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 レイドに向けて班での練習をしたり、全体で集まって練習したりした。
 だけど、毎回全員で集まれるって訳ではなかった。

 夏ガチャのシークレットも手に入っているし、メイのように追いガチャをしても旨みが少ない。
 なので、幅広くモンスターの揃っているノーマルガチャを引いて、戦力を上げようと思う。

 俺も白龍のようなかっこいいモンスターが欲しいのである。
 その為に今はダンジョンにやって来ている。

 「レベルも上げておかないと、すぐに死ぬって展開もありえるよな」

 今回はレベルが統一されるのような処置は無いので、弱いとすぐに死んでしまう。
 その為、少しでもレベルは上げたい。

 「明日はリイアたんの雑談配信だし、オークションの準備をしてもらったからお金は問題ない。ポイントを集めながらレベル上げかな」

 「ふぁいとー!」

 「あぁ、頑張りますとも」

 ちなみにオークションは告知だけして、開始はレイドが終わった後にしてもらっている。
 その辺の調整は協力者であるギルマス達に任せる事にする。

 メイを呼び出して、全力でポイントを集めながら、慎重に俺も一体一体モンスターを蹴散らして、レベルを上げていく。

 前回のような事に万が一巻き込まれても、今回は護衛への戦力を怠ってないので、問題ないだろう。
 そんな事をしていると、背後から気配も音もなく接近して来る女性がいた。
 何もかも分からなかったために、すぐに反応する事が出来なかった。

 何もんだ?

 「えっと、日陰さんで間違いないね?」

 「⋯⋯違います。アバターを寄せてるファンです」

 「あ、そうなんですね。驚かせてすみませんでした」

 ⋯⋯⋯⋯んん?

 ま、良いか。

 俺は何も言わずに反対方向に走ろうとしたけど、肩を掴まれた。

 「こんなにメイドに囲まれているのに、それは流石に無いですよね。あやゆく騙されるところでしたよ」

 こんなんで騙されるならアナタは相当にバカだ⋯⋯と言ってやりたい。
 だけど、下手に煽ると俺の首が飛ぶ。
 こいつ、いつの間に青龍刀を引き抜き俺の首に当てやがった。

 相当なレベルだ。
 技術ってよりもシステム的なレベルが高いから、俺じゃ追いつかない。

 「別に騙そうと言う意思はないんですよ。ただ、条件反射的に言ってしまったと言う訳でして」

 「⋯⋯なるほど。確かに、貴女のような人は何回も話しかけられてそう。納得納得」

 納得しちゃうの?

 「ま、そもそも貴女が本物の日陰だって最初から気づいてましたが」

 嘘だな。

 「嘘くさ」

 メアまでこの反応だ。
 詐欺とかに簡単に引っかかりそう。

 「と、巧みな誘導で本題を見失うところだった」

 果たして今までの会話に誘導するような巧みな何かがあったのだろうか?
 俺には全く分からなかったが、きっと彼女にとっては何かあったのだろう。
 とりあえず怪しさ百パーセントって事で。

 「本題に入るね」

 結構軽い人だな。

 「日陰さん。豊田市部のギルドから日本本部ギルド、ウチに来ませんか?」

 ま、想定はしていたけどスカウトか。
 しかもギルド本部から。
 西野さんの言っていた通りだな。

 「お断りします。生活圏が違いますし」

 「登録していただけるだけで構いません。今よりも良質なサービスを約束します。わざわざ本部に出向く必要はございません」

 け、敬語になってる。
 仕事の時は敬語になるスタイルなのかな?

 ま、だけど⋯⋯今よりも良いサービスは無理だろうな。
 今はギルマスが日陰の肩書きが欲しいからこちらに肩入れしている部分が存在する。
 俺にとって、俺達にとって都合の良い関係が今なのだ。

 本部の事を俺は何も知らないので、下手に関わり合いたいとは思わない。
 しかも、互いの利害関係などでは無いだろうし、信用もしにくい。
 色々と要求されたり命令される可能性だってあるし、正直面倒だ。

 俺は別に今に不満がある訳じゃない。
 むしろ今のようにオークションのタイミングなどを自由にできるのは楽で良い。
 しかも、今のギルマスは日向をひた隠して日陰を全面にアピールするような操作をしている。

 お陰様で、日陰が未だにデータ世界だけの住人だとは思われていない。
 リアルも女性であると、思われている。
 中には中身男説も当然あるけどね。

 だけど、日陰は外にも存在すると、日陰がオークションに出していると、世間が思っているのはギルマスの力があるからだ。
 それは俺に対しての恩になる。

 だから、俺は本部の誘いを断る。

 「お断りします。現状に満足してますし、今の関係はとても良好ですので」

 俺もしっかり役目を果たす。
 俺がギルドに登録している理由は現在のギルマスを守ると言う事だ。
 日陰との関係が良好だとアピールする事でギルマスを守る事に直結する。

 「ふむ。そうですか。それは残念ですね。こちらに来ていただけるのなら、オークションで手に入った金額を十割、丸々そちらにお渡しする契約が出来たのに⋯⋯」

 敬語じゃ無くなった?
 これは嘘くさいな。
 メアもジト目だ。

 「そんな後付けは意味ないですよ。それだったら、最初からアピールしている筈ですから」

 「⋯⋯そうね。ギルドへの分け前が無くなると国が黙ってない」

 国が出て来る程なのか?

 「それでは、メイは預からせてください。安心してください。こちらで利用する意図は全くございません」

 この人のレベルなら、メイのメイド召喚も十分に利用価値の高いモノになるだろう。
 俺のように代理召喚に頼る必要は無いのかもしれない。

 つーか、なんでメイを狙う?
 狙いはなんだ?

 ギルドにとってメイが俺の手にあるのが不都合な理由⋯⋯バランスか?
 俺にはそれしか思い浮かばない。

 ゲームバランス。
 それをぶち壊すメイの存在が怖いから、ギルド本部で預かり封印すると。

 ふざけるな。
 モンスターカードは個人の所有物だ。
 取り上げられてたまるか。

 「お断りします。なぜ、渡さないといけないのか理解に苦しみます。大金を出しても無駄ですよ⋯⋯個人的には国家予算に届くので」

 メイの価値は俺の手札次第で飛躍する。
 純粋に一級メイド一枚につき三十億と考えて、それが何百枚とある訳だ。
 それをメイが入れば全て同時に使えるのだから、一級メイドの数イコールメイの価値になる。

 その中に二級、三級と付け加える訳だ。

 「⋯⋯中々に鋭そう。力尽くって言ってたらどうする?」

 「今撮影権利を使ってます。炎上は面倒なのでね。証拠として世間に提出しますよ。或いは⋯⋯手が滑って何も無いのにSNSに載せてしまうかもしれない。別にここで殺されても、アバターの復活代しか損害は無い」

 「ふむ。たしかにね。無理矢理アイテムを奪う事が出来るのは、ダンジョン内で手に入れたアイテムだけ。白蓮が警戒するのも無理ないか。これじゃ」

 白蓮?

 「あ、別に問題ないと思うから本名晒すね。SNSで本名晒すとか止めてね? 西野花蓮、西野白蓮の姉よ」

 「え、に、西野さんのお姉さん?」

 「ええ。意外か?」

 「意外過ぎる⋯⋯」

 「あの怖カッコイイ人の姉とは思えないよね」

 メアも俺に同意する。
 妹が褒めらたからか、本人は少しだけ鼻が高そうだ。

 そして俺達は別れた。
 なんか、不思議な縁が出来てしまった。

 しかし、これだと迂闊にギルドに寄れば、あの人に見つかるかもしれんな。
 ま、あの人の様な人ならバレない可能性の方が高いと思うけどね。

 接触を受けた事をギルマス達に連絡して、愛梨には直接話す事にした。

 「ついに本部も本腰を入れたんだね」

 「そのようだ。面倒だな」

 「まぁ、遅かれ早かれこうなっていたと思うよ。ガチャスキルは絶対にバレないようにしないとね」

 「あぁ。そうだな。ガチャ禁止とか言われたらたまったもんじゃない。それに、絶対に神の方にクレームが行く。下手なら理不尽にスキルが没収されるかもしれないしな」

 今日は早めに寝て、明日に備えよう。
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