物理系魔法少女は今日も魔物をステッキでぶん殴る〜会社をクビになった俺、初配信をうっかりライブにしてしまい、有名になったんだが?〜

ネリムZ

文字の大きさ
67 / 179

物理系魔法少女、精霊の森から帰る

しおりを挟む
 「あんた、どうして⋯⋯」

 驚愕の表情を浮かべる炎の精霊。

 「いやー物は試しと思って⋯⋯顔面殴ってすみません」

 平謝りをしたが、怒らせてしまったのか魔法を顕現させている。

 攻撃されるな。

 最初から敵対しているのだ。倒しても問題は無いのだろう。

 だけど、関係悪化は良くないだろう。

 本来なら人間に力を与えている立場なのだから。

 だから、少しだけ戦おう。俺が死なん程度に。

 アオイさん達に迷惑をかけないために、泉をぐるりと回るように走る。

 追って来るのは炎の精霊だけではなく、水の精霊もだ。

 「ちょっと興味が出た!」

 「くらいなさい!」

 炎の魔法が飛んで来るので、蹴り返した。

 炎の精霊は自分の魔法に包まれたのだが、ダメージがない様子だ。

 「魔法攻撃は通じるのでは?」

 「自分の魔法は通じないのよ!」

 あ、そんな事を言っている場合じゃなかった。

 囲まれた。

 「⋯⋯ねぇ。俺が勝ったらあの二人の魔法を強くしてよ」

 「勝てたら」

 「考えてあげる」

 ジャンプしても魔法は撃たれるだろう。

 避けるのはかなり難しいだろう。どうやって逃げるか⋯⋯。

 今こそ試す時では無いか?

 足を高速で動かして、水面を走る実験を。

 「⋯⋯これが魔法少女の力じゃあああ!」

 炎と水の魔法が同時に放たれた。

 すぐさま泉の方に走って、俺は水面を走る。

 「嘘でしょ」

 「本当に天使の下僕?」

 「天使とやらの下僕になったつもりは毛頭ないね」

 ゼリーの上を走っているかのような、不思議な感覚だ。

 精霊が住んでいる泉だから、これも魔法みたいなモノなのかもしれない。

 「ふかげた事を」

 「言うな!」

 「至って大真面目だ!」

 魔法を掻い潜り、水の精霊の懐に入った。

 さすがに鈍器は使わない。拳じゃ。

 倒す事は考えてない。あの二人の魔法を強化して欲しいのだ。

 倒すのではなく、勝つのである。

 「ぐっ。どうしてだ」

 「よー分からんが、俺は魔法を掴めるんだよ。同じようなモンなら、攻撃できる。あたりまえだろ?」

 「我々と魔法を一緒にするな!」

 魔法を避けるのも砕くのも思いのほか簡単である。

 ただ攻撃する時が辛い。

 何が辛いかと言うと、この精霊達、ビジュアルが良すぎるのだ。

 美人な女性を殴ると言う行為が辛い。

 そう思いながら、誰よりも精霊にダメージを与えているのだが⋯⋯。

 辛いけど、魔物だからしかたないと思っている自分がいるのかもしれない。

 「はぁ。ここまでダメージを受けたのは初めてだ」

 「そりゃあ、今まで争った事がないからじゃないか?」

 「調子に乗るなよ?」

 「乗ってませんよ? 乗ってるのは泉の上ですね」

 それが煽りに繋がったのか、一層激しさを増した魔法が飛んで来る。

 隙を見つけては攻撃を繰り返しているが、徐々に回避されるようになった。

 「アカツキさん! もう良いです! 行きましょう!」

 「⋯⋯ん? 良いのか? 強化して欲しいんだよな。強くなりたいんだよな。こんなところで引き下がって良いのか?」

 「はい。今日は諦めます。無理強いてしも時間の無駄でしょうし」

 アオイさんの言葉を聞いて、俺は二人のところに戻った。

 「待ちな!」

 「まだ戦いは終わってないよ!」

 俺に敵意を向けながら魔法を顕現させる。

 一度戦いの火が付いたら、それは簡単には消えないのだろう。

 闘争心と言うのだろうか?

 そんな感情が二人の精霊から感じた。

 戦う事に高揚感を感じているのだ。

 あの、裏のない笑みがそれを物語っている。

 「見逃してくれるんじゃなかったのか?」

 「何回も攻撃を受けてるんだ」

 「ギリギリまで戦おうぞ」

 うん。やってしまったかもしれない。

 めんどうだな。二人が帰りたがっているのなら俺も帰って違うダンジョンに行きたい。

 ここでは金になりそうな物が少ないからな。

 それに小さくなった状態で戦うための練習もしておきたいのだ。

 「二人の魔法を強化してください」

 「それは嫌」

 「天使の下僕にやる力など持ち合わせてない」

 その理由を問いただそうとしたら、アオイさんが叫んだ。

 「どうしてですか! 天使は力の無かった自分達に力をくれました! 悪魔を倒す役目をくれました!」

 「だから?」

 「悪魔は人の悪い感情を増幅させて、戦争を起こさせて、人類を滅ぼそとしている! その時に出る絶望を欲している! そんなのは間違ってる! それを止めたい、だから悪魔を倒したい! そのための力が、自分には足りないんです!」

 「悪魔について、自分の役目については、魔女から聞いたのだろう?」

 水の精霊が質問する。アオイさんは肯定する。

 「天使から聞いた訳でもない、他者から聞いた内容を鵜呑みにして、それが正しいのだと思い込む」

 「自分で物事を考えず、他人の考えに身を委ねる」

 「ここも強くなりたい意思はあっても、方法は自ら考えるのでなく他者から聞く」

 「実にくだらない。世界平和? 他者にすがって強くなろうとするお前らには随分贅沢な目標だね」

 アオイさんの魂からの叫びは、精霊の二人には滑稽に写ったのだろうか?

 嘲笑と共に否定する。

 ああ、やっぱりムカつく。

 俺が抱くのはおこがましいのかもしれないけど、精霊達の態度に腹が立つ。

 「今日は帰ります。ですが、いずれ認めてもらいます!」

 アオイさんはそう言って、殺気立つミズノの手を引っ張ってゲートに向かう。

 「それ以前の問題なんだけどね」

 「己を振り返るきっかけに成れば良い」

 そんな小さな二人の会話は俺には届かなかった。もしも聞いて二人の表情を見たらきっと俺の考えも変わっていただろう。

 ゲートを通り、他のダンジョンで稼いでから帰ろうと思う。

 水のある場所で浸かりたい。魔法を使ってもらうの忘れた⋯⋯そんな空気ではなかった。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~

ある中管理職
ファンタジー
 勤続10年目10度目のレベルアップ。  人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。  すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。  なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。  チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。  探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。  万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。

屑スキルが覚醒したら追放されたので、手伝い屋を営みながら、のんびりしてたのに~なんか色々たいへんです(完結)

わたなべ ゆたか
ファンタジー
タムール大陸の南よりにあるインムナーマ王国。王都タイミョンの軍事訓練場で、ランド・コールは軍に入るための最終試験に挑む。対戦相手は、《ダブルスキル》の異名を持つゴガルン。 対するランドの持つ《スキル》は、左手から棘が一本出るだけのもの。 剣技だけならゴガルン以上を自負するランドだったが、ゴガルンの《スキル》である〈筋力増強〉と〈遠当て〉に翻弄されてしまう。敗北する寸前にランドの《スキル》が真の力を発揮し、ゴガルンに勝つことができた。だが、それが原因で、ランドは王都を追い出されてしまった。移住した村で、〝手伝い屋〟として、のんびりとした生活を送っていた。だが、村に来た領地の騎士団に所属する騎馬が、ランドの生活が一変する切っ掛けとなる――。チート系スキル持ちの主人公のファンタジーです。楽しんで頂けたら、幸いです。 よろしくお願いします! (7/15追記  一晩でお気に入りが一気に増えておりました。24Hポイントが2683! ありがとうございます!  (9/9追記  三部の一章-6、ルビ修正しました。スイマセン (11/13追記 一章-7 神様の名前修正しました。 追記 異能(イレギュラー)タグを追加しました。これで検索しやすくなるかな……。

異世界帰りの元勇者、日本に突然ダンジョンが出現したので「俺、バイト辞めますっ!」

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
俺、結城ミサオは異世界帰りの元勇者。 異世界では強大な力を持った魔王を倒しもてはやされていたのに、こっちの世界に戻ったら平凡なコンビニバイト。 せっかく強くなったっていうのにこれじゃ宝の持ち腐れだ。 そう思っていたら突然目の前にダンジョンが現れた。 これは天啓か。 俺は一も二もなくダンジョンへと向かっていくのだった。

底辺動画主、配信を切り忘れてスライムを育成していたらバズった

椎名 富比路
ファンタジー
ダンジョンが世界じゅうに存在する世界。ダンジョン配信業が世間でさかんに行われている。 底辺冒険者であり配信者のツヨシは、あるとき弱っていたスライムを持ち帰る。 ワラビと名付けられたスライムは、元気に成長した。 だがツヨシは、うっかり配信を切り忘れて眠りについてしまう。 翌朝目覚めると、めっちゃバズっていた。

ダンジョンで有名モデルを助けたら公式配信に映っていたようでバズってしまいました。

夜兎ましろ
ファンタジー
 高校を卒業したばかりの少年――夜見ユウは今まで鍛えてきた自分がダンジョンでも通用するのかを知るために、はじめてのダンジョンへと向かう。もし、上手くいけば冒険者にもなれるかもしれないと考えたからだ。  ダンジョンに足を踏み入れたユウはとある女性が魔物に襲われそうになっているところに遭遇し、魔法などを使って女性を助けたのだが、偶然にもその瞬間がダンジョンの公式配信に映ってしまっており、ユウはバズってしまうことになる。  バズってしまったならしょうがないと思い、ユウは配信活動をはじめることにするのだが、何故か助けた女性と共に配信を始めることになるのだった。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

ハズレスキル【地図化(マッピング)】で追放された俺、実は未踏破ダンジョンの隠し通路やギミックを全て見通せる世界で唯一の『攻略神』でした

夏見ナイ
ファンタジー
勇者パーティの荷物持ちだったユキナガは、戦闘に役立たない【地図化】スキルを理由に「無能」と罵られ、追放された。 しかし、孤独の中で己のスキルと向き合った彼は、その真価に覚醒する。彼の脳内に広がるのは、モンスター、トラップ、隠し通路に至るまで、ダンジョンの全てを完璧に映し出す三次元マップだった。これは最強の『攻略神』の眼だ――。 彼はその圧倒的な情報力を武器に、同じく不遇なスキルを持つ仲間たちの才能を見出し、不可能と言われたダンジョンを次々と制覇していく。知略と分析で全てを先読みし、完璧な指示で仲間を導く『指揮官』の成り上がり譚。 一方、彼を失った勇者パーティは迷走を始める……。爽快なダンジョン攻略とカタルシス溢れる英雄譚が、今、始まる!

処理中です...