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第10話隠れ里の日々 1 峠にある場所

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 山路はだんだんと狭くなり途中で木の柵でつくられた門ができていた。そこには、槍を持った門番がいて、常時警戒をしている。忠司たちがのった馬車もそこでとまり、検閲を受けることになった。開けてもらった門を通るとされに勾配のある道を通り、やがて小高い丘の上にでた。そこは広い場所ではないのだが、多くの家がたてられていたのだ。
「ここがわれらの住処でございます」とルソーが言い、先に馬車をおりていた。
 後を追うようにおりた忠司は「ビルがここに運ばれたと思うのだが、どうなったのか知りたい」
「こんな所ですが、医術に精通した者もおりますし、治療所もあるんですよ。ビルのお見舞いにまいりますか?」
「ぜひ、させてほしい」
 ルソーは大きくうなずくと歩き出した。
 忠司がルソーの後をついて行き出すと、親衛隊のみんなは馬小屋に馬を次々と入れていた。
 黒いうるしぬりの小屋が治療所だった。そこに入るとすぐにいくつものベッドが八つほど並べられていた。その一つにベンが寝かされていた。そのベッドのそばに花音が丸椅子にすわっていた。
「忠司、ビル、いまねているけど、大丈夫だったのよ」
 もう、花音は、俺をよぶのに、様をつけようとしなくなっている。気にしなくていいことだけど、やっぱり気にしてしまう。俺って、そんなタイプだったかな。
「そうか。よかった」 
 そんな時に、後ろから声がかかった。
「あなたがサルタン王子様ですか、始めてお目にかかります」
 忠司が声の方を見ると、頭に髪がまったくない男がたっていた。男は白いガウンを羽織り、小太りで下っ腹がでていた。
「私はここで医者のまねごとをやっている。サムソン・ジム・コバーンと言う者ですよ」
「この度は、ビルがお世話になったようですね」
「刀に切られた傷は殺菌をして縫っておきました。これで目を覚ました頃には、もとのとおりに暮らせますよ」
「ありがとう」と、忠司は頭をさげた。
 サムソンは胸の中に溜まっていたことがあるのだろうか、話を続ける。
「戦をすれば怪我をする者や命を落とす者が出てくる。それを考えると早くこの戦を終わらせる方法はないかと、いつも考えているんですよ」
「そんな方法なんかありますか?」
「まずは戦争に勝つことを考えることが必要でしょう。だが、獣人と争っているのだが、彼らは前は人間だった。ですから、獣人がもとの人間にもどすことができれば戦はなくなる。だから、そうなる薬を作ろうとしているんですよ」
 そう言ってサムソンは笑った。そんな薬があればいいと、忠司も思ってしまう。
「できるんですかね?」
「この薬の研究に、もう5年の時を費やしている。いろんな薬草を試しておりますのでね。そろそろではないかと思っております」
 これ以上、サムソンに話をさせておくと長くなると思ったのだろう。ルソーが声をだした。
「サルタン王子様、花音様、これからは、この里でお住まいただくことになる家にお二人をお連れしたいと存じます」
 ルソーは再び先に立って歩き出し二人を治療所の外に連れ出していた。
 今度は、里で一番大きな家にいき、中に入ると階段をあがり二階にある部屋に連れていった。部屋は八畳半ぐらいの大きさで特別大きな部屋ではなかったが、ベッドや机とイスもおかれていた。だが、なぜか忠司の部屋の向かいは花音の部屋だった。



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