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物理系魔法少女、レベルアップ

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 「一体あれはなんですの!」

 「俺も知らん」

 正確に言えば分からない、方が正しいか。

 俺のステータスには文字化けがあるし、神器ってのも持っていると言われている。

 だからそれに伴った力だとは思うが、詳細は不明だ。

 煩わしい光を出すだけの神器だと思っていたが、そうでは無いのだろう。

 「まずは魔石を探さないとな。これ以上は勘弁だぞ」

 それから数十分捜索しても魔石は見つからなかった。

 だけどドラゴンが襲って来る事はなかったし、倒したって事で間違いないだろう。

 「倒したのに報酬が得られない、なんか損した気分」

 「でも、撮れ高としては十分ではありませんか?」

 「それはそうかもだけど」

 やっぱり納得できない事がある。

 理屈とかじゃなくて心の問題なんだけどさ。

 無い物はしかたないし、諦めて帰る事にした。

 『終わってしまう』
 『おつかれさんした』
 『まじでヤバかった』

 『三回もドラゴン倒したんだよな。さすがです』
 『最後のあれは何?』
 『隠れているとかない?』

 『新たなマジカルパンチにびっくりしたよ』
 『今日も最強のスカートでしたね(怒)』
 『また今度ね』

 『次は何週間後かな?』
 『なるはやでお願い』
 『ばいばーい』

 終わりムードの中、それを壊す事はしないで俺はライブを終えた。

 本来の目的を果たす程の気力が既にない。もう帰ってゆっくりしたい。

 いつもよりもだいぶ早い帰りだけど、許してくれるかな?

 「シロエさんはどうする?」

 「わたくしは⋯⋯疲れましたので帰って休みます」

 「分かった。この元凶である鉱石はどうする?」

 レッドドラゴンが餌としている鉱石から始まったこの戦い。

 その鉱石は一つしかないので、どのように金を分けるかと言う相談。

 「わたくしは大丈夫ですわ」

 「そう言う訳にはいかないよ。シロエさんが居なかったら、死んでいた可能性だってあるんだ。何も無しは罪悪感に悶絶する」

 「そうですか⋯⋯」

 シロエさんは少し考え後、人差し指を上に向けた。

 「一つ貸しですわ」

 「それは、大きな貸しだな」

 それだけを残してゲートを通り、紗奈ちゃんの受付へと向かった。

 受付では顔を机に押し当てている紗奈ちゃんの姿があった。

 「助けに行こうとしたら、支部長に止められた」

 「そ、それは⋯⋯残念?」

 助けられる程のピンチじゃなかったって事かな?

 でも紗奈ちゃんは助けに来ようとしていた。

 考えても分かんないか。

 「今日の成果は少ないよ」

 「この鉱石一つでかなりの額はするよ。査定してもらうから、ちょっと待ってて」

 俺はロビーの適当な椅子に座って、呼び出されるのを待つことにした。

 空中戦をどうするかを考えないといけないな。

 俺が一人で戦いの反省会をしていると、隣にいつの間にかロリ職員が座って、みたらし団子を食べていた。

 「仕事しなくて良いんですか?」

 「してるって。問題ない問題ない。お疲れだったね、ドラゴン退治」

 「さぁ、なんの事やら」

 なんで知っているのか不思議だ。

 配信で観たと言われても、俺とアカツキを結びつけるのは難しいと思う。

 紗奈ちゃんのような鋭い観察眼があれば話は変わるだろうが、それでも難しい事に変わりない。

 弁当の包などを把握している訳でもないだろうしね。

 「紗奈っちとは仲が良いんだよね。だからだいたい分かっちゃってるんだよ、アカツキちゃん?」

 「会話の流れで俺が配信者のアカツキと同一人物だと?」

 「そうじゃないと辻褄が合わない時があるのさ」

 「そうですか」

 紗奈ちゃんか直接言った訳じゃないのかな?

 まぁ関係ないか。

 バレているのならそれはそれだ。この人が俺以外の誰かと関わったところを見た事ないし。

 他人にペラペラ喋らなければ問題ないと思う。

 「あ、みたらし食べる?」

 「遠慮しておきます。食欲が無いので」

 ドラゴンゾンビの悪臭が今でも鮮明に蘇る絶望ね。

 おかけで食欲が全く湧かない。クソがっ。

 「そっかぁ。まぁドラゴンゾンビの臭いってキツいよね」

 「⋯⋯ッ! 臭いますか?」

 持っていた回復ポーションを全てぶっかけたが、臭いは完全に消えてなかったか?

 でも紗奈ちゃんは普通だったような気がするけど。

 「鼻が利くのですよ。後はポーションの臭いもすごいね。消そうとしたのかな?」

 「なんでもお見通しって訳ですか?」

 「推測さ」

 横目で確認すると、彼女は消えていた。

 なので俺は受付に向かって、呼び出された次の瞬間には前に立っていた。

 「来るタイミングが分かっているみたい⋯⋯これが運命なんですね」

 紗奈ちゃんがそんな事を口走る。下手に否定するのは後が怖い。

 なので肯定する。

 「ああ」

 「星夜さんの嘘を私が見抜けないとでも?」

 「わぉ。トラップだったか」

 くだらない茶番は終わり、査定金額が提示され、銀行の方に移す事にした。

 後はステータスカードを提出して終わりだ。

 「レベルが上がってますね。おめでとうございます」

 「お?」

 俺はステータスカードを覗き込む。

 確かにレベルが上がっていた。

 ついにアオイさん達を超えたか⋯⋯あの人達のレベルが上がって無ければの話だが。

 「目標まではまだ全然遠いな」

 ボソリと呟いたが、この距離だと紗奈ちゃんには聞こえているだろう。

 しかし、深くは聞いて来なかった。
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