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愛梨と俺の関係は周りから見たらかなり歪である。
両親の仕事が忙していつも一人で家が隣同士。
俺はいつも寂しそうな愛梨が気になり、剣の道に誘った。その時は五歳である。
一緒に剣を習い、共に昼や夜を共に、時には一緒に寝たりもした。
本当に家族のような関係であり、だからこそ互いの事を良く理解していた。
理解している感じはあった。
俺は小学高学年から才能が爆発して、上達のスピードが大きく上がった。
それは共に習っていた愛梨を軽く凌駕し、剣道での試合で大人を倒せる程に。
筋力などの肉体スペックも恵まれて、剣術の腕は歴代一と言われた事もある。
でも、そんな俺はとても鈍かった。
中学の時、愛梨が時々暗い顔をするようになり、声をかけてる時が多かった。
毎回「問題ない」と言われて何も言えずにいた。
俺は知らなかったんだ。
愛梨がいじめられている事が。
或いはそんな訳ないと、自らに暗示をかけていたのかもしれない。
俺は誰かを守る為に剣術を磨いていた。
愛梨を守って行きたいって、幼いながらに思っていたのかもしれない。
だから、あの日、愛梨が男達に囲まれている姿に驚いた。
事情を聞き出したら変な噂ばかりで、事実とは違った。
愛梨も俺と同じように学校の部活には入ってないので、一緒に帰る事が多いし、寝る時以外はずっと同じ家にいる。
だから嘘だって分かった。
そこから口論となり、取っ組み合いが始まった。
俺は武術経験者だから、反抗しないでずっと暴力に耐えていた。
対して痛くなかったし。
でも、愛梨に手を伸ばそうとした男が目に入り、小枝を握った。
その瞬間に何かが切れたかのように俺は男達を制圧していた。
気づいた時には、苦しんでいる男達が地面に転がっていたんだ。
一番状態が安全な人でも三ヶ月の入院と成ほどに。
人を守る為に鍛えた剣術が人を傷つけてしまった。
その事実が俺の心を深く抉り、剣術から足を洗う事を決意した。
その日以来、愛梨へのいじめはピタリと病んだ。
その代わり、皆が俺を『悪魔』として扱うようになった。
誰も近寄らない、誰も声をかけない、完全に孤立した。
愛梨だけは変わらずにいてくれたけど。
自分が怖かった。
感情をコントロール出来ずに人を傷つけてしまった事が。
本当は愛梨とも距離を置くべきだったと思う。
でも、突き放しても彼女はどんな壁も粉砕して歩み寄って来た。
剣術の道から離れようとしても、慣れた習慣は忘れないのか、夜な夜な自ら剣を振るうようになっていた。
忘れたいのに忘れられない、人を傷つけてしまった時の記憶が時折蘇る。
その度に深い後悔が俺の心臓を掴み取る。
苦しい、怖い。
その感情に支配され、ストレスを溜め込んだ。
結果があの太った体型である。
心のどこかで変わりたいと思った。
高校は誰も居ない所を選んだ。
愛梨はついて来たけど。
俺を知らない人は⋯⋯知っていても体型が変わっていて分からないと思うが、多かった。
その結果が『教室に居る豚』である。
自分への罰だと思った。
守る刃を攻撃の刃にしてしまった自分への罰。
だから別に苦しくもないし耐えられた。
俺は過去、その日に二つの後悔をした。
愛梨の苦しみを察せずに溜め込ませてしまった後悔。ずっと近くに居たのに気づけなかった。
もう一つが守る決意の信念を曲げてしまった事だ。
そして今、それは俺だけが悪い訳じゃないと、もう一度俺に昔のように剣を振るって欲しいと、愛梨が攻撃を仕掛けて来る。
冷静に考えれば今、昔の愛梨と俺はただ立場を入れ替えただけなのかもしれない。
いじめと言われる行為を受けながら、周りに相談しないで一人で背負う事にした。
俺が愛梨を守ろうとしたように、愛梨は俺を守ろうとしている。
違う事と言えば、守れた経験の有無か。
愛梨は対等な戦いで全力で挑んで来ている。
それは打ち込む剣の重みで分かる。
自分の気持ちを言葉で言う事は酷く難しく、簡単には理解されない。
色々と言いたいのに、いざ言うとなると頭が真っ白になる。
何を考えても、考えた先から消えていく。
自分の複雑な感情は他者には理解されない。
しかし、振るう刃には何となく、その想いが重みとして乗るのだ。
魂を込めた剣が強くなるように、魂を込めて振るった刃は重く強い。
愛梨は全力で俺を倒そうとしている。
自分の方が強くなったと証明して、再び俺に剣の道を歩むように促す。
武力行使、言葉なんて無くともそれだけで愛梨の本気の想いは伝わってくる。
自分だけが苦しいんじゃない。
自分だけが苦しむだけでは良くない。
愛梨はそう言いたいのかもしれない。
愛梨の考えは何となくでしか分からない。
でも、それで良いかもしれない。
今はただ、全力で愛梨と戦おう。
彼女の想いを受け止めた上で、真っ向から打ち砕く。
剣の戦いで楽しんで良いのか分からない。
でも、神楽との協力した戦闘や愛梨との戦い。
俺は今、酷く楽しんでいる事を実感している。
剣術の家系のせいかは分からない。
でも、とても楽しいのは自覚しているのだ。
「なんでだろうな。ここまで楽しいって感じるのは!」
「それが日向くんの本音だからだよ! 過去の事を忘れられないのは一緒だよ! あの時、すぐに相談していたらきっと未来は変わっていた! でも、時は戻らないから! だから、笑っていられる未来を掴み取るしかないんだよ!」
「それが剣の道だってか?」
「そうだよ。私は日向くんと一緒にやれるの、すごく嬉しいし。すごく楽しい! だから戻って欲しい。これは私のエゴだ! でも、日向くんも戻りたいって想ってるでしょ? 目が、君の瞳が凄く、活気づいているよ!」
「⋯⋯そうかもね。そのエゴ、どこまで押し通せるかな?」
「やってやるさ。私のせいで日向くんが剣の道を止めるなんて、間違ってる! 君は私のせいじゃないって言うだろうけどね」
「ああ、何回だって言ってやるさ」
互いに距離を離して納刀する。
抜刀術の構えだ。
「霧外流抜刀術、夜霧!」
「霧外流抜刀術、水霧!」
俺が繰り出す縦の一閃に対する愛梨の下からの斬撃。
普通の状態からの剣術の形は同じだ。
そこに抜刀が加わるかの違いである。
でも、それだけで大きな違いとなる。
鞘を利用した力の溜め方によって、一撃の火力が大きく変わるから。
「はっ!」
「はあ!」
武器の性能なんて関係。
ここは純粋に、互いに違う成長性で獲得した剣術のぶつかり合いだ。
言わば、意地と意地のぶつかり合い。
愛梨の想いはただ一つ、強さを示して俺に追いかけさせる事。
俺はそれを受け止め、打ち砕く。
そこには過去に囚われていた俺ではなく、純粋に愛梨には負けたくない俺が居た。
そう、俺は愛梨に本音をさらけ出された事により、少しだけ吹っ切れていた。
確かに悪い事をしたと思っている。
正当防衛だと言えど、力の差があり過ぎて、俺が加害者だ。過剰防衛である。
だけど、また剣の道に戻っても良いのだろうか?
本当に今は楽しい。こんな楽しい時間が終わるなんて嫌だ。
すぐ近くにこの楽しさを継続出来る選択肢がある。
それを軽く受け取って良いかも分からない。
分からない事ばかりだ、ダンジョン攻略を始めてから。
「でも、今は愛梨と全力で戦う!」
「⋯⋯にひっ! 私は常に全力だよ!」
愛梨が明るく笑った。
きっと俺も笑っているのだろう。
でもでも、と言い訳はもう良いだろう。
過去を引きずっても、ただ「どうしてあんな事を」と後悔するだけ。
後悔を何年もしても意味が無い。
その『後悔』をどう乗りきって『未来』に繋ぐかが大切なんだ。
それを今、愛梨が教えようとしてくれている。
「はぁ、はぁ、やっぱり日向くんは強いね」
「愛梨も成長したね」
「上から目線傷つくわ~誕生日私の方が早いからね?」
「素直に感心して褒めたのに⋯⋯」
「嘘つけ~。全力で来てないでしょ?」
俺は少しダメージを受けた。愛梨はそこそこダメージを受けた。
そして俺は『道』を見ようとはしていなかった。
「それは違うよ。愛梨が強くなったから、いくら集中しても『道』が見えないんだよ。あれは極限の集中力の中、無意識で高速思考が行われて、最適解が見えるだけだからさ。同程度の技術を持った相手には無理」
「怪しいな~。ふふ、まぁ、いっか。それじゃ、続きしようか」
ちなみに俺達の戦闘に乱入して来た人達が複数人存在した。
その時は愛梨がスキルを解放して瞬殺し、俺との戦いにスキルを封印して戻っている。
時々俺の方にも来たけど、返り討ちにしている。
かなりの被害を出していると、消滅した瓦礫を思いながら感じる。
まぁ、どうでも良いけどね。
「吹っ切れた俺は強いよ」
「⋯⋯吹っ切れなくても強かったよ? 嫌味?」
「しまらないなぁ」
両親の仕事が忙していつも一人で家が隣同士。
俺はいつも寂しそうな愛梨が気になり、剣の道に誘った。その時は五歳である。
一緒に剣を習い、共に昼や夜を共に、時には一緒に寝たりもした。
本当に家族のような関係であり、だからこそ互いの事を良く理解していた。
理解している感じはあった。
俺は小学高学年から才能が爆発して、上達のスピードが大きく上がった。
それは共に習っていた愛梨を軽く凌駕し、剣道での試合で大人を倒せる程に。
筋力などの肉体スペックも恵まれて、剣術の腕は歴代一と言われた事もある。
でも、そんな俺はとても鈍かった。
中学の時、愛梨が時々暗い顔をするようになり、声をかけてる時が多かった。
毎回「問題ない」と言われて何も言えずにいた。
俺は知らなかったんだ。
愛梨がいじめられている事が。
或いはそんな訳ないと、自らに暗示をかけていたのかもしれない。
俺は誰かを守る為に剣術を磨いていた。
愛梨を守って行きたいって、幼いながらに思っていたのかもしれない。
だから、あの日、愛梨が男達に囲まれている姿に驚いた。
事情を聞き出したら変な噂ばかりで、事実とは違った。
愛梨も俺と同じように学校の部活には入ってないので、一緒に帰る事が多いし、寝る時以外はずっと同じ家にいる。
だから嘘だって分かった。
そこから口論となり、取っ組み合いが始まった。
俺は武術経験者だから、反抗しないでずっと暴力に耐えていた。
対して痛くなかったし。
でも、愛梨に手を伸ばそうとした男が目に入り、小枝を握った。
その瞬間に何かが切れたかのように俺は男達を制圧していた。
気づいた時には、苦しんでいる男達が地面に転がっていたんだ。
一番状態が安全な人でも三ヶ月の入院と成ほどに。
人を守る為に鍛えた剣術が人を傷つけてしまった。
その事実が俺の心を深く抉り、剣術から足を洗う事を決意した。
その日以来、愛梨へのいじめはピタリと病んだ。
その代わり、皆が俺を『悪魔』として扱うようになった。
誰も近寄らない、誰も声をかけない、完全に孤立した。
愛梨だけは変わらずにいてくれたけど。
自分が怖かった。
感情をコントロール出来ずに人を傷つけてしまった事が。
本当は愛梨とも距離を置くべきだったと思う。
でも、突き放しても彼女はどんな壁も粉砕して歩み寄って来た。
剣術の道から離れようとしても、慣れた習慣は忘れないのか、夜な夜な自ら剣を振るうようになっていた。
忘れたいのに忘れられない、人を傷つけてしまった時の記憶が時折蘇る。
その度に深い後悔が俺の心臓を掴み取る。
苦しい、怖い。
その感情に支配され、ストレスを溜め込んだ。
結果があの太った体型である。
心のどこかで変わりたいと思った。
高校は誰も居ない所を選んだ。
愛梨はついて来たけど。
俺を知らない人は⋯⋯知っていても体型が変わっていて分からないと思うが、多かった。
その結果が『教室に居る豚』である。
自分への罰だと思った。
守る刃を攻撃の刃にしてしまった自分への罰。
だから別に苦しくもないし耐えられた。
俺は過去、その日に二つの後悔をした。
愛梨の苦しみを察せずに溜め込ませてしまった後悔。ずっと近くに居たのに気づけなかった。
もう一つが守る決意の信念を曲げてしまった事だ。
そして今、それは俺だけが悪い訳じゃないと、もう一度俺に昔のように剣を振るって欲しいと、愛梨が攻撃を仕掛けて来る。
冷静に考えれば今、昔の愛梨と俺はただ立場を入れ替えただけなのかもしれない。
いじめと言われる行為を受けながら、周りに相談しないで一人で背負う事にした。
俺が愛梨を守ろうとしたように、愛梨は俺を守ろうとしている。
違う事と言えば、守れた経験の有無か。
愛梨は対等な戦いで全力で挑んで来ている。
それは打ち込む剣の重みで分かる。
自分の気持ちを言葉で言う事は酷く難しく、簡単には理解されない。
色々と言いたいのに、いざ言うとなると頭が真っ白になる。
何を考えても、考えた先から消えていく。
自分の複雑な感情は他者には理解されない。
しかし、振るう刃には何となく、その想いが重みとして乗るのだ。
魂を込めた剣が強くなるように、魂を込めて振るった刃は重く強い。
愛梨は全力で俺を倒そうとしている。
自分の方が強くなったと証明して、再び俺に剣の道を歩むように促す。
武力行使、言葉なんて無くともそれだけで愛梨の本気の想いは伝わってくる。
自分だけが苦しいんじゃない。
自分だけが苦しむだけでは良くない。
愛梨はそう言いたいのかもしれない。
愛梨の考えは何となくでしか分からない。
でも、それで良いかもしれない。
今はただ、全力で愛梨と戦おう。
彼女の想いを受け止めた上で、真っ向から打ち砕く。
剣の戦いで楽しんで良いのか分からない。
でも、神楽との協力した戦闘や愛梨との戦い。
俺は今、酷く楽しんでいる事を実感している。
剣術の家系のせいかは分からない。
でも、とても楽しいのは自覚しているのだ。
「なんでだろうな。ここまで楽しいって感じるのは!」
「それが日向くんの本音だからだよ! 過去の事を忘れられないのは一緒だよ! あの時、すぐに相談していたらきっと未来は変わっていた! でも、時は戻らないから! だから、笑っていられる未来を掴み取るしかないんだよ!」
「それが剣の道だってか?」
「そうだよ。私は日向くんと一緒にやれるの、すごく嬉しいし。すごく楽しい! だから戻って欲しい。これは私のエゴだ! でも、日向くんも戻りたいって想ってるでしょ? 目が、君の瞳が凄く、活気づいているよ!」
「⋯⋯そうかもね。そのエゴ、どこまで押し通せるかな?」
「やってやるさ。私のせいで日向くんが剣の道を止めるなんて、間違ってる! 君は私のせいじゃないって言うだろうけどね」
「ああ、何回だって言ってやるさ」
互いに距離を離して納刀する。
抜刀術の構えだ。
「霧外流抜刀術、夜霧!」
「霧外流抜刀術、水霧!」
俺が繰り出す縦の一閃に対する愛梨の下からの斬撃。
普通の状態からの剣術の形は同じだ。
そこに抜刀が加わるかの違いである。
でも、それだけで大きな違いとなる。
鞘を利用した力の溜め方によって、一撃の火力が大きく変わるから。
「はっ!」
「はあ!」
武器の性能なんて関係。
ここは純粋に、互いに違う成長性で獲得した剣術のぶつかり合いだ。
言わば、意地と意地のぶつかり合い。
愛梨の想いはただ一つ、強さを示して俺に追いかけさせる事。
俺はそれを受け止め、打ち砕く。
そこには過去に囚われていた俺ではなく、純粋に愛梨には負けたくない俺が居た。
そう、俺は愛梨に本音をさらけ出された事により、少しだけ吹っ切れていた。
確かに悪い事をしたと思っている。
正当防衛だと言えど、力の差があり過ぎて、俺が加害者だ。過剰防衛である。
だけど、また剣の道に戻っても良いのだろうか?
本当に今は楽しい。こんな楽しい時間が終わるなんて嫌だ。
すぐ近くにこの楽しさを継続出来る選択肢がある。
それを軽く受け取って良いかも分からない。
分からない事ばかりだ、ダンジョン攻略を始めてから。
「でも、今は愛梨と全力で戦う!」
「⋯⋯にひっ! 私は常に全力だよ!」
愛梨が明るく笑った。
きっと俺も笑っているのだろう。
でもでも、と言い訳はもう良いだろう。
過去を引きずっても、ただ「どうしてあんな事を」と後悔するだけ。
後悔を何年もしても意味が無い。
その『後悔』をどう乗りきって『未来』に繋ぐかが大切なんだ。
それを今、愛梨が教えようとしてくれている。
「はぁ、はぁ、やっぱり日向くんは強いね」
「愛梨も成長したね」
「上から目線傷つくわ~誕生日私の方が早いからね?」
「素直に感心して褒めたのに⋯⋯」
「嘘つけ~。全力で来てないでしょ?」
俺は少しダメージを受けた。愛梨はそこそこダメージを受けた。
そして俺は『道』を見ようとはしていなかった。
「それは違うよ。愛梨が強くなったから、いくら集中しても『道』が見えないんだよ。あれは極限の集中力の中、無意識で高速思考が行われて、最適解が見えるだけだからさ。同程度の技術を持った相手には無理」
「怪しいな~。ふふ、まぁ、いっか。それじゃ、続きしようか」
ちなみに俺達の戦闘に乱入して来た人達が複数人存在した。
その時は愛梨がスキルを解放して瞬殺し、俺との戦いにスキルを封印して戻っている。
時々俺の方にも来たけど、返り討ちにしている。
かなりの被害を出していると、消滅した瓦礫を思いながら感じる。
まぁ、どうでも良いけどね。
「吹っ切れた俺は強いよ」
「⋯⋯吹っ切れなくても強かったよ? 嫌味?」
「しまらないなぁ」
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