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物理系魔法少女、天使にパワーで負ける

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 アオイさんを救いたいと考えているが、それを実行するにしてもプランが無い。

 そんな状態で突如としてミカエルと言う天使が現れた。

 ミドリさんとの会話を聞いている限りだと、アオイさんを殺せと言う事だと思う。

 そしてミドリさんの友情をバッサリと切り捨てた。

 「お前は不良品ではないだろ。だから頼んだのだ。あの歯車を処分しろと」

 「でも、ですが」

 「友など我々に必要あるのか? 無いだろう?」

 「アオイちゃんは、仲間で」

 その言葉にため息でも出したかのような間を空けてからミカエルは言葉を出す。

 「我々は軍であり個ではないのだ。それを乱す輩は処分する。それだけだ。友情などとくだらぬ理由で責務を蔑ろにするな。お前も不良品の烙印が欲しいか?」

 「不良品は、嫌や。絶対に」

 「そうだろう。殺れ」

 ミドリさんは『不良品』と言う言葉を聞いてから明らかに動揺が激しくなっている。

 身体の震えや目の動きが、その動揺を第三者に分かりやすく伝えている。

 何となく、東京で聞いた話と繋がる気がする。

 きっと彼女にとっての禁句なのだろう。多分アイツはそれを理解している。

 理解した上で煽っているんだ。

 捨てられた子は次は捨てられないと、親の望むままに行動する。⋯⋯知らんけど。

 「うちは、不良品やない」

 感情がなさそうなくせに、人の嫌がる事は分かるのかね?

 あーくそ。口も動かねぇ。

 ミドリさんは剣を持って、抵抗しないアオイさんに向かって歩いて行く。

 横顔は真っ青だ。

 止めろ。止めろ!

 「や、め、ろおおおおお!」

 俺は地面を蹴って、ミドリさんの前に立った。

 「なぜ我の前で動ける」

 「そこに戸惑いはあるのか? 冷静だな。そんなもん気合いだろ」

 俺が前に出ると、ミドリさんと目が合う。

 なにかに縋るような目だ。

 社会人時代、クビにならないようにしていた自分もあんな目をしていたのだろうか?


 「アオイさん。少しでも意識があるなら聞いてくれ」

 そうは言ったが、なんて声をかけて良いのか分からない。

 数少ないアオイさんとの会話でもヒントはあるはずだ。

 思い出せ。

 ダークフォレストの時!

 「今のアオイさんを見て、支えてくれる人はたくさんいる。ミズノや俺だって。一人で抱え込まずに、悲しい時辛い時は誰かに頼って良いんだ! 自分の価値は自分で決められないからな!」

 俺の叫びは静かな森の中に響いた。

 しかし、ミカエルの心に響く事はなく、光の魔法をアオイさんに向けて放った。

 瞬時に反応できたのが俺だけだったので、殴り軌道をズラす。

 しかし、アオイさんの頬を掠めてしまった。

 ミドリさんの攻撃は既に回復している。舞った血は己の炎で蒸発する。

 「う、ああああああああ!」

 悪魔のオーラ? 的なのがアオイさんから溢れる。

 絶叫と共に吐き出されたモノが抜けた後、アオイさんはいつもの蒼色に戻っていた。

 ミドリさんがそれに気づいて、ミカエルの方を喜びに満ちた顔で振り返る。

 「一度堕ちたのだ。二度がある。今、弱っているうちに処分するのが、良品だ」

 残酷の一言がミカエルから出される。

 膝から崩れ落ちるミドリさんを横切り、俺はミカエルと対峙する。

 「⋯⋯なんだお前は。我々の加護を受けてないな。だと言うのにその姿、何者だ」

 「俺はな、お前を一発殴る者だ」

 ミカエルと俺が同時に動き出し、拳を衝突させた。

 吹き飛んだのは俺である。地面に足を埋めて止まる。

 右腕から激痛か全身に伝わる。あの一撃で完全に骨折したらしい。

 「ミカエルがどんなやつか知らねぇけどな。人の友情を否定する権利なんてねぇ!」

 「我々は力を与えている。役目を与えている。それに恩義を返すのは当たり前だ」

 「それは恩の押しつけだ。てめぇらが利用するために勝手にやってる事だろ」

 「強く望んでいたからこそ、与えたのだ。履き違えるなよ」

 右腕が使えないからってなんぼのもんじゃい。

 そんなんで、俺は止まらない。

 走り出そうと足に力を入れたのと同時だった、俺達の周囲を様々な精霊が囲んだ。

 「大精霊や精霊王だと? なぜここに?」

 「さぁ、理由なんて一つだろ」

 精霊達が魔法陣を展開する。

 「さすがにまずいか」

 ミカエルがいきなり姿をパッと消した。

 逃げたのだろう。

 しかし、精霊にも上位種ってのはいるんだな。

 アオイさんは助かった感じ? だったからまぁ良いか。

 今回の報告はどうしようか。

 「身体が、重いな」

 「その姿で天使に矛を向けたからじゃろ。帰りはわらわに任せるのじゃ」

 意識を落とした。

 目を覚ますと、家の天井が目に入り、柔らかい果実で息の根を止められそうになっているところだった。

 冷静に紗奈ちゃんをゆっくりと転がして、周囲を確認する。

 俺の部屋でもリビングでもない。紗奈ちゃんの部屋なのだろう。

 ドアのところがガチガチに氷で凍らされており、脱出は困難に見える。

 「つっ」

 右腕に痛みが走る。普通に動かせるけど痛みがあるな。

 窓は空けれそうなので開けて、外に出る。

 魔法で足場を作ってベランダに移動し、魔法で鍵を開ける。

 鍵の開いた幻影を真にすれば良いのである。ダンジョンでは使えない成長だ。

 俺は自分の部屋でゆっくりと寝た。紗奈ちゃんが隣にいるとゆっくり寝れん。

 嫌では無い。むしろ嬉しいが、心臓がうるさいのである。

 明日、今日の事を聞こう。
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