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天空魔人グール

14 迷走ワルツ

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 オリバーとディックは家と家の間をぬうように歩きまわり、カオルを一軒の食堂に連れて行きました。オリバーがカオルといっしょに城に行くことを頼むと、店主はすぐに断ってきました。
「前に店で火事を起こしたときに、オリバーは火を消してくれた。その恩義にむくいたいと思うよ。だが、あんたを城に連れて行って見つかったら、わたしらは生きてはいられない」

 そこで、カオルはバッグから金貨を10ゴールド出しました。
「これでどうですか? 少ないですか?」
「う~ん、たしかにお金は欲しいよ。だけど、お金をもらっても、殺されるのはいやだからね」

 そこで、カオルは背中のリュックから、クマのぬいぐるみを出しました。
「クマさんを踊らせたら、連れて行ってくれますか?」
 店主は、ぬいぐるみのクマを手にとると、逆さにしたり、ふったりしていました。
「これは、ただのぬいぐるみだろう。そんなことができるはすがない?」
「だから、踊らせたらですよ」
「ああ、できたらね」と言って、店主はぬいぐるみのクマをカオルに返してよこしました。
 絶対に、できないと思っているのです。
「そうだ。踊らせることができなかった10ゴールドをもらえることにしようよ」
「つまり、かけをするということですね?」
 店主はうなずいています。
 そこで、カオルはクマをテーブルの上に置いて、すぐに念をかけました。するとクマは立ち上がり、左右に体をゆらしリズムをとって踊り出したのです。
「なんで、動くんだ? もしかしたら、あんたも魔法を使うのか?」
「そうですよ。私は白魔法を使えるんです」
 すると、店主の目の色が変りました。
「ともかく、さきほどお約束をした10ゴールドもらえるというのであれば」
 今回もカオルはぬいぐるみのクマに助けてもらったのでした。

「食堂に来て何も食べないのもおかしいでしょう。皆さんに食べる物をあげてください。私にはチャーハン。それらの代金として、かけの10ゴールドをもさしあげます」
 そう言いながら、カオルはクマをリュックにしまいこみ、その後バックから20ゴールド出して、店主に渡しました。
「わかりました。すぐに料理は作りますよ。あんたたちも同じ物でいいんだろう?」
 オリバーたちは軽くうなずき、お金を手にした店主は厨房ちゅうぼうに戻って行きました。

 店主はチャーハンを作り出し香ばしい匂いがしてきました。
 なぜか、待ちきれない気分。考えてみれば、カオルは朝食をまだ食べていなかったことを思い出していました。
 腹が空いたら、いくさはできぬです。ともかく、頑張るためには、お腹をみたして、エネルギーをため込むことが必要です。

 しばらくして、店主が戻ってきました。
「はい、お待ち」
 店主はできたてのチャーハンとグラスに入った水を三人分、テーブルの上におきました。カオルたちが急いで食べ出すと、カオルの横顔を見ながら店主は話をしてきました。
「毎日のように兵士が来て店で食べてくれるが、お金を払ってはいかない。お金をちゃんと払ってくれる村人は貧しくてめったに食べにこないしね。店をやっていくのは大変なんだよ」

 言いたいことを言い終えた店主は、カオルたちが食べている間に店の外に出て行きました。店主の奥さんや息子に手伝わせ、城に運ぶ食べ物を入れた鍋や重箱をひもでしばり、それを店わきに置いた荷車に積んでいたのでした。

 カオルたちが食べ終えた頃、店主は店の中に戻ってきました。
「さあ、でかけるよ。オリバーとディックにも来てもらう。私をつかまようとした兵士が現れたら、そいつを抑えて欲しいからさ。その間に私は逃げることができる。だから、いつもいっしょ行っている奥さんと息子は店に残ってもらうよ」
 店主はカオルたちに緑色のマントを手渡していました。そのマントは料理配達人が着る制服だったからです。
 カオルたちはマントを羽織ると、店主の後について、店を出ました。

 店主は荷車の引手をつかむと「あんたらは、ちゃんと押してくれよな」と言って、荷車を引き出しました。荷車の後ろについて三人は並んで押し出しました。

 荷車を押しながら、カオルはどうやったら、城の壁のそばに行けるか、考えていました。
「城の中に入ったらグールと顔を合わることあります?」と、カオルはオリバーに聞きました。
「いつもは宮殿の奥にいるけどね。気まぐれに、そこから出てくることがあるんだ。そんな時に出会ってしまうかもしれないよ」
「そうですか。それは、まずいわ」
 すぐにカオルはバッグからメガネを取り出して顔にかけました。
 それを見たオリバーは「なんじゃ、それは」と言って笑い出しました。メガネのレンズが厚く、まるで、カオルの目が飛び出しているように見えたのです。
 でも、ディックは笑いません。ディックには、カオルの顔はメガネをかける前から、すでにゆがんで見えていたからでした。

 店主の引く荷車は坂道を登り出し、道路は右や左に蛇行しています。後ろについた三人は必死に力を入れて荷車を押していました。
 道の両側には、カオルが知らない木々が生えていました。調べたりする時間がないので、よく分かりませんが魔物の植物たちに違いがありません。やたらにつるのようなものが伸びていたのです。
 
 

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