ねがい星、かない星

矢野 零時

文字の大きさ
上 下
4 / 6

しおりを挟む
 カモメが浜におりたつと、年老いたカモメは木から飛んできてくれました。年老いたカモメは、この浜そばから離れずに、ずっと待ってくれていたのです。
「何もみつけることができません。どうしたらいいのでしょう?」
と、カモメは、つかれた声をだしました。
「あきらめることはできないのかね?」
 カモメは、首を左右にふりました。
「残っている方法は、一つしかないな」と、年老いたカモメは切なそう声をあげました。
「方法はあるんですか? あるんですね」
「ねがい星にねがいをかけることができれば、なんとかなるかもしれない」
「ほんとうですか?」
「生きる物、それぞれに、ねがい星がある。カモメのねがい星は、あれじゃ。だが、願い星をかない星にするには試練を受けねばならんぞ。それができないと、かない星にはならない」
 年老いたカモメは、とがったくちばしで空にある一つの星をさしました。薄暗くなり始めた西の空に、すでに光りだした星たちにまじって、その星は大きくまぶしいくらいに輝いています。
「試練とは嵐の雲の上にでることじゃ。雲の上にでて、ねがいを、かけることができれば、かない星になる。ちょうど、東から嵐になる雲がきているようじゃ。試練を受ける機会は、近づいている。だが、それをして生きていることができるかどうか?」といって、年老いたカモメはするどい目で東の黒い雲をみつめました。
「いきます」
「つかれた羽で雲の上にでることは、むずかしいぞ。それでもいくのかね?」
「いきます」
 もう一度いうと、カモメはふたたび東の空に向かって飛びだしていきました。

 海の下に沈もうとする日に海は真っ赤にそまっていました。その赤い海の上を、カモメは東へ東へと飛び続けました。
 やがて、ひろがりだした黒い雲に空はおおわれ、何もみえなくなっていました。カモメは、頭をあげて羽をきり黒い雲に飛び込んでいきました。黒い雲の中は風が吹き、大雨がふり、雷も鳴っています。カモメは羽を大きくはばたかせ、風と雨をきり、上へ上へと飛んでいきました。カモメは息をするたびに苦しくなり、このままでは気を失ってしまうとカモメが思ったときでした。
 突然、明るくなりました。雲の上にでることができたのです。笑っているような半月のお月さまが、黒い雲の上を明るくてらしていました。
 きらめく一番大きな星もはっきりとカモメは、みることができました。
「星よ。おねがいだ。船に乗っていた若者やみんなを北の港にかえしてください。そのためになら、ぼくはどうなってもいいんです」
 ねがい星が大きくまたたきます。力つきたカモメは、黒い雲の中にクルクルと輪をえがいて落ちていきました。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

風になった魔女

矢野 零時
児童書・童話
ルミのお父さんがお母さんと別れると言い出したのです。ルミはまだ小学生です。一体どうしたら、いいのでしょうか?

赤ずきんちゃんとオオカミさん

矢野 零時
児童書・童話
かわいい赤ずきんちゃんと怖く見えても本当はやさしいオオカミさんの日々の出来事を書いていきます。 もちろん、赤ずきんちゃんのおかあさんやおばあさん、それに狩人さんもでてきます。

トゥオンと竜の結び手【休載中】

神原オホカミ【書籍発売中】
児童書・童話
大陸の北側にある山岳地帯のラナカイ村に住む少女、トゥオン。 彼女の相棒は、伝説の生き物と言われている『竜』のヴァンだった。 家族同様に一緒に過ごし、平和な日々を過ごしていたトゥオンとヴァンだったのだが 西の平地を統治するウルン大帝国が、食糧飢饉に陥ったことで、その平和は脆く崩れ去ってしまう。 竜を悪者とする西の民は、竜の住まう東の聖域の豊かな資源を求めて その場所を侵略する動きが見えてきた。 竜の住む東の聖域、ローチャオに到達するまでには、 トゥオンたちの住む山岳地帯を抜けるしか方法は無い。 次々に近隣の村がウルン大帝国に支配されていく中で、 ラナカイ村も平和的に属国となり、争いを避ける事となった。 しかし、ヴァンが見つかってしまえば、捕まって殺されてしまう。 トゥオンの両親は、ヴァンを助けるために、竜の住む聖域にヴァンを戻すことに決める。 トゥオンは大事な家族を守るため、別れを告げるために ヴァンとともに、彼を安全な聖域の奥地へと逃がす旅に出る。 大人たちの思惑、少年と少女たちの複雑な思い、そして種族を越えた絆と家族。 少年少女たちが、竜とともに戦い、立ち向かって行く物語です。 2021年7月書き始め 2023年改稿中 申し訳ないですが、不定期更新となりますm(__)m ◆表紙画像は簡単表紙メーカー様で作成しています。 ◆無断転写や内容の模倣はご遠慮ください。 ◆文章をAI学習に使うことは絶対にしないでください。

台風ヤンマ

関谷俊博
児童書・童話
台風にのって新種のヤンマたちが水びたしの町にやってきた! ぼくらは旅をつづける。 戦闘集団を見失ってしまった長距離ランナーのように……。 あの日のリンドバーグのように……。

【完結】馬のパン屋さん

黄永るり
児童書・童話
おじいちゃんと馬のためのパンを作っている少年・モリス。 ある日、王さまが命じた「王さまが気に入るパン」を一緒に作ろうとおじいちゃんに頼みます。 馬のためのパン屋さんだったモリスとおじいちゃんが、王さまのためのパン作りに挑戦します。

灯りの点る小さな家

サクラ
児童書・童話
「私」はいじめられっ子。 だから、いつも嘘を家族に吐いていた。 「楽しい1日だったよ」 正直に相談出来ないまま、両親は他界。そんな一人の「私」が取った行動は……。 いじめられたことのある人、してしまったことのある人に読んでほしい短編小説。

新訳 不思議の国のアリス

サイコさん太郎
児童書・童話
1944年、ポーランド南部郊外にある収容所で一人の少女が処分された。その少女は僅かに微笑み、眠る様に生き絶えていた。 死の淵で彼女は何を想い、何を感じたのか。雪の中に小さく佇む、白い兎だけが彼女の死に涙を流す。

おなら、おもっきり出したいよね

魚口ホワホワ
児童書・童話
 ぼくの名前は、出男(でるお)、おじいちゃんが、世界に出て行く男になるようにと、つけられたみたい。  でも、ぼくの場合は、違うもの出ちゃうのさ、それは『おなら』すぐしたくなっちゃんだ。  そんなある日、『おならの妖精ププ』に出会い、おならの意味や大切さを教えてもらったのさ。  やっぱり、おならは、おもっきり出したいよね。

処理中です...