王子だって、一体どうなるのか?物語

矢野 零時

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2 初めて召喚魔法を使う!

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「花音!」
 忠司は、のってきた怪馬の首を剣で切りすてた。忠司は怪馬が倒れる前に飛び降り、走っていき花音の前に立った。花音の前にいる怪馬たちの数は、なんせ、すごい数なのだ。花音は忠司の顔を見て、嬉しそうに笑った。だが、その頬には無数の切り傷がすでにつけられていた。忠司の中でアドレナリンが一気に吹き上がってくる。怒りの中で花音と背を合わせて、周りの怪馬たちを切り倒し続けた。
 怪馬と戦いながら、忠司は気が付いた。花音の周りにいる怪馬たちは、貌だけが馬で、その下は人間だった。つまり、あまり走り回ることが得意でない。だから、平原で忠司と戦う場に、こいつらは、いなかったのだ。
 二人して切り続けたおかげで、花音の周りにいた獣人たちはまばらの数になってきた。だが、馬車の方を見ると、ビルは馬車の荷台を背に斧をふるっていた。ビルもたくさんの獣人に囲まれながら善戦をしてくれていたのだ。彼の眼の前に馬どもの死体が山に積まれていたが、すでにビルは荒い息をしている。
「ビル、今いくぞ」
 忠司は花音から離れてビルのところに走った。積まれた死体の前に立ち、今度は忠司が剣をふるった。死体の山はさらに高くなっていく。
 だが、信じられないことが起こった。喚声があがり、テント小屋から、再びたくさんの怪馬たちが現れたのだ。花音たちが疲れたころに、もう一団がでてくる手筈になっていたのだ。
「あの、テントの中に、あんな数の化け物がまだ残っていたのか!」
 忠司は、ビルと花音の二人を同時にまもることが難しいことに気が付いた。魔法で、自分を倍にでもしなければ、二人を同時に助けることはできない。でも、そんな魔法は使えない。
 そこで、忠司は召喚魔法を使えることを思い出した。
 だが、召喚魔法で誰を呼び出せばいい?
 この場を切り抜けることができるような人物を思い出すことができない。そう、俺は想像力が弱いんだ。強張った花音の顔を見ていると、あいつしか思い出すことができなかった。
「花音の親父しかいないか!」
 忠司がそう声を出すと、花音の前に、花音の父親、白川道行が立っていた。道行は示現流の達人で剣道道場を持ち、小さい頃から花音に剣を教えてくれていた。その父親が真剣を手に持って立っていた。
「忠司殿のご要望とあれば、お助けしないわけにはいきませんな」
「お願いします。花音を守ってください」
「お父さん」
 突然、現れた父親を見て、花音は思わず涙ぐんでいた。集まってくる怪馬たちにむかって、道行はすぐに天をさすように剣を上段にかまえた。
「キエッ」と声をあげて、道行は眼の前の馬頭の上に剣を振り下ろした。馬頭はスイカのように真二つに割れていった。これが示現流の極意であった。気力をこめて、一撃で切り裂く剣、気力とオーラがあたり広がり、怪馬どもは自分の剣を振れなくなっていた。まるで、次から次へと道行の前に飛び出していき、何度も道行の叫びと共に振られる剣で怪馬は頭をかち割られていった。だが、中には道行の懐に飛び込んでくる者も出てきた。その者には心の臓に向かって、道行は突きをはなち倒した。横に飛んだ者には、たすき掛けに切りさばいた。花音も、父の道行を助けて、父の背後にまわろうとする者を切り倒し続けていた。
 その間、忠司はビルに集まってくる怪馬を切り続けた。忠司の両脇に怪馬の遺体でできた塔が二つできた時、あたりに静寂が訪れた。立って剣を突き出してくる馬頭はいなくなったからだ。
 すぐに、忠司は、花音の父、道行のそばにかけつけた。
「有難うございました」
「忠司殿、お力になれて、よかった。花音よ。この程度の敵をけ散らすことができなくて何とする!」
 そう言って、道行は花音をしかりつけた。父に怒られると、花音はただ黙って何度も頭をさげていた。
「お父さんが助けてくれなかったら、俺は花音を無くしていたかもしれない」
 そう言ってしまうと忠司は眼に涙を浮かべていた。
「花音が自分で志願をしたこと。覚悟はしているはず、だが、忠司殿、それゆえに、花音のこと、末永くよろしく頼みましたぞ」
「わかりました。花音を守っていきます」
 花音の父は少し勘違いをしているような気がした。だが、そんなことを気にしている暇はなかった。
「ビル、包帯はないのか!」と忠司は叫んだ。ビルはあわてて荷台の中の箱をひっくり返して、包帯をみつけると、荷台から飛び降りてきた。それを受け取って忠司は、道行の傍に走り寄った。
「なんの。これしき」
 そう言った道行だったが、くずれるように膝をついていた。あれだけたくさんの馬頭と戦って傷を負わないはずがない。左手には長い筋を引いたような傷がつけられ、袴のすきまから足の切り傷も見えていた。
「本当に有難うございました」
 忠司は、左手の傷に包帯をまこうとした時だった。道行は薄れだしたのだ。
 3分間が来てしまっていたのだろうか? やがて、道行はゆらぎ、消えていった。
 忠司は思った。
 もう二度と花音の父、道行を召喚させることはしない。そう決めていた。いくらなんでも、この狂気の世界に平和な日本で暮らしていた道行を呼び出すべきではなかった。
 それも花音の父親だぞ!
 本当にそう思っていたんだ。
 俺のそばで、いつもはドライな花音は泣き続けていた。 
 花音は泣いているところを忠司にじっと見られていることに気がついた。さすがに人に見られながら、泣き続けるのはむずかしい。さいごには、へへへと笑い、泣くのをやめていた。
 
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