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28泉池公園の攻守
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次の日、シルビアたちは再び泉池公園にいき、改めて紫石花を見ていた。警護兵士たちに隙があれば、池に入り込み、紫石花を奪い盗ってやろうと考えていたからだ。盗った紫石花を入れるために、ロダンは木製のコップに水をたっぷりと含ませた土を入れて腰にさげていた。さらに、逃げ出した時に誰が盗ったか分らないようにするために、マスクで顔を隠し、頭巾をかぶっていたのだった。
警護兵士たちは五時間ごとに交代をして、警護を続けていた。少しの間も、隙を作ろうとはしない。そして、少し前に、警護兵士の交代が終ったばかりの時だった。
鎧で身を固めたシーザーが現れたのだ。腰に竹あみの籠をつけていた。採った紫石花をその中に入れようと考えているのだ。シーザーの目は紫石花にむけられ、シルビアが近くにいることなど気づきもしない。
池の周囲をかこっていた大理石の枠をシーザーがのり越えようとすると、すぐに女像像の彫刻がのった台座から警護兵士たち二人が現れたのだ。警護兵士たちも池の中に入り剣をふって、シーザーを池から追い出し始めた。だが、シーザーはそれで引き下がったりしない。剣を何度も激しくふると、ついに警護兵士二人を切り倒していた。警護兵士たちは池の中に落ちていき、水を真っ赤に染めていた。池の周りにいた人たちは叫び声をあげて逃げ出していった。
すると、台座から新たな警護兵士が現れたのだ。シーザーよりは頭一つ背が高い男だった。男は、大剣を握っていた。
「そう言えば、王の所に紫石花を欲しいと言ってきた男がいたそうだな。それはあんたか!」と、大男は声をはりあげていた。
「だから、どうしたというんだ」
シーザーも負けないほどの大声をあげた。
「まずは、俺をたおすことができなければ、紫石花に触れることはできんぞ」
そう言って大男は大剣をシーザーにむかってふりおろしてきた。シーザーは剣を持つ両手に力をいれて、その剣を受けとめた。だが、シーザーは、はじきとばされ、池の外に押し出されていった。さらに大男は大剣をふりおろしてくる。何度も受けているうちに、シーザーの両腕はしびれ出していった。ついに、大剣はシーザーの剣をはじき飛ばし、シーザーの右肩に傷をつけていた。もはや、右腕が動かない。このままでは、倒されてしまう。そう思ったシルビアはシーザーを助けにでていこうとした。だがロダンはシルビアの手をつかみ、身体を抱いて押さえたのだ。
魔法の使えないシルビアがでていっても、シーザーを助けることができないことをロダンは見抜いていたからだ。必死にロダンがシルビアを押さえている間に、大剣はシーザーの脇腹を切りさき、シーザーはただの丸太とかしたように大地に倒れていった。
「こらえてくだされ。こらえて」
ロダンは低くかすれた声を出していた。シルビアは怒りで体を震わし続けた。
やがて、この国の下働きの者二人が棺桶の木箱をラクダがひく荷車にのせて運んできた。彼らはシーザーを箱の中に入れると蓋をして再び荷車にのせ、ラクダにひかせて来た道を戻っていった。
「シーザーを助けてあげることができなかったわ」
そう言ったシルビアは、シーザーが持ってきた竹籠が落ちていたのを拾いあげていた。それがまるで形見であるかのように。
「そうですな。悲しいことですが、弔いだけは私たちがしてあげなければなりません」
もう一度自国に戻り、多くの兵を連れてくるしかないとシルビアは思った。だが、ここではシルビアは魔法を使うことができない。普通の兵士同志の争いになることを考えるとダランガ国が必ず勝てるとは言えなかった。
二人がホテルに戻ると、オラタル国の警護兵士たちがやってきて、シーザーが使った部屋に残っていた物をすべて持っていくのを見ることになった。
少なくともシーザーが埋葬をされたならば、シルビアは一番先に手をあわせたいと思っていた。そこで、シルビアは埋葬にたずさわっていた下働きの者たちをロダンにさがさせた。夕刻に彼らが居酒屋にいるのを見つけると、ロダンはシルビアに知らせ、二人でそこにのり込んだ。彼らにどんどんと酒をおごって飲ませ、シーザーはいつどこに埋葬されたのか、聞き出そうとした。すると、下働きたちは笑っていた。
「埋葬なんか、していないよ」
「えっ、あなたがたは、棺桶にいれて遺体を運んでいたでしょう?」
「そうだよ。遺体を運んで行った先は、墓地じゃない」
「じゃ、どこなのですか?」
「王宮だよ。そこに王さまたち専用の食材置き場ある」
「えっ、それはどういうこと?」
「あんたらは、勘違いをしているんだ」
「なにを勘違いしているというの?」
「紫石花を他国に出させないのは、そうするとそれを盗みに来る者がやってくるからだよ。盗人ならば、殺してもかまわないし、誰も同情をかけたりしないでしょう。だから、外に持ち出させないようにしているのですよ」
「どうして、そんなことするの? よく分らないわ」
「王さまたちは、人を食べるグール、食人鬼なんだよ。国民を食べると、それがばれてしまう。それが分からないようにするためには、外から来る者を盗人にして、彼らを殺して、それを食べているんだよ。だから、墓地に盗人を埋めることはないのさ」
シルビアは震え出していた。隣で話を聞いていたロダンは怒りで赤い顔をしていた。
警護兵士たちは五時間ごとに交代をして、警護を続けていた。少しの間も、隙を作ろうとはしない。そして、少し前に、警護兵士の交代が終ったばかりの時だった。
鎧で身を固めたシーザーが現れたのだ。腰に竹あみの籠をつけていた。採った紫石花をその中に入れようと考えているのだ。シーザーの目は紫石花にむけられ、シルビアが近くにいることなど気づきもしない。
池の周囲をかこっていた大理石の枠をシーザーがのり越えようとすると、すぐに女像像の彫刻がのった台座から警護兵士たち二人が現れたのだ。警護兵士たちも池の中に入り剣をふって、シーザーを池から追い出し始めた。だが、シーザーはそれで引き下がったりしない。剣を何度も激しくふると、ついに警護兵士二人を切り倒していた。警護兵士たちは池の中に落ちていき、水を真っ赤に染めていた。池の周りにいた人たちは叫び声をあげて逃げ出していった。
すると、台座から新たな警護兵士が現れたのだ。シーザーよりは頭一つ背が高い男だった。男は、大剣を握っていた。
「そう言えば、王の所に紫石花を欲しいと言ってきた男がいたそうだな。それはあんたか!」と、大男は声をはりあげていた。
「だから、どうしたというんだ」
シーザーも負けないほどの大声をあげた。
「まずは、俺をたおすことができなければ、紫石花に触れることはできんぞ」
そう言って大男は大剣をシーザーにむかってふりおろしてきた。シーザーは剣を持つ両手に力をいれて、その剣を受けとめた。だが、シーザーは、はじきとばされ、池の外に押し出されていった。さらに大男は大剣をふりおろしてくる。何度も受けているうちに、シーザーの両腕はしびれ出していった。ついに、大剣はシーザーの剣をはじき飛ばし、シーザーの右肩に傷をつけていた。もはや、右腕が動かない。このままでは、倒されてしまう。そう思ったシルビアはシーザーを助けにでていこうとした。だがロダンはシルビアの手をつかみ、身体を抱いて押さえたのだ。
魔法の使えないシルビアがでていっても、シーザーを助けることができないことをロダンは見抜いていたからだ。必死にロダンがシルビアを押さえている間に、大剣はシーザーの脇腹を切りさき、シーザーはただの丸太とかしたように大地に倒れていった。
「こらえてくだされ。こらえて」
ロダンは低くかすれた声を出していた。シルビアは怒りで体を震わし続けた。
やがて、この国の下働きの者二人が棺桶の木箱をラクダがひく荷車にのせて運んできた。彼らはシーザーを箱の中に入れると蓋をして再び荷車にのせ、ラクダにひかせて来た道を戻っていった。
「シーザーを助けてあげることができなかったわ」
そう言ったシルビアは、シーザーが持ってきた竹籠が落ちていたのを拾いあげていた。それがまるで形見であるかのように。
「そうですな。悲しいことですが、弔いだけは私たちがしてあげなければなりません」
もう一度自国に戻り、多くの兵を連れてくるしかないとシルビアは思った。だが、ここではシルビアは魔法を使うことができない。普通の兵士同志の争いになることを考えるとダランガ国が必ず勝てるとは言えなかった。
二人がホテルに戻ると、オラタル国の警護兵士たちがやってきて、シーザーが使った部屋に残っていた物をすべて持っていくのを見ることになった。
少なくともシーザーが埋葬をされたならば、シルビアは一番先に手をあわせたいと思っていた。そこで、シルビアは埋葬にたずさわっていた下働きの者たちをロダンにさがさせた。夕刻に彼らが居酒屋にいるのを見つけると、ロダンはシルビアに知らせ、二人でそこにのり込んだ。彼らにどんどんと酒をおごって飲ませ、シーザーはいつどこに埋葬されたのか、聞き出そうとした。すると、下働きたちは笑っていた。
「埋葬なんか、していないよ」
「えっ、あなたがたは、棺桶にいれて遺体を運んでいたでしょう?」
「そうだよ。遺体を運んで行った先は、墓地じゃない」
「じゃ、どこなのですか?」
「王宮だよ。そこに王さまたち専用の食材置き場ある」
「えっ、それはどういうこと?」
「あんたらは、勘違いをしているんだ」
「なにを勘違いしているというの?」
「紫石花を他国に出させないのは、そうするとそれを盗みに来る者がやってくるからだよ。盗人ならば、殺してもかまわないし、誰も同情をかけたりしないでしょう。だから、外に持ち出させないようにしているのですよ」
「どうして、そんなことするの? よく分らないわ」
「王さまたちは、人を食べるグール、食人鬼なんだよ。国民を食べると、それがばれてしまう。それが分からないようにするためには、外から来る者を盗人にして、彼らを殺して、それを食べているんだよ。だから、墓地に盗人を埋めることはないのさ」
シルビアは震え出していた。隣で話を聞いていたロダンは怒りで赤い顔をしていた。
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