上 下
3 / 6

3再捜査

しおりを挟む
 警察の判断に違和点を感じる者が出てきた。
 望月薫が殺されたと妹の早苗は言っている。
 それが事実とするならば、犯人は薫の部屋に入ったということになる。
 プリンターから打ち出していた遺書は犯人が作った物であることになるし、その偽造遺書に記載した8月20日午後3時前後に殺したことになる。

 近藤はいつもよりは少しスピードを上げて覆面パトカーを走らせ寿マンションに行った。
 まず先に佐川だけが車からおりて管理人室に行った。

 窓口から管理人が顔をのぞかせた。
「あれ、刑事さん、今度はなんですか? 望月薫さんは自殺だと別の警察の人から伺いましたけど」
「ちゃんとした調書を作成するためには、状況証拠を固めておく必要がありますからね」
「そうですか」
「また、こちらの駐車場に車を置かせてもらえませんか?」
「そりゃ、かまいませんよ」
 管理人は前と同じように管理人室から出てきて、佐川とともに駐車場に行った。管理人は駐車場の入口近くで車をとめていた近藤に向かって指示を出した。すぐに近藤は車を動かして、管理人の指示通りの場所に車を置いていた。
 車からおりた近藤は管理人に近づき、管理人は二人を前にしていた。

「いろいろお聞きしたいと思っております。できれば、監視カメラの映像も見させていただければと思っておりますが」と、佐川はすぐに要望を出した。
「別のお巡りさん、そう鑑識の人たちも見てはいかれたんですがね。それならば、管理人室に行きませんか?」
 三人でマンション内に戻り、管理人はドアを開けて、二人を管理人室に入れてくれた。
 管理人室には三台の監視カメラの映像が映るディスプレイが壁沿いに並び、それを動かせる機器と入力ができるキーボードが机の上に置かれていた。
 部屋の中に置かれていた鉄パイプ椅子に佐川と近藤は管理人から勧められてすわった。管理人も自分用の椅子にすわっていた。その間に管理人の奥さんがお茶を入れてきて、部屋の中に置かれた小さなサイドテーブルにのせていた。

「さっそくですが、管理人が503号室に入ろうとした時には、鍵がかかっていたのですよね?」
「前にも言いましたよね。玄関ドアに鍵がかかっていたので、仕方なく管理人用の合鍵を使いましたからね。あの部屋の玄関ドアは私が開けるまで間違いなく閉まっていた」
「そうですか。部屋にある窓やベランダのガラス戸の錠はかかっていた。もちろん、開いていたのを鑑識係が閉めたりはしてはいないことの確認を取っていますから」
「捜査に関しては私は素人ですが、望月薫さんの部屋は密室だということになりますね」

「本当に密室であったかどうか、確認をしておくことが必要です」
「じゃ、どうされるのですか?」
「そうですな。マンションには監視カメラがついている。このカメラは、このマンションに出入りした人たちすべてを見ることができます。特に上に行くにはエレベーターを使わなければならない。誰が使ってどこで降りたか、エレベーターの中にある監視カメラを見れば、わかる。もし犯人がいれは五階に降りたはずです」
 そこで、佐川は話すのをやめて、片眉をあげてみせた。
「これを確かめて、推理を進めるためには監視カメラの記録が残っていないとできません。どうですか?」

「大丈夫ですよ。ここのデータの更新は一月一回です。それまでの間保管していますので」
「じゃエレベーターの監視カメラで8月20日分を見せてください」
「ちょっとお待ちください」と言って管理人はキーボードをいじり、8月20日午前0時の画面を選びだしていた。

「今は、鍵のピッキングを行える道具がありますし、それをできる技術を持っている人たちがいる。だから、密室なんて、ありえない時代がきているかもしれませんよ」と、近藤が不安げな声をあげた。
 すると「鍵を開ける技術を持っていても、開けるドアの前に来なくては、技術を使うことはできませんよ」と、佐川は笑っていた。

 管理人はキーをたたくと、早送りにした画像が動き出した。
 映像の中で、エレベーターを五階でおりた人がいた。だが、ピザの配達員だった。配達員はしばらくして再びエレベーターにのり下へおりていった。
「とめてくれ」と、佐川が声を出す。管理人はキーをたたくと、映像がとまった。
 画面の右上の端に時間の表示がなされていた。
「下に降りた時間は11時35分。この時間の後、すぐに妹がスマホで薫と話をしている。この時間では望月薫は生きていた時間だ」と言って、佐川が首を傾げた。

 その後、いくら監視カメラの映像を見ても、誰も五階に降りる者はいなかったのだ。
「昼間はマンションには人がこないものなのかね」
「刑事さん。古いマンションでは部屋に空きができています。五階も四戸ほど空いている状況です。それに、ここに住む人は共稼ぎも多くて遅い時間でもないと帰ってはこない。つまり、昼間の人の出入りがない」

「可能性だけを考えると、マンションの住民の誰かが、殺したことも考えられますね?」と、近藤は思いついたことを口にした。すると、佐川は「他の階の者が望月薫を殺そうと思ったら、やはりエレベーターにのって五階でおりなければならないはずだよ」と言っていた。

「いや、私がこのマンションで長く管理人をやっていますが、そんな人はいないはずですよ。それにこの時間にいたとすれば、井上さんの奥さんとお子さんだ。そうだ。おそらく、ピザを頼んだとすれば505号室にいた二人ですよ」と言って、管理人が手をたたいていた。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

時の呪縛

葉羽
ミステリー
山間の孤立した村にある古びた時計塔。かつてこの村は繁栄していたが、失踪事件が連続して発生したことで、村人たちは恐れを抱き、時計塔は放置されたままとなった。17歳の天才高校生・神藤葉羽は、友人に誘われてこの村を訪れることになる。そこで彼は、幼馴染の望月彩由美と共に、村の秘密に迫ることになる。 葉羽と彩由美は、失踪事件に関する不気味な噂を耳にし、時計塔に隠された真実を解明しようとする。しかし、時計塔の内部には、過去の記憶を呼び起こす仕掛けが待ち受けていた。彼らは、時間が歪み、過去の失踪者たちの幻影に直面する中で、次第に自らの心の奥底に潜む恐怖と向き合わせることになる。 果たして、彼らは村の呪いを解き明かし、失踪事件の真相に辿り着けるのか?そして、彼らの友情と恋心は試される。緊迫感あふれる謎解きと心理的恐怖が交錯する本格推理小説。

雨の喝采

たくひあい
ミステリー
なとなと番外編1 学校の生徒から呼び出しを受けた夏々都は、幼馴染と一緒に、誰かが割った貯金箱の謎に関わる。 ななとくん誕生日おめでとう記念の短編です。 本編であまり語られないほのぼのした日常編。 公式サイトから転載。  :) 15年09月10日 i以前 なとなと 番外編 「枠と境界線」

六等星の憂うつ

そで
ミステリー
 大学2年の得田和十(とくだ わと)は作家から原稿を受け取るアルバイトをしていた。その日も作家たちの原稿集めに回っていたのだが、何故か返事がなく…。 売れっ子作家の家並舎六(いえなみ)舎六と共に、和十が事件を解決していく舎六シリーズ第一段。

「ここへおいで きみがまだ知らない秘密の話をしよう」

水ぎわ
ミステリー
王軍を率いる貴公子、イグネイは、ある修道院にやってきた。 目的は、反乱軍制圧と治安維持。 だが、イグネイにはどうしても手に入れたいものがあった。 たとえ『聖なる森』で出会った超絶美少女・小悪魔をだまくらかしてでも――。 イケメンで白昼堂々と厳格な老修道院長を脅し、泳げないくせに美少女小悪魔のために池に飛び込むヒネ曲がり騎士。 どうしても欲しい『母の秘密』を手に入れられるか??

港までの道程

紫 李鳥
ミステリー
港町にある、〈玄三庵〉という蕎麦屋に、峰子という女が働いていた。峰子は、毎日同じ絣の着物を着ていたが、そのことを恥じるでもなく、いつも明るく客をもてなしていた。

春、うらら

四輪駆動静音設計
ミステリー
※この物語はフィクションであり、連想される社会団体や人物とは無関係です 陸上競技の名門、府中学園をめぐる物語。

【完結】残酷館殺人事件 完全なる推理

暗闇坂九死郞
ミステリー
名探偵・城ケ崎九郎と助手の鈴村眉美は謎の招待状を持って、雪山の中の洋館へ赴く。そこは、かつて貴族が快楽の為だけに拷問と処刑を繰り返した『残酷館』と呼ばれる曰くつきの建物だった。館の中には城ケ崎と同様に招待状を持つ名探偵が七名。脱出不能となった館の中で次々と探偵たちが殺されていく。城ケ崎は館の謎を解き、犯人を突き止めることができるのか!? ≪登場人物紹介≫ 鮫島 吾郎【さめじま ごろう】…………無頼探偵。 切石 勇魚【きりいし いさな】…………剣客探偵。 不破 創一【ふわ そういち】……………奇術探偵。 飯田 円【めしだ まどか】………………大食い探偵。 支倉 貴人【はせくら たかと】…………上流探偵。 綿貫 リエ【わたぬき りえ】……………女優探偵。 城ケ崎 九郎【じょうがさき くろう】…喪服探偵。 鈴村 眉美【すずむら まゆみ】…………探偵助手。 烏丸 詩帆【からすま しほ】……………残酷館の使用人。 表紙イラスト/横瀬映

ミノタウロスの森とアリアドネの嘘

鬼霧宗作
ミステリー
過去の記録、過去の記憶、過去の事実。  新聞社で働く彼女の元に、ある時8ミリのビデオテープが届いた。再生してみると、それは地元で有名なミノタウロスの森と呼ばれる場所で撮影されたものらしく――それは次第に、スプラッター映画顔負けの惨殺映像へと変貌を遂げる。  現在と過去をつなぐのは8ミリのビデオテープのみ。  過去の謎を、現代でなぞりながらたどり着く答えとは――。  ――アリアドネは嘘をつく。 (過去に別サイトにて掲載していた【拝啓、15年前より】という作品を、時代背景や登場人物などを一新してフルリメイクしました)

処理中です...