カオル、白魔女になります!

矢野 零時

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イバラの森大戦

12 グリス 土の精霊使い

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 杖の先端につける火弾砲をもらったカオルは少しほっとして、他の生徒たちといっしょに茶色のドアを開けてグリスの部屋に入っていきました。 
 そこは部屋ではなく、城の庭園に出ていたのです。
「ここでは、土作りの大切さを学んでもらいます。すべての命は土から生まれてくるのです。特に、植物は土作りが大きな要素になりますからね。土を知れば植物の心もつかむことができますよ」
 そう言ったグリスはクワを持って土を盛りあげ、うね作りをしていました。カオルも他の生徒たちにまじってクワを持ってうね作りを始めました。やがて、カオルの足元に土を盛り上げることができました。
 庭にうねを作り終えるとグリスは生徒たちの方に顔を向けて話し出しました。
「土をいじることが土の精霊と話をしていたことになります。そこで、みなさんにうね作りをしてもらい、土の精霊と話をしていただきました。これで、土の精霊から力を借りることができるようになったと思いますよ」
 
 突然、どの授業でも目立つことをしてこなかったレイモンドが手をあげたのです。
「何か質問ですか?」
「はい、私の国の麦が枯れ出してしまいました。そのおかげで私たちの国の農民たちは来年の種もみも残せなくなっています。先生、どうしたらいいのでしょうか?」
「いい方法は、畑の土をいい土に変えることだと思いますよ。たとえば、ここのいい土を持っていって、あなたの国の畑の土に混ぜてやる。それだけで、ここの土に住んでいる精霊たちがあなたを助けてくれますよ」
 そう言って、グリスはたがやしていた畑の土を手に取って、レイモンドに見せていました。
「私も土だと思い、山にある黒い土を運ばせ、農地にまいてみたのですが、でも、畑に麦が育つことはありませんでした。それどころか、土地が砂漠化し始めたんですよ」
「何か、心あたりがあるようですね」
「はい、畑に呪いをかけられているのではないかと思うのです。こうなる前に、見知らぬ老婆が畑を歩きまわって何か呪文をとなえていたと言う人たちがいるんです。畑にかけられた呪いをとく方法を教えてもらいたくて、ここにやってまいりました」
「そうですか。土地にかけられた呪いならば、やはり植物に戦ってもらうしかありませんね。ともかく植物の心をつかんでお願いをするしかない」
 グリスは、そう言って生徒たちの顔を見まわしました。
 それから、ズボンのポケットから種を出すと、屈みこんで土の中に種を埋めました。すぐに、じょうろを出して、種を植えた土の上に水をかけていました。やがて土を割って芽が出てきたのです。

 グリスはじっと芽を見つめ続け、念をこめているようでした。
 すると芽はずんずんと背を伸び出したのです。やがて葉をつけ大きな木になっていきました。木は高さを確保すると今度は左右に枝を伸ばし出しました。枝が太くなると、その枝はたくさんの葉をつけていました。

 やがて、木に花が咲いていました。
 桃色の花です。
 その花が散ると実がたくさんなり出したのです。その実はボタボタと雨でもふるように落ちてきました。
 落ちた実は、やがて腐り出したのです。実はくさい臭いをさせていましたが、グリスが小さなスコップで土をかぶせていくと匂いは消えていきました。

 しばらくの間、グリスは顔をあげて空の雲を見ていました。
「そろそろいいでしょう」と言ったグリスの手には、熊手が握られていました。その熊手で土をひっかいていくと、実の肉が取れてきれいな種だけになっていきました。今度は布袋を出し、その中にきれいになった種を集めて入れ出したのです。
 布袋の先を紐でしばり、それをレイモンドに手渡していました。
「クニッパ国の荒れ地にこれをまきなさい。もしその土地が呪われているならば、この実から育った植物が呪いを食べてくれるはずです」
 その袋を受け取ったレイモンドは涙を流して喜んでいました。

「土は植物の友だちですからね。土の精霊と仲良くできれば、植物も願いを聞いてくれるようになりますよ。そのいい例がこの城にあります。イバラがいまは森になって城を守ってくれている。イバラはとげを持ち、あまり好きでない人も多いかもしれません。でも、私は、このバラを育ててお願いをしてきた。だから、イバラは私たちの気持ちを知って、この城を守ろうとしてくれているんですよ」と言って、グリスは笑っていました。

「これで、今日の授業は終わります。他の先生方もそれぞれの教室で同じことを言っていると思いますが、明日からはどの教室をどのような順番で受けてもかまいません。大切なことは、どんな魔法使いになりたいのか、自分にはどんな魔法の力が必要なのか、よく考えて明日からの授業を受けてください」
 そう言ったグリスは、生徒たちに向かって、頭をさげていました。


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