1 / 57
イバラの森大戦
1 いじめ
しおりを挟む
加藤カオルが小学五年になるとクラス替えがあり三組になりました。四年の時に同じクラスだった友たちだけでなく、知らない子も同じクラスメートになってしまいました。
四年の時にとなりのクラスだった石田加奈子が仲間を作って香川綾乃をいじめだしました。それを始めたわけは、綾乃の髪はくせ毛でいつも首のあたりで髪が丸まっていたからです。加奈子たちは後ろから近づきその毛を引っ張り出したのです。カオルは誰とも仲良くしたいと思っていましたので、そんないじめを認めるわけにはいきません。
「加奈子ちゃん、人の毛をひっぱるのは、やめてあげて、お願い」
加奈子に思わず注意をしてしまいました。すると、加奈子はクラスの仲間をさそって今度はカオルをいじめだしたのです。下駄箱においてある靴の中に泥を入れられたり、廊下を歩いていると突き飛ばされたこともありました。いつの間にか、いじめの仲間に綾乃が加わっていたのです。はじめは、冗談だよねと綾乃にも言って、カオルは笑顔で対応をしていたのですが、執念深く機会があるごとに仲間をつのっていじめを続けてきます。
学校で席を離れていたすきにボールペンで教科書にいたずら書きをされてしまいました。その教科書のいたずら書きをカオルの部屋に入ってきたお母さんに見られてしまったのです。
その晩、カオルはお父さんとお母さんに学校でいじめをされている話をしました。二人は黙って、その話を聞いてくれました。
「もう、あんな学校に行きたくない」
カオルがはき出した言葉をお父さんは腕を組んで目をつぶり聞いていました。しばらくの間、お父さんは何かを考えているようでしたが、突然のようにお父さんは目を開けました。
「カオル、半月だけ頑張ってくれないかな」
「半月?」
「もう少ししたら一学期が終わる。そして 夏休みがくる」
思わず、カオルはうなずきました。
「でも、夏休みが終わったら、また学校で加奈子ちゃんと顔を合わせることになって、いじめられるわ」
「だから、夏休みが終わったら、カオルには別の学校に行ってもらう」
「えっ、そんなことできるの?」
「転校してもらおうと思うんだ。そのためには、住むところも、変えなければならない」
お父さんは、お母さんの方に顔を向けました。少しの間、お母さんは首をかしげていましたが。すぐに笑顔になりました。
「そうね。そういう手があったわね」
お父さんとお母さんは、今住んでいる都会から離れた町に土地を買い家を建てていました。その町は春香町と言って山が近くにある町です。そこに年をとったら住もうと考えていましたので、それまでの間、建てた家を他の人に貸すことにしていたのです。そこで、お父さんの友だちに家を借りてもらっていましたが、友だちは突然アメリカに行ってしまったのです。
友だちの後に家を借りてくれる人をさがしていたのですが、見つからないで困っていました。だから、そこに引っ越しをすれば、新しい学校にカオルは行くことができます。
でも問題もあります。
いま住んでいる社宅は地下鉄駅の近くにありましたので通勤にはたいへん便利な場所でしたが、春香町に住むとお父さんは会社まで車での通勤になり片道に二時間はかかってしまいます。
それに春香町に建てた家はローンを組んでいて、その支払いは家を借りてくれた人の賃借料で支払ってきていたのです。それがなくなると、お父さんが働いているお金の中から支払いをしていくことになりますので、かなり苦しい生活をしなければなりません。
それなのに、お父さんとお母さんは、カオルのために転居を決めてくれたのです。
家族の方針を決めると、次の日、お母さんは、学校に行って担任の先生にカオルの転校をする話をしてくれました。
やがて、一学期の終了日。
通知表をくばり、宿題の提出の話を終えた後、担任の先生は、クラスのみんなの顔を見まわしました。
「最後に、みなさん方に、報告をすることがあります。加藤さん、前に出てきてください」
カオルは出ていき、先生のとなりにならびました。
「加藤カオルさんは、今日を最後に転校されることになりました。それでは、加藤さんにご挨拶をしてもらいます」
「今まで、いろいろお世話になりました。これから通うことになる学校に行っても、仲の良い友達を作り楽しい学校生活を過ごしたいと思います」
カオルは頭をさげました。前から考えていたそつのない挨拶ができたと思いながら、頭をあげてクラスのみんなの方を見ると、加奈子やその仲間たちはあぜんとして、口を開けたままにしています。まさか、転校をするとは、まったく考えにも浮かんではいなかったからです。
お父さんやお母さんと一緒にたてた作戦は成功したようです。担任の先生がホームルーム終了の挨拶をすると、クラスメートはふぞろいに席から立ちあがっていました。カオルは胸をはって、学校から出ていくことができました。学校の玄関口まで綾乃が追ってきているのを、カオルは分かっていました。でも、カオルの方から何も言うことはありません。綾乃も何も言えずに門の所でカオルを見送っていました。
四年の時にとなりのクラスだった石田加奈子が仲間を作って香川綾乃をいじめだしました。それを始めたわけは、綾乃の髪はくせ毛でいつも首のあたりで髪が丸まっていたからです。加奈子たちは後ろから近づきその毛を引っ張り出したのです。カオルは誰とも仲良くしたいと思っていましたので、そんないじめを認めるわけにはいきません。
「加奈子ちゃん、人の毛をひっぱるのは、やめてあげて、お願い」
加奈子に思わず注意をしてしまいました。すると、加奈子はクラスの仲間をさそって今度はカオルをいじめだしたのです。下駄箱においてある靴の中に泥を入れられたり、廊下を歩いていると突き飛ばされたこともありました。いつの間にか、いじめの仲間に綾乃が加わっていたのです。はじめは、冗談だよねと綾乃にも言って、カオルは笑顔で対応をしていたのですが、執念深く機会があるごとに仲間をつのっていじめを続けてきます。
学校で席を離れていたすきにボールペンで教科書にいたずら書きをされてしまいました。その教科書のいたずら書きをカオルの部屋に入ってきたお母さんに見られてしまったのです。
その晩、カオルはお父さんとお母さんに学校でいじめをされている話をしました。二人は黙って、その話を聞いてくれました。
「もう、あんな学校に行きたくない」
カオルがはき出した言葉をお父さんは腕を組んで目をつぶり聞いていました。しばらくの間、お父さんは何かを考えているようでしたが、突然のようにお父さんは目を開けました。
「カオル、半月だけ頑張ってくれないかな」
「半月?」
「もう少ししたら一学期が終わる。そして 夏休みがくる」
思わず、カオルはうなずきました。
「でも、夏休みが終わったら、また学校で加奈子ちゃんと顔を合わせることになって、いじめられるわ」
「だから、夏休みが終わったら、カオルには別の学校に行ってもらう」
「えっ、そんなことできるの?」
「転校してもらおうと思うんだ。そのためには、住むところも、変えなければならない」
お父さんは、お母さんの方に顔を向けました。少しの間、お母さんは首をかしげていましたが。すぐに笑顔になりました。
「そうね。そういう手があったわね」
お父さんとお母さんは、今住んでいる都会から離れた町に土地を買い家を建てていました。その町は春香町と言って山が近くにある町です。そこに年をとったら住もうと考えていましたので、それまでの間、建てた家を他の人に貸すことにしていたのです。そこで、お父さんの友だちに家を借りてもらっていましたが、友だちは突然アメリカに行ってしまったのです。
友だちの後に家を借りてくれる人をさがしていたのですが、見つからないで困っていました。だから、そこに引っ越しをすれば、新しい学校にカオルは行くことができます。
でも問題もあります。
いま住んでいる社宅は地下鉄駅の近くにありましたので通勤にはたいへん便利な場所でしたが、春香町に住むとお父さんは会社まで車での通勤になり片道に二時間はかかってしまいます。
それに春香町に建てた家はローンを組んでいて、その支払いは家を借りてくれた人の賃借料で支払ってきていたのです。それがなくなると、お父さんが働いているお金の中から支払いをしていくことになりますので、かなり苦しい生活をしなければなりません。
それなのに、お父さんとお母さんは、カオルのために転居を決めてくれたのです。
家族の方針を決めると、次の日、お母さんは、学校に行って担任の先生にカオルの転校をする話をしてくれました。
やがて、一学期の終了日。
通知表をくばり、宿題の提出の話を終えた後、担任の先生は、クラスのみんなの顔を見まわしました。
「最後に、みなさん方に、報告をすることがあります。加藤さん、前に出てきてください」
カオルは出ていき、先生のとなりにならびました。
「加藤カオルさんは、今日を最後に転校されることになりました。それでは、加藤さんにご挨拶をしてもらいます」
「今まで、いろいろお世話になりました。これから通うことになる学校に行っても、仲の良い友達を作り楽しい学校生活を過ごしたいと思います」
カオルは頭をさげました。前から考えていたそつのない挨拶ができたと思いながら、頭をあげてクラスのみんなの方を見ると、加奈子やその仲間たちはあぜんとして、口を開けたままにしています。まさか、転校をするとは、まったく考えにも浮かんではいなかったからです。
お父さんやお母さんと一緒にたてた作戦は成功したようです。担任の先生がホームルーム終了の挨拶をすると、クラスメートはふぞろいに席から立ちあがっていました。カオルは胸をはって、学校から出ていくことができました。学校の玄関口まで綾乃が追ってきているのを、カオルは分かっていました。でも、カオルの方から何も言うことはありません。綾乃も何も言えずに門の所でカオルを見送っていました。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
YouTuber犬『みたらし』の日常
雪月風花
児童書・童話
オレの名前は『みたらし』。
二歳の柴犬だ。
飼い主のパパさんは、YouTubeで一発当てることを夢見て、先月仕事を辞めた。
まぁいい。
オレには関係ない。
エサさえ貰えればそれでいい。
これは、そんなオレの話だ。
本作は、他小説投稿サイト『小説家になろう』『カクヨム』さんでも投稿している、いわゆる多重投稿作品となっております。
無断転載作品ではありませんので、ご注意ください。
秘密基地異時空間・日本!
ぽんたしろお
児童書・童話
どこまでも広い空間で時間を忘れて遊びことができる異時空間を、国が全力で作った!
国家公務員である異時空入出管理官・日野広樹。
子供たちの異時空入出を管理する日野は、今日も子供たちを「秘密基地異時空間・日本!」に送り出す。
何をして遊ぶか? それは子供たち次第なのだ!
異世界子供会:呪われたお母さんを助ける!
克全
児童書・童話
常に生死と隣り合わせの危険魔境内にある貧しい村に住む少年は、村人を助けるために邪神の呪いを受けた母親を助けるために戦う。村の子供会で共に学び育った同級生と一緒にお母さん助けるための冒険をする。
泣き虫な君を、主人公に任命します!
成木沢ヨウ
児童書・童話
『演技でピンチを乗り越えろ!!』
小学六年生の川井仁太は、声優になるという夢がある。しかし父からは、父のような優秀な医者になれと言われていて、夢を打ち明けられないでいた。
そんな中いじめっ子の野田が、隣のクラスの須藤をいじめているところを見てしまう。すると謎の男女二人組が現れて、須藤を助けた。その二人組は学内小劇団ボルドの『宮風ソウヤ』『星みこと』と名乗り、同じ学校の同級生だった。
ひょんなことからボルドに誘われる仁太。最初は断った仁太だが、学芸会で声優を目指す役を演じれば、役を通じて父に宣言することができると言われ、夢を宣言する勇気をつけるためにも、ボルドに参加する決意をする。
演技を駆使して、さまざまな困難を乗り越える仁太たち。
葛藤しながらも、懸命に夢を追う少年たちの物語。
夏から夏へ ~SumSumMer~
崗本 健太郎
児童書・童話
作者、崗本 健太郎の小学生時代の回顧録であり、
誰しも経験する子供の頃の懐かしい思い出が詰まっている。
短編が150話ほど収録されており、
通勤や就寝前など隙間時間にも読みやすい構成だ。
作者と読者との地域性や遊びの違いや、
平成初期の時代を感じさせる作風も魅力である。
日常の喧騒を忘れて癒されたい人は是非!!
※毎日20時公開 全48話
下記サイトにて電子書籍で好評販売中!!
Amazon-Kindle:www.amazon.co.jp/kindle
BOOK WALKER:www.bookwalker.jp
イービル・ゲート~退魔師・涼風夜空~
はじめアキラ
児童書・童話
「七不思議に関わるのはやめておけ」
小学六年生の、加賀花火のクラスに転校してきた生意気な美少年、涼風夜空。
彼は自らを退魔師と名乗り、花火に騎士になってくれと頼んできた――この学校にある、異世界へ続く門を封じるために。
いなくなったクラスメートの少女。
学校に潜む異世界からの侵入者。
花火と夜空、二人の少女と少年が学校の怪異へ挑む。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる