カオル、白魔女になります!

矢野 零時

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イバラの森大戦

13 ドナ レストラン

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 グリスの部屋から、カオルがレイモンドと一緒に出てくるとニーナが外で待っていてくれたのです。
「そろそろ、おなかすいたでしょう」
 ニーナに言われて、そろそろ夕食の時間になっていることに気がつきました。元の時間に戻れば、お母さんが作ってくれたおにぎりがあるのですが、まだ戻ることができそうにもありません。ニーナが見ている方にカオルは視線を向けました。
 すると、そこは小屋の中なのに、まるで大食堂のようになっていたのです。
 たくさんのテーブルがおかれ、それぞれのテーブルは四つのイスで囲こまれていました。料理を引き渡すために設けられたカウンターには、すでに生徒たちが列を作っていました。
「ここは、魔法学校にきた人たちのための食堂。ドナレストラン。もちろん、無料よ」と言ったニーナは首を左にかしげました。

 カウンターの向こう側は調理場になっていて、そこにドナ一人がいて忙しそうにフライパンを振っていました。

「ドナは、どうやって、生徒たちが食べたい物が分かるのかしら?」
「カウンターの端に招きネコが置かれているでしょう。あそこの前を通った時に、食べたい物を思えばいいのよ。そうすれば、それが、ママの所に届くのよ」と言って、ニーナはにっこりと笑っています。
「でも、どんなお料理を食べたいか、まだ決めていないわ」
「じゃ、見本があるから、それを見て決めたらいいわ」
「見本?」
 ニーナは、カオルとレイモンドを生徒たちの列にかくれて見えなくなっていた所に連れていきました。
 そこには、四角いガラスケースが置かれていました。ガラスケースは、洋食屋レンガ堂の前に置いてあったのとまったく同じだったのです。カレーライス、ポークソテー、オムライス、エビフライなどが展示されていました。
 でも違っている所もありました。展示されている料理は蝋細工ではなく、本物だったからです。ガラスケースの中に置かれた料理は湯気が立ち、ガラスケースの外にまで、美味しそうな匂いが漂ってきました。
「カオルは何にするの?」
「私は、いろんな物が食べたい。ハンバーグもいいしエビフライもいいわ。ポテトサラダもあった方がいいわね」
「じゃ、グリルセットがおすすめよ。でも、私はボンゴレ。スパゲティよ。でも、カオルにまけないくらいお腹がすいているから、大もりね」
 ニーナの言う通り、グリルセットには、ハンバーグ、エビフライ、アジフライ、その上、サラダにポテトとキャベツの千切りまでついていたのです。
「ニーナの言う通り、グリルセットにするわ」
「ぼくはホットケーキのプリン添えにするかな」とレイモンドが言っていました。

 三人はカウンターに並んでいた生徒たちの後ろに並らびました。しばらくすると、カオルたちの後ろにも生徒たちが続いて並んでいました。
 三人はカウンターの台に近づいていきます。
 ニーナが最初にカウンターを前にして立つとドナはあっという間に、皿に入れたスパゲティをお盆にのせてニーナに渡しました。
 次に並んでいたカオルの顔を見たドナは、「ライスつけるかい?」と聞いてきました。
「すいません。つけてください」と、カオルが言うと、「あいよ」と言ってドナはかまどの所に戻っていきました。油のたっぷり入った大なべに衣をつけたエビやアジを入れると、ジューと心地よい音がしています。あがったフライは油切り用の金網の上にのせました。
 次にフライパンにひき肉をこねて丸めた物を載せると、一気に火を強めました。その間に、キャベツを包丁で切り刻み、それを皿にのせ、冷蔵庫からポテトサラダを取り出すとキャベツの脇にのせていました。その後、ハンバーグを引っくり返しこげ目をつけると、フライパンに蓋をしてハンバーグを蒸し焼きにしていました。
 やがて、焼きあがったハンバーグとフライを皿に移しライスを入れた小皿と一緒にお盆に載せると、それをカオルに持たしてくれました。
 ものすごく手数をかけてドナはカオルの料理を作っていましたが、時間にしたら、それが数分のことだったのです。本当に信じられない早さです。カオルはグリルセットをのせたお盆を持ってカウンターを離れました。

 カオルが周りを見廻すと、先にテーブルについたニーナが手を振ってすわっている場所を教えてくれました。
 カオルは他のテーブルの間をぬうようにして、ニーナに近づいていきました。
 ニーナに向かい合う席にカオルはすわりました。少し遅れて、レイモンドもやってきて、同じテーブルを前にしたイスにすわりました。みんなで声をあわせて、「いただきます」と言って、食べ始めました。

 空になった食器をのせたお盆を持ったトムが、カオルたちがすわっているテーブルにやってきました。トムはニーナと同じように別の列に並んでいましたので、カオルやレイモンドと違うクラスで受講をしていたのです。
「魔法の授業を受けてどうでした?」とトムが話しかけてきました。
「やっぱり、難しいわね」と、カオルが言うとレイモンドもうなずいていました。
「何事も経験よ。何度もやれば、だんだんうまくなるわ。私なんか、小さい頃から小石を浮かしたり、ホウキにのらされていたから、もうそんな訓練に時間をさくきはしないのよ」と、ニーナは右手をあげていました。
「私は、どれも初めてだけど、小石を浮かしたり、ホウキにのる訓練に専念するつもり。魔法使いは、これらができる人だと思っていたからよ」と、カオルは言いました。
「そうね。正しい考えだと思うわ。でも、明らかな事がひとつあるの。オーロラ姫を狙って、オードリが再びやってくることよ。ママはオーロラ姫を守るために、サラと一緒になって戦うつもりよ。その時にはママの手伝いをしてあげたいの。戦いには、やっぱり炎の魔法が一番だわ。だから、炎の魔法のレベルを上げて置きたいの!」
「私もオーロラ姫を守ってあげたいわ。でも、そのために私ができることなんかあるのかしら?」
「小石だって、浮かすだけではなく、飛ばすことまで、できるようになれば、オードリを攻撃できるわよ」
「そうよね」と言ったカオルは笑っていました。自分でもできることがあると分かったからです。

「レイモンドは、これからどうするのかな?」と、ニーナが聞きました。
「私が魔法を習いに来たのは、クニッパ国の食料確保をはかるためです。グリス先生から呪いをとく力のある植物の種をもらったので、できるだけ早くクニッパ国に戻って種をまきたいと思っています」
「そうだ。私も一度、おばあさんに頼んで家に戻してもらうわ」と、カオルが言いました。
「あなたは、ここにきた時といつでも同じ時間に戻れるのよ。わざわざ戻ったり、また来たりする必要はないわ。それにカオルとレイモンドの部屋はもう用意がされているわよ」
 そう言ったニーナはレストランの西がわの壁を指さしました。

 壁の上には、高層マンションのようなベランダのついた部屋が並んでいたのです。
 もちろん、先ほどまで、そこには何もなかった所です。
 ベランダには手すりがついていて、その前は通路になっていました。その通路に入ることができるように螺旋階段もできあがっていました。食事が終えた生徒たちが螺旋階段をのぼっていくのが見えます。

「さあ、私たちも行ってみましょう。その前に使った食器は戻さないとね」
 ニーナに案内をされて、カオルたちは使った食器を置く返却口にいきました。
 返却口は四段に分けられた木の棚でした。使われた食器がそこに置かれています。カオルとレイモンドはニーナに続いて、トムと一緒に汚れた食器をそこに置きました。
 
 
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