17 / 57
イバラの森大戦
17 病院の中
しおりを挟む
城の中におかしな者たちがいなったので、これでひと安心です。この後、いつもなら魔法学校の授業に顔を出していたのですが、今日はそれをしません。まず病院に行って、トムの様子を確かめなければならないと思っていたからです。
病院はお豆腐のような建物です。でも病院のドアだけは黄色いアブラゲを思い出させる色をしていました。
ドアは自動ドアになっているので、カオルが近づいただけでドアが開きました。
病院に入って受付の人に話しかけようとしてカオルは驚いてしまいました。
受付は女の人なのですが、頭に長い耳をはやしていたからです。どうやら、エルザがウサキを魔法で人に変えたのでしょう。
「すいません。肩に怪我をしたトムがここにやってきたと思うのですが」
「はい。その通路をまっすぐ行って、突きあたりにある病室にいます」
「わかりました」
確かに長い通路の向こうに白いドアが見えました。でも、右は畑になっていて、耳の長い者たちがお茶のような木から葉をつんで腰につけたカゴに入れていました。
白衣をきたお医者さんと思える人が通りかかりましたので、カオルは「あの人たちは何をしているのですか?」と、聞きました。
「かれらはね。育たてた薬草をつんでいるんだよ。ここには薬局がないだろう。だから、薬は病院で作らなければならないからね」
カオルがお医者さんにお礼を言うと、片手をあげて笑いながらお医者さんは離れて行きました。
お医者さんは、耳が長くありませんしお腹が出ていましたので、タヌキだったのかもしれないと思いながら、カオルは歩き出し、突き当りのドアを開けて病室に入りました。
中は広くたくさんのベッドが置かれていました。カオルが見まわすと、カオルに向かって手をあげてふっている者がいました。トムです。
「だいじょうぶ?」と言いながら、カオルはトムに近づいて行きました。大ネズミにかみつかれた肩には包帯がまかれています。
「カオル、ありがとう。助けてくれて。傷口に薬をたっぷり塗ってもらったからね。これで大丈夫! 病院の薬はすごく効くんだよ」
「よかった。その調子ならば、すぐなおるわね」
安心をしたカオルは気持ちに余裕がでてきましたので、病室の中を見まわしてベッドに寝ている人たちを見ることができました。どこから、この病院にやってきたのでしょうか。カオルが知らない人たちばかりです。でも、魔法学校の生徒たちもいました。おそらく、ホウキにのって高い空から落ちてしまったのでしょう。
突然、カオルは首をかしげました。
それは二つの彫刻がベッドの上にのせられていたからです。どう考えても彫刻を病室のベッドの上に置かなければならない理由をカオルには思いつきません。
彫刻の一つは長い髪のすらりとした女の姿で長いドレスを着ていました。もう一つの彫刻は背中に羽がはえていて、頭に冠をかぶっていました。
何故か、長い髪の女の彫刻のそばに、おばあさんが立っていて彫刻の背中に刷毛で何かを塗っていたのです。すぐにカオルはおばあさんの所に行きました。
「おばあさん、こんにちは」
「やあ、いらっしゃい。トムを助けてくれたそうだね。ありがとう」
「どうして、病室に彫刻を置いているのですか?」
「この彫刻は病人なんだよ。だから、ここに置いて治療をしてもらっているのさ」
「えっ、病人なの?」
「そうだよ。こちらは美をつかさどる女神ビーナス。むこうは、幸せをもたらしてくれる女神ハッピー」
改めて、カオルが目の前の彫刻を見ると、たしかに、いままで見たどんな女性よりも美しい姿をしています。
「あっ」と、カオルは声をあげました。カオルと目が合った彫刻の茶色の目が動いたからでした。
「この彫刻は生きている!」
「そうよ。前はこんな石になってはいなかったからね。だから、石化した体を元に戻してあげなければならない」
「でも、どうして、こんなになったの?」
カオルの問いに、おばあさんはため息を一つついた後、経過を話してくれました。
「前に十五歳になったのに死ななかったオーロラj姫をオードリが殺しにやってきたことを話してあげたよね。それを知った白魔女や女神たちが集まり、オーロラ姫を助けようとしたんだよ」
おばあさんは片眉をあげて少し辛そうな顔をしながら再び話し出しました。
「あの時は、私は他の時空に行っていたんだよ。それに女神の二人がいてくれれば、オードリなんか問題にならないと思っていたからね。だが、違った。オードリは恐ろしい力を手に入れていた。それは石化光線。光をあびた者を石にする力なんだ。オードリに石にされ、オードリが連れてきた巨人たちに斧をふるわれ粉粉にされた魔女たちが出てしまった。緊急の連絡を受けたので、私が飛んできた時には、女神二人も石化光線を浴びて石になっていた。巨人たちが斧をふる前に創成魔法で石壁を作って女神たちを守り、病院に運び込んで置いたのさ。オードリには立て続けに炎を七つぶつけて倒してやった。だが、私は油断をしてしまった。生き残っていた巨人に大石をあてて壊している間に、オードリは死んだ命をすてて、最後の命にのりかえたんだよ。その命で羽のついたガーゴイルとなって逃げて行ったよ」
ちなみに、ガーゴイルについて、説明をしておきます。
ガーゴイルと言うのは、城の雨水をとおす雨どいに彫られた鬼の彫刻なのですが、年数をへると本物の鬼となって動き出すことができるのです。でも、弱い鬼ですので、暗がりから人を驚かすことぐらいしかできません。
「命をいくつも持っている魔女なんて、怖いわ」
「そうだね。黒魔女たちは悪魔や魔人たちに生贄をささげたり、自分で人を食べることによって命を増やすことができる。恐ろしいことだよ」と言いながら、おばあさんは手に持っていた広口瓶の中に刷毛を入れました。
瓶の中の薬を刷毛にたっぷりとつけると再びビーナスの背中に薬を塗っていました。薬を塗ったところが、やがて肌色に変わり出したのです。
「あっ」と、カオルは思わず声をあげました。
「いろんな薬草を試して、前のような肌をとり戻せる薬草をやっと見つけることができたよ」と言って、おばあさんは笑い声を出しました。それを聞いたビーナスの目から涙がこぼれ出していました。
病院はお豆腐のような建物です。でも病院のドアだけは黄色いアブラゲを思い出させる色をしていました。
ドアは自動ドアになっているので、カオルが近づいただけでドアが開きました。
病院に入って受付の人に話しかけようとしてカオルは驚いてしまいました。
受付は女の人なのですが、頭に長い耳をはやしていたからです。どうやら、エルザがウサキを魔法で人に変えたのでしょう。
「すいません。肩に怪我をしたトムがここにやってきたと思うのですが」
「はい。その通路をまっすぐ行って、突きあたりにある病室にいます」
「わかりました」
確かに長い通路の向こうに白いドアが見えました。でも、右は畑になっていて、耳の長い者たちがお茶のような木から葉をつんで腰につけたカゴに入れていました。
白衣をきたお医者さんと思える人が通りかかりましたので、カオルは「あの人たちは何をしているのですか?」と、聞きました。
「かれらはね。育たてた薬草をつんでいるんだよ。ここには薬局がないだろう。だから、薬は病院で作らなければならないからね」
カオルがお医者さんにお礼を言うと、片手をあげて笑いながらお医者さんは離れて行きました。
お医者さんは、耳が長くありませんしお腹が出ていましたので、タヌキだったのかもしれないと思いながら、カオルは歩き出し、突き当りのドアを開けて病室に入りました。
中は広くたくさんのベッドが置かれていました。カオルが見まわすと、カオルに向かって手をあげてふっている者がいました。トムです。
「だいじょうぶ?」と言いながら、カオルはトムに近づいて行きました。大ネズミにかみつかれた肩には包帯がまかれています。
「カオル、ありがとう。助けてくれて。傷口に薬をたっぷり塗ってもらったからね。これで大丈夫! 病院の薬はすごく効くんだよ」
「よかった。その調子ならば、すぐなおるわね」
安心をしたカオルは気持ちに余裕がでてきましたので、病室の中を見まわしてベッドに寝ている人たちを見ることができました。どこから、この病院にやってきたのでしょうか。カオルが知らない人たちばかりです。でも、魔法学校の生徒たちもいました。おそらく、ホウキにのって高い空から落ちてしまったのでしょう。
突然、カオルは首をかしげました。
それは二つの彫刻がベッドの上にのせられていたからです。どう考えても彫刻を病室のベッドの上に置かなければならない理由をカオルには思いつきません。
彫刻の一つは長い髪のすらりとした女の姿で長いドレスを着ていました。もう一つの彫刻は背中に羽がはえていて、頭に冠をかぶっていました。
何故か、長い髪の女の彫刻のそばに、おばあさんが立っていて彫刻の背中に刷毛で何かを塗っていたのです。すぐにカオルはおばあさんの所に行きました。
「おばあさん、こんにちは」
「やあ、いらっしゃい。トムを助けてくれたそうだね。ありがとう」
「どうして、病室に彫刻を置いているのですか?」
「この彫刻は病人なんだよ。だから、ここに置いて治療をしてもらっているのさ」
「えっ、病人なの?」
「そうだよ。こちらは美をつかさどる女神ビーナス。むこうは、幸せをもたらしてくれる女神ハッピー」
改めて、カオルが目の前の彫刻を見ると、たしかに、いままで見たどんな女性よりも美しい姿をしています。
「あっ」と、カオルは声をあげました。カオルと目が合った彫刻の茶色の目が動いたからでした。
「この彫刻は生きている!」
「そうよ。前はこんな石になってはいなかったからね。だから、石化した体を元に戻してあげなければならない」
「でも、どうして、こんなになったの?」
カオルの問いに、おばあさんはため息を一つついた後、経過を話してくれました。
「前に十五歳になったのに死ななかったオーロラj姫をオードリが殺しにやってきたことを話してあげたよね。それを知った白魔女や女神たちが集まり、オーロラ姫を助けようとしたんだよ」
おばあさんは片眉をあげて少し辛そうな顔をしながら再び話し出しました。
「あの時は、私は他の時空に行っていたんだよ。それに女神の二人がいてくれれば、オードリなんか問題にならないと思っていたからね。だが、違った。オードリは恐ろしい力を手に入れていた。それは石化光線。光をあびた者を石にする力なんだ。オードリに石にされ、オードリが連れてきた巨人たちに斧をふるわれ粉粉にされた魔女たちが出てしまった。緊急の連絡を受けたので、私が飛んできた時には、女神二人も石化光線を浴びて石になっていた。巨人たちが斧をふる前に創成魔法で石壁を作って女神たちを守り、病院に運び込んで置いたのさ。オードリには立て続けに炎を七つぶつけて倒してやった。だが、私は油断をしてしまった。生き残っていた巨人に大石をあてて壊している間に、オードリは死んだ命をすてて、最後の命にのりかえたんだよ。その命で羽のついたガーゴイルとなって逃げて行ったよ」
ちなみに、ガーゴイルについて、説明をしておきます。
ガーゴイルと言うのは、城の雨水をとおす雨どいに彫られた鬼の彫刻なのですが、年数をへると本物の鬼となって動き出すことができるのです。でも、弱い鬼ですので、暗がりから人を驚かすことぐらいしかできません。
「命をいくつも持っている魔女なんて、怖いわ」
「そうだね。黒魔女たちは悪魔や魔人たちに生贄をささげたり、自分で人を食べることによって命を増やすことができる。恐ろしいことだよ」と言いながら、おばあさんは手に持っていた広口瓶の中に刷毛を入れました。
瓶の中の薬を刷毛にたっぷりとつけると再びビーナスの背中に薬を塗っていました。薬を塗ったところが、やがて肌色に変わり出したのです。
「あっ」と、カオルは思わず声をあげました。
「いろんな薬草を試して、前のような肌をとり戻せる薬草をやっと見つけることができたよ」と言って、おばあさんは笑い声を出しました。それを聞いたビーナスの目から涙がこぼれ出していました。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
お姫様の願い事
月詠世理
児童書・童話
赤子が生まれた時に母親は亡くなってしまった。赤子は実の父親から嫌われてしまう。そのため、赤子は血の繋がらない女に育てられた。 決められた期限は十年。十歳になった女の子は母親代わりに連れられて城に行くことになった。女の子の実の父親のもとへ——。女の子はさいごに何を願うのだろうか。
川の者への土産
関シラズ
児童書・童話
須川の河童・京助はある日の見回り中に、川木拾いの小僧である正蔵と出会う。
正蔵は「川の者への土産」と叫びながら、須川へ何かを流す。
川を汚そうとしていると思った京助は、正蔵を始末することを決めるが……
*
群馬県の中之条町にあった旧六合村(クニムラ)をモチーフに構想した物語です。
王女様は美しくわらいました
トネリコ
児童書・童話
無様であろうと出来る全てはやったと満足を抱き、王女様は美しくわらいました。
それはそれは美しい笑みでした。
「お前程の悪女はおるまいよ」
王子様は最後まで嘲笑う悪女を一刀で断罪しました。
きたいの悪女は処刑されました 解説版
理想の王妃様
青空一夏
児童書・童話
公爵令嬢イライザはフィリップ第一王子とうまれたときから婚約している。
王子は幼いときから、面倒なことはイザベルにやらせていた。
王になっても、それは変わらず‥‥側妃とわがまま遊び放題!
で、そんな二人がどーなったか?
ざまぁ?ありです。
お気楽にお読みください。
銀のらせん
灰草 露
児童書・童話
「この階段は昇ることはできても、決して降りることはできないのです…」
母さまと療養所に来ていた坊ちゃんは、雑木林でとても美しいらせん階段を見つけます。階段の番人の鹿の青年。めかし込んだガマガエルの親方、ギンガムチェックのワンピースのリス、双子の蝶々。坊ちゃんは様々なものたちと出会います。果たして銀のらせんを昇った先に何があるのでしょうか。
こおにの手紙
箕面四季
児童書・童話
ひげもじゃかみさまへ
おげんきですか?
いま、みえちゃんという
とっても かわいい おんなのこが おまいりに きています。
みえちゃんは おんなのあかちゃんが ほしいのです。
だから、はやく かえってきて、おねがいごとを かなえてください。
こおに
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる