上 下
42 / 42

42賢者ブロンソン再び

しおりを挟む
「困ったわね。ムガール帝国を見た限りでは、リカードさまがおられる所を見つけることができなかった」
 シルビアは、探しもれがあるのではないかと思い出していたのだ。もし、探しもれがあるのであれば、もう一度、ムガール帝国を廻らなければならない。そう思っていたのだ。
 そんなシルビアの気持ちを察したのか、「きっと、どこかの国がリカードさまの味方になって匿ってくれていると思いますよ」と、トムが楽観的な意見を述べていた。
「それならば、いいのですければ。でも、マルサスがこのままにして、おくわけがないわ。どこかの国で、匿っているならば、きっと見つけ出されてしまう」
「そうですな。それはまずい」
 ロダンは顔をしかめ、腕を組んで考えていた。そして、腕をとくと、「やはり、ここは前と同じに、賢者ブロンソンさまの所にいき、相談をするしかないか、と思いますな」と言っていた。
「確かに、考えて分かることではないわね」と言って、シルビアはうなずいていた。

 さっそく、シルビアは魔法師たちの船にのり、ムガール帝国の南西にあるフクロウの森にむかった。そこに賢者ブロンソンの家があるからだ。前に来た時との違いはある。前は、シルビアが自分のホウキにのり、ロダンだけを連れて言ったのだが、今度はトムと魔法師たちが一緒だったことだ。だが魔法師たちもシルビアと同じにロビンソンと顔馴染みになっていたのだ。それは、リカードの目が治った時には、ナベ一杯の宝石と金貨をお礼いに渡すという約束をしていたからで、その約束を果たすために、トムが船にのり、それをブロンソンに届けていたのだ。当然、魔法師たちは、ブロンソンに会って顔を見たいとトムに申し出ていた。それを、トムは無視することはできずに、彼らを連れてブロンソンに会うことになったのだった。魔法師たちは、ブロンソンの静かな威厳のある応対に感激をして、前よりもブロンソンを尊敬するようになっていた。

 シルビアたちが家のドアの前にたつと、前と同じに家の中から「お入り」という声が聞こえてきた。ドアを開けて、シルビアたちは中に入る。すでに、ブロンソンはシルビアがここにくることを予知していたのだ。それでも改めて、シルビアから話を聞くと、古い机の前に行って、そこで腰をおろしていた。机の上に積み上げられていた古書を片隅によせると、手前に水晶球をひきよせた。そして、ブロンソンは水晶球を覗き、リカードの運勢を占い出していた。水球球の中は光が蠢き、暗い影も見え出していたのだ。それを見つめていたブロンソンが顔をあげた。
 机の前を離れて、椅子にすわっているシルビアの前にやってきた。
「あなたが、ムガール帝国を探しても見つからない訳が分かりましたよ」
「どうしてですか?」
「それは、ムガール帝国にリカードさまはおられないからです」
「じゃ、どこにいるのですか?」
「リカードさまは、連山を越えた国境の向こうにある北の国ジレンドにおいでになるようですよ」
 すると、シルビアの後ろに立っていたトムが声をあげた。
「ジレンドといえば、前はムガール帝国と戦争を行っていた国じゃありませんか」
「そうですか。それだから、リカードさまは、そこにいかれたのかしれませんな」
 そう言ったブロンソンは、納得をした結論を見出したと思ったのか、何度もうなずいていた。
「それでは、私が、そこにいけばいいのですね」
 シルビアがそう言うと、ブロンソンは微笑んでいた。
「そういうことになりますね」
 その話を後ろで聞いていたトムと魔法師たちは、お互いに顔を見合わせ、うなずき合っていた。
 




しおりを挟む

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

転生悪役令嬢に仕立て上げられた幸運の女神様は家門から勘当されたので、自由に生きるため、もう、ほっといてください。今更戻ってこいは遅いです

青の雀
ファンタジー
公爵令嬢ステファニー・エストロゲンは、学園の卒業パーティで第2王子のマリオットから突然、婚約破棄を告げられる それも事実ではない男爵令嬢のリリアーヌ嬢を苛めたという冤罪を掛けられ、問答無用でマリオットから殴り飛ばされ意識を失ってしまう そのショックで、ステファニーは前世社畜OL だった記憶を思い出し、日本料理を提供するファミリーレストランを開業することを思いつく 公爵令嬢として、持ち出せる宝石をなぜか物心ついたときには、すでに貯めていて、それを原資として開業するつもりでいる この国では婚約破棄された令嬢は、キズモノとして扱われることから、なんとか自立しようと修道院回避のために幼いときから貯金していたみたいだった 足取り重く公爵邸に帰ったステファニーに待ち構えていたのが、父からの勘当宣告で…… エストロゲン家では、昔から異能をもって生まれてくるということを当然としている家柄で、異能を持たないステファニーは、前から肩身の狭い思いをしていた 修道院へ行くか、勘当を甘んじて受け入れるか、二者択一を迫られたステファニーは翌早朝にこっそり、家を出た ステファニー自身は忘れているが、実は女神の化身で何代前の過去に人間との恋でいさかいがあり、無念が残っていたので、神界に帰らず、人間界の中で転生を繰り返すうちに、自分自身が女神であるということを忘れている エストロゲン家の人々は、ステファニーの恩恵を受け異能を覚醒したということを知らない ステファニーを追い出したことにより、次々に異能が消えていく…… 4/20ようやく誤字チェックが完了しました もしまだ、何かお気づきの点がありましたら、ご報告お待ち申し上げておりますm(_)m いったん終了します 思いがけずに長くなってしまいましたので、各単元ごとはショートショートなのですが(笑) 平民女性に転生して、下剋上をするという話も面白いかなぁと 気が向いたら書きますね

彼女の幸福

豆狸
恋愛
私の首は体に繋がっています。今は、まだ。

死に戻り勇者は二度目の人生を穏やかに暮らしたい ~殺されたら過去に戻ったので、今度こそ失敗しない勇者の冒険~

白い彗星
ファンタジー
世界を救った勇者、彼はその力を危険視され、仲間に殺されてしまう。無念のうちに命を散らした男ロア、彼が目を覚ますと、なんと過去に戻っていた! もうあんなヘマはしない、そう誓ったロアは、二度目の人生を穏やかに過ごすことを決意する! とはいえ世界を救う使命からは逃れられないので、世界を救った後にひっそりと暮らすことにします。勇者としてとんでもない力を手に入れた男が、死の原因を回避するために苦心する! ロアが死に戻りしたのは、いったいなぜなのか……一度目の人生との分岐点、その先でロアは果たして、穏やかに過ごすことが出来るのだろうか? 過去へ戻った勇者の、ひっそり冒険談 小説家になろうでも連載しています!

公爵家三男に転生しましたが・・・

キルア犬
ファンタジー
前世は27歳の社会人でそこそこ恋愛なども経験済みの水嶋海が主人公ですが… 色々と本当に色々とありまして・・・ 転生しました。 前世は女性でしたが異世界では男! 記憶持ち葛藤をご覧下さい。 作者は初投稿で理系人間ですので誤字脱字には寛容頂きたいとお願いします。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

お前じゃないと、追い出されたが最強に成りました。ざまぁ~見ろ(笑)

いくみ
ファンタジー
お前じゃないと、追い出されたので楽しく復讐させて貰いますね。実は転生者で今世紀では貴族出身、前世の記憶が在る、今まで能力を隠して居たがもう我慢しなくて良いな、開き直った男が楽しくパーティーメンバーに復讐していく物語。 --------- 掲載は不定期になります。 追記 「ざまぁ」までがかなり時間が掛かります。 お知らせ カクヨム様でも掲載中です。

冷宮の人形姫

りーさん
ファンタジー
冷宮に閉じ込められて育てられた姫がいた。父親である皇帝には関心を持たれず、少しの使用人と母親と共に育ってきた。 幼少の頃からの虐待により、感情を表に出せなくなった姫は、5歳になった時に母親が亡くなった。そんな時、皇帝が姫を迎えに来た。 ※すみません、完全にファンタジーになりそうなので、ファンタジーにしますね。 ※皇帝のミドルネームを、イント→レントに変えます。(第一皇妃のミドルネームと被りそうなので) そして、レンド→レクトに変えます。(皇帝のミドルネームと似てしまうため)変わってないよというところがあれば教えてください。

処理中です...