にも貴族地区で作られた野菜などを提供している。
そこまで規模が大きい訳では無いためにこの番区にしか供給は無いが、それでも素晴らしい事だろう。
物資が潤沢になれば奪い合う争い事も起こらない。
アマテラスはその慈善活動でここの人達から慕われている。それだけの活動をしているのだ。
俺は嫌いだが、助かっているのは事実だ。
2番区に拠点を構えているのもアマテラスの支援物資があり、生活が送りやすいからだ。
アマテラスの影響でここの人達は優しい人が多いのもありがたかった。余所者である俺らを受け入れてくれたから。
「どうしたんだい暗い顔して?」
「い、いえ」
無意識に暗い顔をしていたらしい。苦笑いで誤魔化して野菜を購入する。
「数日後にはアマテラスの聖職者達が来るんですか?」
「そうだね。周期的に考えて一週間もしないと思うよ」
「そうですか。情報ありがとうございます」
「良いんだよ。貧民は助け合いをしないと長生きできないからね。静華ちゃんは子供だし、沢山食べないとね。これも良ければ」
差し出されたのはじゃがいも3個だ。色合いは問題ないだろうが、少し芽が顔を出している。
「良いんですか? その、お金が」
モジモジといじらしくする。
「良いんだよ」
「ありがとうございます!」
できる限りの明るい笑顔でじゃがいもを受け取る。
これも少女の強みだと言えよう。
家に帰りながらおじさんとの話を思い出す。
「今回も給付があれば節約できて大助かりだけど、難しいかな」
慈善活動、見返りのない行動をしている。他から考えたらありえない集団だ。
贅沢は言えない。
個人的に彼らには頼りたくないが、それでも厳しい生活。背に腹はかえられぬと言うモノ。
「あーだめだ。アマテラスの事を考えるとむしゃくしゃする」
それでも考えてしまう。
例えばここの人達に質問してみよう。
アマテラスの人達についてどう思っているのか。
そうすると全員が同じ答えを出すだろうな。
『聖人の集まり』って。
不快な気持ちになって家に帰り、元の姿に戻る。
「おかえりなさいませ」
「ただいま。野菜が安かったから買って来た。すぐに食べないと腐るだろうから昼食の準備をするよ」
「本当なら私が料理をするところを⋯⋯」
「気にするな。戦いでは全てユイに頼っているんだ。これくらいは俺にやらせてくれよ」
料理をしながらおじさんの畑の事を思い出す。
同じ野菜を育て過ぎて成長が悪くなっているらしい。
別の野菜を育てれば良いと考える人もいるだろうが、難しい事情があるのだろう。
アビリティか気温か季節か、俺は専門家じゃないので具体的には分からない。
勉強不足なのが悲しいところだ。
「土か⋯⋯」
そこで放置しているアースワームの存在を思い出したので、俺の管理世界へと向かう事にした。
未だに新たなモンスターをテイムできて無いので、ボッチである。
少し大きくなったアースワームがフカフカな土の中から顔を出す。
「少し良いか?」
アースワームは身体を縦に振って問題ないと示してくれる。
「畑の土の栄養を元に戻せるか?」
何を言っているのか分からない、そんな仕草を細長い身体で表現する。
俺もどう説明したら良いか。
「あれだな。ここの土みたいに元気は大地にできるか?」
できるよーっと身体をくねくねさせる。
「それならアースワームを畑に提供するのはありかもしれんな。こんなんでもAランクのモンスターだし。テイムモンスターだと知っていれば驚かれる事も無いだろう」
しかし問題が一つだけある。
それは唯一の仲間を外に放置するって事だ。
反乱でも起こされたらたまったもんじゃない。
絶対的な信頼関係が結べている訳では無いのが現状だからな。
畑で暴れられたら大問題。
それこそアマテラスの介入が入って調査される可能性が十分にある。
姿形を変えているとはいえ、完璧に逃げられる自信はない。
「お前が分身とかできたら良いんだけどなぁ」
人差し指で撫でながら呟く無意味な願望。
撫でる感触はぷにぷにしているが、それが逆に気色悪い気持ちにする。
「お、なんだ?」
アースワームは震えだして、身体の一部から同じような見た目のワームが出て来る。
⋯⋯オブラートに包んで言うなら気持ち悪い。
肉がうにょうにょと出て来て形を作って行くのだ。気持ち悪いに決まっている。
「アースワームの分身って言うか子供に近い気がする。まさかこうして繁殖していたとは」
一体入れば沢山いる可能性はある。これは良い発見かもしれないな。
Aランクって数が少ないイメージだけど、この増え方ならアースワームは沢山いそうだ。
巨大なミミズが何十体と。吐き気がするな。
実際は沢山いないので、きっと何かしらの理由があるのだろう。
「一応テイムした証はあるのか⋯⋯コイツを外に連れ出しても問題ないか?」
大丈夫だよー、と身体を揺らしたのでありがたく借りようと思う。
唯華に一言告げてからもう一度畑の方へと歩き出す。
「おじさん」
「おや。忘れ物かい?」
「いえ。少しご相談が」
俺はアースワームを出してテイムモンスターだと素直に打ち明ける。
但し、サイズが普通のミミズなので正式名称とランクは偽っておいた。
「きっと畑の益虫になりますよ。賢いので作物を食い荒らす事は無いと思います」
それにコイツらの主食は鉱石や土なので野菜は食わないはずだ。
おじさんは何度か悩むように顔を傾けてから、発言する。
「だけどそれは静華ちゃんのテイムしたモンスターなんだろう。借りるにもうちにそんな余裕は⋯⋯」
無料なんてのは本来今の世界では無い事だ。
全ての資源には価値がある。
アビリティが絡むなら尚更にその価値は跳ね上がる。
だからおじさんはテイムモンスターの力を借りるのに賃貸料金が発生するのだと判断した。
畑の土が元に戻る事がどれだけの利益になるか正直分からない。
だけどおじさんは自分では払えないと判断したらしい。
「毎回ここで野菜を買う時、おまけしてくれますよね。そのお礼です」
「でもなぁ。せっかくのテイムモンスターをこんなとこで腐らせるのは⋯⋯」
「適材適所ですよ。それに、この子も偶然手にしたモノですから」
俺の力はあまり入ってない。
唯華がフルボッコにして恐れた結果、俺に付き従っているに過ぎないのだから。
もしも暴れたらその時はこの子の命は無い。きっとその恐怖が本能に刻まれている。
だから善悪を教えればしっかり判断してくれるだろう。
「そこまで言うなら助かるけど、どのくらいの力があるか確認しても良いか?」
「はい。土の中に放置して翌日様子を見ましょう」
「おう」
翌日、畑の方に向かっておじさんと合流する。
「どうですか?」
「どうですかって⋯⋯見ての通りだ」
俺は驚いた様子のおじさんの言葉に従って畑を見る。
「まさかこんな事になるなんて⋯⋯」
俺はモンスターの力を甘く見ていたのかもしれないな。
「一日で畑の土を全て耕したんですね」
枯れ果てた薄茶色だった土が濃い茶色になっていた。
「⋯⋯静華ちゃん。これからも頼んでも良いか?」
「貧民は助け合わないと長生きできない、ですよね。おじさんには長生きして欲しいですから。今後も料金はいりませんよ」
「ありがとう」
「こちらこそ、いつもありがとうございます」
テイムモンスターを使った商売か。今後はコレも視野に入れていかないとな。
モンスターと心を通わせる練習を今日からしていこう。
「あれ? 静華ちゃん。いらっしゃい」
「野菜が安売りしてるって聞いて来ました」
「そうだよ。コレだけどね」
人参とキャベツだった。どれも立派に成長したとは言い難い見た目をしている。
空気はそこそこ綺麗な場所だし、しっかりと育ちそうな気がする。
それに農家のおじさんのアビリティは農業に適していると聞いた事がある。
「これは一体?」
「少し前から土の調子が悪くてね。同じ野菜を育て過ぎたかもしれないね。まぁ、アマテラスの人達が来てくれたら解決するだろうし、しばしの辛抱だね」
「⋯⋯そうですね」
畑は力を無くしたように薄い茶色で枯れていた。野菜を育てるに適してないのは素人の目からも分かる。
おじさんの困った表情から見ても滅多に無い事なのだろう。
「本当はきちんとした野菜を売りたいんだけどね」
「そうですね」
ここの番区は貧民地区の中でも裕福な方である。物価も安い方。
その理由がおじさんの言っていた宗教の『アマテラス』だ。
慈愛と博愛の精神で活動する慈善主義者の集まりだ。神アマテラスを信仰している。
貧民地区にも貴族地区で作られた野菜などを提供している。
そこまで規模が大きい訳では無いためにこの番区にしか供給は無いが、それでも素晴らしい事だろう。
物資が潤沢になれば奪い合う争い事も起こらない。
アマテラスはその慈善活動でここの人達から慕われている。それだけの活動をしているのだ。
俺は嫌いだが、助かっているのは事実だ。
2番区に拠点を構えているのもアマテラスの支援物資があり、生活が送りやすいからだ。
アマテラスの影響でここの人達は優しい人が多いのもありがたかった。余所者である俺らを受け入れてくれたから。
「どうしたんだい暗い顔して?」
「い、いえ」
無意識に暗い顔をしていたらしい。苦笑いで誤魔化して野菜を購入する。
「数日後にはアマテラスの聖職者達が来るんですか?」
「そうだね。周期的に考えて一週間もしないと思うよ」
「そうですか。情報ありがとうございます」
「良いんだよ。貧民は助け合いをしないと長生きできないからね。静華ちゃんは子供だし、沢山食べないとね。これも良ければ」
差し出されたのはじゃがいも3個だ。色合いは問題ないだろうが、少し芽が顔を出している。
「良いんですか? その、お金が」
モジモジといじらしくする。
「良いんだよ」
「ありがとうございます!」
できる限りの明るい笑顔でじゃがいもを受け取る。
これも少女の強みだと言えよう。
家に帰りながらおじさんとの話を思い出す。
「今回も給付があれば節約できて大助かりだけど、難しいかな」
慈善活動、見返りのない行動をしている。他から考えたらありえない集団だ。
贅沢は言えない。
個人的に彼らには頼りたくないが、それでも厳しい生活。背に腹はかえられぬと言うモノ。
「あーだめだ。アマテラスの事を考えるとむしゃくしゃする」
それでも考えてしまう。
例えばここの人達に質問してみよう。
アマテラスの人達についてどう思っているのか。
そうすると全員が同じ答えを出すだろうな。
『聖人の集まり』って。
不快な気持ちになって家に帰り、元の姿に戻る。
「おかえりなさいませ」
「ただいま。野菜が安かったから買って来た。すぐに食べないと腐るだろうから昼食の準備をするよ」
「本当なら私が料理をするところを⋯⋯」
「気にするな。戦いでは全てユイに頼っているんだ。これくらいは俺にやらせてくれよ」
料理をしながらおじさんの畑の事を思い出す。
同じ野菜を育て過ぎて成長が悪くなっているらしい。
別の野菜を育てれば良いと考える人もいるだろうが、難しい事情があるのだろう。
アビリティか気温か季節か、俺は専門家じゃないので具体的には分からない。
勉強不足なのが悲しいところだ。
「土か⋯⋯」
そこで放置しているアースワームの存在を思い出したので、俺の管理世界へと向かう事にした。
未だに新たなモンスターをテイムできて無いので、ボッチである。
少し大きくなったアースワームがフカフカな土の中から顔を出す。
「少し良いか?」
アースワームは身体を縦に振って問題ないと示してくれる。
「畑の土の栄養を元に戻せるか?」
何を言っているのか分からない、そんな仕草を細長い身体で表現する。
俺もどう説明したら良いか。
「あれだな。ここの土みたいに元気は大地にできるか?」
できるよーっと身体をくねくねさせる。
「それならアースワームを畑に提供するのはありかもしれんな。こんなんでもAランクのモンスターだし。テイムモンスターだと知っていれば驚かれる事も無いだろう」
しかし問題が一つだけある。
それは唯一の仲間を外に放置するって事だ。
反乱でも起こされたらたまったもんじゃない。
絶対的な信頼関係が結べている訳では無いのが現状だからな。
畑で暴れられたら大問題。
それこそアマテラスの介入が入って調査される可能性が十分にある。
姿形を変えているとはいえ、完璧に逃げられる自信はない。
「お前が分身とかできたら良いんだけどなぁ」
人差し指で撫でながら呟く無意味な願望。
撫でる感触はぷにぷにしているが、それが逆に気色悪い気持ちにする。
「お、なんだ?」
アースワームは震えだして、身体の一部から同じような見た目のワームが出て来る。
⋯⋯オブラートに包んで言うなら気持ち悪い。
肉がうにょうにょと出て来て形を作って行くのだ。気持ち悪いに決まっている。
「アースワームの分身って言うか子供に近い気がする。まさかこうして繁殖していたとは」
一体入れば沢山いる可能性はある。これは良い発見かもしれないな。
Aランクって数が少ないイメージだけど、この増え方ならアースワームは沢山いそうだ。
巨大なミミズが何十体と。吐き気がするな。
実際は沢山いないので、きっと何かしらの理由があるのだろう。
「一応テイムした証はあるのか⋯⋯コイツを外に連れ出しても問題ないか?」
大丈夫だよー、と身体を揺らしたのでありがたく借りようと思う。
唯華に一言告げてからもう一度畑の方へと歩き出す。
「おじさん」
「おや。忘れ物かい?」
「いえ。少しご相談が」
俺はアースワームを出してテイムモンスターだと素直に打ち明ける。
但し、サイズが普通のミミズなので正式名称とランクは偽っておいた。
「きっと畑の益虫になりますよ。賢いので作物を食い荒らす事は無いと思います」
それにコイツらの主食は鉱石や土なので野菜は食わないはずだ。
おじさんは何度か悩むように顔を傾けてから、発言する。
「だけどそれは静華ちゃんのテイムしたモンスターなんだろう。借りるにもうちにそんな余裕は⋯⋯」
無料なんてのは本来今の世界では無い事だ。
全ての資源には価値がある。
アビリティが絡むなら尚更にその価値は跳ね上がる。
だからおじさんはテイムモンスターの力を借りるのに賃貸料金が発生するのだと判断した。
畑の土が元に戻る事がどれだけの利益になるか正直分からない。
だけどおじさんは自分では払えないと判断したらしい。
「毎回ここで野菜を買う時、おまけしてくれますよね。そのお礼です」
「でもなぁ。せっかくのテイムモンスターをこんなとこで腐らせるのは⋯⋯」
「適材適所ですよ。それに、この子も偶然手にしたモノですから」
俺の力はあまり入ってない。
唯華がフルボッコにして恐れた結果、俺に付き従っているに過ぎないのだから。
もしも暴れたらその時はこの子の命は無い。きっとその恐怖が本能に刻まれている。
だから善悪を教えればしっかり判断してくれるだろう。
「そこまで言うなら助かるけど、どのくらいの力があるか確認しても良いか?」
「はい。土の中に放置して翌日様子を見ましょう」
「おう」
翌日、畑の方に向かっておじさんと合流する。
「どうですか?」
「どうですかって⋯⋯見ての通りだ」
俺は驚いた様子のおじさんの言葉に従って畑を見る。
「まさかこんな事になるなんて⋯⋯」
俺はモンスターの力を甘く見ていたのかもしれないな。
「一日で畑の土を全て耕したんですね」
枯れ果てた薄茶色だった土が濃い茶色になっていた。
「⋯⋯静華ちゃん。これからも頼んでも良いか?」
「貧民は助け合わないと長生きできない、ですよね。おじさんには長生きして欲しいですから。今後も料金はいりませんよ」
「ありがとう」
「こちらこそ、いつもありがとうございます」
テイムモンスターを使った商売か。今後はコレも視野に入れていかないとな。
モンスターと心を通わせる練習を今日からしていこう。
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