上 下
78 / 179

物理系魔法少女、人気配信者とコラボ

しおりを挟む
 「今日はどこに行くの?」

 「今日はなぁ、破天荒の荒野って言うダンジョン」

 「そっか。推奨レベル3だからまぁ、良いかな? そこは天候がコロコロ変わるから、自然影響を防げるマントとかオススメだよ」

 「ありがと」

 天候が変わる程度なら魔法少女の衣装で対策可能なので、別に購入する必要は無いだろう。

 今回、このダンジョンに行く理由はルミナスさんとのコラボだ。

 結局受ける事にした。

 やっぱり、配信者として稼げるようになったからには、より多くの視聴者を確保したい。

 これが吉と出るか蛇と出るかは分からない。

 でも、やらないよりかはやるべきだろう。せっかくのお誘いだしね。

 「うわっ!」

 ダンジョンに入ってからそうそう、大嵐だ。

 魔法少女の衣装をレインコートに切り替えて少しでも雨粒を防ぐ。風で飛ばされる事は無いだろう。

 このダンジョンではゲート付近に探索者が自由に利用できるテントが設置されているので、その中に入る。

 元の姿に戻り、ルミナスさんを待つ事にする。慣れてしまったからなんだが、やっぱり魔法少女衣装はシュールだ。

 「あ、あの! アカツキさんですよね!」

 「違います」

 「あ、そうですか? すみません」

 他人に話しかけられた。俺の事を知っている人らしい。

 面倒なので適当にあしらってしまったが、後にこれで後悔しなければ良いけど。

 いや、そんなフラグっぽいのはやめておこう。

 数分待っていると、ルミナスさんがチャージライフルとは違う狙撃銃を担いでやって来た。

 「おはようございますアカツキさん」

 「おはようございます。それで、今日はどんな配信するんですか?」

 「はい。DMの方に送らせていただきましたが、今回はファイヤーモリと言う魔物の鱗回収ですね。晴れの時にのみ現れる魔物なので、晴れたら全力で探しましょう」

 「了解です」

 ライブが始まりルミナスさんが挨拶をしている。俺は特に準備する事は無い。

 ファイヤーモリと言うのは、簡単に言えば火を吐いく大きな赤いヤモリだ。

 ある程度のポイントは絞っているらしく、今の荒れた天気の中を移動する。

 ドローンカメラはそれでも無事にしっかりと撮影しているらしい。高性能だ。

 「こんな嵐の中、しっかりとスナイパーは機能するんですか?」

 先程借りた無線機で会話をする。

 「はい。環境の影響を受けない弾丸を放てる物ですので、大丈夫です!」

 「分かりました」

 俺にはコメントは見えない。ルミナスさんは時々コメントに返事をしている。

 どんな風に見てるのやら⋯⋯やっぱり隠している左目に何かあるのだろう。

 ただ俺が言えるのは、この中一人でブツブツ言っているのが恐怖である。

 ライブだからしかたないのだけど。

 『アカツキとコラボして得は?』
 『バズったからまた期待してるんでしょ』
 『今回もバズの予感がする』

 『あーならアンデッドか?』
 『最初のバズは脳筋魔法少女が相手の魔法を使ってネクロマンサーを倒す』
 『次にリッチを倒れるで殴り倒した長期配信』

 『なんかアカツキのバズりにはアンデッドは不可欠なんだよ』
 『てか、トラップは破壊して進むけど、天候は耐えるんだな』
 『ダンジョンの天候はさすがに変えられない』

 『そもそもあまり気にしている様子なくね?』
 『嵐ごときに脳筋が止められるとでも?』
 『最高の盾と最高の狙撃者』

 「アカツキさん」

 「なんですか?」

 お、なんか風が弱まって来たな⋯⋯代わりに雨が強くなった。

 う、うるせぇ。

 「アンデッドに好かれてるんですか?」

 「どうでしょうね」

 アンデッドに好かれているとは考えたくないが、確かに結構会うと思う。

 きっと気のせいだろうけどね!

 数十分の歩を進めて、ポイントで一旦止まった。

 ルミナスさんが背負っていたリュックから、テントを取り出す。

 「何かできる事ありませんか?」

 「ボタン1つで可能なので大丈夫ですよ⋯⋯って、いつまで敬語なの?」

 「最初の挨拶が丁寧だったもんでね。変えるタイミングが分からなかった」

 後はこのテントに籠って、晴れになるのを待つと。

 「凄く地味だね」

 「しかたないよ」

 アラレが降り始めた。激しい音がテントの中を埋めつくして、揺らして来る。

 「アラレの時に外に出ると、普通に痛いんだよねぇ」

 遠い目をしてらっしゃる。これは何かあったな。

 ルミナスさんはコメントに対して相槌を打っている。

 文句とか言われてなければ良いけど。

 「アカツキさんって小さくなれるの?」

 「なれるよ」

 「見せて貰う事ってできる?」

 前は一時的にロリ化できるとアピールしている。それを崩す訳にはいかないだろう。

 変身できるが制限時間がある。

 再使用可能時間もある、そう言う事にしておこう。

 「もしかしたら使うもしれないので、無理かな? もしもの時はお見せしますよ」

 「そっか。僕も動画で見たけど、力とかは変わってなかったよね?」

 「ご視聴ありがとうございます」

 「いえいえ」

 なんだこの時間。

 お、アラレが止んだ。一回外に出て天気を確認する。

 真っ黒な雲だ。

 「なかなか晴れって来ないね」

 「しかたないね」

 一面には真っ平らな大地が広がっている。木も岩もない。

 障害物が一切ないのだ。

 「なんもねぇな」

 「天候がコロコロ変わるから、色々と変わったりするよ。運が良ければ一面真っ白になったり、海になったりする」

 「それ、運が良いのか?」
しおりを挟む

処理中です...