クラスで話題の美少女配信者がデブスの俺だとは推ししか知らない〜虐げられても関係ない、推しに貢ぐ為にスキルのガチャを引く〜

ネリムZ

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 一級をオークションに出しに俺はギルドにやって来た。
 今回はメイドでは無い。

 今後はメイドを流す事はないだろう。
 さて、西野さんは居ないな。

 西野さんを呼べと言われているけど、別に呼ぶ必要は無いよね。
 でも俺は律儀なので呼び出す事にする。

 「霧外さん」

 「ッ!」

 いつの間にか背後に現れた西野さん。
 気配や足音、それらが一切なかった。

 「あ、すみません。気配を遮断するスキルって犯罪に使わなければ常時発動状態になるんですよ」

 「そう言う」

 完全に気配が掴めなかったのは少しだけ悔しいな。
 感知系のスキルでも買うか?
 ん~今は放置かな。

 「それで、今日はどのような要件で?」

 「あ、はい。オークションに」

 「たまたま誰にも見つかってないレアモンスターを倒しましたか?」

 「はい!」

 うわー、すげー煽ってくるじゃん。
 何かしら分かった様な口ぶりだな。

 「えっと、受付に⋯⋯」

 「実は霧外さん。支部長が呼んでおります」

 「ギルドマスター⋯⋯お断りします」

 「それだとオークションに出せませんよ?」

 「登録している訳では無いし、他の所に行きます」

 「ここは一番温厚なギルドですよ。他だと⋯⋯自宅まで押し寄せて来るかもしれませんね。何かとは言いませんが。気配遮断レベル4の人が貴方を四六時中監視するでしょうね」

 「⋯⋯なんか、ふつーに脅してませんか?」

 「独り言です」

 随分こちらを見ての独り言ですね。
 階段を登って3階へと向かう。

 「データ世界で売るとは考えなかったんですか?」

 「ま、まぁ。西野さんに言われたので」

 違う。
 確かにデータ世界で売ろうとはめっちゃくちゃに考えた。
 でも、きちんと愛梨と相談した上でそれはダメだと判断したのだ。

 理由の一つが、日陰は一度もモンカドを売ってないから。
 ここで売り出して、俺が売らなくなったらここのギルドは何かしらを疑う。
 今でも疑っているのに、より疑いは濃くなる。

 それを避ける為だ。
 これは自らオークションを開催しても同じ事が言える。
 俺と日陰の関係を完全に切断出来るまでは日陰は配信者として活動するのみに留める予定だ。

 幸いな事に、俺を気にしているのは現状このギルドだけだろうからね。

 西野さんがノックをして、中に入る。

 「来たか」

 「⋯⋯」

 やっぱり適当な理由をつけて帰るべきだったかもしれない。
 ここの支部長であるギルマスは父に近い風格を感じる。
 貫禄のなる大人だ。

 「座りたまえ霧外少年」

 「は、はい」

 ダンディーな男と豚男。すっげー絵面。

 「今回も一級のモンカドを売るのかね?」

 「はい。こちらをオークションに出したく⋯⋯」

 俺はポッケからモンカドを取り出す。
 当然一級だ。

 スマホを操作している所を後ろから覗かれない為にポッケに入れていた。
 気配なら察知出来ると思っていたが、気配を消す系のスキルが使えるとは思わなかった。保険って大切。

 「ふむ。その様だね」

 「鑑定スキル持ちなんですね」

 「ああ。アイテムなら鑑定可能だよ」

 「アイテムなら⋯⋯ですか」

 「うん。レベルが上がると人物も鑑定が可能でね、その人のレベルは正確に確認出来るよ。他は改竄されたステータスだね」

 「そうなんですね。ち、ちなみにですが、このギルドには他人のステータスを鑑定出来る人は居るのでしょうか?」

 「居ないよ」

 ほっ、良かった。
 鑑定スキルってアイテム以外にも使えるんだな。凄。
 俺の改竄されたステータスの名前は『日陰』になっているので、見られたくは無い。

 「それでは本題に入ろうか」

 「やっぱりこちらが本題では無いんですね」

 「ここは盗聴も何も無い」

 俺は後ろにある監視カメラを見る。

 「備えあれば憂いなし、その為の監視カメラだ」

 「ギルドに盗む物なんてあるんですか?」

 「⋯⋯」

 だよなー。
 お金もアイテムもデータ化されるので、盗めるようなモノじゃないし。
 まぁ別にカメラなら良いのよ。

 と言うか、盗聴されても問題ない風に話すし。

 「さて、まずはこのカード、どのようにして入手したのかな? 盗んだとは思っておらんよ。被害者が居ない。モンカドの譲渡は出来ても略奪は出来ないからね」

 「たまたま激レアモンスターを倒したら、ドロップしたんですよ」

 「では、なんで使わずに売ろと考えた?」

 「大金が欲しかったからです。僕、努力嫌いなんですよね」

 さて、どうする?
 かなりのクズキャラになっておりますが現状。

 「前ので随分稼いだと思うが、どうしたのかね?」

 「女遊びの果てに消えました」

 イベントに向けて準備してたら一瞬で消えました。
 残ったのは全部推しに使いたいと思っているのですが、最近は雑談生配信が無くて悲しいです。
 推しに文句は言わないけどね!

 「ふむ。まぁ、それは良いとしよう」

 「それはって」

 西野さんが直立不動で空気を見ている。気配は感じないけど、見えるのでありがたい。

 「日陰さんとの、関係は?」

 「配信者の日陰ですか? 全く関係ないですよ。そうですね、強いて言えば登録者です!」

 「⋯⋯そうか」

 「はい! モンスターばかりに注目されてますが、彼女の剣術は中々に見応えがあります」

 あー恥ずかしっ!

 ギルマスが俺に聞きたかった事はモンカドの入手方法と日陰との関係⋯⋯前にも言ったと思うけどね。
 そこの西野さんに。

 「イベント、君は参加したか?」

 「はい。それがですね、最初から運良く日陰さんと会ったんですよ! 一瞬で斬られましたけど! いやー自分は槍を使っているんですけどね、リーチを活かしても懐に入り込まれて、ザックリですよ! あははは」

 俺と日陰は別人。

 「君のステータスを見せて貰えないかね?」

 「お断りします! ギルドに登録している訳では無いので、見せる義理はないです」

 「何故そこまで拒む?」

 「僕は権利システムを買っておりません。故に、手の内を晒す事になるんですよ。それは嫌です。本名も同様です」

 「今後もダンジョンに挑むのかね?」

 「はい!」

 ギルドに登録すると、ギルドからクエストが受けられ、達成すると色々な報酬やサポートが受けられる。
 クランに入ってない、初心者はギルドに登録する事が多い。
 ギルドで名を出されたら、クランにスカウトされる可能性もあるからだ。

 俺は登録して得られるメリットが一切ないのでしていない。
 愛梨も少しだけサポートを受けてから、登録解除したらしい。
 クエストが嫌だ、とか言ってた。

 「そうか。これはこちらの勝手な仮説だが、聞いてはくれないか? かなり面白いんだよ」

 「良いですよ。忙しいですが」

 「突然、ギルドに三級のモンカドを直接売ると言う頭がおかしいと言われてもおかしくない行為をした少年が居る」

 俺じゃん。

 「その人は焦ったように、とにかくお金が欲しい様子だった」

 正解!

 「ではなぜ、そこまで金を欲していたのだろうか? ゲーム機? パソコン? それとも家か⋯⋯高い物はいくらでも思いつく」

 そうですね。

 「そこで思ったんだ。もしもその人がダンジョンを攻略しだした超初心者だった場合を」

 ⋯⋯ん?

 「その人は何らかのスキルで見た目と声が変わった。そして武器や防具が無い。その二つを揃えるために何からのスキルで手に入れたモンカドを急いで売った。初心者は武器などはないからね。ギルドに登録したら貰えるけど、自分で買うことを選んだ」

 ⋯⋯く、雲行きが。

 「その人は配信者を目指したいと思ったんだ。理由は不明だがね。そして撮影権利を購入した。モンカドを急いで売ったお金で」

 「見た目が変わるスキルなんてあるんですか?」

 「〈獣化〉などの変化系スキルがそれに該当する。声だってスキルで変えれる人は居る⋯⋯居るのだが、あそこまで自然な形でアバターに似合う声を出せる人は居ない。声を変える装備やポーションだって、いくら高かろうが作り物感は拭えないんだ」

 「それがどんな仮説に?」

 「そのモンカドを売った少年の次の日に、高ランクと思われるモンカドを使う配信者、日陰が現れたんだよ」

 「すっごい偶然ですね!」

 「武器防具権利、それらから合計のお金を考えた結果、三級を売りさばいたお金で足りるんだよ」

 「すっごい偶然ですね!」

 「日陰は初心者、それは正しいと思う。知識、経験、ダンジョンランク⋯⋯だが装備はどうした? 彼女を追っているクランなどは多いんだよ」

 「そうなんですね」

 「不思議だよなぁ。その焦った少年と色々と噛み合う情報があるんだよなぁ」

 「すっごい偶然ですね!」

 まずい。まずいまずい。
 このギルマス⋯⋯完全に俺の事疑ってやがる。
 汗を流すな。焦っていると思われるな。

 「仮説と言うのはね、その少年が日陰と言う事だよ。見た目や声を変えられるスキルがあるとする。そんなスキルがあるならアバター改造の権利はどうなる? 買えるのか? 買えない場合を仮定しよう。声が変わるから現実世界の自分とは関わりがないように見える。選んだ道が配信者。どう、違う?」

 「何が、でしょうか?」

 「実はね、霧外くん、君が日陰さんと『同一人物』であると疑っているのだよ。姿形声を変えられるスキルを持ち、モンカドを生み出すスキルを持っている人物であるとね」

 後先考えて行動していたら、ここまで疑われる事はなかったのだろうか?
 ⋯⋯はん! 日陰の動画を見ているなら当然助っ人の存在も知ってるよな!
 俺の出す答えはこれだ!

 俺はスマホの写真を開く。

 「これが僕の答えです!」

 机に置いた。
 西野さんが横目で、ギルマスは覗き込むように。
 そして二人は驚く。

 「僕は、リイアたんのガチ恋勢だ! だから言わせて貰おう、助っ人がリイアたんである場合、この僕⋯⋯いーや、この俺が日陰さんのような冷静な振る舞いは出来ない! オタクの気持ちが貴方方に分かりますか!」

 助っ人がリイアの場合。
 リイアは大人気VTuberである。
 ファンは当然多い。

 そんなファンの一人が一緒に撮影をしていて、あそこまで自然な感じに振る舞う事は出来るのか。
 集めたリイアグッズに囲まれてホクホク顔の俺を見たら、そう思う筈だ。

 「⋯⋯」

 「なんですかその目は」

 「いや失礼。済まないね。忙しい中時間を取らせてしまって、ありがとう」

 「謝礼は?」

 「⋯⋯」

 悪いがね。
 貴方達に嫌われても俺はなんとも思いません!
 時間をあげたのだ。報酬ちょうだいよ!

 俺的には⋯⋯。

 「今回のオークションで出た金は、引く事無く丸々渡そう」

 「ありがとうございます!」

 やったぜ。ついでに俺の印象を固めてくれ。
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