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イバラの森大戦

1 いじめ

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 加藤カオルが小学五年になるとクラス替えがあり三組になりました。四年の時に同じクラスだった友たちだけでなく、知らない子も同じクラスメートになってしまいました。
 四年の時にとなりのクラスだった石田加奈子が仲間を作って香川綾乃をいじめだしました。それを始めたわけは、綾乃の髪はくせ毛でいつも首のあたりで髪が丸まっていたからです。加奈子たちは後ろから近づきその毛を引っ張り出したのです。カオルは誰とも仲良くしたいと思っていましたので、そんないじめを認めるわけにはいきません。
「加奈子ちゃん、人の毛をひっぱるのは、やめてあげて、お願い」
 加奈子に思わず注意をしてしまいました。すると、加奈子はクラスの仲間をさそって今度はカオルをいじめだしたのです。下駄箱においてある靴の中に泥を入れられたり、廊下を歩いていると突き飛ばされたこともありました。いつの間にか、いじめの仲間に綾乃が加わっていたのです。はじめは、冗談だよねと綾乃にも言って、カオルは笑顔で対応をしていたのですが、執念深く機会があるごとに仲間をつのっていじめを続けてきます。
 学校で席を離れていたすきにボールペンで教科書にいたずら書きをされてしまいました。その教科書のいたずら書きをカオルの部屋に入ってきたお母さんに見られてしまったのです。
 その晩、カオルはお父さんとお母さんに学校でいじめをされている話をしました。二人は黙って、その話を聞いてくれました。
「もう、あんな学校に行きたくない」
 カオルがはき出した言葉をお父さんは腕を組んで目をつぶり聞いていました。しばらくの間、お父さんは何かを考えているようでしたが、突然のようにお父さんは目を開けました。
「カオル、半月だけ頑張ってくれないかな」
「半月?」
「もう少ししたら一学期が終わる。そして 夏休みがくる」
 思わず、カオルはうなずきました。
「でも、夏休みが終わったら、また学校で加奈子ちゃんと顔を合わせることになって、いじめられるわ」
「だから、夏休みが終わったら、カオルには別の学校に行ってもらう」
「えっ、そんなことできるの?」
「転校してもらおうと思うんだ。そのためには、住むところも、変えなければならない」
 お父さんは、お母さんの方に顔を向けました。少しの間、お母さんは首をかしげていましたが。すぐに笑顔になりました。
「そうね。そういう手があったわね」
 お父さんとお母さんは、今住んでいる都会から離れた町に土地を買い家を建てていました。その町は春香町と言って山が近くにある町です。そこに年をとったら住もうと考えていましたので、それまでの間、建てた家を他の人に貸すことにしていたのです。そこで、お父さんの友だちに家を借りてもらっていましたが、友だちは突然アメリカに行ってしまったのです。
 友だちの後に家を借りてくれる人をさがしていたのですが、見つからないで困っていました。だから、そこに引っ越しをすれば、新しい学校にカオルは行くことができます。
 でも問題もあります。
 いま住んでいる社宅は地下鉄駅の近くにありましたので通勤にはたいへん便利な場所でしたが、春香町に住むとお父さんは会社まで車での通勤になり片道に二時間はかかってしまいます。 
 それに春香町に建てた家はローンを組んでいて、その支払いは家を借りてくれた人の賃借料で支払ってきていたのです。それがなくなると、お父さんが働いているお金の中から支払いをしていくことになりますので、かなり苦しい生活をしなければなりません。
 それなのに、お父さんとお母さんは、カオルのために転居を決めてくれたのです。
 家族の方針を決めると、次の日、お母さんは、学校に行って担任の先生にカオルの転校をする話をしてくれました。
 やがて、一学期の終了日。
 通知表をくばり、宿題の提出の話を終えた後、担任の先生は、クラスのみんなの顔を見まわしました。
「最後に、みなさん方に、報告をすることがあります。加藤さん、前に出てきてください」 
 カオルは出ていき、先生のとなりにならびました。
「加藤カオルさんは、今日を最後に転校されることになりました。それでは、加藤さんにご挨拶をしてもらいます」
「今まで、いろいろお世話になりました。これから通うことになる学校に行っても、仲の良い友達を作り楽しい学校生活を過ごしたいと思います」
 カオルは頭をさげました。前から考えていたそつのない挨拶ができたと思いながら、頭をあげてクラスのみんなの方を見ると、加奈子やその仲間たちはあぜんとして、口を開けたままにしています。まさか、転校をするとは、まったく考えにも浮かんではいなかったからです。
 お父さんやお母さんと一緒にたてた作戦は成功したようです。担任の先生がホームルーム終了の挨拶をすると、クラスメートはふぞろいに席から立ちあがっていました。カオルは胸をはって、学校から出ていくことができました。学校の玄関口まで綾乃が追ってきているのを、カオルは分かっていました。でも、カオルの方から何も言うことはありません。綾乃も何も言えずに門の所でカオルを見送っていました。


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