物理系魔法少女は今日も魔物をステッキでぶん殴る〜会社をクビになった俺、初配信をうっかりライブにしてしまい、有名になったんだが?〜

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物理系魔法少女、怪しいお礼をされる

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 「紗奈ちゃんが居ない朝」

 久しぶりな気がしなくもないが、紗奈ちゃんが合鍵を作って日は浅い。

 自分はかなり紗奈ちゃんに依存してしまったのかもしれないな。

 連絡した方が良いか。どんな感じだろ?

 一応、おやすみは送っている。

 「⋯⋯1000件を超えているんだが」

 それもたった一人の力でだ。

 見なかった事にして放置しようかな?

 いや、怖いのでちゃんと返信しよう。

 『あ、既読ついた』
 『遅いよ?』
 『何しているの?』
 『昨日何してた?』
 『一時間刻みで教えて』
 『昼ごはんどこで、何を、誰と食べた? もちろん一人だよね?』

 「怖い怖い」

 落ち着いて、のメッセージを送ると収まった。

 訓練施設の事を送って、一人でご飯は食べたと言っておく。

 朝ごはんを適当に用意して食べる。

 「今日は何しようかな?」

 あ、またメッセージが入った。

 『女の人と半径一メートル以内に入ってないよね?』

 模擬戦を思い出す。

 「大丈夫」

 多分ね。

 今日は何しようかと考えていると、ドアが内側からノックされる。

 「⋯⋯どちら様?」

 「落ち着きが怖いですね。勝手に入らせていただきました。すみません。ですが安全のためです。ギルド支部長がお呼びです」

 「めんどうなので遠慮します」

 窓を開けて逃げようとしたが、開かなかった。外を見れば、少しだけ歪んだように見える。

 鍵は開けてある。

 「ここの空間を切り抜いていますので、外に出る事は不可能です⋯⋯手馴れてません?」

 「もうこれ犯罪じゃありません?」

 「申し訳ございません。本部長がどうしても、貴方にお礼が言いたいそうです」

 前回の依頼か?

 嫌だなぁ。

 と言うか少しだけ怖い事がある。

 これだけはどうしても確認しないといけない。

 「部屋に⋯⋯アナタの匂いは残りませんよね?」

 キモっ! って顔をされた。

 傷つくが、重要な事だ。まじで。

 「大丈夫です」

 「良かったぁ」

 俺が全力で安堵すると、相手の顔がしかめっ面に変わる。

 「それでは⋯⋯移動します。終わりました」

 「早っ! てか了承してなくね?」

 確かに既に俺の家ではない。

 綺麗に配置されたソファーなどなど⋯⋯うん。すごっ。

 「ようこそ、神宮寺くん」

 本部長?

 何か上手く見る事のできないが、声的には男かな? いや、女かもしれない。

 どっちつかずの声と見た目をしていると思う。かなり若い気がする。

 机の上には、前に回収した依頼品がある。

 「これの説明を聞きたいかい?」

 「いえ特には」

 「⋯⋯そうか」

 言いたかったのかな?

 「とりあえず感謝するよ。これを回収してくれた事を」

 「はぁ。それだけのために誘拐まがいな事を?」

 「それは失礼したね。安全のためなんだ。本題だが、自分の下に就く気はないか? 安定した給料と職場環境、レベルアップのサポートだってやるよ?」

 本部って事はここは東京だろう。

 なんで俺をこんな風に扱ってくれるかは知らんが、断るか。

 紗奈ちゃんはあの場所で働いているし、俺も配信者としてようやく稼げそうなのだ。

 わざわざ縛られたいとは思わない。

 それにレベルアップは自分の力でやらんと意味無い。

 安定していると言われたら断言できないだけど。

 「お断りします」

 「そうか。残念だよ」

 あっさりだな。

 「それじゃ、転移で送るけど、どうする?」

 「せっかくの東京なので、観光して行きます」

 紗奈ちゃんには悪いけど。

 いずれ一緒に来れば許してくれるだろう。

 「それじゃ、この部屋に入っていた事実は分からないように、空間はねじ曲げるから。君は何も考えずに出口から出れば良いよ。変に移動したら空間の狭間に迷うから気をつけてね」

 と、言われたので出る事にした。

 ◆

 「本部長、なんでスカウトなんてマネを?」

 星夜が居なくなった後の本部長と秘書っぽい見た目の女性が会話をする。

 「直接魔力に干渉できる体質なのって、彼と自分なんだよね。そう言う貴重な人材は手元に残しておきたいんだ。見た感じ、天使に干渉されて無さそうだし」

 徐々に本部長の見た目が崩れて行き、ゼリーのような丸っこい見た目に変わる。

 依頼品の入った瓶をポンポンと叩く。

 何かを察した秘書は口を開く。

 「それで、それはなんなのですか?」

 スライムのような見た目をした本部長の、あるかないか分からない目が輝いているように見えた。

 「これはね、アメリカの方でエレキトルコアって名ずけられた、エネルギーの塊なんだよ。本質は魔力だけど、電気にもなる。これ一つで日本全体の電気を千年保てる」

 「なるほど。魔法のような物体なんですね」

 「そうそう。だから自分のように魔力干渉できないと持てないんだけど、ダンジョンに入れないじゃん? そこで彼の出番よ。彼も同じような事ができるからね」

 「アメリカはどうしてそれを?」

 「超大型魔物捕縛兵器、グレイプニルの動力源にしようとしたんだよ。だから急いで回収する必要があった」

 超大型の魔物と呼ばれるのは、推奨レベル8以上のダンジョンに現れる魔物だ。

 当然、そのレベルの魔物は一体で国を滅ぼせる程の力を有している。

 そんなのを捕縛して何に使おうとしているのか、それは本部長も分かってはいなかった。

 「それにしても、紗奈ちゃんの婚約者にしては老け顔だな。二十代後半とは思えん。身だしなみを整えてやれば良いのに」

 「⋯⋯え」

 「あ」

 「あ、あの、あの無表情、無愛想、能力も心も冷えきったあの女の婚約者なのですか!」

 本部長が顔を逸らす。

 それが全てを物語っており、秘書は四つん這いに倒れる。

 「そんなの嘘だ! 私と一緒で恋愛に興味無いと思ってたのに⋯⋯裏切り者!」
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