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21賢者ブロンソン

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 小広間のある部屋をでると、シルビアは泣き出していた。
「このままだったら、リカードさまは、ずっと目が見えないままだわ。どうしたらいいの?」
 シルビアにみつめられたロダンは辛そうに口を開いた。
「シルビアさま、もっと知識のある者に聴くのはいかがでしょうか?」
「お医者さまたち専門家が、目を治す方法をみつけられないと言っているのよ。それなのに、いったい誰に訊ねればいいというのよ」
 シルビアは首を左右にふっていた。
「専門家以外で物事をよく知っている者がおりますぞ。その者に聴くしかないかと」
「そんな人いるのかしら?」
「賢者ブロンソン、先のことを見ることができるお方で、予言者ブロンソンとも言われておりますぞ」
「賢者と言われるには、いろんな知識がある方なんでしょう。ロダンだっていろんな知識があるわ。ロダンよりも知識があるのかしら?」
「私は知恵者と呼ばれることがありますが、賢者と呼ばれることはありませんよ」
「どこにいる方なの?」
「ムガール帝国の南西にあるフクロウの森にすんでおられますぞ。ですが、人嫌いでめったに人と会おうとはしたがらないとか」
「ともかく、どうすればリカードさまの目を見える目に戻すことができるのか。誰であってもいいのよ。教えてもらわないとならないわ」
「そうですな。リカードさまをブロンソンの所にお連れするか、ブロンソンをリカードさまのいる城の中にお連れするかですな。しかし、どちらの方がいいのかブロンソンに聞いてみるのが一番いいと思いますよ」 
「そうね。まずブロンソンに会いに行くわ。少しでも早くブロンソンに会いたいのよ。そのためにはホウキにのるしかないわ」
「ならば、ダランガ国に一度戻るしかないかと」
「そうね。ダランガ国に戻ってホウキをとってくるけれど、これからは私がダランガ国を留守にすることが多くなりそうな気がするの。その時のためにトムにダランガ国にいてもらう必要があると思うのよ」
「そうですな。トムにダランダ国にいて待機をしてもらうのが一番いいと思いますぞ」
 そこで、シルビアは真顔になって、「トム、ダランガ国で待機していてほしいわ」と言っていた。
「えっ、シルビアさまから離れて一人だけでいるんですか?」と、トムは驚いている。
「トム、お前ならできるさ。能力は十分ある。シルビアさまがいない間、国のことはすべて任すよ。もちろん、総理大臣を始め、トムを助けてくれる者たちはたくさんいる」とロダンは笑った。
「それじゃ、トム。私も一緒に城に一度戻るわよ」とシルビアが言うと、ロダンは魔法袋を大きく開けた。するとトムはそこに飛びこんでいった。その後を追うように、シルビアも飛び込んでいた。

 二人はダランガ国の中にいた。それも食材置き場の階段の上だったので、そこからおりて床の上にたった。すぐに通路にでると速足で王女の部屋にいった。シルビアが部屋の中に入ると、掃除をしていた侍女たちは驚いていた。高齢の侍女にシルビアは総務大臣にすぐにくるように伝えてもらった。
 やがて、やってきた総務大臣は顔を強張らせ「何事でございますかな?」と言って王女の部屋に入ってきた。シルビアはすぐに「トムを総務次官にしますよ」と言ってやった。
「さようでございますな」と言って、総理大臣は、ほっとした顔をしている。突然のように、多くの兵士の出動、多量の食料の収集確保、弓のための矢を千本作成などを、シルビアは言い出してきていた。それらに比べれば、心配することなど何もないと、総務大臣は思っていたのだ。
 ちなみに、総務次官という役職は総務大臣の補助をする役職なのだが、明確な仕事内容は決まっておらず秘書のような仕事でもあった。それに、トムがシルビアのそば仕えて難しい仕事をこなしていることを知っていたので、総務大臣も彼に一目は置いていたのだ。

 これで、トムに国の仕事を任すことができるようになった。この後、シルビアは魔法用具室にいき、ホウキが置かれている棚からダムを崩壊させる時に使ったホウキを手に取っていた。これを使えば空を飛んでどこへも行ける。そう思ったシルビアは足が見えないほど長いドレスを着ていることに気がついた。やはり、下はズボンをはいた方がいいわね、そう胸の中でつぶやいたシルビアは、侍女たちを引き連れて衣服室にいった。
 そこで上はドレッシーなブラウスに下はボーイッシュに足にぴったりとしたズボンをはいた。もちろん、それらを着る時には侍女たちに手伝ってもらった。

「用意はできたわ」
 そう言ったシルビアは、食材置き場に行って階段をのぼり、顔をあげて「戻りたいわ」と大声をあげた。ロダンは魔法袋の口を開け続けてくれていたので、シルビアの声をロダンはすぐに聞くことができた。
「シルビアさま、私の手に捕まってくだされ」と言って、天井に開いた丸い穴からロダンは手を差し出してくれた。すぐにシルビアはロダンの手をつかむと、ロダンはシルビアを引き上げた。
 シルビアはすぐにロダンを連れて、誰もいなくなっている皇子の部屋のベランダにいった。
「ぐずぐずはしていられないわよ」と、ロダンに声をかけホウキをまたいだ。シルビアに続いてロダンもホウキをまたぎシルビアの背にだきついた。シルビアは念をこらすとホウキの下から風が吹き出し二人を空に浮かせた。シルビアが体を前に傾けると、ホウキはシルビアの上体がむけている方に動き出していた。

 ムガール帝国の城はダランガ国の城よりも高い城壁が作られている。シルビアはさらに念を込めて強い風を出し、それを乗り越えると城の外へでた。
「どこにむかえばいいのか教えてちょうだい」
「わかりました。南西にむかってくだされ」ロダンは手にもっていた羅針盤を見ながら言っていた。
 眼下に家の屋根が見えなくなると、辺りは麦畑ばかりになっていた。
 一時間も飛んでいただろうか。空にフクロウたちが飛びまわっている高い木々が集まっている所が見えてきた。
「あの下にあるのがフクロウの森ですぞ」
 森の真上まで来ると、森の中に木が生えていない場所が見えてきた。そこには丸太で作られた小屋が建っていた。その前は小広場になっていてその脇は畑になっていたのだ。
 シルビアが念の力を弱めるとホウキはゆっくりと高度を落としていった。シルビアは小屋の前で風力を念ずるのをやめた。ホウキは浮く力を失い、シルビアたちは地面の上におりていった。二人は小屋に近づき、シルビアが戸を叩こうとした。すると、中から声がしたのだ。
「ダランガ国の王女シルビアだね。お入り」
 誰も知らせていないはずだ。思わず、シルビアはロダンの顔を見つめた。ロダンは知らせてはいないことを示すために、頭を左右にふっていた。それを見ながら、シルビアはドアを開け、小屋の中に入った。部屋の中央に肘掛け椅子にすわった老人がいた。老人の頭には毛がなかったが、髭は濃いのだ。そられているのに、あごやほほに黒い髭のそりあとがついていた。赤いチョッキを着て袴のようなズボンをはいている。
「どうして、私がここにくることが分かったのです」
「私は朝一番にその日、自分に何が起こるか占っているからね。占うと、あなたが訪ねてくることが分かったのだよ」
「先を占うことができる。では、あなたがブロンソンさまですか?」
「そうだよ。先を占って教えてあげても、ほとんどの人は信じない。その通りになった後に、私が言った通りなると私の判断力が正しかったなど言い出し、その上私を賢者などと言い出すしまつさ」
「ブロンソンさま、今日はお願いがあってまいりました」
 すると、ブロンソンはにやりと笑った。
「あんたの好きなリカード皇子の目をなおしたいのだろう。そのために何をすればいいのか、私の所に聞きに来たというわけだ」
 どうやら、すべてを見抜かれている。
「はい」
「それでは、リカード皇子の未来を見てあげよう」
 ブロンソンは椅子から立ち上がった。そして、窓際にある机の前にいき、そこにおかれていた椅子に腰をおろした。
 机の上には本が積まれ、色のついた液体を入れた瓶がいくつも並べられていた。人の頭蓋骨や水晶玉も木の台の上にのせて置かれていた。その水晶玉を自分の方に引き寄せると、ブロンソンはその上に両手をかざし出した。
 すると、水晶玉の中に点のような光ができていたのだ。光は点滅を始め、それが動き出した。それをブロンソンはじっと見つめていた。突然、ブロンソンは疲れたように手をさげた。 
 その後、ゆっくりとシルビアたちの方に顔をむけた。
「リカードの目が見えるようになるには、シルビアが旅にでる必要があるようだ。それができなければ、リカードの目は見えないままじゃな」
「私が旅にでさえすれば、いいのですか?」
「ここよりは南にあるアシュラ砂漠にいかなければならない。砂漠の中の水のある所、オアシスに咲く紫石花が見えたぞ。それだけがリカードの目の病を治すことができる物に違いない。その花を絞って、それからでた雫をリカードの目に射すことができるかどうかじゃな」
「それを手にいれるためには、私が旅にでればいいのですね?」
「そうじゃ。だが簡単な旅ではないぞ。まずオアシスに行かねばならん。オアシスはここから真南にあるはずじゃ。そこで紫石花を手にしなければならない。困難が続くことだけは間違いない。それでも、そちはいくのかな?」
「ブロンソンさま、私がどうするか、すでに見えているのではありませんか」
 シルビアがそう言うと、ブロンソンは笑っていた。
「そうだな。あなたに余計な忠告をしても意味などないことであったな」
「ブロンソンさま、占い料はいかほどお支払いすればいいのでしょうか?」
「そうじゃな。もし、そちが生きて帰ることができたならば、そこにあるナベ一杯に金貨と宝石を入れてもらうことにしますかな」と言って、ブロンソンはふたたび笑った。
 シルビアは大きくブロンソンに頭をさげると、ロダンといっしょに小屋の外に出た。
「これで、私が何をすべきか決まったわ。旅にでるのよ」
 ロダンは大きくうなずき「ご一緒いたしますぞ」と言っていた。
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