1 / 33
1転生
しおりを挟む
秋の海は曇った空を写して灰色になり、高い波はまるで水の中にすむ白い鳥たちのように海に現れ消えていった。
「夏の海とは、まるで違うわ」
そう言った青木果歩は、身震いをした後、コートのえりをたてていた。高波を起こすほど強く吹く風は冷たい。
「今日も、ついていなかった」
そうなのだ。だから、果歩はここにいる。いや、果歩は、ずっとついていない自分に見切りをつけて、海に入って死ぬつもりでここに来ていたのだ。
果歩は、高校を卒業した後、地元の文房具用品販売会社の経理部門で働いていた。三年前に取引先のデパートに勤めている田中啓介という男と恋仲になり結婚をする約束をした。隠していたのだが、そのうちに結婚をする話を職場の同僚にしてしまい、そのことが上司にも伝わる。誰もが果歩は結婚をするために、めでたく会社をやめると思われていった。そのことを果歩は否定しなかった。いやできなかったので、だから寿退社をさせられた。
それは一月前に果歩の退職日がきまってしまったからだ。だが決まった日に、果歩は啓介に呼びだされて、結婚をしたくないと言われてしまった。理由は、自分の会社の営業部長の娘をもらわないかという話がだされ、彼女と結婚さえすれば将来出世の道を約束されると言うのだ。そんな話をしだした男と結婚できるわけがない。果歩は、啓介との結婚をしないことを受け入れざるを得なかった。
だから、今日、渡された退職記念の花束を手に会社を出ると、すぐに汽車にのり、前に啓介と来たことがあるこの海にやってきた。
啓介と楽しい思い出のある海に入って死のうと思ったからだ。だが、楽しかったのは、夏の温かい季節であった。そんな思い出とはかけ離れた砂浜を歩いていると、ここで死ねそうもなくなっていく。山にでも行って死ぬしかないなと果歩は思い出していた。
そんな時、強い波が一本の瓶を砂浜に運んできて、ころがしたのだ。
果歩は瓶に近づき、上から瓶をのぞきこむ。瓶の中には、なにかが入っていた。思わず、果歩は花束を左手に持つと、右手を伸ばして瓶をひろいあげた。
「なに、これ?」と、果歩は声をあげた。声をあげたのは、栓をされた瓶の中に小人が入っていたからだ。瓶の中の小人は、なにか言っているのだが、声が聞こえない。すぐに果歩は、瓶に耳をあてた。
「あんた、ここから、わしを出してくれたら、なんでも望みをかなえてやるぞ」
「あんたは、誰なの?」
「わしは魔神ゾロ。どんなことでもできる力を持っているんだぞ」
「そんな力があるなら、どうして瓶の中にいるのよ。自分で瓶から出てくればいいのに」
「それが少し暴れすぎてしまってね。そのおかげで、わしよりも力の強い大魔神グールに閉じ込められてしまったのさ」
「ふ~ん、そうなの。あんたは魔神よね。瓶から出したら、私を殺すことを考えているんじゃないの! 昔読んだおとぎ話にそんな話が書かれていたきがする」
果歩がそう言ったとき、自殺をしようとしていたことをすっかり忘れていた。
「たのむよ。絶対に瓶を開けてくれ。お願いだ。この瓶の中にもう二千年も入っている。こんなのは、もういやなんだ」
「あぶないわね」
「お願いだ。わしをここに閉じこめた大魔神グールの呪いにかけて、わしは嘘をつかないと誓うぞ。それならいいだろう」
「大魔神グールは私の味方になってくれるのね?」と言って、果歩は灰色の空を見上げた。
「グール、瓶の中のゾロは嘘をつかないと保証してくれる。嘘だったら、私を大魔神グールにしてもらうわよ」
すると、空から大魔神グールの声がしたのだ。
―約束をするぞ。ゾロにお前の願いをかなえさせることにしよう。
その時、魔神ゾロが顔をゆがめた。そこで、果歩は安心をして瓶の先にはめられていたガラス栓を廻してぬいた。すると、白い煙がたち小人が現れ砂浜に立っていた。いや、背が伸びて魔神ゾロは大人の高さになっていた。だが、顔と体の割合が小人のままだったので、頭が普通の人の三倍の大きさだった。
「さあ、なにが望みだ。なんでも、かなえてやるぞ」
「そうね。毎日が会社勤めの日々だったから、できることなら貴族のような生活がしたいわ。決まりきった時間に通勤させられることは、いやだわ。親からいろいろと言われるのも、もういやよ。最初から血筋がよくて、いつもきれいな服をきて香りのたつ紅茶を飲んで美味しものを食べていたいわ。そうね。お城で暮らしができる生活がしたい。きれいで美しい王女さまになりたいわ。それに魔法を使えるといいわね。私の言うことを聞いて、私を守ってくれる下僕が一人は、いえ二人はついていて欲しいわ」
「要望が多すぎるね。それらを満たす世界はないかもしれないな?」
「できないって言うの。つまり私の願いをかなえてくれない。それじゃ、約束が違うわね」
「わかった。わかった。魔神ゾロは嘘をつかん。それなら、フアンタジーの世界のひとつに送り込むことにするよ。そこなら、あんたを魔法が使える王女として受け入れてくれるだろう」
「そうなの。それならば、そこに行かしてもらうわ」
「了解した。あんたが望む世界に送るぞ」
そう言った魔神ゾロは、目をつむり、空に向かって両手をあげて動かしていた。
すると、果歩の周りに白い霧のような物がたちあがり、それが果歩の頭の上で、渦をまき出した。やがて果歩はその渦巻の中にまきこまれ、意識がなくなっていた。
「夏の海とは、まるで違うわ」
そう言った青木果歩は、身震いをした後、コートのえりをたてていた。高波を起こすほど強く吹く風は冷たい。
「今日も、ついていなかった」
そうなのだ。だから、果歩はここにいる。いや、果歩は、ずっとついていない自分に見切りをつけて、海に入って死ぬつもりでここに来ていたのだ。
果歩は、高校を卒業した後、地元の文房具用品販売会社の経理部門で働いていた。三年前に取引先のデパートに勤めている田中啓介という男と恋仲になり結婚をする約束をした。隠していたのだが、そのうちに結婚をする話を職場の同僚にしてしまい、そのことが上司にも伝わる。誰もが果歩は結婚をするために、めでたく会社をやめると思われていった。そのことを果歩は否定しなかった。いやできなかったので、だから寿退社をさせられた。
それは一月前に果歩の退職日がきまってしまったからだ。だが決まった日に、果歩は啓介に呼びだされて、結婚をしたくないと言われてしまった。理由は、自分の会社の営業部長の娘をもらわないかという話がだされ、彼女と結婚さえすれば将来出世の道を約束されると言うのだ。そんな話をしだした男と結婚できるわけがない。果歩は、啓介との結婚をしないことを受け入れざるを得なかった。
だから、今日、渡された退職記念の花束を手に会社を出ると、すぐに汽車にのり、前に啓介と来たことがあるこの海にやってきた。
啓介と楽しい思い出のある海に入って死のうと思ったからだ。だが、楽しかったのは、夏の温かい季節であった。そんな思い出とはかけ離れた砂浜を歩いていると、ここで死ねそうもなくなっていく。山にでも行って死ぬしかないなと果歩は思い出していた。
そんな時、強い波が一本の瓶を砂浜に運んできて、ころがしたのだ。
果歩は瓶に近づき、上から瓶をのぞきこむ。瓶の中には、なにかが入っていた。思わず、果歩は花束を左手に持つと、右手を伸ばして瓶をひろいあげた。
「なに、これ?」と、果歩は声をあげた。声をあげたのは、栓をされた瓶の中に小人が入っていたからだ。瓶の中の小人は、なにか言っているのだが、声が聞こえない。すぐに果歩は、瓶に耳をあてた。
「あんた、ここから、わしを出してくれたら、なんでも望みをかなえてやるぞ」
「あんたは、誰なの?」
「わしは魔神ゾロ。どんなことでもできる力を持っているんだぞ」
「そんな力があるなら、どうして瓶の中にいるのよ。自分で瓶から出てくればいいのに」
「それが少し暴れすぎてしまってね。そのおかげで、わしよりも力の強い大魔神グールに閉じ込められてしまったのさ」
「ふ~ん、そうなの。あんたは魔神よね。瓶から出したら、私を殺すことを考えているんじゃないの! 昔読んだおとぎ話にそんな話が書かれていたきがする」
果歩がそう言ったとき、自殺をしようとしていたことをすっかり忘れていた。
「たのむよ。絶対に瓶を開けてくれ。お願いだ。この瓶の中にもう二千年も入っている。こんなのは、もういやなんだ」
「あぶないわね」
「お願いだ。わしをここに閉じこめた大魔神グールの呪いにかけて、わしは嘘をつかないと誓うぞ。それならいいだろう」
「大魔神グールは私の味方になってくれるのね?」と言って、果歩は灰色の空を見上げた。
「グール、瓶の中のゾロは嘘をつかないと保証してくれる。嘘だったら、私を大魔神グールにしてもらうわよ」
すると、空から大魔神グールの声がしたのだ。
―約束をするぞ。ゾロにお前の願いをかなえさせることにしよう。
その時、魔神ゾロが顔をゆがめた。そこで、果歩は安心をして瓶の先にはめられていたガラス栓を廻してぬいた。すると、白い煙がたち小人が現れ砂浜に立っていた。いや、背が伸びて魔神ゾロは大人の高さになっていた。だが、顔と体の割合が小人のままだったので、頭が普通の人の三倍の大きさだった。
「さあ、なにが望みだ。なんでも、かなえてやるぞ」
「そうね。毎日が会社勤めの日々だったから、できることなら貴族のような生活がしたいわ。決まりきった時間に通勤させられることは、いやだわ。親からいろいろと言われるのも、もういやよ。最初から血筋がよくて、いつもきれいな服をきて香りのたつ紅茶を飲んで美味しものを食べていたいわ。そうね。お城で暮らしができる生活がしたい。きれいで美しい王女さまになりたいわ。それに魔法を使えるといいわね。私の言うことを聞いて、私を守ってくれる下僕が一人は、いえ二人はついていて欲しいわ」
「要望が多すぎるね。それらを満たす世界はないかもしれないな?」
「できないって言うの。つまり私の願いをかなえてくれない。それじゃ、約束が違うわね」
「わかった。わかった。魔神ゾロは嘘をつかん。それなら、フアンタジーの世界のひとつに送り込むことにするよ。そこなら、あんたを魔法が使える王女として受け入れてくれるだろう」
「そうなの。それならば、そこに行かしてもらうわ」
「了解した。あんたが望む世界に送るぞ」
そう言った魔神ゾロは、目をつむり、空に向かって両手をあげて動かしていた。
すると、果歩の周りに白い霧のような物がたちあがり、それが果歩の頭の上で、渦をまき出した。やがて果歩はその渦巻の中にまきこまれ、意識がなくなっていた。
1
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説
婚約者に見捨てられた悪役令嬢は世界の終わりにお茶を飲む
めぐめぐ
ファンタジー
魔王によって、世界が終わりを迎えるこの日。
彼女はお茶を飲みながら、青年に語る。
婚約者である王子、異世界の聖女、聖騎士とともに、魔王を倒すために旅立った魔法使いたる彼女が、悪役令嬢となるまでの物語を――
※終わりは読者の想像にお任せする形です
※頭からっぽで

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!
みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した!
転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!!
前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。
とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。
森で調合師して暮らすこと!
ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが…
無理そうです……
更に隣で笑う幼なじみが気になります…
完結済みです。
なろう様にも掲載しています。
副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。
エピローグで完結です。
番外編になります。
※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。
捨てた騎士と拾った魔術師
吉野屋
恋愛
貴族の庶子であるミリアムは、前世持ちである。冷遇されていたが政略でおっさん貴族の後妻落ちになる事を懸念して逃げ出した。実家では隠していたが、魔力にギフトと生活能力はあるので、王都に行き暮らす。優しくて美しい夫も出来て幸せな生活をしていたが、夫の兄の死で伯爵家を継いだ夫に捨てられてしまう。その後、王都に来る前に出会った男(その時は鳥だった)に再会して国を左右する陰謀に巻き込まれていく。
異世界で美少女『攻略』スキルでハーレム目指します。嫁のために命懸けてたらいつの間にか最強に!?雷撃魔法と聖剣で俺TUEEEもできて最高です。
真心糸
ファンタジー
☆カクヨムにて、200万PV、ブクマ6500達成!☆
【あらすじ】
どこにでもいるサラリーマンの主人公は、突如光り出した自宅のPCから異世界に転生することになる。
神様は言った。
「あなたはこれから別の世界に転生します。キャラクター設定を行ってください」
現世になんの未練もない主人公は、その状況をすんなり受け入れ、神様らしき人物の指示に従うことにした。
神様曰く、好きな外見を設定して、有効なポイントの範囲内でチートスキルを授けてくれるとのことだ。
それはいい。じゃあ、理想のイケメンになって、美少女ハーレムが作れるようなスキルを取得しよう。
あと、できれば俺TUEEEもしたいなぁ。
そう考えた主人公は、欲望のままにキャラ設定を行った。
そして彼は、剣と魔法がある異世界に「ライ・ミカヅチ」として転生することになる。
ライが取得したチートスキルのうち、最も興味深いのは『攻略』というスキルだ。
この攻略スキルは、好みの美少女を全世界から検索できるのはもちろんのこと、その子の好感度が上がるようなイベントを予見してアドバイスまでしてくれるという優れモノらしい。
さっそく攻略スキルを使ってみると、前世では見たことないような美少女に出会うことができ、このタイミングでこんなセリフを囁くと好感度が上がるよ、なんてアドバイスまでしてくれた。
そして、その通りに行動すると、めちゃくちゃモテたのだ。
チートスキルの効果を実感したライは、冒険者となって俺TUEEEを楽しみながら、理想のハーレムを作ることを人生の目標に決める。
しかし、出会う美少女たちは皆、なにかしらの逆境に苦しんでいて、ライはそんな彼女たちに全力で救いの手を差し伸べる。
もちろん、攻略スキルを使って。
もちろん、救ったあとはハーレムに入ってもらう。
下心全開なのに、正義感があって、熱い心を持つ男ライ・ミカヅチ。
これは、そんな主人公が、異世界を全力で生き抜き、たくさんの美少女を助ける物語。
【他サイトでの掲載状況】
本作は、カクヨム様、小説家になろう様でも掲載しています。
無一文で追放される悪女に転生したので特技を活かしてお金儲けを始めたら、聖女様と呼ばれるようになりました
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
スーパームーンの美しい夜。仕事帰り、トラックに撥ねらてしまった私。気づけば草の生えた地面の上に倒れていた。目の前に見える城に入れば、盛大なパーティーの真っ最中。目の前にある豪華な食事を口にしていると見知らぬ男性にいきなり名前を呼ばれて、次期王妃候補の資格を失ったことを聞かされた。理由も分からないまま、家に帰宅すると「お前のような恥さらしは今日限り、出ていけ」と追い出されてしまう。途方に暮れる私についてきてくれたのは、私の専属メイドと御者の青年。そこで私は2人を連れて新天地目指して旅立つことにした。無一文だけど大丈夫。私は前世の特技を活かしてお金を稼ぐことが出来るのだから――
※ 他サイトでも投稿中

元ゲーマーのオタクが悪役令嬢? ごめん、そのゲーム全然知らない。とりま異世界ライフは普通に楽しめそうなので、設定無視して自分らしく生きます
みなみ抄花
ファンタジー
前世で死んだ自分は、どうやらやったこともないゲームの悪役令嬢に転生させられたようです。
女子力皆無の私が令嬢なんてそもそもが無理だから、設定無視して自分らしく生きますね。
勝手に転生させたどっかの神さま、ヒロインいじめとか勇者とか物語の盛り上げ役とかほんっと心底どうでも良いんで、そんなことよりチート能力もっとよこしてください。
老女召喚〜聖女はまさかの80歳?!〜城を追い出されちゃったけど、何か若返ってるし、元気に異世界で生き抜きます!〜
二階堂吉乃
ファンタジー
瘴気に脅かされる王国があった。それを祓うことが出来るのは異世界人の乙女だけ。王国の幹部は伝説の『聖女召喚』の儀を行う。だが現れたのは1人の老婆だった。「召喚は失敗だ!」聖女を娶るつもりだった王子は激怒した。そこら辺の平民だと思われた老女は金貨1枚を与えられると、城から追い出されてしまう。実はこの老婆こそが召喚された女性だった。
白石きよ子・80歳。寝ていた布団の中から異世界に連れてこられてしまった。始めは「ドッキリじゃないかしら」と疑っていた。頼れる知り合いも家族もいない。持病の関節痛と高血圧の薬もない。しかし生来の逞しさで異世界で生き抜いていく。
後日、召喚が成功していたと分かる。王や重臣たちは慌てて老女の行方を探し始めるが、一向に見つからない。それもそのはず、きよ子はどんどん若返っていた。行方不明の老聖女を探す副団長は、黒髪黒目の不思議な美女と出会うが…。
人の名前が何故か映画スターの名になっちゃう天然系若返り聖女の冒険。全14話+間話8話。
2回目の人生は異世界で
黒ハット
ファンタジー
増田信也は初めてのデートの待ち合わせ場所に行く途中ペットの子犬を抱いて横断歩道を信号が青で渡っていた時に大型トラックが暴走して来てトラックに跳ね飛ばされて内臓が破裂して即死したはずだが、気が付くとそこは見知らぬ異世界の遺跡の中で、何故かペットの柴犬と異世界に生き返った。2日目の人生は異世界で生きる事になった
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる