魔法王女に転生した私は必ず勝ちますわ!

矢野 零時

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29侍従との再会

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 ともかく、シルビアとロダンには、打つ手を無くしてしまっていた。
 シルビアたちが、もしネッドラー王と戦うとすれば、オラタル国へダランガ国の兵士たちを連れてこなければならない。そのためには、ダランガ国に一度戻らなければならないのだが、シルビアとロダンだけではそれができるはずもない。ダランガ国の方にむかう隊商に参加させてもらわなければならないのだが、どの隊商もダランガ国にむかわなかったのだ。

 ホテルでシルビアとロダンが顔を見合わせ、ため息をついた時に部屋のドアがノックされた。誰かが訪ねてくることなど考えられない。思わず、二人は顔を強張らせた。
「はい」と言ってから、シルビアは改めてロダンの方に顔をむけた。ロダンは立ちあがりドア脇の壁にはりついていた。おかしな者が入ってきたら、襲いかかるつもりでいたからだ。ロダンがうなずいたので、シルビアはドアを開けた。そこに立っていた者を見たとたん、シルビアは笑っていた。だが、すぐに泣き出してもいたのだ。立っていたのはトムだったからだ。
「どうして、トムがここにいるのよ?」
「シルビアさまが、いくら待っても帰ってこなかったからですよ。それで、いつも食材置き場を見にいっていたのですが、すると天井から光が入ってきていた。それは魔法袋の口が開いている証拠。そこで私は階段を登り開いている穴から外へでて見たのですよ。すると、私は砂漠のど真ん中にでていた。それで二人は嵐にあってしまったことを知りましたよ。城勤めの者たちを砂漠に連れ出して、その辺りを必死に探しましたが、シルビアさまやロダンをみつけることはできませんでした。それで二人とも無事だと思ったのですよ」
「すごいわ。トム。私たちのことを信じてくれたのね」
「砂漠でシルビアさまたちを探させている時に、オラタル国から来た隊商にであったのです。その人たちからキムトという美しい娘の冒険者がオラタル国にいる話を聞くことができました。それで、私たちはまっすぐにここを目指してやってきたわけです。もちろん、魔法袋は私が砂漠から持ちかえっておりますよ。まずは魔法袋を持ち主であるロダンにお返しします」
「ありがとう。トム。これで本来の力を取り戻すことができそうだよ」
 トムから受け取った魔法袋をロダンはすぐに腰にさげていた。 
「あなたのおかげで、私たちはいつでもダランガ国に戻ることができるわ。でも、新たに隊商が来たことは聞いていない。トムはどうやって、ここに来たの?」
「それは、作った船に乗ってきたのですよ」
「船じゃと? ラクダは砂漠の船と言われているが、ラクダ以外で砂漠で乗れる船なんかあるのかね?」と、ロダンは首をかしげた。すると、トムは笑い出していた。
「私は、ギルドにいってホウキを持っている魔法師たちを集めたんです。どうやら十人の魔法師を集めることができた。彼らに協力をしてもらい、ホウキを組んで船を作ってもらいました。十人の魔法師たちには、それぞれのホウキに風の力を念じてもらうので船を浮かせて走らせることができるのです。確かに一人だけではシルビアさまの魔力に勝てませんが、これだけの人数が集まれば、相当の風力を作れますので、そのスピードは駿馬に負けませんよ。その船に私も乗せてもらい、砂漠の上を走り、オラタル国にやってきたのですよ」
「でも、この国では魔法の力は意味がないのよ」と、シルビアは暗い声を出した。
「そうですね。そのことは魔法師たちで飛ばしていた船がこの国の傍に来ると動かなくなったので、すぐに分かりましたよ」と言って、トムはうなずいた。
「せっかくたくさんの魔法師たちを連れてきてくれたのに、ここでは魔法がまるで役に立たないわ」
「そうですね。ギルドで剣や弓を使える兵士をこれから集めるとすれば時間がかかりますし、集めることができるかどうかも分らない。ですが、ダランガ国ではすでに兵士の増強を行ってきております」
「トム、それは、ほんとうなの?」
「オラタル国の兵士数は三百人程度だと思いますよ。戦争は兵士の数が多い方が圧倒的に有利になる。数を持つだけで、勝利が決まると言ってもいい」
「なるほど、でも、ここの兵士は強そうよ。それに私の兵士たちを運んでくる間に、相手に気づかれて、それを阻止されてしまうかもしれないわ」

 その時、シルビアの頭の中に果歩の頃の記憶が甦ってきた。
「魔法でなくも同じくらい威力のある物があるわ。大砲よ。大砲があれば、一気にたくさんの敵を倒すことができる。でも、この世界に大砲はあるのかしら?」
「シルビアさまは、私らの知らないことを、ときどき言い出されてしまう。大砲とはどんなものなのですか?」と言って、トムは首をかしげていた。
「長い鉄筒の中に火薬を入れて、爆弾を飛ばすのよ。爆弾は遠くに飛んでいって、あたったものを爆発をさせて壊してしまうことができるのよ」
「爆弾とは、どんな物なのですか?」
「火薬でできている物で、相手に当たると、そこで爆発を起こす物よ」
「見たことがありませんな?」
「じゃ、ここにはまだ発明がされていないのだわ」
「ともかく、それは火薬を使っている物のようですので、花火を打ち上げる時に活躍をしてもらった花火師たちと相談をしてもらうしかないですね」
「分ったわ。私、一度ダランガ国に戻るわ」
 そう言ったシルビアはすくっと立ちあがった。
「でも、ここでは魔法袋の力は使えないかもしれないわね。ひとまず、この国の外、砂漠にでてから、魔法袋に入ったほうがいいのかしら?」
 すると、ロダンは笑っていた。
「シルビアさまは、この魔法袋の力を見くびっておられるな。この袋には魔法阻止の力は及びませんぞ。魔法袋の口を開ければ、世界のすべてに通じてしまう。サンタクロースが使っていた袋と同じ物ですぞ」
「そうなの」
 そこでシルビアは、ロダンに持っている魔法袋を開けて広げさせた。シルビアは当然のように、右足を上げその後左足を入れて、魔法袋の中に入っていた。
「私も同行をいたします。ロダン、これを魔法袋から出しておいてください」
 そう言ったトムは、鈴をつけた麻ひもをロダンに手渡していた。
「なにかね。これは?」
「ここへ来たくなった時に、ダランガ国で麻ひもを引きますよ。そうすれば、魔法袋から鈴を出しておいてくれれば、それを鳴らすことができる。鈴が鳴ったら、すぐに魔法袋を開けてください。それをしてくださせれば、シルビアさまや私は魔法袋を通って、ここに戻ってくることができますよ」
「なるほど、いい考えじゃ。鈴をいつも魔法袋から出しておくよ」
「お願いいたします」
「王女さまとトムがダランガ国で話し合いをしている間、隊商たちがテントを張っている使用地を訪ねて歩こうと思っているよ。トムがたくさんの兵士たちを連れてきたら、彼らをおいてもらう場所が必要だからね。街などの人の目につく場所にいかせるわけにはいかん。ともかく、その兵士たちを使用地に置かせてくれるように頼んでおくつもりじゃ」
「なるほど、お願いいたします。このホテルの前には、私が連れてきた魔法師たちがおりますでの、好きに使ってくだされ」
「しかし、私は、トムが使っていた魔法師たちの顔を知りませんぞ」
「大丈夫ですよ。ロダンが知らなくても、彼らはあなたをすでに知っている」
「どういうことだね?」
「あなたのように白い立派なひげをはやし、お腹がでている人はいませんのでね」
「分かった。彼らを使わせてもらうよ」
 トムは笑いながら、魔法袋の中に飛び込んでいった。 
 
 


 
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